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124 無茶振り過ぎやしませんか? クレハさん?

反重力超大型拡散偏向ノズルがその機能を止めた。

白亜とクレハさんが上手くやってくれたらしい。

数秒遅れて、俺も要塞の浮上を抑え込む重力制御を解除する。


「ふ――――っ! 疲れたぁ~~」


本当はだらけたいところだが、みんなが下から見ている。

だから、心の中だけでだらけることにした。


真上を見上げると突き抜けるような青空。

冬は空気が澄んでいるから青が濃いね。


周りを見回すと北の遥か彼方に雪を被った山脈が見えた。

スキーに行きたいなあ。

でも、エーデルフェルトにはスキー場は無いんだろうな。たぶんリフトも。


いっそ作るか、スキー場。

とは言え、あの雪山はメロージ領か、その向こうのミケランジェリ領。

勝手にスキー場を造る訳にもいかないしなあ。

う~ん。

ガヤルド領にも雪山があればいいんだけど。

そうしたら、シルクから領内にスキー場を造る許可をゲットしてやる。

今回、その程度のお願いを聞き届けて貰えるくらいには貢献したはずだしね。



などと周りの景色を眺めながら考えていると、突然[映像念話]が繋がった。

クレハさんからだった。


『イツキさん。お願いがあります。すぐにやって頂けますか?』


ん?

クレハさんには珍しく目的語が抜けている。

俺は何をやればいい?

そもそも何か不測の事態でも起きてるの?


『アスタロト軍から派遣されてきた軍事顧問に要塞の自爆装置を作動させられました。設定時間は5分後。正確にはあと4分45秒後には魔力変換炉が臨界に達して爆発し、周囲200kmが灰燼(かいじん)に帰します。それはこちらのモニターに表示された魔力量計でも解ります』


5分以内に自爆?

周囲200kmが灰燼(かいじん)に帰す?


意味がわからない。

要塞の制御を掌握したんじゃないの?


『そこでお願いなのですが、イツキさん、自爆装置の解析と停止をお願いします。臨界を止めて下さい。4分35秒以内に』


はあっ?

無茶振り過ぎやしませんか? クレハさん?

全部丸投げはあんまりなんじゃありませんか?


「もうっ!! なんでだよ!! 終わったと思ったのに!! まだ働かされるのか!? ねえ、ブラック!? ブラックなの!?」


俺は頭を抱えて空中を転げまわる。

頭の中は怒りで一杯だ。


俺は、この込み上げる怒りをどこにぶつけたらいい?

自爆装置を作動させやがったクソッたれの軍事顧問か?

いや、そもそもその軍事顧問とやらをここに派遣したのはアスタロトだ。

そう言えば、ホバート近郊に〖混沌の沼〗ダンジョンを出現させたのもアスタロトだったよな。


アスタロトめっ!

いつもいつも俺に試練を課してきやがって!

どういうつもりなんだ!?

覚えていろよ、アスタロト!

見つけ出して捕えて3日3晩問い詰め続けてやる!!


「閣下は何をなされているんだ?」

「新たな魔法を行使されるんだ。あれは詠唱の儀式だ」


見られていることに気付いて我に返る。

()ずい真似をしてしまった。


『葛藤はお済みですか? もう4分を切りましたが?』


おおっと。

クレハさんの指摘に冷静さが戻って来る。


無駄な葛藤に時間を消費してしまった。


まずは解析。


俺は要塞の自爆装置の解析を試みる。


なるほどね。

本来の魔力変換炉は、以下の機能を司っている。


①魔力吸引装置が魔力サーバーに溜めた魔力を時分割で取り込む機能

②取り込んだ魔力を反重力系と推進系に分配する機能

③分配に当たって魔力を増幅する機能

④それぞれの系統が減速した時に発生する回生魔力を魔力サーバーに戻す機能


自爆装置のメカニズムは、魔力変換炉に魔力サーバーからありったけの魔力を取り込み続け、その一方で出力系を遮断する。自爆装置のボタンが押された時に魔力増幅のリミッターが外れる。その結果、魔力を取り込んだ魔力変換炉は無限に魔力の増幅を繰り返し、増幅された魔力はやがて臨界を迎え、魔力爆発を起こすというものだ。


