第017話 ヤルマーニの街7 押収品の処分?いいえ、ボッシュートです。
「こいつは酷いもんだな……。」
セリカがヤルマーニの街を発ってから数日。
ホシュルイド王国が本腰を入れるべきと判断した
事件の解決に向けるべく、騎士達が派遣されてきたが
既に手遅れと思える状況にまで陥っていた。
被害者は2名。
冒険者ギルドのサブギルドマスターであるラルド・ド・コロンナータ。
そして商業ギルドのギルドマスターであるベルツと
どちらも公器たる独立機関の役職者2名の死亡。
それに対し、冒険者ギルドと商業ギルドはホシュルイド王国に対し
事件の解決を要請した事で捜査が開始された。
それを主導するのはホシュルイド王国陸軍第二騎士大隊。
大隊長ゲイツを始めとした四中隊十六小隊、計85名だ。
彼等の調べでまず先日発生したヤルマーニの街における
無差別殺傷事件、それは【ベースボール・ピッチャー】の
【アップル・グレネード】による駅馬車の停留所付近及び
冒険者ギルドの屋上が攻撃された件から始まった。
これについては商業ギルドのギルドマスターであるベルツの
筆跡の手紙が本人の執務室の机の引き出しにあった事で
事の発端がここにあった事が判明した。
そしてその犯人はベルツの持っていたカードを盗み出し
ベルツを殺害の後、冒険者ギルドのラルドの執務室を
その力を使い爆破、それに伴いラルドが殺した犯人と同じ
元冒険者のイザルヴだと判明していた。
イザルヴは本件において冒険者ギルドにおける
ノーランク冒険者の扱いに関する商業ギルド間との
素材の買い取りについて揉めていたとされる
ベルツとラルドのやり取りの煽りを受け
1名の役職を持つ職員の解雇と共に、冒険者資格を剥奪。
それを恨んでの犯行、と最初は考えていた。
しかしゲイツ大隊長はいくつか疑問を持っていた。
まず商業ギルドのベルツは元冒険者であり
それなりに武の心得を持っていた事や
ラルドに関してはサブギルドマスターという役職で
冒険者ギルドの役職者は皆元冒険者であるだけでなく
それなりのランクである事すら求められていた。
それは中には粗暴な冒険者等も居る中
それを諫めるだけの力を持っていなければ
マスターと名の付く役職を担う事が出来ないと考えた
冒険者ギルドの方針からであった。
「そんな2人がいくら相手が現役とはいえ遅れを取るものか?」
ゲイツは4人の中隊長を集め、本件の軍議を行っていた。
第二中隊長トール、第三中隊長アイリス、第四中隊長フルート。
そしてセリカを知る第一中隊長のサラマンがこの場に居た。
「難しい、といいたい所ですがベルツの腕が切り落とされている辺り
恐らくカードを力尽くで奪い、そのカードを使い
ラルドを殺せばありえない話では無いかと。」
「それでもベルツは元ランク6だったと聞いています。
それに比べてイザルヴはランク5、いくらブランクがあるとはいえ
ランク5と6では途中に昇格試験が存在する位には差があると考えると
私は考え難いと思いますね。」
「それに商業ギルドの表から入った訳ではなく、窓からの侵入。
イザルヴの体形を冒険者ギルドで聞いた限りでは
決して身軽な体躯ではなかったと確認しています。」
「ならどうやって入り込んだのか、だが……。」
彼等がイザルヴに辿り着いた理由はベルツが殺された理由とは
別の部分にあった。
ベルツは自ら事件の犯人としての自首ではなく
自殺を選び、その為の遺書を残していた。
そこにカードの事までしっかりと書かれていたのだが
そのカードがベルツの下に無かった事。
そしてかの事件同様の爆発が冒険者ギルドの3階で発生。
その際、ラルドの執務室を訪ねていたのがイザルヴであった事と
イザルヴの姿が見当たらない事を受け、暫定的に犯人としていた。
