103 セリアと郊外へ
シルクと王宮書庫に行った翌日。
俺はセリアと王都の城壁の外に来ていた。
「こんなところに来ちゃったけどいいのか?」
「人がいないなら、それでいいわ」
俺の問いにセリアがホッとしたように零した。
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セリアは女神セレスティアだ。
よって、街中を歩くと目立つ。
とにかく目立つ。
しかもリザニア聖教の信徒が集まって来て、祈りを捧げたり供物を提供しようとするらしい。プライバシーが失われて落ち着かないそうだ。
「でも、女神なんてそういうものだろう?」
朝飯を食いながら、セリアの愚痴にそんな感想を漏らすと、
「あんた、何にもわかってないわね。見せてあげるから、今日付き合いなさい」
そう言ったセリアに街に引っ張って行かれた。
街の人達がセリアを見ていた。
あ、拝んでいる人までいるぞ。
でも、みんな遠巻きにしているだけじゃないか。
「今にわかるわ」
俺の心を読んだセリアが言った。
目の前からリザリア聖教の信徒の一団が現れた。
信徒たちはセリアを囲むと礼拝を始めた。
往来を塞いで行われる礼拝。
大通りが渋滞に見舞われる。
更にセリアの前に供物を捧げ始めた。
袋に入った小麦やお米。野菜に果物。
さすがに腐りやすい肉や魚は無かったが、生きた牛や羊が一頭まるごと捧げられている。
宝石や札束、金銀銅の貨幣も捧げられている。
やがて、セリアの前に捧げものが渦高く積み上がった。
どうすんの、これ?
このままじゃ、往来妨害だろ。
仕方無いな。
俺はセリアに捧げられた供物を[無限収納]に収めていく。
あいつ、この為に俺を連れて来たのか?
その時、
「痛っ!」
セリアの悲鳴が訊こえた。
振り返ると信徒の子供がセリアの髪を抜いて手に捧げ持っていた。
「よかったわねえ。これであなたも御利益に預かれるわ。」
女神の髪を抜いた子供を叱るどころか、むしろ褒める母親。
「「「「あたしも!」」」」
「「「「「僕も!」」」」」
信徒の子供達が次々とセリアの髪を抜こうと、セリアに駆け寄っていく。
「痛っ! 痛い! やめて!」
セリアが子供達から逃げ回るが信徒達に囲まれているから思うように逃げられない。
子供達が容赦なくセリアの髪を抜き、懐に収める。
それを微笑ましく見ている親達。
しかも信徒達の輪から逃れようとするセリアの前に両手を広げて立ち塞がる者までいる。
異常な光景。
なんだこれ?
こんなの女神への虐待じゃないか?
ああっ! もう見ていられない!
俺はセリアの元に駆け寄ると[転移]を発動した。
一刻も早く、この場を逃れるために。
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「さっきは『女神なんてそういうもの』だなんて言って悪かったよ」
セリアが俺の肩に寄り掛かって答える。
「別に怒ってないわ。むしろ、助けてくれてありがとう」
「何でもっと早く教えてくれなかったんだ? こうなることがわかってたら、俺が護衛に就いたのに。今日だって、事前に教えてくれていれば、おまえの周りに結界を張ったぞ」
俺はセリアの頭に軽く拳骨を落とす。
「だって、あなた、忙しそうだったじゃない? サリナやシルクとデートもしてたし。それ以外にもなんか色々やってたみたいだし。そんなあんたに迷惑を掛けたら、わたし、親友を名乗れないわ」
セリアはそう言うとそっぽを向いた。
どうやら親友殿は俺に遠慮していたらしい。
水臭いヤツだなあ。
前世で俺と別れて聖都に残った時に理由を教えてくれなかったこと、まだ根に持ってるんだぜ。それが秘かに俺の援護射撃をする為だったとしても。
今、セリアは困っている。
自分への信仰の厚い相手を叱責することができないんだろう。
だから、囲いの中、ただ逃げ回ることしかしなかったんだ。
そう言えば、こんなこともあったな。
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魔王の【暴虐】を阻止する旅の最終局面。
