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117 統合作戦会議

正統魔族軍統合作戦会議当日。

俺は統合軍総司令部を正統魔族軍に恭順を示した近隣の子爵邸に置いた。

会議の議場はその子爵邸の大広間。


大テーブルの左右にガヤルド、ミケランジェリ、メロージ各軍の幕僚が座る。

一番奥の上座に座るのが総司令官の俺。その左横に立つのが副官の白亜。


「では、統合作戦会議を行います」


俺の左前に座る参謀総長に就任したソルベルスキー中将が会議の開催宣言を行った。

俺の左側に座るのはガヤルド軍の将官達。右側に座るのがミケランジェリ軍の将官達。

これに対してメロージ軍の将官達は、左右の末席近くに座らせられている。

俺がそうした。


さあ始めよう。


「総司令官に着任したサイガイツキです。ミケランジェリ軍とメロージ軍の皆さんとは初顔合わせになりますが、皆さんには俺の指揮下に入って貰います。これは五公主会議の決定事項です。異論は認めません。今後は俺の命令に従って下さい」


おうおう、ローレル中将、敵意丸出しだな。


「総括する限り、これまでのレーゲンスブルグ要塞攻略作戦は失敗と言ってもいいでしょう。悪戯に兵力をすり潰すだけの一方的な消耗戦です。特にメロージ軍の作戦は目を覆うほど酷いものでした。それについて、何か反論は有りますか?」

「それは聞き捨てならないな。総司令官閣下」


早速、ローレル中将が噛みついて来た。


「これまでの作戦は要塞攻撃の定石に従ってきた。要塞が陥ちないのはガヤルド軍とミケランジェリ軍が非協力だったからだ。3軍合同で攻めれば陥とすことができたはずだ」

「勝手なことを言うな! 無謀な作戦で兵を無駄死にさせる訳にはいかぬのだ!」


マローダー大将が立ち上がって抗議する。

ガヤルド軍の各師団長も黙って首肯している。


俺は右手を上から下に振ってマローダー大将に着席を促した。

それを見た彼が口を噤んで腰を降ろす。


「このままでは、移動準備を整えたレーゲンスブルグ要塞がガヤルド領に向けて動き出すことは時間の問題ですね。その前に要塞を陥とす必要があるのは解りますよね?」

「はあ」


俺の問いにローレル中将が渋々頷く。


「そこで、総司令官として作戦の変更を要求します」


(ざわ)つく議場。


「今後、要塞攻略作戦を以下の手順で進めて頂きます。

 1.要塞上空に張られた防御結界を破壊すること。

 2.防御結界破壊後に高空から精密爆撃を実施し、要塞砲至近の砲兵を殲滅

   すること。

 3.代わりの砲兵が駆け付けるまでの間に要塞砲の射程外から要塞砲を破壊

   すると共に、風属性ジェット推進ノズルを速やかに破壊して浮遊要塞の

   足を止めること。

 4.要塞砲沈黙後に陸戦要員を突入させ、速やかに要塞のコントロールを奪

   うこと。

 5.要塞のコントロール奪取後、主力の全力を以て兵力要塞内のベルゼビュ

   ート軍を制圧すること。」


「そんな要塞攻略戦など訊いたことも無い! 奇策だ!」


ローレル中将が立ち上がって噛みついてきた。


「どこがですか?」

「どうやって要塞上空に張られた防御結界を破壊する!? 高空からの竜騎兵の猛攻でも僅かな穴くらいしか開けられないのだぞ!」

「そこはもう対策を考えてありますよ」

「ほう。総司令官閣下は考えがあると? ぜひ、お聞かせ願えるかな?」

「いいですけど、それを訊いて、あなたはどうするつもりなのかな?」


ローレル中将が目を逸らした。


「もう一度訊きます。俺から訊いたことをあなたはどこに知らせるつもりなのかな?」


ギョッとしたローレル中将。

列席者の前にソルベルスキー中将が分厚い報告書を置いていく。


「こ、これは…………」


報告書を見たローレル中将の顔が青くなっていく。


「ローレル中将。いろいろ調べさせて貰いました。金の流れと不動産登記状況をね。あなた、数ヶ月前にアスタロト領に広大な土地を買ったみたいですね? 同じ時期にあなたの口座に大量の入金があったことも確認済みですよ。迂回送金の限りを尽くしていたようですね。『出所を掴むのに苦労した』って、調査者がぼやいていましたよ。そうそう、映像念話記録も調べさせてもらいましたが、あなた、レーゲンスブルグ要塞内に知り合いでもいるんですか? やけに頻繁に連絡を取っていたじゃありませんか?」


