001 インディアンは大噓つき
ロープレの勇者は魔王に殺されてもリセットボタンを押せばやり直せる。
ラノベの勇者は満身創痍になっても最後は魔王を倒して大団円。
いずれも主人公は俺自身じゃないから、俺が酷い傷を負って痛い思いをしたり、無残に殺されてしまうわけじゃない。
すべて架空の世界のお話だ。
だが、俺自身が当事者だったら?
俺自身が痛い目にあったり、殺されてしまうのだ、としたら?
リセットボタンもなく、やり直しも効かないのだ、としたら?
冗談じゃない。
真っ平ごめんだ。
だが、今、俺の前にはそんな未来が人の形をして立っていた。それは、感慨深そうに俺をジッと見ていた。そして、ハッと我に返ったらしく、急に明るく振舞い始めて、意味不明なことを言い出した。
「パンパカパ~ン、おめでとうございま~す。斎賀五月さん。わ・た・し・が、数多の候補者の中からあなたを勇者に選びました。パチパチパチ~~」
なに、この状況? 夢?
それに、名前間違えてるよ。俺は『さつき』じゃない『いつき』だ。
頬を抓ってみた。
イタイ。
これは夢ではないらしい。
ついでに目の前の女の頬も抓ってみた。
「イタイ! イタイ! イタイ! なにするんですか!」
「今の俺の心境を態度で表現してみたんだよ。」
抓られた頬を擦りながら抗議する女に悪気無くシレッと答える。
「女神にむかってなにしてくれやがるんですか!」
夢でないことの確認なんだが、お気に召さなかったようだ。
?
女神?
この女、女神と言ったのか?
「女神? おまえが? 俺はてっきり中二病のイタい女だと思ってたよ。」
「誰がイタい女ですか!? 女神ですよっ!」
「でも、新米。」
俺は思ったことを口にした。
「なっ! 何でっ!?」
自称女神が狼狽える。
図星か。
「わ~か~る~さぁ~~。そもそも感情的で余裕が無さそうだし、神々しさも感じられないしなあ。ま、俺の世界でもそうだったけど、神界も人手不足なんだね。だから、こんな新人に世界を任せちゃえるんだ。」
それを聞いた女神がフルフルと体を震わせながら、
「言いたい放題言ってくれやがるじゃないですか。いいでしょう。本来、召喚した者には只の女神として接するだけで名乗る必要はありませんが、特別に教えて差し上げましょう。」
そして、ぱっと両手を広げて宣言する、後光らしきエフェクト付きで。
「我が名はセレスティア。その優秀さを買われて前任者から世界を受け継ぎし者。新任ですが、これからあなたが向かう世界エーデルフェルトを司ることになった女神です!」
自己紹介した女神をまじまじと見る。
いかにも女神様といった白いひらひらした衣装に身を包んだ、金髪碧眼で白い肌。
しかし・・・。
・・・
いや、どうでもいいか。
「自己紹介ありがと、セレスティア。そうか、新任か~。そりゃ大変だねぇ~。で、俺、もう帰っていい?」
「なに帰ろうとしてるんですか!」
「だって、俺はそのエーデなんとかってところには向かわないよ。勇者も辞退だから、他をあたって欲しい。そろそろ帰っていい?」
俺は女神に背を向けて帰ろうとした。出口は何処だろう?
「だ・か・ら! どうして帰ろうとするんですか! これは、大変栄誉なことなんですよ!世界を救う勇者に選ばれたんですよ! 普通は喜んで請けるというものでしょう! それなのにっ! 拒否って帰ろうとするなんてっ! ありえないっ!」
女神に乱暴に肩を掴まれて振り向かされた。
そんなに至近距離から睨んだって、俺の意志は揺るがないよ。
「見解の相違だね。価値観も人それぞれ。自分の『いいね!』を他の人も『いいね!』するとは思わないことだ。今までのやつらはみんなお人好しのいいヤツだったんだろうが、俺は違うよ。うん、一つ勉強になったね。」
セレスティアは、そっと俺から離れると、黙って下を向き、両手の拳を血が出そうなくらい握り締めていた。
再び、俺に向き直ったセレスティアの顔は負のオーラに満ちた笑顔だった。
「へえ、そうなんだー。そういう事言っちゃうんだー。いいでしょう。そういうことなら、こちらにも考えがあります。選んで下さい。勇者になりますか? それとも、ここで終わりにしますか?」
『終わり』ってなに?
俺の人生、ここで終わっちゃうの?