魔王軍が総崩れになって撤退していった跡は酷いものだった。
形勢不利と悟った魔王軍は焦土作戦に打って出た。
俺達を兵糧攻めにすべく、魔族領内の町や村、畑に至るまで全てを焼き払った。
だが、俺達にはシルクの[マジックバッグ]に食料が満載されている。
食うに困らなかった。
そんな折、ある廃村の外れで数日間ビバークすることにした俺達。
度重なる戦いでMPが底を尽きそうになっていたシルクの回復を待つ為だった。
「回復にはやっぱり美味い飯をたくさん食べるに限る」
そう言った師匠が晩飯を作る。
今夜は野菜と肉の串焼きと様々な具を入れた握り飯。
大量に作られた串焼きと握り飯が大皿にてんこ盛りに出た。
基本的に、シルク以外は全員大飯喰らい。
師匠も俺もセリアも。
「そんなにたくさん出されても食えないよ」
「そう言わずに食え。ゆっくりでいいから」
小食なシルクに師匠が大皿に盛られた握り飯を勧める。
「ハイエルフは省燃費に出来てるんだよ。キミ達のようには食えないよ」
「じゃあ、わたしが貰うわ」
シルクに勧められた握り飯の大皿からセリアがいくつも握り飯を取っていく。
ついでに串焼きも目いっぱい取っていく。
セリアはその身体のどこに収まるか、というくらい食う。
しかもお肉大好き。
この生臭神官め。
ただ、いつもと違い、セリアは取ったそれらを別皿に移すと、
「わたし、今日は一人で食べたい気分だから」
そう言って姿を消した。
「なんだあ? あいつ?」
「まあまあ、師匠。あれでも一応、女の子ですから。大口開けてパクつくのを見られるのが恥ずかしいんですよ」
「そんなこと気にするタマか?」
まあ、俺もそう思うよ。
でも、口には出さない。
結局、セリアは夜遅くまで戻って来なかった。
「食い過ぎで腹でも壊したんだろ。ピ――ってな」
「まあ。師匠、お下劣」
師匠に突っ込みを入れながらもセリアの行動が気になる俺だった。
翌日は朝昼晩ともセリアは自分の分を取ると、やはり、
「今日も一人で食べるから」
と言って姿を消した。
「なんだよ。俺達とは一緒に食えないってか?」
「まあまあ」
師匠を宥めながら、俺はセリアが消えた方を見ていた。
翌々日もセリアは同じ行動を取った。
その次の日も。
さすがに3日以上続けてはおかしい。
それにセリアの顔色が次第に悪くなっていた。
師匠やシルクには内緒で、俺はこっそりセリアの後を付けることにした。
「昼御飯、持ってきたわよ」
その声に物陰からワラワラとセリアの周りに集まってくる魔族の子供達。
彼等に食料を振舞うセリア。
「これだけあれば足りるかしら?」
「「「「「ありがとう。セリアお姉ちゃん」」」」」
貰った食べ物を貪るように食べる魔族の子供達。
それを愛しむような目で眺めているセリア。
「セリアお姉ちゃんは食べないの? まだ、お皿に余ってるよ」
「わたしはもう仲間と昼御飯食べたから。気にしないでお食べなさい」
「でも…………」
「いいのよ。わたしはお腹一杯だから」
セリアは勧めを断って、残りも子供に譲った。
俺は全てを悟ってしまった。
魔族軍は焦土作戦を行うにあたって、足手纏いの子供を置き去りにしていった。
全てを焼き払った後には食べ物など残っていない。
置き去りにされた子供はいずれ飢えて死ぬ。
魔族軍の指揮官はそれを承知の上で同族の子供を見捨てていったのだ。
セリアはどこかのタイミングで置き去りにされた子供達を見つけてしまった。
神職のセリアはそれを放置しておけなかった。
だから。自分の分の食料を子供達に持っていったのだ。
セリアはリザニア聖皇国の神官。
リザニア聖教は人間至上主義。
しかも、セリアは、司教帝、聖女に次ぐ位、枢機卿だ。
出会った頃は教義至上主義に凝り固まった融通の利かない女だったのになあ。
一緒に旅するうちに変われば変わるもんだ。
あの頃のセリアだったら魔族の子供など見捨てていただろうに。
だが、今のセリアは教義に反しても見捨てることはしない。
根は優しい女なのだ。
だからって、これはないだろう。
自己犠牲が過ぎる。
セリア。
おまえ、もう、3日以上、何も食べてないだろ?
