サレ妻のお弁当
「『おいしさの素』って陰謀論系の人が食べると死ぬって言っていたけど、デマよね?」
妻がそう言う。元社長令嬢でおっとりとした妻だったが、まさか陰謀論に騙されているとは。
「そんな事ないって。デマだって」
「そうね。あなた、今日のお弁当よ。卵焼きとエビフライ、それとタコさんウインナー。えへ、『おいしさの素』もいっぱい使ったから」
「そうかい。ありがとう」
俺は笑顔で弁当を受け取り、会社に行く。社長の娘と結婚して地位も収入も倍以上になった。他の女と不倫している事など、決して言えやしない。もちろん、離婚もしない。今が一番俺にとってお得だったから。
呑気、おっとり、世間知らずの妻は何も知らないようだ。今日も無邪気に笑って弁当を渡す。
「あなた、今日のお弁当はワラジカツよ。たんと召し上がれ」
「おお」
弁当のワラジカツは胃もたれしたが、ちゃんと完食して返した。会社でも周りの目がある。「愛妻弁当食べる家庭的で優しい部長」もアピールしておかないと。捨てる事は無理だった。
「しかし最近、ハムカツ、かき揚げ、唐揚げ、揚げ餃子、春巻き、アジフライ、牛丼とか妙にハイカロリーだな? 弁当のサイズもLLだが。まあ、いいか」
こうして不倫しつつも、毎日妻の弁当を完食していたら、糖尿病が発覚。他、胃、食道などにも異常が見つかり、しばらく入院する事になった。当然、不倫相手にも会えない。
「良かったぁ。あなたが病気になってくれて。ハイカロリーなお弁当作った甲斐があったわ。これでもう泥棒猫の所へ行けないでしょう?」
看病しながら妻はポロポロと涙をこぼす。俺はこれ以上、何も言えなかった。