第009話 ヤルマーニの街1 冒険者ギルドの対応
正直、3日前の夜の敵意はずっと続いたまま
一番近いヤルマーニの街とやらにサラマンさん達と共に到着した。
メルキッド大陸 ホシュルイド王国 リグルガスト辺境伯領 ヤルマーニの街
等と長ったらしい名前らしいのだけど
そもそも大陸名から言う必要性があるのか小一時間処か
半日くらいは問い質したいと思ったけど
略して「ヤルマーニの街へようこそ!」で良いと思うのだけど
ここまで徹底して門番である衛兵さん達がご丁寧に伝えてくれる辺り
半日どころか3日くらいは問い質したくなった。
サラマンさん達は1日ここで補給を受けた後
また巡回を続け、王都まで戻ると他の中隊と入れ替わり
暫く王都に滞在した後、次の任務に当たるのだそうで
中々に忙しい毎日を送っているようだけど
これって単身赴任だよね?
まぁ途中の夜営で火の番をしているサラマンさんが
王都に戻れるのは大体年に1度だそうで、そこで1か月の
まとまった休みがあり、戻った際に息子さんか娘さんが
産まれている、というのが大体の騎士だそうで
父親だと認識されずに時には知らない人が家にやってきたと
怯える子供が居る事もあるのだと泣きながら語っていたのだけど
見ている感じあまりに細かい部分のリアリティがありすぎて
多分サラマンさん本人の事だろうなぁと邪推。
それでも騎士と言うのは衛兵の人達と違い
上級学校と呼ばれる王侯貴族豪商等が通う学校を出て
軍へと入れば自動的に騎士から始まるそうだけど
平民の場合は衛兵から始め、騎士になる為の試験を受け
やっとなれるものでお給金の額もかなり違う反面
衛兵の場合は1つの街にずっと務める事が多い為に
家族もそのまま同じ街に住む事が多いとか。
お給金の多さを選択し、年に1度家族と会える生活か
常日頃から会えるけどお給金は騎士よりは下がる生活か、だけでなく
危険度も相当変わってくるとかで
必ずしも騎士になりたい、という人ばかりでは無いのは
家族との時間を優先するのか、仕事人間となるかといった
日本でもそう珍しくないような問題にも思えてきた。
そんな私が街に寄る理由は基本食料とかは全てが
【SEKAKYOU】に頼っている為に市場などを見て回るとしても
精々カードが売られている事があるらしいので
それを探したり、【カード・ハンドラー】が居るのならば
それが悪い事に使われていないかの確認。
もう1つは冒険者ギルドもしくは商業ギルドへの登録。
それぞれ冒険者、商人となる事が出来るのだけど
どちらも税に関して、主に国境越えの際や街の出入りに関して
税の優遇を受ける事が出来る。
さらには基本冒険者ギルドは魔物等を売る事も出来る。
基本、というのは冒険者ギルドの方が魔物の素材などに関しては
目端が利く人達が多く、より高く売れる事が多く
商業ギルドでも買取はしてくれるものの、こちらは商人の集まり。
買い叩き等の可能性も高い上に魔物の目利きに関してだけで言えば
どうしても数多く持ち込まれる冒険者ギルドには敵わないそうで
その分、安く査定される事も多いとはスマホ情報。
スーパーでスマホを見ながら買い物する奥様位には活用している。
ただカードにしてしまえばその価値もカードテキストに出るので
買い叩き自体は思った程困らないという状況もあるので
どちらでも良い、というのはある。
ただ冒険者ギルドの場合は私にとっての難関が1つと
面倒事の可能性が1つあった。
冒険者は2つのタイプが存在し、1つがランク1から始まる
依頼を受け、それを達成し報酬を得る事を主体とするタイプ。
そしてノーランクと呼ばれるランク自体が存在しない事で
まず登録する為の実技試験が存在しない変わりに依頼も受けられない。
狩猟冒険者、とも呼ばれ本来は農村等で生活の為に狩猟している人達が
なるものであって、主に魔物等を売るだけのタイプ。
私が狙うのは後者のノーランク。
依頼を受けたくないのではなく、実技試験が難関だから。
私の戦いはカードが必須だから手加減をするのが非常に難しい。
実技試験は模擬戦と決まっている為、最悪相手を殺してしまう
可能性が存在する事と、さらには☆を下げて模擬戦をした時に
能力不足、とされて合格しない可能性すらある。
そう考えると日本でなら簡単とも思える筆記試験だけで登録出来る
商業ギルドの方がなるだけなら良くも
その分魔物を売るのに難儀する懸念があるのです。
「ま、最初は冒険者ギルドで狩猟冒険者になる所からかね……。」
商業ギルドよりは目端が利く上、冒険者ギルドの場合は
買取の価格交渉そのものが存在しない為、魔物を売るには最適なので
冒険者ギルドへと歩を進めるも、こちらはこちらで1つ