女神を本気で怒らせてしまったらしい。
どうしようか。
とりあえず、ここは適当に話を合わせて切り抜けるとするか。
「適当に話を合わせて切り抜けようとしてますよね?」
笑顔で確認してくるセレスティア。
俺は首を左右に何度も振る。
ほんと、面倒臭い地雷女。
「『ほんと、面倒臭い地雷女?』」
!
俺の心が読まれてる? まさかね。
怖いが、ここは確認せねばなるない。
や~い、駄女神。ヒステリー。
あ、怒ってる。間違いない。伝わってるよ、これ。
「『や~い、駄女神。ヒステリー。』?」
「誰だ? そんな、本当のこと・・・イヤ、酷いこと、考えるのは?」
「あ・な・た・ですよね?」
笑顔で詰め寄って来る。
「チガウヨ。ソンナコトオモッテナイヨ。」
「本当ですか~?」
疑わしそうに覗き込んできた。目が笑っていない。
「ホントウダヨ。インディアンウソツカナイヨ。」
「インディアンは嘘つかないかもしれませんが、インディアンじゃない五月さんは嘘つくでしょう!」
問い詰めてくる。
ジョークがわからんのか?
「もうね、わたしどうでもよくなっちゃいました。いや、むしろ終わりにしよう。転移事故ってことにすればいいよね。」
女神とは到底思えない犯罪者のセリフだよ、それ。
「今の五月さんの性根は酷く捻じ曲がっているようです。でもあなたの魂以外では勇者になりえない。」
そして、女神は両の手を合わせて、いい事を思い付いたように言った。
「だからね! 一遍死んで清い心で生まれ変わって来たあなたを改めて勇者にすればいいんですよ。うん、それでいこう。」
「勝手に自己完結するなよ。それ、偽装工作だよ。神のすることじゃないよ。」
「だって、他に方法なんてないでしょう?」
笑顔がコワイよ。
「まあ、落ち着いて。お互いの妥協点を見いだすためにも、ここは冷静に話し合おうじゃないか。俺も何が何でもイヤだ、と言ってる訳じゃないんだ。」
「妥協点なんてありませんよ、勇者になる以外に。ここに呼び出された時点で五月さんに選択権はないんですよ。選択権はわ・た・し・にあるんです。」
ひでぇ言い分だよ。
「で、勇者の件、受けてくれるんですか? もう辞退してもくれてもいいんですよ?」
女神の天秤は、俺を消す方に傾いているようだ。
はっきり言って勇者なんかやりたくないが、断ったら問答無用で人生終了。
「だいたい、あなたはですねぇ――――」
セレスティアがなんか説教を始めたようだが馬耳東風。
俺は、これからどうするか考える。もちろん、考えていることが読まれていることも解っての前提だ。選択肢は2つ。
1つ目は、異世界エーデルフェルトで勇者をすること。
勇者として課せられたミッションを無事クリアしなければならない。そしてそれはたぶん魔王討伐だろう。ただ、魔王も魔族も強いだろうから、怪我はするし、手足を失うかもしれない。死んでしまうかもしれない。なら、俺もロープレのセオリーに従ってロープレの世界の主人公のように、可能な限りレベルを上げ、レアアイテムを装備して、共に戦う仲間とパーティを組み、魔王を討伐するしかない。
いわば、ロープレ定番のやり方。
2つ目はここで女神に消されること。
たぶん、分子レベルに分解され、世界から俺の存在の記憶まで消される。これは、選んじゃいけない選択肢だろう。
う~ん・・・
これって、選択肢があるように見えて、自滅願望でも無い限り、実質、選択肢無いよね。だとしたら、生存戦略のためにはこの女神の言いなりになって勇者するしかないのか?
本当に正解はそれだけか?
第3の選択肢は無いのか?
う~ん、困った。困ったんではあるが・・・
いや、諦めるな。思考を凝らせ。諦めは愚か者の結論だ。
「なぁ、セレスティア。そもそも、俺は何で召喚されたんだ?」
「五月さん。あなたは、【暴虐】を発動した魔王からこの世界を救う勇者として召喚されました。」
【暴虐】? 魔王?