ここまでの解析に2分掛かっている。

ハッキング防止術式を排除するのに時間が掛かったからだ。


「クレハさん、あとどれくらい?」

『残り1分55秒です』


クレハさんが[映像念話]を繋いだまま残り時間を教えてくれている。


さあ、次は制御術式の書き換え。

まずは魔力サーバーからの魔力の取り込みを遮断する。


うわあ。

ダミー術式てんこ盛りだよ。

複雑に入り組んだ術式を紐解(ひもと)き、魔力取り込みロジックに到達する。


「ここを切り離してっと」


魔力サーバーと魔力変換炉の切り離しに成功。


「クレハさん!」

『あと1分です』


魔力変換炉の魔力増幅回路の停止を試みる。


強制停止すると行き場を失った魔力が魔力変換炉の炉壁を溶解する?

なら、強制停止は無理筋だ。

代わりに増幅速度を遅くするか?

だが、今から減速しても間に合わない。臨界を越えてしまう。

増幅されまくった魔力はどうする?

ああっ! もう時間が無い!!


そこであることに気付く。


ノズルを破壊された反重力と推進の出力系。

遮断された出力系に魔力を流すとどうなる?


答え:魔力は外界に放出される。


これだ!


『あと30秒です』


魔力増幅回路にスローダウン制御を追加し、緩やかな減速と停止を指令する。

だが、指令しても減速開始は40秒後?

間に合わないよ!


もう、臨界を止めるには出力系の再開通しかない!


『あと20秒です』


俺は出力系を遮断した術式の書き換えに掛かる。

幾重(いくえ)にもロックが掛かっている。

厳重過ぎだろう。


『あと10秒です』


何とかロックは全部解除した。

さあ、出力弁を開放するぞ。

間に合うか!?


『あと、5,4,3,2』

「出力弁開放完了! 」


ギリギリのタイミングで出力弁を開いた。

これで魔力が外界に放出されるはずだ。

遅れて魔力増幅回路も停止するだろう。


『魔力量計の示す総魔力量、下がり始めました。増幅率計の目盛りも下がっています』


クレハさんが逐一報告してくれる。



『ミュ――――――ン……………』

『今、魔力変換炉の停止が確認できました』


なんとか間に合った。

マジでギリだった。

爆弾を解除する警察や軍の特殊工作班の人の気持ちがよ~くわかったよ。

あんなのはドラマや映画の中だけで十分だ。

決して実体験していいものじゃない。

『もう二度とこんなのは勘弁して欲しい』って心の底から思ったよ。


『お疲れ様でした。イツキさん』


クレハさんが心からの労いの言葉を掛けてくれた。

[映像念話]越しにもそれがわかるくらいの穏やかな微笑みだった。




俺はゆっくりと降下する。

足元の領都は一面瓦礫と化し、多少まともに見えるのは領都中央に位置するレーゲンスブルグ城のみ。


俺が真っ直ぐに降下した先はそのレーゲンスブルグ城の中央城郭。


降り立ってみると辺りに敵兵の姿は無い。

姿が見えないのは味方もなんだが。


もう陸戦部隊はベルゼビュート軍を制圧できたのかな?


制圧出来ていない場合に備えて、大魔道剣聖に職種変更しておくか。

ここからは接近戦になるからね。

魔法職では不意の攻撃に対応できないから不利なんだよね。


「大魔道剣聖にスイッチ」


そう呟くと、自動音声が発せられた。


『勇者・大賢者をアンインストールします』


5分後、


『勇者・大賢者のアンインストールに成功しました。次に、勇者・大魔道剣聖のインストールを開始します』


更に5分経過後、


『勇者・大魔道剣聖のインストールに成功しました』


ガヤルド陸軍の将軍の姿のままだが、腰にはクレハさんに貰った名刀・白藤。



さて、あと一仕事。

じゃあ、俺もベルゼビュート軍制圧の戦列に加わるとしますかね。


俺は中央城郭のテラスの手摺りをヒョイと越えると要塞司令官執務室と思われる室内にゆっくりと踏み込むのだった。






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