他の将軍達の疑いの目がローレル中将に注がれる。


「陰謀だ! これは小官を失脚させようとする人族の勇者の陰謀だ!」


これだけ証拠が挙がっているのにまだシラを切るか。


「今、ここに液体の入った瓶があります」


布越しに取り出した小さな飾り瓶。

中にどす黒い液体が入っている。

中身は残り1/3まで減っているが。


「この瓶はあなたの執務室の床下にありました。あなたの指紋がたっぷり付着した状態でね」


これを見たローレル中将が今度こそ絶句した。


「これと同じ成分がメロージ軍司令官の食器から検出されています。申し開きはありますか?」

「希少な回復薬だ! 早く軍司令官閣下に回復して貰おうと思って!」


必死に弁解するローレル中将。


「ふ~ん。そうなんですか」


俺は立ち上がるとローレル中将の席まで行き、ローレル中将の紅茶のカップに瓶の中身を全部流し込んだ。


「ローレル中将。あなたもさぞお疲れのようだ。これは俺からの心ばかりの気持ちです」


青い顔でカップを見据えるローレル中将。

だが、カップを手に取ることはなかった。


「どうされました? 希少な回復薬入りですよ」

「どうした? 総司令官閣下手ずから希少な回復薬を入れて下さったのだ。飲まないのは失礼であろう」


マローダー大将がローレル中将に詰め寄る。


「しかし…………」


ローレル中将はカップを見据えるだけで手に取らない。


「仕方ない。俺が飲ませてやろう」


マローダー大将が左手でカップを掴み上げてローレル中将の口元に持っていく。


「や、やめろ!」

「そう言わずに飲め」


マローダー大将が右手でローレル中将の顎を掴んで口を開けさせ、無理やりカップの中身を注ぎ込んだ。


「ぐああああああああああああああっ!!」


ローレル中将曰く『希少な回復薬』。

それをたっぷり注ぎ込まれたお茶を喉奥まで飲み込んだ本人が喉を押さえながらのた打ち回る。


「誰か解毒薬を! 神官を呼べ! 私は死にたくない! 死にたくないんだあっ!」


見っとも無い様を晒すローレル中将の前にしゃがみ込む。


「ローレル君はおかしなことを言うなあ。なぜ『希少な回復薬』入りのお茶を飲んだ感想が『死にたくない!』なのかな? ほら、じきに体に活力が漲って来るよ。そのまま待とうよ。ねっ」

