第013話 ヤルマーニの街5 サブギルマスvsギルマス
街中で実体を伴わないにせよ周囲に迷惑をかけ
混乱を招いたとして、私の勾留が決まった中
ベルツさんが素早く動いてくれた事ですぐに私は解放された。
当時衛兵の方にカーボだけではなく、私もあたかも共犯者であるかのような
証言をした冒険者が居るらしく、それが原因ではあったのだけど
ベルツさんが冒険者ではない、露店商が襲われる所から
しっかりと見ていた証人を複数人立ててくれた事と
ベルツさんが身元引受人となった事で一時的に解放されただけであり
ベルツさん預かりとなっている身である以上
商業ギルドの庭で暮らす日々が続いていた。
カーボの身柄は既にヤルマーニの街が属する
ホシュルイド王国リグルガスト辺境伯領の領都とやらにある
下級裁判所、日本で言えば地方裁判所のような所に身柄が送られていて
裁判待ちの状態となっている。
また私に関しては証言したうちの冒険者に関しては
既にヤルマーニの街に居らず、ベルツさんが探してきた証人は
ヤルマーニの街の人達であった事もあってか
衛兵の判断によって嫌疑不十分として自由の身となった。
結果としてはあのカードの露店商はハモンさんという方で
あの後、出血過多による失血死で亡くなった。
この世界の魔法薬には傷を即時塞ぐものであったり
血を増やす魔法薬も存在していても
それを飲ませたとしてもその効果に耐え得るだけの体力が
既に失われていた事もあって、救う事は出来なかったのだそうだ。
つまりカーボは強盗殺人の罪に問われる事となり
判決は犯罪奴隷として無期懲役、このまま命の危険を伴う
鉱山での強制労働による服役という判決が下った。
それによっていくつかの問題がいくつか浮上したのです。
その中で最大の問題はやはりカード。
私がデュエルで得た中でも【オークエリート】そして
【Or54 音楽の魔人ムルムル】の2枚は
あくまでカーボがハモンさんを殺した凶器として扱われ
証拠品として押収された事。
そしてカーボが犯罪奴隷になった事でその所有権が
ホシュルイド王国へと移ってしまった事だ。
【Or54 音楽の魔人ムルムル】。
正直国が所有権を得たのは法律による問題。
凶器、かつ危険物と物品として扱われた事で
ホシュルイド王国にはそれを処分する権利を得てしまった。
但しその処分方法は定められていない。
所有権が移った、としているのは処分をいつ行うかも決められておらず
処分したか否かを示す必要性すら無い事からだった。
つまり【Or54 音楽の魔人ムルムル】は
ホシュルイド王国がどう扱おうと最早解らない上に
合法的に入手したと言っても過言ではない事。
ならデュエル(決闘)によって手に入れた私は?と言われると
あれは【カード・ハンドラー】同士のシステム上のものであり
法的根拠とならない為、私の所有権を主張出来ないという
欠点付である以上、【Or54 音楽の魔人ムルムル】と
【オークエリート】を「私のもの!」とは言えない事になるのが
今回の問題点という事。
それこそ何に使われようと、解ったものではなく
願わくば為政者がまともな神経をしている事を願う以外
出来る事は最初は無いと考えていた。
だけど1つだけあった。
ハモンさんを助ける事は出来なかったものの、ハモンさんは
遠くにご家族が居て、旅商の途中で亡くなってしまったものの
ハモンさんの遺品となるカード、そしてご遺体があった。
本来であればこの世界においては即火葬が原則で
これは魔法の世界特有の理由があった。
魔法の動力たる魔力は生物の体内に魔素を取り入れた後に
魔力器官によって作られる為、この世界の人間では無い私は
魔力を持っていなければ、魔法を使う事が出来ない。
その魔力器官が亡くなり、働く事が無くなっても身体は
常に魔素を吸い込んでしまうのだとか。
吸い込んだ魔素は魔力に変わる事が無く、どんどんと溜まる。
この溜まった魔素はどんどんと濃さを増していくのだけど
これが大気中で起きれば魔物が誕生する場所となり
地下で起きれば地下迷宮、ダンジョンと呼ばれるものが生まれるのだそうだ。
なら人の身体に溜まれば?