疑問は多々あるが、今はそこじゃない。
「『召喚されました』っておかしくないか? 『召喚した』の間違いじゃないのか?」
「『召喚されました』で合っていますよ。」
「召喚したのは、セレスティアだろ?」
「召喚したのは、わたしじゃありませんよ。あなたは、リザニア聖皇国の聖女によって召喚されたのです。リザニア聖皇国の神殿で執り行われた召喚の儀式によって。」
「聖女? 俺を召喚したクソ野郎はその聖女ってヤツか? 余計な事しやがって! 100回くらい問い詰めたいぞ!」
「ラフィちゃんはいい子ですよ。勇者召喚を命じたのは司教帝ですから、彼女を責めないであげて下さい。」
「まあ、いい。で、ここはどこ? リザニア聖皇国の神殿ってわけでもないよな?」
「ここは接続領域です。この場所にあなたを呼んだのは、あなたに勇者の加護を与えるためです。勇者の加護を与え次第、リザニア聖皇国の神殿に転移させます。」
「勇者の加護? 何、それ?」
「女神に認められし勇者へのギフトです。あなたの世界で言うところの『チート』みたいなものです。」
「つまり、聖皇国が召喚した者は勇者で、チート能力が標準装備?」
「魔王の【暴虐】阻止目的で召喚された者だけが勇者です。だから、目的外で召喚された者は勇者の定義に当て嵌まりません。実際、聖皇国は過去にわたしに無断で度々目的外召喚を繰り返してきました。目的外で召喚された者は勇者ではないので、勇者の加護は付与されません。というか、わたしに無断ということは、接続領域を経由せずに直接聖皇国に召喚されるということで、結果として勇者の加護を与える機会も無いですしね。勇者の加護無しに召喚された者はほとんどスキルを持たないので、そのほとんどが死んでしまいましたが。」
「勇者の加護が無ければこの世界では生き抜けないってことか・・・。」
「生きていくだけなら問題ありませんよ。聖皇国の押し付けて来る無理な使命に身を投じさえしなければ。」
「ちなみに、死んだらその後は?」
「エーデルフェルトで死んだ召喚者は、きれいさっぱり消えて無くなります。文字通り消滅ですね。転生も無いです。でも、1000年くらいしたら転生できるかも?」
オイオイ、マジか?
リスクしか無いだろ、これ。
「もちろん、五月さんには数々のギフトを用意しますからご安心を。本来、転移召喚は一方通行ですが、使命を全うして頂ければ、特別ボーナスとして元の世界に戻すことを約束しましょう。」
笑顔で聞いてみる。
「特別ボーナスの先払いは?」
「そして、特別ボーナスの先払いを受けた五月さんはどうするんでしょう?」
ニッコリと聞き返してくるセレスティア。本当に目が笑っていない。
だが、あえてシレッと答えるのが俺だ。
「元の世界から魔王の【暴虐】が阻止されることを心から祈ってやるよ。ついでに次回から俺を呼ばないでくれるとうれしい。」
「それって、五月さんは何もしないってことですよね!? 舐めてるんですか!? 舐めてますよね!」
笑顔の裏に般若がいた。
「冗談だよ、冗談。単なる会話のキャッチボールなんだよ。」
「会話のビーンボールですよね? 受けて立ちましょうか? ファウルボールみたいに場外に勇者の加護無しの一般人として放り出してあげましょうか!?」
真顔で話を変える俺。
「セレスティア。ふざけた話はここまでにしてくれないか。真面目な話をしようじゃないか。」
「何でわたしがふざけた話をしてるみたいな流れになってるんですか!!!」
肩で息しながら怒るセレスティアは放置だ。
実際のところ、元の世界には戻れたらいいな、程度にしか思わないしなぁ。
でも、なぁ。
選べる選択肢が、勇者の責務を全うするか、女神に抹殺されるか、だけ?
確かに責務を全うすれば元の世界に帰れるだろうが、万が一にも失敗して死んだら輪廻の輪からも弾き出されて完全消滅。罰ゲームにしたってこれは酷い。
俺が何をした!