俺は気配を消してセリアの背後に近付くと、
ガツッ!
セリアの頭に拳骨を落としてやった。
「ぎゃん!」
セリアが悲鳴を上げる。
「痛った~~~い!!! なにすんのよ!! あっ!」
振り向いて文句を言い掛けたセリアが俺を見て驚いた。
「『痛った~~~い!!! なにすんのよ!!』じゃない! 何やってんだよ、おまえ!」
俺がセリアを怒鳴りつけると、それを見ていた魔族の子供達が怯えて逃げようとした。
「あっ。ちょっと待ってくれ。俺はこのお姉ちゃんの仲間だよ」
必死に取り繕う。
「でも、セリアお姉ちゃんに暴力を――――」
「違うんだ。これは、その、ご褒美。お年玉だ。俺の故郷ではそうなんだ」
「なにがご褒美よ! 立派な暴――――」
「そうですよね? セリアさん?」
子供達に背を向けてセリアと向かい合い確認する。
「ねっ?」
俺に抗議しようと口を開けたセリアが口を開けたままフリーズし、口を閉じた。
それから、萎れたように一言。
「はい」
うん、それでいい。
俺は懐からキャンディを出して子供達に振舞う。
「甘いものもあるからどうぞ」
子供達が俺に群がり、キャンディを貰うとお礼を言って散っていった。
取り敢えず、俺にも気を許して貰えたらしい。
さて、説教の時間だ。
何故黙っていたのかは問わない。
説教内容は、もっと根源的な事だ。
「食料を分け与えるだけでは本当の救いにはならないよ」
「わかってるわよ」
「い~や。わかってないね」
「どこがわかってないって言うのよ!?」
「キミはこのままずっと子供達に食料を分け続けるのかい? いつまで? 俺達がここを発つまで? その後は? あの子達はその後どうなるの? 目に入らなくなったら後はどうでもいいの?」
「じゃあ、どうすればいいのよ!!!?」
セリアが拳を下にして大声で叫んだ。
目の端に涙がたまっていた。
ちょっと責め過ぎたか。
俺はセリアに優しく語り掛ける。
「持続的に食料を得られるようにしてあげないとね」
「持続的に?」
「セリアのスキルならできるはずだよ」
俺はセリアに説明する。
シルクの[マジックバッグ]に入れてある小麦。
師匠はパンを焼く前に小麦を挽く。
師匠は挽きたてを重視するからだ。
つまり、俺達には粉ではなく、挽いてない小麦があるということだ。
なら、挽く前の小麦を蒔けばいずれ小麦が収穫できる。
シルクの[マジックバッグ]には、他にも鮮度が保持された様々な食材がある。
芋は植えて育てればいいし、南瓜も種を蒔けばいい。
「でも、収穫まで時間が掛かるわ」
「それこそ、セリアの神聖魔法で何とかなるでしょ?」
暫し考え込むセリア。
「あっ!」
思い至ったようだ。
俺はシルクのところに行くと、小麦とじゃがいもと南瓜と野菜を貰う。
理由は適当。
貰ったものを持ってセリアのところに戻る。
「セリア、子供達を集めてくれないか?」
子供達が集まったので、セリアに目配せする。
セリアが[プリフィケーション]で村の周りの荒れた土地を浄化し、[テレインチェンジ]で土地を畑に変えていく。更に[ソーイングシード]で南瓜から取り出した種と小麦を蒔き、じゃがいもと野菜を植える。そして[レストレーション]で野菜の切られた根を復元する。
最後に[タイムアクセラレーション]で一気に成長させた。
結果、小麦は金色の穂をつけ、じゃがいもはたくさんの地下茎を増やし、南瓜は蔓に多くの実を付けた。野菜はあるものは食べ頃に実り、あるものは花を咲かせた後に種の収まった鞘を付けた。
これで来年までたべる物には困らないはずだ。
今回収穫できたものから種を取れば来年以降も継続的に食料自給できるようになる。
