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135 では、審問を始めたいと思います

イツキが去った執務室。


執務室の応接セットはシルキーネの魔法で部屋の隅に片付けられ、広くなった部屋のど真ん中には一脚の一人掛けソファのみ。


そのソファに座らせられた白亜の右前に立つのはサリナ。

左前に立つのはシルキーネ。

セレスティアの姿は無い。


「では、審問を始めたいと思います」


サリナの感情の籠らない宣言と共に始まる白亜への審問。


「白亜ちゃん、レーゲンスブルグで一体何があったの?」

「…………イツキが妾のことを真剣に考えると約束してくれたのじゃよ」

「そっか。よかったわね、白亜ちゃん」


そこでサリナが相好を崩す。

だが、シルキーネは厳しい表情だ。


「白亜嬢。それだけじゃないんだろう? イツキ君がそう約束するに至るにはそれなりの理由があったはずだ。違うかい?」

「お師匠様、それどういうこと?」

「白亜嬢は何らかの手段を用いてイツキ君の心を動かしたんだ」

「『何らかの手段』って、白亜ちゃん、イツキに何をしたの?」

「…………容姿変換を使って…………イツキを誘惑してみた…………」

「容姿変換って…………白亜ちゃん、使えるようになったの?」


白亜は首を縦に振る。


「こっそり自軍の前線視察をするために、イツキと妾はイツキの容姿変換魔法で記者とその助手に化けたのじゃ。その時に流れ込んできた術式を覚えて一生懸命練習したら、容姿変換できるようになったのじゃよ」


「容姿変換は合成魔法よ。わたしだって使えないのに」

「ボクにも無理だね」


サリナもシルキーネも容姿変換魔法を使えない。


「それで、白亜嬢。どういう姿でイツキ君を誘惑したんだい?」

「わたしも知りたい!」


シルキーネが興味深そうに尋ねる。

サリナも興味津々だ。


「イツキが妾に行使した容姿変換は、髪と瞳の色こそ違えど妾の10年後の姿だということじゃった。その姿でイツキに迫ったらいつもと違う反応じゃった」


思い出しながら、白亜の見せる表情は乙女のそれではなく、大人の女の表情だった。


「だから、翌日の晩、髪と瞳の色もそのままの10年後の姿で誘惑してみたのじゃ。こんな姿での。容姿変換!」


白亜の背丈が伸び、容姿も大人のそれに変わる。

いつも劣等感に苛まれてる胸も豊かになっている。

容姿も大人びているが、着ている服も煽情的。

胸元が開いた白いブラウス。

黒いマイクロミニのスカートに黒いニーハイソックスに黒いハイカットブーツ。

全体に妖艶な雰囲気を醸し出しているが、美少女が可愛らしいままに美女になったという感じである。


「こ、これは…………」

「お師匠様…………」


絶句するシルキーネを不安げに伺うサリナ。


「こんなの……、こんなの……、イツキ君の理想の『かわいい奥さん』そのものじゃないか――――っ!!」

「イツキがいつも言っている『かわいい奥さんに膝枕されながらの穏やかな時間』に出て来る『かわいい奥さん』のことですか?」

「そうだよ!! ボクが前世のサツキ君に振られた理由もそれだよ!! ボクはカッコいいけどかわいくないからダメなんだってさ!! それなのに!! こんな間近にイツキ君の理想が転がってるなんてっ!!」


