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125 敵作戦指令室の中を闊歩する

俺が侵入した要塞司令官執務室はもぬけの殻だった。

執務机は整理整頓されていたが、その前に置かれた応接セットの長ソファにベルゼビュート軍の将校服が脱ぎ散らかされていた。

後ろの大きなロッカーの扉も開きっ放し。

要塞司令官殿はよっぽど慌てていたんだな。


ロッカーの中を覗くと上の棚に無造作に軍用魔道拳銃が置かれていた。


軍用魔道拳銃を手に取ってみる。

一見フルオート拳銃に見えるが、遊底(ゆうてい)はスライドしない固定式。

遊底(ゆうてい)の形をしているだけで銃身と一体構造のようだ。

グリップ底部のロックを解除して出て来たのは銃弾が収まったマガジンではなく、耐熱加工された魔石ホルダーだった。中に長方形に成形された魔石が固定されていた。

魔石は火属性の魔石のようだ。

ということは、トリガーを引いて撃ち出されるのは弾丸ではなく炎弾なのだろう。

もしかすると、魔石ホルダーとそこにセットする魔石には他の属性のものもあるのかもしれないな。


[鑑定]を行使。

ボディはアダマンタイト、ミスリル、カーボン、タングステン、チタン、ニッケル、鉄の合金鋼。トリガー後方内部には魔石からの魔力吸引回路と魔力増幅回路が仕込まれている。


どこ製だ?

遊底サイドに彫り込まれた文字を読んでみる。


『M&E977  9mm MILITARY AUTOMATIC MAGIC HANDGUN』


M&E977 9mm軍用自動魔道拳銃だってさ。


ん?

M&E?


クレハさんとこの製品じゃん!

こんなものまで作ってたんかい!


取り敢えず頂いておくか。

拳銃ゲット~。

手にした魔道拳銃を[無限収納]に放り込んだ。


他にも何かないかな?

おや?

足元の応接テーブルに置かれたトレーの上に盛られたクッキーがあるぞ。

1枚1枚包装されているところを見ると、このクッキーは高級品だ。

なにせ、要塞司令官が(たしな)むクッキーだ。

絶対高級品のはずだ。絶対そうに違いない。


俺はクッキーを1つ摘まみ上げると包装袋から出して口に入れた。

仄かな甘みが口の中に広がった。


美味えじゃん。

もう1枚頂こう。


そうこうするうちに全部食べてしまった。

意地汚いと言うなかれ。今日の俺は朝飯抜きだ。

飲まず食わずで働いたんだよ、今まで。

最後の最後で無茶苦茶な試練押し付けられるし。

そんなクッキーの盗み食いをする俺を誰が咎められよう。

情状酌量の余地があるとは思わないか?


ことのついでにお湯を沸かしてティーセットで紅茶まで頂いてしまった。

クッキーで口の中がモソモソするから、紅茶で洗い流したかったんだよ。


人心地ついた俺はソファから立ち上がる。


さて、どこに行こうかな?

南西城郭は白亜達が攻略したみたいだし。

北西城郭はマローダー大将の部隊に、北東城郭はライゼル大将の部隊にそれぞれ攻略を任せてある。

だとすると、残るは南東城郭か。


俺は中央城郭のテラスの手摺りを飛び越えると、空爆で廃墟化した通路沿いに南東城郭へ向かった。

ヒョイヒョイと瓦礫の上を飛び移りながらの最短距離での移動。



数百メートル進んだところに南東城郭があった。

入口に立つ2人の歩哨の頭に向けて瓦礫の小片を超速で投げつけた。

狙い違わず頭を撃ち抜かれた歩哨が声も無く(くずお)れる。


俺は乱暴に扉を蹴破る。

部屋の中の将校達が一斉に俺を見た。

どうやらここは作戦指令室らしい。


俺は彼らに挨拶する。


「こんにちは、皆さん。さあ、楽しい楽しい虐殺の時間ですよ(^o^)/」


何を言われているのか理解できていない将校達。

俺は構わず魔法を行使する。


「エヴォカティオ・ダエモニス! 黒い水溜まり!」


魔物や魔獣を召喚する禁呪で〖混沌の沼〗ダンジョンの41階層で退治した黒い水溜まりを召喚してみた。

生き物だけに反応して捕食する魔物だ。

あの時全部討滅してしまっていれば召喚できないが、1体くらいはどこかに残っていると思うんだよね。

まあ、残っていなければ召喚できないだけなんだが。


お、出てきた出て来た。


しかし、召喚されたのは黒い球体の魔物。

水溜まりでなく球体なんだが、これでよかったのか?

ものは試しにぶっつけ本番で試してみた闇属性の禁呪だが上手くいったのか?


ちなみに、この禁呪は召喚者のレベルが召喚対象より低い場合、召喚対象の餌食になってしまう危険を孕む。

だが、今の俺のレベルは∞。

大丈夫だろ。たぶん。


まあ、指令室を制圧するだけならこれで充分なはずだ。

実際、他の属性魔法はここでは使えないしね。

書類や設備にダメージを与えてしまうからね。


黒い球体は作戦指令室の床一面に黒い水溜まりを広げ、そこから伸び上がった粘液が指令室の将校達を包み込み次々と捕食していく。


「ぎゃあああ! 助けてくれえええっ!」

「来るなああああ――――っ!」

「俺の足が……足があああっ!」

「ぐむむむむむ………」

「ひいいいいいっ! 身体が! 身体が溶けていくうううっ!」


阿鼻叫喚の中、捕食された将校達が黒い粘液に溶かされていく。

やがて、作戦指令室には誰も居なくなった。

全てヤツの腹の中?