それがアンデッド化、というもので本来であれば身体そのものから
生成する所を遺体を使い、その手間を省いてしまう事で
遺体そのものを魔物に変えてしまう、これがアンデッドとなる理由で
遺体が比較的綺麗な状態であればゾンビの系統となり
あまり残っていない場合は骨を使い、スケルトンの系統になると
スマホの情報としてあった。
ハモンさんは商業ギルドの情報にご家族の情報があり
銀行のような役割を担う商業ギルドを経由しての仕送りをしていた為
ご家族へ引き渡しが出来るのだけどそれはあくまで遺骨だけ。
だけど私ならカードにして遺体のまま連れて行く事が出来る。
カードになっている間、遺体は時間が止まるからだ。
それは助けられなかったという事もほんの僅かあるのだけど
死の際に会えるか、遺体と面会出来たか、遺骨との面会となるか
それとも遺体も遺骨も残らない。
どれもが違うと思うからだ。
出来れば生きているうちに会いたかっただろう。
遺骨よりかは遺体を見る事が出来た方が良かったかもしれないと思っても
遺骨となってからではもう遅い。
何も残らなかった、家族の下に帰れなかったよりかは
どんな形であっても帰れるか否か。
それが家族にとってどれだけの違いとなるのか。
若くして両親と生き別れ、そして遺体も遺骨も見る事無い
人生を歩んだ私にとってそれが理解出来るからだ。
それをベルツさんに話した所、商業ギルド伝いに魔道具による連絡を
近くの商業ギルドに入れ、そこからご家族にその説明が為され
了承された場合であれば良いとの事。
その返答待ちをしている中、次の厄介事がやってきたのです。
街中で私の行く手を阻んできたのは身につけているもの等から
冒険者やその類に見える人達だった。
「おい、そこの小娘。少し付き合え。」
「ダッサ、今日日女性を誘うにしても人攫いのような
言い方でホイホイとついていく人は居ないよ?」
「てめぇみてぇなチンチクリンなんざ興味ねぇよ!
冒険者ギルドのサブギルドマスターがお呼びだ。」
「へぇ、冒険者でも無い私を?
冒険者サブギルドのマスターが呼びつける?
随分と常識の無い人なんだね。
用事があるなら私の方に出向くってもんじゃないの?」
「いいから来い!」
まぁハモンさんのご家族からの返答がくれば
私はヤルマーニの街を出る為、やってくるのを待つ程
暇人でも無いな、と仕方なくついていくと
冒険者ギルドの3階にあるサブギルドマスターの執務室に通された。
そこに居たのはまぁブクブクと膨れ上がったとでも
形容詞るのがよさそうな冒険者ギルドヤルマーニ支部の
サブギルドマスター、ラルド・ド・コロンナータとかいう豚。
もとい、人物だった。
「貴様、ノーランクの癖に何故商業ギルドに素材を売った。」
「は?」
ラルドとやらの言い分は随分と酷いものだった。
あの時私が取られた冒険者ギルドの登録証は
処分されずに残っていた上に、どうやらそれを
没収した冒険者及び受付職員はそれぞれ
冒険者登録の抹消、職員を解雇しそれぞれが勝手にやった事、と
言い切る典型的な蜥蜴の尻尾切りをしたらしい。
そして登録証があるのだから私はノーランク、ここで
冒険者と言わない辺り問題の根深さを感じるのだけど
少なくともその件は商業ギルドのギルドマスターである
ベルツさんと話して欲しい、というとノーランクなのだから
冒険者ギルドに素材を売るのがさも当然、という言い方。
合計8時間も職員ぐるみで受付もせずに放置しておいて
この場においてはノーランクなのだから
売るのが当然、と規約ばかりを押し付け優先してくる始末。
そんな事は無かった、あったのならば証拠を出せの一点張りで
それこそまた無駄な時間を過ごしかねない時だった。
廊下の方から少々騒がしい声が聞こえてきたと思えば
ドアが開くと共に入ってきたのはベルツさんだった。
「おやおや、やはりここでしたかセリカさん。」
「貴様、断りもなく入ってくるとは何事だ!」
「断りもなく?ではお聞きしますが商業ギルドの商人たる
セリカさんを連れ込んで何をなさっているのでしょうか。
私は商業ギルドのギルドマスターとしてセリカさんを心配し
ここにやってきただけです。
それも冒険者で無いセリカさんをこんな所に連れ込むなど
冒険者ギルドは商業ギルドとやり合う、という事で
宜しいのでしょうかね?」
「冒険者では無くとも、こ奴はノーランクだ!」
「正確にはノーランク冒険者という名称ですが
こちらにそちらの職員が登録証を回収する所や
セリカさんが6時間以上買い取りを待たされた挙句に
放り出された所までしっかりと記録されているのです。」
「はっ!だからどうした!」
「登録証を職員が回収した時点で既にノーランク冒険者ではない。
つまりセリカさんは一介の商人でしか無い筈ですか?」
「こ奴がただ登録証を置いていったからと
登録が無くなると誰が決めたのだ?」
「ではお聞きしますが冒険者ギルドは買取に6時間も待たせるのですか?」
「番号で管理しているのだ!たまたま飛ばされた可能性もあるだろう!
ならこ奴はもっと早く順番が来ない事を言わなかったのだ?」
「ではこの記録の魔道具、総本部に提出して宜しいですね?
