105 自作自演
ここは多目的巡航艦くらまの共同代表執務室。
執務机に据えられた小型のモニター越しにクレハは艦長からの報告を受けていた。
艦長から受けた報告はこうだ。
4日前、白昼堂々聖都に現れた斎賀五月が神殿の召喚の間に置かれていたセレスティア像を聖剣で破壊し、司教帝に傷を負わせて行方を眩ませた。
そして司教帝は斎賀五月の追討命令を全世界に向けて布告した。
「どう思いますか? 艦長」
『斎賀五月殿がそのような真似をしたとは考えられません』
「そうですね。わたしも同じ見解です」
『では――――』
「司教帝の自作自演と見て間違いないと思います」
『追討命令も――――』
「イツキさんが邪魔になったのでしょうね」
クレハの見解は的中している。
「これでイツキさんはわたし達の陣営に協力せざるを得なくなりました。ある意味、これは朗報だと言っていいでしょう」
『では我々も?』
「ええ、予定通り準備を進めて下さい」
『Aye,ma'am!』
通信が切れた。
クレハは暗くなったモニターを見つめながら呟く。
「司教帝も強引な手に出て来たものですね。それが己の身を絞首台に送る行為であるとも知らずに」
そして、立ち上がると窓の外を眺めながら思った。
(サウラは手中にある。司教帝、あなたの思惑通りにはいかないのですよ)
◆ ◆ ◆
同じ頃、帝都リヒテンシュタットの冒険者ギルド本部理事長室でレオンも部下から報告を受けていた。
「そうか。司教帝が動いたか」
レオンは驚かなかった。
もし、司教帝があの男と同じなら、いずれ動くと思っていたからだ。
「サイガイツキの《SSS》ランク昇格の件は如何致しましょう?」
「予定に変更は無い」
「しかし、司教帝から追討命令が出ています」
冒険者ギルド本部の誰もが動揺している。
勇者召喚に必要な女神像を破壊して、司教帝に手を掛けたのだ。
だが、レオンは揺るがなかった。
「それがどうした? なぜ、帝国が司教帝に忖度せねばならん?」
「陛下!」
「ここでは理事長と呼べ」
「申し訳ございません、理事長閣下」
「俺は、今回の事、司教帝の自作自演だと思っている。そもそも、他の者はサイガイツキが行為に及ぶのを見たのか?」
「でも、司教帝の傷には聖樹印が――――」
「司教帝なら聖樹印を捏造することぐらい簡単だろうさ。惑わされるな。あの老害はそういうヤツだ」
そして、部下に命令する。
「全冒険者ギルド支部に伝えろ。サイガイツキに手を出すことを禁じる。禁を犯した者からは冒険者資格を剝奪する。これは理事長命令であると同時に、ノイエグレーゼ帝国皇帝の勅命でもあると心得よ」
「はっ! 直ちに通達を出します!」
部下が慌てて理事長室を出て行く。
それを目で追ったレオンが呟く。
「早く俺の元に来い、イツキ。でなければ、世界が大変なことになってしまうぞ」