別の問題点が存在していた。
それはノーランクを冒険者として認めないという風潮。
殆どがただの農民を兼ねた狩猟者である事から
持ち込む魔物は非常にランクの低いものばかりになる。
しかもそれらの素材を可食可能な肉を除き
素材だけにした状態で時間を掛けて街まで運んでくる為
まとめて持ってくる人が非常に多いのだとか。
それは村から街へ移動するだけでも魔物に襲われれば
死を覚悟しなければならないのだから仕方がない事なのだけど
冒険者ギルドの職員からすれば、さして価格もそう高嶺が付かない
素材を大量に持ち込んでくる為、手間と時間ばかりが掛かる割に
冒険者ギルドとしての利益が少ない、といった所から
忌避されがちな存在なのだとか。
また他の冒険者からしても実技試験も無くなれる事から
冒険者とは認めない、と下に見られて嫌がらせを受けるケースも
多々あるのが問題と認識されているそうです。
「数だけ多い、は私も思い当たる節があるだけに……。」
タイガーアントは無駄に素材の数だけは大量にある。
☆2のアタッカーと評されている割には
その甲殻はカードテキスト上ではそこそこ良いお値段がついていて
どうやら中上級者向けの防具に使われる事が多く
需要が見込める際たる素材らしいのと
無駄に手間や時間ばかりが掛かる割にお金にはならない、といった
懸念材料が無い事もあってか冒険者ギルドの方が
買取価格は高くなる、とあっては優先すべきは冒険者ギルド。
思う所があり、まずは商業ギルドに寄り、そして冒険者ギルドへ。
4階建ての建物は全てのギルドが統一基準で作っているのだそうで
見た目は完全にお役所。
中に入ると広く、片側に受付がズラッと並んでいて
中央には書記台やベンチ等があり、もう片側は小さな雑貨店と酒場が
併設されては居るものの、やっぱり見た目が完全にお役所のロビー。
順番を待ち、私は冒険者としての登録をしようとした所からして
既に悪い風潮が始まったのです。
登録がノーランク、狩猟冒険者だと解った途端に舌打ち。
キチンと書類の必要事項部分だけを書いたものの
その処理が超遅い……。
後からやってきた他の人達を優先させ
誰も居なくなってからノロノロと処理をする程には
どうやら嫌われている事が目に見えて解る位に酷い。
そしてノーランクとしての登録証を貰うまでに掛かった時間が
なんと2時間……。
時間の浪費にしか思えないも、ここからがさらに酷かったのです。
今度は買取の為に受付に並び直すと私の順番をすっ飛ばして
後から来た人達が次々と呼ばれていく。
手元にある木札には302番と書かれているのに
今、呼ばれているのは既に340番台……。
呼ばれるのにも木札の番号で呼ばれる為、並んで待つ等ではない
お役所や郵便局、銀行仕様である為
意図的に飛ばしたとしか思えない対応。
それでもここで揉め事を起こすというのも違うと
私が頑張って我慢に我慢を続けた結果……時間は完全に夜になった。
外は暗く、酒場では冒険者と思しき人達が楽しくお酒を飲み騒ぐ中
私は未だ呼ばれる気配すら無い。
それも受付は1つだけになっているのは冒険者ギルド自体は
24時間開いていて、有事にすぐに対応出来るようにする為らしいのだけど
その受付の1つに冒険者がずっとお酒を片手に話し込み
職員も冒険者と喋っているだけで全く呼ばれない……。
まぁいくら我慢しているとは言え限界間近な中
冒険者が立ち去り、完全に受付が開いた状態となった所に
別の冒険者が割り込んでの立ち話……。
流石に6時間を超える我慢は私の堪忍袋の緒を切る結果となった。
「ずっと待ってるんだけど!?どこに碌な用事も無い酔っ払いと
話し込む暇があって、木札を持って待っている私を
待たせる理由があるのか説明してもらおうか!」
その直後、目の前の冒険者に木札をサッと取り上げられ
職員はその木札を回収し、何事もなかったかのようにまた話し始めた。
「ちょっと待てぇ!」
「あ?ピーピー五月蠅ぇな……ここは子供が来る場所じゃねぇんだ。
さっさとママの所に帰んな。」
「どこに子供がいるってのさ!冒険者だよ!」
「ノーランクが冒険者?冗談はよしてくれ。」
今度は見せていた軍の認識票のような冒険者ギルドの登録証を
奪われ、そして受付の職員に持っていかれたのです。
「冒険者ギルドは冒険者が来る場所だ。
実技1つ無く名乗れる冒険者なんて職業はこの世にゃ存在しねぇんだ。
解ったら二度と来るな。」
そのまま私は襟首を掴まれ、表へとポンと放り出されたのでした……。
「おのれ、冒険者に冒険者ギルドめ……。
あとで泣いて謝ってきても知らないからな……。」
そうして私は今度は商業ギルドへと向かったのでした。