そしてその後の調査で商業ギルドの裏庭の1階部分で
イザルヴの魔力の残渣が見つかった事でかなり濃厚であると
現状考え、犯人として扱っていた。
「【カード・ハンドラー】だったか……我等がホシュルイド王国には
他国程カードの出回りは確認されていないが。
サラマン、この街で強盗致傷事件が発生した際に凶器として
使われた2枚があったな?」
「ええ、現在は下級裁判所が預かりとされていて
全ての処理が終了次第、王都に輸送される事となってますが……。
確か【オークエリート】と……。」
「何かムナムナだかムニムニとかそんな名前のカード?」
「ムルムルでしょ。」
「そんな名前だったな。」
「事件そのものは私怨絡みだろうが……。
イザルヴが見つかっていない以上、それを追わなければ
冒険者ギルドも商業ギルドも納得はしないだろう。
それが例えそれぞれの問題であり、国が関与するような
ものではないにしてもな……。」
「殺人が行われた、というだけで十分な理由だと思いますが。」
「それだけじゃない、カードを使って犯罪を行っているだけでなく
そのカード自体が厄介な存在だ。
離れた位置から人の命を奪えるというだけで十分な脅威だ。
それも元冒険者、今なら指名手配犯になる訳だからな。」
「賊に身を落とす方が……。」
その時、軍議を行っている5人の所に小隊長の1人が駆け込んできた。
それはイザルヴが見つかった、というものだった。
但し見つかったイザルヴは既に死亡しており
それもベルツと概ね同じ死に方、腕を切り落とされ
さらに身体中に多くの切り傷が見つかり失血死であると
判断されたという報告だった。
「魔力の残渣は無かったか?」
「はい、一切の魔力痕跡がありませんでした。
イザルヴが逃走してからそう日の経過も無く
特に魔の森のような魔素の濃い場所でも無い為
消えるには少々早すぎますので……。」
「なら考えられるのは2つか。」
「そのカードとやらの力で殺されたか……。」
「魔力を持たないか、だろう?
ここ1年で世界中に現われた異なる世界からやってきた
迷い人達は全員魔力を持たない連中で
かつカードの使い手ばかりだと聞く。」
「そこだ、このヤルマーニの街には1人魔力を持たない者が
ここ最近居たという情報が商業ギルドからあった。
えっと確か名前は……。」
「ゲイツ大隊長、恐らくですがセリカでしょうか。」
「……そうだな、サラマン。何故知ってる。」
「先日の賊に襲撃された際、俺等第一中隊を助けたのが
そのセリカという少女です。」
「少女?……なら別人では無いか?」
「え?」
「商業ギルドでは商人の登録を行っているが、その年齢は47歳となっている。」
「え?47歳??」
「身の丈140程とかなり若く見えるらしいが
本人にも再確認した所47で間違いないそうだ。」
「いえ、ゲイツ大隊長。身長は合ってますので……恐らく本人かと。」
サラマンも見た目と実年齢のギャップに驚くも
当の本人はまさかここで年齢について語られている等とは
思ってもいなかったであろう……。
「まぁ、どちらでも良い。商業ギルドが出した登録証には
魔力が登録されていない者の為の特別な登録証を出したとされている。
つまり門や国境越えを行っても魔力の確認が出来ない為
どこをどう動こうと我々でも追う事が出来ない訳だ。。」
「どういう事でしょうか?」
「今回の事件で言えばそのセリカとか言う女が関わっているらしい。
それも商業ギルド側として、揉め事の発端となったのも
この女と考えればイザルヴが私怨でベルツとラルドを
殺したのであれば、次に殺そうと考えるのが妥当ではないのか?」
「つまり……返り討ちにあったって事ですか?」
「それでいて魔力の残渣が無い。
イザルヴを殺したのがセリカという女である可能性は高いだろう?