と、突然、閃くものがあった。
待てよ。そうだよ。第3の選択肢あったよ。裏の選択肢ってやつが。
なら、ここは・・・
俺は心にそっと鍵を掛ける。
「わかった、降参だ。渋々だが仕方がないから勇者になってやろうじゃないか。」
「なんだか言い方が上から目線でムカつくんですが、まあいいでしょう。」
「だが、その前に確認させてくれ。世界を【暴虐】を発動した魔王から救うというのは【暴虐】を発動した魔王を倒せばいいってこと? それとも、相手が魔王だったら【暴虐】を発動してなくても問答無用で倒していいってこと? 魔王はどうしても倒さなきゃダメ? 改心させるって選択肢は無いわけ?」
「改心させるって発想はありませんしたね。こちらは、【暴虐】の発動を阻止して頂けるのであれば方法は問いません。まあ、改心させられるとも思っていませんが。」
「わかった。そこは好きにやらせてもらうよ。」
「では、早速説明を始めますね」
俺が勇者になることを受け入れたと判断したセレスティアが説明を始める。
内容は概ね以下のとおりだ。
この世界に間もなく魔王が出現する、もしくはもう出現している。魔王はこの世界の歪みや理不尽や悲劇を吸収して遂には【暴虐】を発動する。【暴虐】を発動した魔王は無敵に成長し、【暴虐】により意思を乗っ取られた魔族を率いて人間社会を蹂躙し尽くす。セレスティアの役割は人間と魔族のいずれにも偏らないこと。だから、魔王の【暴虐】の発動は絶対に防がなくてはならない。
この世界には勇者適合者は見つからなかった。そこでセレスティアが他の世界を司る神々に頼んで、他の世界を巡って自ら適合者を探し廻った。そしてセレスティアのお眼鏡に適ったのが俺、というわけだ。
この世界の中央大陸にリザニア聖皇国という国がある。聖皇国は女神を崇める敬虔な宗教国家だ。今、聖皇国の神殿で聖女ラフィエステが勇者召喚の儀式を行っているところだ。俺はこれから、その神殿に召喚される。召喚された俺はそこで用意されたメンバーを仲間として勇者パーティを結成する。魔王が【暴虐】を発動する前までに、勇者パーティの仲間と西大陸に渡り、そこで聖剣カルドボルグを手に入れる。【暴虐】の発動の有無に関わらず、魔王は聖剣でなければ倒せない。なぜなら、聖剣は魔王どころか神さえも倒すことができる剣。だから、必ず聖剣を手に入れなければならない。
現在、魔族領と人間の治める国々の間で休戦協定が成立している。魔属領の和平派が主戦派を抑えているからだ。だが、魔王が【暴虐】を発動すれば、その影響で和平派も主戦派に転じ、一挙に大戦が勃発するだろう。【暴虐】を発動した魔王覇気に当てられて魔物や魔獣も一層狂暴化し、もう手が付けられなくなる。そうすれば、人間の治める国々は滅び、人間族の滅亡確定だ。
現在、俺以外に勇者はいない。同じ時間軸に勇者はひとり。俺が勇者である間は次の勇者は召喚できない。俺が死んだ時に初めて次の勇者召喚が行えるようになる。
創造神以外は上級神も含めて神として担当する世界に基本的には干渉できない。干渉できるのは勇者召喚時のみ。それ以外は見てるだけ。
セレスティアは説明を終えると、俺に勇者の加護を付与してくれた。
まずは、魔法属性の付与。
俺は全属性(火・水・氷・風・土・光・闇・神聖)の魔法属性とどの属性にも属さない無属性を付与された。ただ、属性だけでは魔法は発動しないし、例え発動できてもその威力はレベルの高低に比例する。魔法の習得とレベル上げは必須だ。最初のレベルは1。レベルは、魔物や魔族、なんと人間の盗賊を倒しても上がる。更に勇者の加護として[成長倍加][魔法合成][絶対防御][超回復][状態異常無効化]のおまけもある。[成長倍加]のおかげでレベルはすぐに上がる。[魔法合成]があるので便利な魔法が作り出せる。[絶対防御]のおかげで魔王と魔剣以外ならノーダメージ。、[超回復]があるのでダメージや疲労や魔力消耗をあまり気にしなくても済みそうだし、[状態異常無効化]は常に俺を正常状態に保ってくれそうだ。
次に、女神からのギフト。
勇者召喚に応じた者に対して、女神は願いを3つまで聞くそうだ。神の理に反せず、願いを叶える神が拒否しない限り、どんな願いでも叶う。そこで、俺はとりあえず2つねだってみた。
1つ目は、俺が望むまで歳を取らないこと
『俺が望むまで歳を取らないこと』は元の世界に戻った時、特に転移召喚前と同じ時間軸に戻った時のことを考えてだ。俺だけが歳を取っていたら、戻った時に周りも含めて混乱する。説明もめんどくさいし、元の世界での時間を損したことにもなる。
2つ目は、転移先の変更
「最初の転移先を聖皇国の神殿ではなく、聖剣のあるところにしてくれ。」
「なぜですか?」
やはり聞いてきたか。そりゃそうだろう。これは、明確な攻略ルート変更、いや、シナリオ変更だ。神の定めた理に反するかもしれない。
「中央大陸から西大陸までの移動時間がもったいない。聖剣は早めに確保しておきたい。」
「わかりました。転移先を聖剣のある〖誓いの丘〗に変更します。聖女には後で神託として伝えておきましょう。」
あっさりと叶ってしまった。
召喚先は聖皇国の神殿ではなく〖誓いの丘〗になった。
「3つ目はどうしますか?」
「そうだなぁ。今は特に思いつかないから、そのうちお願いするよ。」
「わかりました。思いついた時に教えて下さい。わたしとのコンタクトは各国の街にある神殿で可能です。わたしの像の前で名前を呼んで頂ければ、あなたの霊体だけをここに召喚します。あと、これを渡しておきます。」
更に何かくれるらしい。
俺はセレスティアから[無限収納]という名の空間の歪みのようなスキルを付与された。俺が必要と思ったものを即座に異空間から取り出せ、入れたいものを即座に異空間に収納できるスキル。生死問わずなんでも入るそうだ。デフォで入っていたのは、勇者基本キットと当面の資金として金貨1000枚。
勇者基本キット? なんだろう? 後で確認しておこう。
ちなみに『ステータスオープン』と唱えることで[ステータス画面]が明示され、レベル、スキル、使える魔法、[無限収納]の中身の確認等ができるそうだ。しかも音声案内付。
最後にユニークスキルを一つだけ貰った。創造神からの勇者就任お祝いギフトだそうで、異世界召喚完了後にしか知ることができない。セレスティアにも知らされていないそうだ。
う~ん、何だろう?