シルキーネが地団太踏んで悔しがる。


「それで!? それで、白亜嬢はその姿でイツキ君を篭絡したのかい!?」

「それが………その………誘惑しては見たのじゃが、寸でのところで妾が限界を迎えた。未遂に終わってしもうたのじゃ」


前のめりに尋ねるシルキーネに、白亜の答えは歯切れ悪かった。


「あとちょっと。あとちょっとだったのに…………」


小声で悔しがる白亜。


「それで、イツキ君は?」

「『終生絶対に守る』って言ってくれて、『妾のことを真剣に考える』って約束してくれたのじゃよ」

「ふむ」


それを訊いたシルキーネが考え込む。


「白亜嬢の誕生日はいつだい?」

「3月3日じゃが?」

「とすると、ボクらの結婚式の時には15歳か」

「どういうことじゃ?」

「ここエーデルフェルトでは15歳で大人。結婚できる年齢だ」

「イツキの居た日本では結婚できる年齢は18歳からだそうですよ」

「まあ、そこは世界が異なるってことで押し切ってしまうとして――――」

「お師匠様。悪い顔してますよ」

「君もだよ、不肖の弟子」


シルキーネとサリナが顔を見合わせてニヤリとする。


そして、白亜に向かって指示を出した。


「白亜嬢。あと5ヶ月以内にイツキ君に答えを出させるんだ」

「5ヶ月以内?」

「ああ、5ヶ月以内だ。もし、彼に認めて貰えたら、ボク達と一緒に結婚式を挙げよう。そのための期限だ」

「わかったのじゃ! 絶対に期限までに答えを出させるのじゃ!」


シルキーネの求めに勢いよく応じる白亜。


「但し、彼がやはり君のことを妹以上には思えないという結論に至った時には、君は彼のことをすっぱり諦めるんだ」


白亜が一瞬目を逸らしたのをサリナは見逃さなかった。


「お師匠様、見ました? この()、今、目を逸らしたわ。ダメだった時に諦めるとはとても思えないわ」


それを訊いたシルキーネが無言で白亜を見詰める。

[プロファイルビュー]を行使した白亜の心の読み取り。


やがて、全てを見切ったシルキーネが口を開く。


「白亜嬢。君はイツキ君の隙を突いて唇を奪ったね?」

「な、なんでそれを!?」


いきなり、過去を暴かれた白亜が狼狽える。


「ボクの固有スキル[プロファイルビュー]は相手の心、記憶、前世の全てを読み取ることができるんだよ。だから、ボクの前で嘘や黙秘は通用しないよ」


白亜がソファから立ち上がって逃げようとするが、白亜の後ろに素早く廻り込んだサリナが白亜の両肩を抑え込んだので、立ち上がること叶わず。


「イツキの唇を奪ったのはシルキーネもサリナも同じじゃろう!?」

「そうだね。だけど、君はもっと良くないことを考えているようだ」


サリナから逃れようと抵抗する白亜。

それをねめつけるような視線で見下ろすシルキーネが口を開く。


「『まあ、恋人になれなかった暁にはイツキを押し倒して子種を奪ってやるつもりじゃがのぉ。せめて、イツキの子くらい設けておかねば気が収まらぬというものじゃ。それをネタに無理やり妻の座に収まるのも手じゃろうて』?」

「なっ!!?」

「白亜ちゃん、そんなこと考えてたの?」


シルキーネが暴露したのは白亜の本音。

バラされた本人も絶句したが、妹分だと思っていた白亜の寝取り計画にサリナもたじろぐ。


「黙秘じゃ!」


プイッとそっぽを向く被告人・白亜。


「ギルティだね」

「ええ。ギルティですね」


審問官のシルキーネとサリナ。


今、審判が下されようとしていた。


「ここに宣告する。

 白亜嬢には今後イツキ君の部屋への立ち入りを制限。

 以下を禁止事項とする。

  一つ、容姿変換を行使してのイツキ君への接近

  一つ、夜間のイツキ君との添い寝

  一つ、双方の同意無しに肉体関係を結ぶこと

 以上を破った場合、婚約者候補の資格を失い、未来永劫イツキ君の

 周囲100m以内への接近を禁じるものとする」

「異議なし」

「異議ありじゃ!」


同意するダリナ。抗議する白亜。

白亜にとって、禁止事項を破った時のペナルティーが重過ぎた。

到底受け入れられる内容では無かった。

だが、二人の審問官は非情だった。


「被告人の異議を却下」

「被告人には抗弁権はありません」


ここに白亜の保護観察処分が確定した。


「サリナ~~~」

「白亜ちゃんに協力するとは言ったけど、よもや抜け駆けを企むとはねえ」


白亜がサリナに泣きつくが、サリナは呆れて果てていた。


「白亜ちゃん。これからはライバルとして接しさせて貰うわね」

「ボクも白亜嬢のことを年下と侮っていたよ。これからはそれなりの対応をさせて貰うことにするよ」


サリナとシルキーネにライバル宣言された白亜。

自分の身から出た錆ではあるが、敵も容赦無かった。


「ちなみに、イツキ君の居室には白亜嬢だけ入室できない結界を張らせて貰ったよ。結界を破ると警備兵が1個連隊押し寄せてくるから気を付けたまえ」

「ちょっと待つのじゃ!」


徹底的に引き離しに掛かるシルキーネ。


「そうそう、白亜嬢にも居室を用意させてもらったよ。イツキ君の居室からいちば~~ん遠い部屋をね」

「なっ!」


白亜にニッコリと微笑み掛けるシルキーネから更に追い打ちの一言。


「自宅でも君が禁止事項を破ること無きよう、シャルトリューズにはしっかりと言い含めておくよ」

「そ、そんな~~~~~~」


白亜が床にがっくりと膝をつく。


(お師匠様、容赦ねえええええ!)


自分もシルキーネの片棒を担いだことなど棚の上にポ~ンと放り上げたサリナは、白亜とシルキーネのやり取りを見ながらそう思うのだった。







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