何しろ今はどこの街にも立ち寄ったという話も来ていない。」
「それならば自衛が認められるのでは?」
「だがそれが過剰防衛だったのかは解らないではないか。
自衛は認められていても過剰防衛までを法は認めていない。」
「カードで襲われ、カードで自衛したのであれば
そういう事もありえるのでは……。」
「それが解らないからこそ……このセリカとやら。
我等がホシュルイド王国として世界指名手配に加え
探そうと思うのだがどうだ?」
「なるほど、それなら私達が探さずとも良くなりますね。」
「世界的な指名手配であれば商業ギルドに立ち寄った時点で
その場で身柄が確保出来ますね。」
「ゲイツ大隊長、待ってください。
世界指名手配は人を探す為に指定するものではありませんぜ!」
「何、疑いが解ければ問題は無いだろう?
それに世界指名手配は容疑者であれば良いのだ。
必ずしも犯罪を行ったと決定付けるものがなければ
指定してはならないといった法も無いのだ。」
「それは確かですが……。」
「何より王命だ。」
「王命?」
「そうだ、これで【カード・ハンドラー】を確保すれば
その罪状がどうであれ、カードは危険な武器となる訳だ。」
「……………ゲイツ大隊長!まさか……。」
「そうだ、そのセリカとやらが無実かどうかなど我等には関係ない。
確保してしまえばその身柄ごと我等がホシュルイド王国に来る事となる。
そして犯罪者の武器は全てが危険物だ。
合法的にカードを処分する事が出来る訳だ。」
「そんな馬鹿な事が許される訳無いだろうが!
個人の持ち物を危険物だからと処分出来る法を利用し
国の持ち物にしようなど許されるものではない!」
「サラマン、お前はホシュルイド王国に忠誠を誓った騎士だろ。
これが王命だと言っている意味が解らぬ程
馬鹿だったとは俺も考えたくは無いんだがな……。」
「魔力の残渣が無い?そんなもの別のカードを使うなど
いくらでも誤魔化せるじゃないか!」
「だからといってセリカという女が無実だと決まってはいないのだ。
そして我等騎士も暇では無いのだ。
いくら冒険者ギルドと商業ギルドの捜査依頼とはいえ
益の無い事や損をせぬ為以外に軍を動かす訳にはいかんのだよ。
我等が動くとなればそれは民の税を使う事となるのだからな。
それにこれは処分等では無い、没収だ。
国庫に帰属させるのだから法的な事も含めなんら問題は無い。」
「だからといってそのような方法でカードを手に入れる等
それこそ騎士のする事では無い!」
「なるほど、サラマン。お前は反対という事で良いのだな?」
「当然だ!俺も騎士としての矜持はある!
騎士がそのような事をするなどあってはならない!」
「だがこれは王命だ、そして騎士は民を護るものであって
迷い人を護るものではない。そうだな?トール。」
「え?ぐっ!?………。」
サラマンは中隊長トールの手によって意識を手放した……。
「さて、サラマン。お前は王命に逆らった反逆者だ。
トール、そ奴を牢にでも入れておけ。それとアイリス。」
「はい。」
「カヴァーンを呼べ、サラマンの部下で第一小隊長だが
臨時の第一中隊長とする。」
「はっ!」
「フルート、お前は第四中隊を連れて先行して女を探せ。
とりあえず生きていれば構わんが、抵抗するようなら
執行妨害で殺しても構わん。
セリカとやらを現時点を持ってイザルヴを殺した容疑者とし
ホシュルイド王国は世界指名手配犯とする!これは王命である!
決してカードを他国に取られるでないぞ!」
「「「はっ!」」」
この世界にはその対価さえ気にしなければ魔力を使った通信により
地球程ではないにせよ、素早く情報を伝達する技術そのものがあった。
だからこそセリカの存在は世界指名手配犯として
世界中の国々に数日で伝わる事となり
の善し悪しに係わらず様々な意味で注目を集める事となった。
誰が、どのようにこの選択をしたかは現時点で語られる事は無いものの
この決断そのものを悔やむまで、そう時間が掛かる事はなかった。