セリアが子供達に栽培方法を説明した。
後は調理だが、子供たちのうち、最年長の少女二人が手を上げてくれた。
二人は家事を手伝っていたらしい。
乗り掛かった船なので、いらなくなった調理器具と薪を切る斧を子供達に渡す。
比較的破損が少ない家を補修して子供達が住めるようにした。
セリアは土魔法で井戸を掘り、その井戸に[浄化]の神聖魔法を付与した。
うん。これでひと安心だ。
「『持続的に食料を得られるように』ってのはこう言うことなんだよ」
「あ、ありがと。イツキ」
セリアが何かボソッと呟いた。
「ん~~~? 何かな? セリアくん?」
「だから、ありがとう、って…………」
「聞こえないぞ~~~~?」
「あ―――っ! もう! 何でもないわよ! ふんっ!」
そう言ってそっぽを向いたセリアのお腹がグ~ッと鳴いた。
「くっくっくっ。あ~っはっはっはっはっ!」
「笑うな!」
まったく、仕方の無いヤツめ。
「何か作るよ。リクエストはある?」
俺は調理の準備をしながら、セリアに訊いた。
「オムレツが食べたい! 大きいの!」
「しゃあないなあ。但し、シルク達には内緒だぞ」
俺は飯を炊き、炊いた飯にトマトペーストを加え、刻んだ肉と野菜を混ぜて炒める。
卵10個を割ってボウルに入れると塩と胡椒を振り、香草パウダーで下味をつけ、発泡液を少し垂らして掻き混ぜ、フライパンで焼く。
熾火は2つ用意しておいたから、2つ同時進行だ。
飯の形を整えて大皿に盛り付け、その上にふわふわに焼いた卵焼きを乗せたらオムレツの出来上がりだ。
「うわ~~っ! サツキの料理だあ!」
セリアの目が輝いている。
「はい、どうぞ。召し上がれ」
セリアにスプーンを渡しながらそう言うと、セリアが無言で食べ始めた。
3日以上も絶食していたんだ。
相当腹も減っていたんだろう。
「おいおい、ゆっくり食べろよ。いきなり掻き込んだら胃が吃驚して吐いてしまうからな」
そう言いながら俺はセリアの向かいに腰を降ろすと、その食事風景を眺めていた。
しっかし、こいつ本当に美味そうに食うなあ。
セリアは師匠が作ったものより俺が作ったものを好む。
二人きりになった時は、必ず『何か食べたい』と言う。
他に言うことは無いのかよ。
俺はお前専用の調理人じゃないんだぜ。
「何よ?」
俺に見られているのに気付いたセリアが訊いてきた。
「別に~~。隠し事されてた相手に尽くす俺。健気だと思わない?」
「ふん。これはわたしに対する当然の義務よ。あんた、わたしの胃袋を掴んじゃったんだから責任取ってわたしに奉仕するの。わかった?」
「え~~っ? どうせ掴むなら『可愛い奥さん』がよかったよ~」
「あんた、それ、拘るわね。どうせ、そんな女、あんたの前に現れることなんてないんだから、親友で我慢しときなさい」
クスクス笑いながらそう言うセリアは珍しく上機嫌だった。
まあ、今日のところは心優しいセリアで我慢しとくかね。
結局、セリアから『今回の件は師匠とシルクには内緒にしろ』と口止めされた。
善行なんだから、秘密にしなくてもいいのにね。
―――――――――――――――――――――
昔から変わらないよなあ、こいつ。
こいつは自分の事となると人に頼らない。
気丈に振舞おうとする。
俺に何かあると何もかも投げ出して飛んできて、涙ぼろぼろ流すくせに。
可愛げが無さそうでいて実は可愛い俺の親友。
ん?
セリアが顔を赤くしてもじもじしているぞ。
まあ、なんだかんだ言ってもセリアは基本的には心優しいツンデレさんだからなあ。
仕方無いか。
「ツンデレさん?」
また、心読まれた!