「早く状態異常無効化しないと毒が廻って死ぬ! 早く! 早く神官を呼んでくれ!!」


四つん這いになって俺に助けを求める。


「『毒が廻って死ぬ!』ねえ。自らこれが毒だと認めたね?」


目の前の空瓶を左右に振って見せる。


「いいから早く神官を!!」


訊いちゃいないか。


「まあ、安心してよ。今、瓶から注いだのは黒曜樹の樹液を煮詰めたものだ。偽物だよ。少し喉の奥がピリピリするけど死ぬことはないよ」


それを訊いたローレル中将が呆気にとられ、やがて嵌められて自白させられたことに気付いて俺に憎々し気な表情を向けて来た。


「本当に愚かな人だ。『語るに落ちる』とはこのことだね」


俺は言葉を続ける。


「もちろん、まだ悪足搔きするって言うのなら、その時はこっちの瓶に移した本物を飲んで貰うけど、どうする?」


ポケットから別の瓶を取り出してローレル中将の前に翳す。

瓶に視線を釘付けにされたローレル中将。

やがて、彼はがっくりと項垂れたのだった。


そんな彼に裁定を下す。


「アリステア・ローレル。軍司令官毒殺未遂及び反逆罪の咎で貴官を拘束します」


そして、警備兵に命令する。


「この男を連れて行け」


警備兵に左右から拘束されたローレル中将が議場から連れ出されていくのを見送ると、議場の巻かれたカーテンに向けて声を掛ける。


「お待たせしました。ライゼル大将」


カーテンの裏から姿を現したのは、メロージ軍司令官のウルリッヒ・フォン・ライゼル。

焦げ茶色に白髪が混じった髪に紫色の瞳。口元には白い髭を蓄えた中肉中背の60代後半くらいの魔族。

今の彼は全快している。



―――――――――――――――――――――――――――


俺は昨夜遅く、ライゼルさんの居室に忍び込んだ。

寝ている彼に[鑑定]を行使すると、病気ではなく毒による状態異常だった。

彼に[ノーマライズ]を掛け、状態異常を解いて正常化し、[メガヒール]で弱った体を回復させた。

これで明日の統合作戦会議に出席できるはずだ。


こっそり居室を抜け出そうとした俺の背中に声が掛かる。


「勇者サイガサツキ殿ですな?」


起きちゃったか。

でも、俺は[容姿変換]しているし、[隠蔽]も掛けているからバレないはずなんだが。

それに俺は『サイガサツキ』じゃなくて『サイガイツキ』だよ。


「違いますよ。通りすがりの流しの治癒師です」


起き上がったライゼルさんが俺をじっと見詰めると、


「そうでしたな。わしの勘違いでした。最近、老眼が進んだようでしてな」


絶対バレてるよ、これ。

でも、俺のおとぼけに付き合ってくれてるんだ。

このまま乗るとしよう。


「あなたは毒に侵されてたんですよ。でも、もう安心です」

「通りすがりの流しの治癒師殿、(かたじけな)い。これこの通り」


丁寧に頭を下げられた。

得体のしれない相手にも礼儀正しいなあ。

それに得体が知れていても人族の勇者だぞ。

もっと警戒して欲しい。


「ちなみに俺、予知も得意なんですよ。あなたを見た時に未来が見えました。『明日、あなたは朝食も摂らずに軍の会議に出席する。でも、あなたは何故か席に就かず議場のカーテンの陰に隠れる。』そんな光景がね」

「ほっほっほっ。それはまた明晰夢ですな」

「そうでしょう? だから、俺の予知に従うが吉ですよ」

「通りすがりの流しの治癒師殿の予知は良く当たるのですか?」

「ええ、まあそれなりに」

「では、そうすると致しましょう」


俺を穏やかに見詰めて答えるライゼルさん。

聞き分けのいいおじいさんだ。


そう感じながら、ライゼルさんの居室を後にしたのだった。



―――――――――――――――――――――――――――


「ライゼル大将。席に掛けて下さい」


ライゼル大将が席に就いたので、作戦会議を再開する。


「先程の話に戻りますが、要塞上空に張られた防御結界の破壊は俺が担当します。また、要塞砲の射程距離外からの砲撃兵器も既に手配済みです」


俺からの説明に頷いたソルベルスキー中将が防御結界破壊後の精密爆撃について説明する。


「まず、防御結界破壊後の精密爆撃ですが、北からはミケランジェリ軍第26竜騎兵師団に担当して頂き、南からは我が軍の装甲竜騎兵団が爆撃を行います。」


空爆担当も決まった。



「では、参謀総長。砲兵陣地構築の説明を」


参謀総長のソルベルスキー中将には作戦を事前にレクチュア済み。

ソルベルスキー中将がテーブルに地図を広げると説明を始めた。


「今回、我が軍は、要塞砲を黙らせ要塞の足を止める為、『M&Eヘビーインダストリー』社から220ミリM79榴弾砲を6門購入しました。それを要塞周囲の丘のこの位置に配置します」