これは冒険者ギルドだけの問題ではなく
商業ギルドとの問題でもあるのですから。
職員の方がノーランクの登録だからと舌打ちし
職員も冒険者も共になって酷い扱いをしているのが
丸々記録されているのですよ?」
「だがこうして登録証がある以上、こ奴は冒険者ギルドに
優先的に魔物素材を売る義務がある!」
「……気になっていましたが、その登録証。本物なのでしょうか?」
「何?本物に決まっているだろうが!
冒険者ギルドの登録証には魔法金属が使われておる!
そしてそれぞれの魔力が記録されているのだ!
照合すればこ奴の物だとすぐに解る事だ!」
「ほぅ……ならば照合して見れば解るでしょう。
セリカさん以外であれば、ね……。」
「何だと?」
「その登録証には魔力は登録されていない筈です。
つまりでっちあげる事が容易なのですよ?」
「何を言っておるのだ!」
「セリカさんは珍しく魔力を持っていないのです。
その為、商業ギルドでは特別製の登録証を発行し
そちらで本人確認を取れるようにしているのです。
しかし貴方が持つ、その登録証はどうみても
魔力を持つ者の為の登録証です。
さて、どうやって照合なさるのでしょうか?」
ほほぅ、こんな方法があるんだ……。
っていうか確かに登録証の作り方が商業ギルドで
違ったなぁ、とは思ったけど
ギルドが違うから、と思ったけどそうじゃなくて
魔力のあるない、で違ったのか……。
「もう一度言います、セリカさんは魔力を持っていないのです。
つまり、この通常使われる登録証では
この登録証がセリカさんのものかどうかを
調べる方法は無い為、魔力登録をしなければ
いくらでも偽造する事が出来てしまいます。
そもそも魔力の検査も碌に行わず登録したのであれば
それは登録自体が失敗している事になるのですから
未登録と同じ扱いになる筈ですが?」
「我々商業ギルドは昨今の冒険者ギルドの対応に
苦言を呈してきていた筈ですが冒険者ギルドはそれを
聞き入れてこなかった。ノーランクといえど
冒険者である事には変わりない筈なのに
それを見下し、蔑ろにしてきた。
貴方達のくだらない様々な理由の為に、ですよね?」
「様々な理由?」
「何しろ冒険者というのは古くから下に見られる職業でしたからね。」
冒険者は魔物の討伐、素材の採取、人々の護衛などを生業と職業。
それは当然命の危険が伴うものである以上
危険手当に近いものが含まれる以上、決して依頼料は安くない。
しかしそれを依頼する側からすれば人々の危険であったり
困り事をお金にする卑しい心の人達、と考える人も居るのだとか。
それこそ安価やタダでやって当たり前的な非常に都合の良い
考え方としか思えない理由から冒険者自体が低く見られる事が
古くからあるそうで、その風潮は未だに残っているのだとか。
「同じ冒険者の中でも更に見下す対象を作り出す。
それにはノーランク冒険者と言う存在がうってつけだった。
何しろノーランク冒険者は狩猟冒険者とも呼ばれ
その多くは大抵農民であったり街の人。
冒険者からすれば、元々自らを見下す側に居る人達が
なる事が多く、それを見下すといった事が元々の
始まりだった、とされているのです。」
どっちもどっちな理由……。
「我々は農民や平民等とは比べ物にならない高い税金を納めているのだ!
ノーランクのような片手間に然程命も懸けずに行った上で
こちらの業務を妨害するような大量の持ち込み、かつその売り上げも
些末な物でしか無いではないか!
それを他のランク1以上の冒険者と同じに扱えなどおかしな話であろうが!」
「ああ、有り難うございます。そういっていただけると
この記録の魔道具、わざわざ起動させていた甲斐がありましたよ。
冒険者ギルドの支部とはいえ、1サブギルドマスターの証言。
これこそノーランク冒険者に対する不当な扱いをしている
紛れも無い証拠、という事になり得るものです。
これも総本部にお送りしますので言い訳を考えておいてくださいね?
さて、セリカさんがノーランク冒険者か否か。
照合出来ないのであれば、それは違うという事になる訳ですが……。
何か証拠などはありますか?」
「ぐっ……貴様ぁ……。」
「おや、たかだか冒険者ギルドの1支部のサブギルドマスターが
商業ギルドのギルドマスターに対して貴様呼ばわりですか。
先程も言いましたけど記録の魔道具を起動させたままなのですよ?
発言には細心の注意を払うべきではないでしょうかね。」
「ぬっ……ぐぅ……。」
怖っ、ベルツさん超怖っ……。
「不当な言い掛かりもこれで終わりのようなら私とセリカさんは
帰らさせていただきますよ?これでもギルドマスターですので
忙しい身でしてね。さ、帰りましょうか。」
「は、はい……。」
ラルドが顔を赤くしながら歯噛んでいるのを横目に
私達は商業ギルドへと戻っていったのでした。