この後、俺はセレスティアからこの世界についての様々な情報のレクチャを受けた。
全部は憶えきれなかったので適当に流した。
こうして、異世界召喚の準備は全て整ったのだった。
転移陣が輝き始め転移が始まる。
行く先は西大陸の〖誓いの丘〗。
俺の体が光り始め、あと少しで転移先に飛ぶ。
もう、セレスティアでも止められない。
もう、心の鍵を開けてもいいだろう。
最後にセレスティアに声を掛ける。
「なあ、セレスティア。」
「なんでしょう、五月さん?」
「あのさ、実はインディアンは大嘘つきだったんだよ。」
「えっ、急になに?」
意味がわからずに聞いてくるセレスティア。
「でさ。俺はインディアンじゃないから、真っ正直なんだよ・・・・・・自分にね。」
俺の発言に何かを感じ取ったのか、セレスティアが転移を止めようと慌てる。
「どういうことですか!? 五月さん! 待ちなさい! 説明して!」
俺は、置かれた状況にただ流されるだけの人生なんてごめんだ。これまでもそうして生きて来た。それは異世界でも同様。俺は俺の好きなようにやらせてもらう。
セレスティア、俺はおまえが望むようには動かないよ。
俺はこの異世界エーデルフェルトで誰に命じられることなく自由気ままに生きるのだ。
◆ ◆ ◆
正に今、転移が実行され始めた時、斎賀五月に声を掛けられた。
「なあ、セレスティア。」
「なんでしょう、五月さん?」
「あのさ、実はインディアンは大嘘つきだったんだよ。」
急に何を言い出すのか?
「えっ、急になに?」
「でさ。俺はインディアンじゃないから、真っ正直なんだよ・・・・・・自分にね。」
清々しいばかりの笑顔。
なにかマズイ。わたしの心に警鐘が鳴り響く。
「どういうことですか!? 五月さん! 待ちなさい! 説明して!」
その時、わたしの中に斎賀五月の本心が一気に流れ込んできた。
そうか、ずっと心に鍵を掛けていたんだ。女神であるわたしに気取られぬように。
そして、その本心は、本音は・・・。
!
「うむ、ご苦労、ご苦労。これでこっちの世界で自由気ままに生きていくことができるよ。これも全部キミのおかげだよ、セレスティア。でも、本当に俺の本心に気付けなかったなんてねぇ。脅せば素直に従うとでも思ってたのかい? いやあ、キミはもっと人の心の機微について学んだ方がいいよ。うんうん、勉強になったね。」
勝ち誇ったように言い放った斎賀五月が転移陣と共にわたしの前から消えていく。もう、わたしには為す術はない。ただ、はっきりわかることはある。
やはり、あの男はそうなのだ。変わらず、わたしをおちょくるのに長けた憎いヤツ。
わたしは出し抜かれたんだ。騙されて、いいように、利用され、捨て置かれた。この女神になったわたしを。ありえないだろう、こんなこと。許せるはずが無いだろう。
わたしは、負け犬の遠吠えになるとわかっていながらも、叫ばずにはいられなかった。
「このわたしをっ! この女神セレスティアをっ! よくも騙してくれたなっ! 斎賀五月っ! 許さんっ! 絶対に許さんっ! どんな手を使ってもキサマを見つけ出してっ! 正義の鉄槌をくだしてやる——————っ!!!!」
わたしの叫びも空しく、不敵な笑みを浮かべた斎賀五月は転移陣とともに消えていった。