ヤツは黒い水溜まりを収束させ、20cmくらいの黒く柔らかい球体に戻った。


「初仕事ご苦労様」


俺の(ねぎら)いに黒い球体が身体を震わせたように見えた。


こいつは俺の召喚獣だ。

[エヴォカティオ・ダエモニス]で召喚した魔物や魔獣は自動的に召喚獣になる。

俺の召喚獣だから名前を付けないとね。


「お前の名前は………そうだな……黒い球体だから『黒たま』でどうだ?」


安易な理由で名付けをしてしまったが、『黒たま』と名付けられた黒い球体はポンポン跳ねて反応した。

どうやら気に入ってくれたらしい。


「じゃあ、黒たま、待機だ」


黒たまは一度だけ跳ねると姿を消した。

異界へ引っ込んだらしい。



誰も居なくなった敵作戦指令室の中を闊歩(かっぽ)する俺。

大テーブルの上には領都レーゲンスブルグの地図とそこに記された部隊配置。

壁に貼られているのはレーゲンスブルグの多層構造図だった。


更に作戦指令室を探索する。

俺は書棚の一角にそこにそぐわない豪華な装丁の分厚い書物を見つけた。

取り出してみる。


『レーゲンスブルグ要塞運用マニュアル』


へえ、マニュアルなんてあったんだ。

でもまあ、制御が複雑だからマニュアルくらいあって当然か。


手に取ったマニュアルのページを(めく)る。


どれどれ。

一通り目を通してみるか。


そこには反重力の揚力制御や推進制御の詳細が記述されていた。


何々?

揚力の強弱も推進速度もそれぞれに対応するワンハンドルのマスターコントローラーレバー操作により調整する?

ワンハンドルのマスターコントローラーねえ。

略してワンハンドルマスコン。

考えたヤツは絶対に電車オタクだよね。


推進方向の調整はジョイスティックレバーで云々(うんぬん)

ゲーム機かよ。


頭痛くなってきたぞ。



ページを(めく)り続ける。


第6章には運用規定が掲載されていた。

基本的にはベルゼビュート軍の将兵のコントロールルームへの入室は禁止。

入室できるのはアスタロト軍の技官のみ。

どうやら、要塞制御システムの運用はアスタロト軍から派遣されてきた軍事顧問とその部下の魔工技師により行われていたようだ。

コントロールルームだけベルゼビュート軍の指揮権の及ばない治外法権だよ。

まるでアメリカ軍のオペレーター以外入室禁止になっている、どこかの国のイージス艦のイージスシステムコントロールルームみたいだな。



更にページを(めく)り続けると、ある章に目が留まった。

魔力吸引装置の章だ。


200万人の住民から魔力を吸い上げるとのことだが、どうやって200万人もの住民を抵抗されることなく要塞地下2階まで移動させたのだろうと疑問に思っていたが、なるほど、そういうことか。


だとすれば――――


俺はこの本から住民救出のヒントを得たのだった。



最後まで読んだのでマニュアルを閉じた。


マニュアルを最後まで(めく)ってみたが、自爆装置のことはどこにも書かれていなかった。

要塞システムを構築したアストロト軍だけが知る自爆装置。

裏メニューってことね。



まあいい。

既に自爆装置は解除済みだ。

なるはやでベルゼビュート軍を片付けて住民を救出しないとね。



作戦指令室正面のモニターはマルチ画面になっている。

映し出されているのは領都各所の映像。

領都のあちこちに監視カメラが仕込まれているようだ。

地上だけでなく、地階にも設置されてるね。


これも、たぶん、クレハさんの会社の製品なんだろうなあ。

『鉛筆からミサイルまで』を地で言ってるよね、M&Eヘビーインダストリー社。

剣と魔法の世界に近未来科学を持ち込んじゃってさあ。

もうカオスだよね、これ。


まあ、カオスになっちまったもんはしょうがないから受け入れるしかないんだが。


でも、俺のクエスト完遂の難易度爆上りじゃね?

もはや、ミッション・インポッシブルだよね?

達成不可能な任務だよね?



そんなことを考えながらモニター画像を眺めていると、お知り合いが奮戦していた。


領都地下1階の東から敵に圧迫を加えているのは、ミリガン中将率いるガヤルド陸軍第1師団。

西から敵を東に壊走(かいそう)させているのがリッツ中将率いるガヤルド陸軍第3師団。

まあ、地下1階の敵が東西から挟み撃ちにされるのも時間の問題だな。


北西城郭で戦っているのは、マローダー大将率いるミケランジェリ陸軍第18師団麾下の第52装甲突撃旅団。

こちらは順調に敵を蹴散らしながら城郭攻略を進めていた。


北東城郭で戦っているのは、ライゼル大将率いるメロージ陸軍第2空挺師団。

こちらはちょっとヤバそうだ。

6本腕の甲冑大男に押されてるぞ。

あれは確か『流血大河(りゅうけつたいが)のヒルデスハイム』だったか?

ライゼルさんは死を覚悟しているみたいだが、俺のおとぼけに付き合ってくれる程度には冗談が通じるいいおじいちゃんだ。

死なせるには惜しい人材だよ。

だから、加勢に行かなくてはね。


俺は南東城郭に位置する作戦指令室を出ると階段を下って地下通路に出る。


途中、要塞守備兵と何度か遭遇したが、そいつらはみんな再召喚した黒たまの餌食(えじき)になった。


降り切った階段の先は西方向に向かう通路と北方向に向かう通路に分岐していた。


俺は迷うことなく北方向に向かう通路を選んだのだった。




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