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166 再び厄介になる場所

三者三葉、同床異夢。

密かな思惑を抱く三人に向けて、次の用件を切り出すターナー。


白銀の翼(シルバーウイング)御一行様に国王陛下からの召喚状が来ています」


ターナーがテーブルに装飾が施された書面を置いた。


「妾達は急いでおるのじゃが」


そう言いつつ、召喚状の内容を確認する白亜。


召喚状には用件が三つ書かれていた。


一つ目は、《S》ランク以上の冒険者になったシャルトリューズ、マリアンヌへの叙勲

二つ目は、新たな斎賀公爵家当主になったリーファとの面談

三つ目は、白亜への陛下自らの折り入っての相談



「わかったのじゃ。陛下に『謁見の件、了解した』と伝えてくれ」

(かしこ)まりました。直ちに王宮に使いを出します」

「ちなみに謁見にはいつお伺いすればよいかの?」

「『できるだけ早く』とのことです」

「では、明日の午前中に伺うことにしよう」

「そのように伝えます」


白亜はソファから立ち上がると伸びをした。


「ああ、ずっと強行軍続きで疲れたのじゃ。ちょっと早いが、宿に行って羽を伸ばすとするかの」

「それなのですが、王都での宿泊には迎賓館をお使い下さい」

「妾達は異国の要人では無いのじゃが?」

「陛下がそうせよ、と」


(ここまで妾達を歓待するということは、『陛下自らの折り入っての相談』というのは相当深刻な内容であるということじゃろうな)


相分(あいわ)かった。では皆の者、迎賓館に向かうとしようか」


白亜達は冒険者ギルドを出て、迎賓館に向かった。


小春日和の王都サウスワース。

図書館塔の鐘が丁度午後3時を告げていた。




冒険者ギルドから徒歩で移動してきた白亜達は、塀に囲まれた広い敷地の中に建つ、東南アジアのラッ◆ルズホテルを更に立派にしたような4階建ての建物の前に立っていた。

ここはアナトリア王都の迎賓館。


マリアンヌを除く三人にとっては再び厄介になる場所だった。



「お待ちしておりました。斎賀白亜殿、リーファ・サイガ女公爵殿下、シャルトリューズ・カトラール子爵令嬢、マリアンヌ・スルグレイヴ伯爵令嬢」


グリューネル侯爵が迎賓館のエントランスで白亜達を出迎える。


「お久しぶりじゃな、グリューネル殿」

「白亜殿もご健勝でなにより」


エントランスで旧交を温める白亜とグリューネル。

コミュ力お化けの白亜は前回の王都滞在時にグリューネルとも親交を深めていた。


白亜と談笑しながらグリューネルが白亜達を迎賓館に招き入れる。


「客間はお好きな部屋をお使い下さい。明日朝9時半にお迎えに上がりますので、それまではどうかごゆるりとお(くつろ)ぎを」


そう言い残してグリューネルは帰って行った。




豪華な夕食後、白亜は大浴場の巨大な浴槽で(くつろ)いでいた。


「ふううう。やはり日本人には温泉が一番じゃ」



王都の迎賓館の大浴場は天然温泉。

エーデルフェルトでも希少な100%天然のラドン泉である。


湯気を吸入すれば肺に取り込まれた自然放射線が自然治癒力と免疫力を高め、入浴すれば皮膚の毛穴を通じてゆっくりと取り込まれた成分が全身を正常化し、鎮静効果と美肌効果を発揮する。


剣客(けんかく)(おちい)りがちな筋肉痛や関節痛、眼精疲労に効果があるのはありがたかった。

それに、イツキの前で常に美しくありたい白亜にとって、美肌効果は無視できない効能だった。


白亜は、数年後の自分がイツキの好みのタイプそのものであることを知っている。

だからそれまで、自分磨きに余念が無かった。



「白亜お姉ちゃん」

「おう、リーファか?」


大浴場に入って来たリーファの声が聴こえたのでその方を向いた白亜は絶句してしまった。


リーファと共に入って来たシャルトリューズの姿に目が釘付けになってしまったのだ。



普段はメガネを掛け、メイド服に身を包んでいるシャルトリューズ。

その彼女がメガネを外している。


(元々整った顔だとは思っていたが、ここまでの美女だったとは………)


イツキの周りには美女や美少女が多い。

その中でも女神セレスティアが抜きん出ていたが、シャルトリューズも負けていない。

しかも、体つきもサリナルーシャ並みのダイナマイトボディ。


(メイド服の中にこんな凶器を隠し持っておったとは………)


「どうかされましたか?」


リーファと並んで白亜の向かいに身体を沈めたシャルトリューズ。


「いや、何でもない。ところでシャルトリューズよ。メガネはどうしたのじゃ?」

「湯気で曇りますので外しました」

「良く見えないのではないか?」

「そうでございますね。白亜お嬢様のお顔がぼんやりとしか見えません」


白亜はシャルトリューズを見る自分の表情が歪んでいるのを自覚している。

シャルトリューズが近眼でよかったと思う白亜だった。


「実際、メガネは不便なのですよ。風呂のような湿気の多いところでは曇りますし、暑い場所では額や前髪から滴った汗がレンズに落ちて視界を遮ります。いっそのこと、最近『M&Eヘビーインダストリー』社が開発したレーシック技術で視力回復してしまおうかとも思っているのですよ」


頬に手を添えながらそんなことを言い出すシャルトリューズ。


「最近開発されたものなら上手くいかぬかもしれぬぞ。失敗すれば、視力低下や最悪失明も有り得る。やめておいた方がよかろう」


一見、白亜の言葉はシャルトリューズを気遣うような内容だった。



だが、実は違う。



(メガネを外したシャルトリューズが本気を出したら、そのダイナマイトボディも相まってイツキが簡単に篭絡されてしまうかもしれぬのじゃ。それだけは絶対に避けねばならぬ)


そんなことを考えていた白亜がふと気付く。

リーファがジッと自分を見ていることに。



「どうした、リーファ?」


リーファが溜息をつく。


「白亜お姉ちゃん。イツキお兄ちゃんは見目(みめ)だけで人を好きになるような安い男の人じゃないよ。白亜お姉ちゃんはイツキお兄ちゃんを(あなど)り過ぎ」


自分より年下の少女に(たしな)められ、いたたまれなくなった白亜。


「妾はもう出る」


そう言い残して湯舟から出た白亜は脱衣場に向かう。



「白亜様、もう出られるんですか?」


そこにスッポンポンのマリアンヌが脱衣場から大浴場に入って来た。


「マリー、誰が見ているかわからぬのじゃ。タオルくらい巻け」

「女湯なんだから大丈夫ですよ~」


ニヘラと笑うマリアンヌをマジマジと見た白亜。



「マリーを見ていると安心するのじゃ」


白亜がフッと笑みを(こぼ)す。

その表情は勝ち誇った者のする顔だ。

なぜなら、マリアンヌは白亜以上に凹凸の無いスラリとした寸胴体形だったから。


「えっと、どういう意味でしょうか、白亜様?」

「うんうん、マリーはそのままでよい」


ほくそ笑む白亜にマウントを取られたように感じたマリー。


「ねえ、それ、褒めてませんよね? 絶対に褒めてませんよね?」


フフッと笑いながら脱衣場に消える白亜。


「ちょっと待って下さい! その笑い、一体何なんですか!? 説明して下さい! 説明してくれないと、気になって夜も眠れなくなってしまうじゃないですかあああ!」


白亜に向けて投げ掛けられるマリアンヌの叫びが大浴場に響き渡るのだった。







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