第1話。いつか眠りが溶けたら。
輪廻転生ものです。1人の少年が1人の少女のために戦う。
その少女は眠っていた。光に暖かく満たされた不思議な空間。そこに時折蛍のような淡い光が輝く。まるで光の中に眠っている少女を守るように。何故、少女が眠っているのか、何故そこにいるのか今は知る者はいない。ただ、1人少女に眠りの魔法をかけた者以外は。その者も眠っている。今は、眠っている。
「詠は?」
「温室だよ。」
ブレザー姿の少年が3人、朝まだ早い教室に集まっていた。
「相変わらず見つからないな。」
「仕方ないんじゃない?」
机に座った少年が言う。
「俺らは彼1人残して、彼に後のことみんな任せて、先に絶命しちゃったもん。彼1人では大変だったと思うよ。」
「じゃあ、この時代では会えないと?」
「彼がそれを望まなかったらそうかもね。その前に力尽きたとか。」
少年は足をぶらぶらさせながら言う。けれど、台詞ほど表情は柔らかくない。口にすることで否定したいという感じ。
「そうなったら姫は…」
「姫の居場所知ってんの、彼だからね。難しいかも。
「でも…」
今まで黙っていた少年が口を開く。
「俺たちがまたこうして出会えたように、彼にもだって出会えるはずだ。何故ならもう俺らしか居ないんだから。」
「こうして出会えたことがその証明?考えたくないね。」
最後の台詞には皮肉めいた響きが感じられた。思いたくない。あそこがもう喪われた場所になっているなんて。
「それらは俺たちも思っている。けれど…」
判っていても認めたくないものがあるのだ。ましてやそれが大切なことなら尚更だ。
「まあ、ここで言いあっていても仕方ないんじゃない?僕たちは待つことしか出来ない。戦うしか出来ないだからね。」
「直也の言う通りだな。」
ため息をつく少年に笑ってみせる。
「勇生も苦労性だね。」
「お前が気楽なんだ。」
「言ってくれるじゃん。」
直也と呼ばれた少年は勇生と呼ばれた少年にまた笑ってみせる。
「とりあえず結論が出たところで僕はクラスに戻るよ。今日は転校生が来るんだって。」
「女?」
「残念。男らしいよ、敬。」
「じゃあ、またな。」
「うん。また。」
直也は机からポンと降りると教室を出て行った。その後ろ姿に勇生はまたため息をつきかけて、敬がそれを笑う。
「なんだよ?」
「いや、変わらないものもあるんだって思って。」
「くせでね。」
勇生は敬に笑ってみせる。消えないそれは今も心に残っている。
「じゃあ、俺も教室に帰るよ。詠が戻っているかも知れないし。」
「オーライ、またな。」
「はいはい。」
敬も勇生のクラスを出て行った。そして、勇生はまたため息をつきかけて、いい加減やめなくてはと思う。
「後1人か…」
転校なんてしょっちゅうだ。いい加減慣れたと言って良い。どこに行っても同じだから。だが、何でこの学校は坂がきついんだ?
美輪は走りながら思った。すでに腕時計は門の閉まる時間を差している。転校1日目から遅刻は避けたい。美輪の走っている横には延々と柵が続いている。いい加減面倒くさくなるほど。他に人もいない。のを確かめて美輪は地を蹴った。常人を超えた跳躍力で、フェンスを飛び超す。長いしっぽのように伸ばした三つ編みの黒髪が後ろに続いた。見事に着地して辺りを見回す。すると。
「わーー、遅刻、遅刻。」
叫びながら走っている少年がいた。
「ちょっとそこの人ー!」
美輪は慌てて唯一見つけた道案内人に声をかける。優しい顔立ちをしたその男子生徒は慌てて立ちどまって、振り返る。
「なに?」
「職員室ってどこ?」
「もしかして、君二年D組に入る転校生?」
「そうだけど、何で知っているんだ?」
「友人がクラスにいるの。」
そう言った少年の視線が美輪の胸元で止まった。何かびっくりしている顔になる。少年の視線を追った美輪は自分の胸元から出ているそれを慌てて隠した。ペンダントだった。八角にカットされた10センチくらいの綺麗、水晶のペンダント。色は鮮やかな緋色。美輪の御守り。
「遅刻ついでに職員室に案内してあげるよ。君は?」
「神崎美輪って言う。」
「そう。おいでよ。」
「ありがとう。」
走り出した少年を美輪は追いかける。建物の一つに着いた。
「ほら、ここの一階に職員室はあるから。」
「ありがとう。」
「どういたしまして。じゃあ、ね。」
「あ!」
名前を聞くまでに少年は走って行ってしまった。その後ろ姿に、美輪はまあ良いかと思う。名前を聞いたってどうしょうもない。どうせここでも一緒だ。美輪は諦めて職員室に向かう。
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