セリアが俺を睨んでいる。
「それに『基本的には』ってのも気になるわね。いったいどういう意味かしら? もちろん、『基本』があるなら『応用』もあるのよね? ぜひ、博識なるイツキ先生のご意見を伺いたいわ? さあ! 述べて御覧なさい!」
一気に詰め寄られた。
応用ねえ?
優しさ応用編かぁ?
俺はサリナを思い出し、クレハさんを思い出した。
「ちょっと! サリナはともかく、もう一人は誰!? わたしの知らないヤツ!」
また、心読んだな?
「元居た世界の女性かな」
「そんな女、居なかったわよ!」
おいおい、日本での俺の高校生活まで監視してたのか!?
もはや、ストーカーじゃねえか!
「あ、たぶん、ゲームかアニメの登場人物だよ。架空の女だよ。イマジナリーガールみたいな?」
「ほんとうかなあ?」
俺に向ける目からはまだ疑いが晴れていない。
「『伴侶も羨む親友』を疑うのか? 俺は悲しいよ」
打ちひしがれた芝居をする俺。
何か返しが来るぞ。
そう思って身構えたがセリアは黙って俺を見ているだけ。
いつもなら乗ってくるセリアが今日に限って乗ってこない。
なぜ?
何かを決意したように真顔になったセリアが口を開く。
「じゃあ、親友だって言うなら――――」
セリアが俺に縋りついていて、
「『伴侶も羨む親友』だって言うなら――――」
セリアが真剣に俺を見つめてきた。
「その証をわたしに下さい」
俺から目を逸らさずはっきりとそう言った。
やれやれ。
俺はセリアに渡そうか渡すまいか迷っていたものをポケットから取り出して翳す。
それは指輪が通されたネックレスだった。
「女神が指輪してたら変だろうと思って。だからネックレスにしてみた」
ひとしきりそれを見ていたセリアが呟く。
「着けて欲しいな」
セリアが後ろ髪をかき上げたので、後ろに廻ってネッキレスを着けてやる。
振り向いて左手にネックレスの指輪を載せたセリアが文句を言う。
「薬指じゃないのかあ。残念」
「さっきも言っただろう?『女神が指輪してたら変だ』って」
「わたしは別に構わないわよ」
「俺が構うの」
俺は踵を返して西へ向かう。
「どこ行くの?」
セリアが追って来る。
「人混みは嫌なんだろ? これから、人の来ないところに連れてってやる」
「そこで美味しく頂かれちゃうんだ、わたし」
「ねえ、俺、怒ってもいい? 怒ってもいいよね?」
もう、こいつ、ここに置いて行こう。
釣りは一人でやることにする。
「ねえ、釣りに連れてってくれるんでしょ? 待ちなさいよ」
ま~た、俺の心を読んでいる。
もう、知らん!
セリアが後ろから被さって来た。
そして、俺の耳元で囁いた。
「親友を頂いちゃってもいいんだよ。ほら、セフレってのもあるんだし」
俺は黙ってセリアに背負投げをかましてやった。
落ちた先が悪く、セリアは後頭部を石に打ちつけて昏倒した。
昏倒する時、セリアが、
「きゅう!」
と言った。
気を失う時に『きゅう!』って言うヤツ、初めて見たよ。
結局、セリアが意識を回復するまで俺は傍で寝そべって空を見ていた。
雲一つ無い青空の元、のんびり過ごすのは久しぶりだ。
ちなみに、俺は目を覚ましたセリアに約束させられた。
「今度、絶対に釣りに連れて行きなさいよ! 約束破ったら、針千本飲ます! 絶対飲ます! 逃げたらその十倍飲ます!」
やれやれ、相変わらずだなあ、セリアは。
でもこれで、大切な三人にもアーティファクトを渡せた。
もし、彼女らに何かあっても、いつでも駆け付けることができる。
どんなに離れていても。
特にセリア。
もうキミに前世のような死に方なんかさせない!
それだけは絶対に阻止してみせる!
例え間に合わなかったとしても、その時は俺が必ずキミを冥府から救い出してあげるから!
怒るセリアを見ながら、俺はそう誓うのだった。