そう言いながら地図上、要塞から30km離れた丘の上6ヶ所を指し示した。

次席参謀が地図の上に黄色いコマを置いていく。

要塞を取り囲むように、0時、2時、4時、6時、8時、10時の位置。


「砲兵隊には空爆後に砲撃を開始して頂きます」

「M79榴弾砲の射程距離は?」

「有効射程45km。射程拡大砲弾使用時の最大射程は122kmです」

「通常の榴散弾でもアウトレンジ砲撃できる訳か」

「そのとおりです」


諸将が納得するのを確認したソルベルスキー中将が話を進める。


「では、各領軍、準備を含め明後日の朝5時までに榴弾砲の設置を終えて下さい」

「榴弾砲はいつ届く?」

「明日の午後6時です」

「日没後か」

「そうなりますね」

「基礎堅めも含めて11時間以内での設置はきついな」


ソルベルスキー中将とやり取りしたマローダー大将が顎に手を添えて独り言ちる。


M79榴弾砲は現品確認も兼ねて、総司令部の置かれているこの屋敷前に納品される。

納品検査がどれくらい掛かるかわからないが、その検査を終えた榴弾砲を大量の弾薬共々ここから指定位置まで運ばなければならないのだ。

確かに時間のことが気になるのも仕方無かろう。


「ちなみに、M79榴弾砲の整備重量は?」

「8.4トンです」

「移送には1門あたり大型のワイバーン2頭が必要になるな」

「移送途中に要塞からの竜騎兵の襲撃が危惧されるが?」

「ええ、要塞側に気付かれずに設置を終えなければなりません。従って、移送は夜間に行う必要があります」

「できると思うか?」

「工兵と輸送隊を総動員して間に合わせて下さい」

「攻撃は?」

「各榴弾砲に榴散弾500発を支給します。発射速度は3発/分。要塞に向けての砲撃時間は2時間。360発を要塞砲・推進装置破壊用に、残りは要塞降下後に出撃してくる敵部隊の足止め用に使って下さい」

「榴弾砲を破壊すべく敵の夜襲があるかもな」

「榴弾砲周囲に魔法兵を配置し、敵に制空権を握られないように竜騎兵部隊の護衛を付けた方がいいだろう」


ソルベルスキー中将を中心に各将が詳細を詰めていく。


「北正面、東北東正面はミケランジェリ軍第18師団にお任せします。各師団から砲兵中隊、魔導士中隊、竜騎兵中隊を抽出して下さい。西北西正面、西南西正面及び南正面はわが軍の第2師団と第4師団が担当します。抽出する部隊はミケランジェリ軍と同様とします。残る東南東正面をメロージ軍の第11師団と第5竜騎兵団の残存兵力で担当して頂きます」


参謀総長のソルベルスキー中将が配置を決めていく。

次席参謀が地図上に青いコマを置いていく。



要塞砲破壊と風属性ジェット推進ノズル破壊の件はこのくらいでいいだろう。


「では、次に要塞の内部構造の説明を」


俺はソルベルスキー中将に促す。

それに応えて、ソルベルスキー中将が要塞の内部構造について説明を始める。

ちなみに要塞の外部構造については要塞攻略開始時に既に全軍で情報共有が済んでいる。


「では、我が軍が予め潜ませていた潜入部隊からの報告は以下の通りです」


要塞上部はレーゲンスブルグ城を中心に放射状に広がった2階建ての市街地で構成されている。市街地は迷路のようになっていて大群が一気に城に押し寄せられないようになっている。地上の市街地のあちこちに要塞守備兵が配置され、中央広場は竜騎兵の発着場になっている。要塞地下は3階建て構造になっており、地下3階部分が反重力超大型拡散偏向ノズルと風属性ジェット推進ノズルの魔力変換炉がある動力室。地下2階が住民の拘束エリア。地下1階が要塞守備兵の駐屯地と武器弾薬庫。

要塞のコントロールルームは城の南西城郭の地下2階。地下1階と地上部分には最精鋭の近衛兵が厳戒態勢。城の中心部には要塞司令官オットー・フォン・ヒルデスハイム上級大将。


「流血大河のヒルデスハイムか。やっかいだな」


マローダー大将が唸る。


「それに、囚われた住民の安全を確保した上での要塞攻略戦ということは………要塞のコントロールルームの確保は絶対だな。いざとなったら、やつらはコントロールルームを破壊して動力室の魔力変換炉を暴走させ、住民もろとも攻略軍の殲滅を図るかもしれない」


確かに魔力変換炉を暴走させれば最終的には魔力爆発を起こして周囲200kmは焼け野原。

正統魔族軍も全滅だ。

全く、危険な自爆攻撃だよ。


ミリガン中将も考え込む。


「ならば、突入場所はコントロールルーム南西城壁になるな」

「どうやって突入する?」

「降下猟兵を伴った竜騎兵による突撃か?」

「M82魔道砲を破壊したとしても犠牲が大きくなりそうだな」


不安顔の諸将。


「それについては皆さんは心配しなくてもいいですよ」


俺は会話に割り込む。


「皆さんは降下着底した要塞への突撃だけ考えて頂ければいいです」

「降下着底………するのですか?」


ソルベルスキー中将が半信半疑で訊いてきた。


「ええ、するんですよ。明日の朝にね」


『どうしてそんなことがわかるんだ?』という顔で見られた。

他のみんなも同じ表情。


まあ、当然だよね。

普通はそんなことはわからないよね。

でも、今回は違うよ。


「まあ、見てればわかりますよ。但し、これは一時的なものです。どれだけその状態が維持されるかもわかりません。ですから――――」


俺は一同を見渡し、


「皆さんには降下着底したタイミングを見計らって要塞内部へ突入して頂きます。そして、速やかにコントロールルームを制圧し、要塞の再浮上を食い止めて下さい」


テーブルの上の地図に置かれた要塞を表す赤いコマ。


「そうすれば、レーゲンスブルグ要塞攻略は最早だたの都市攻略戦。兵力に勝る我が軍の勝ちです」


そのコマをひっくり返した。


「という訳で、要塞への突入部隊は陸戦部隊で編制して下さい」

「わかりました。要塞が降下着底することを前提とした部隊編成を行うこととします」

「済まないね」


物分かりがいいよね、ソルベルスキー中将。

ほんと助かるよ。


早速、ソルベルスキー中将が陸戦部隊の編制に入る。


「要塞への突入部隊は、わが軍の第1師団と第3師団が担当します。残りは要塞降下後に要塞に立て籠るベルゼビュート軍の殲滅に当たって貰います」

「ちょっといいですかな?」


声の主はライゼル大将だった。


「要塞突入にはわしも同行させて下さらぬか?」

「えっ?」

「わが軍の第2空挺師団と共に」


ライゼル大将の表情からは死に場所を求めているように見えた。


「いいでしょう。同行願います。でも、無理はしないで下さいよ」


いくら毒を盛られて動けなかったとはいえ、ローレルの馬鹿野郎に任せたおかげで自軍の将兵のほとんどを失ったのだ。もちろん、ローレルに嵌められたライゼル大将は軍法会議で裁かれることはない。それでも、彼本人としては強く責任を感じているはずだ。だから死地に赴こうとしている。それが彼にとっての責任の取り方なのだ。

そんなライゼル大将を俺は止められなかった。


本当に無茶はしないでくれよ。


「そういうことなら、俺も第18師団麾下の第52装甲突撃旅団と同行しよう」


マローダー大将も手を上げた。


「ヒルデスハイムはやっかいだからな」


俺は黙って首肯する。

あとはコントロールルームの制圧要員だけ。


「皆さんも予測するように、今回の作戦の要は要塞のコントロールルームの確保です。これができるか否かが作戦の成否を分けることになるでしょう。更にコントロールルーム制圧後、要塞を再浮上させない為には制御卓を操作できるオペレーター要員が欠かせません。これらの人員として魔工技師を数名抽出して同行させて下さい」


そこまで言ってから一呼吸置き、


「但し、魔工技師は非戦闘員なので護衛役が必要です。白亜。護衛役を頼めるかい?」


左横に立つ白亜に尋ねる。


「うむ! 了解じゃ。魔工技師の護衛任務、引き受けさせて頂こう!」


白亜は引き締めた表情で俺に敬礼しながら答えた。


「では、白亜と魔工技師以外の突入部隊はコントロールルームからできるだけ要塞守備兵を引き離して下さい。そして、要塞の再浮上阻止の後ですが、上陸部隊以外の全軍を以て、ベルゼビュート軍を殲滅して下さい」

「Aye,manアイマン!!」


ここに集った全員が最敬礼した。


「いい返事ですね。では、作戦決行日時を伝達します。作戦開始は明後日12月14日0600(マルロクマルマル)。それまでに各員、準備を整えておいて下さい。以上です」


こうして、統合作戦会議は閉会したのだった。





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