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第010話 ヤルマーニの街2 商業ギルドの対応

 商業ギルド。

 全ての商人は商業ギルドに登録しなければならない。

 その理由が納税義務を果たす為。


 冒険者は依頼の報酬が既に納税後のものである事から

 支払っている事となり、冒険者も商人もその納税額は

 一般的な方々と比べれば平均値が高い事からも

 通行に関する税負担が軽減されるのだけど

 商業ギルドの納税は日本でいう確定申告と同じであった。


 1年間を通して帳簿を2つ付けたのち

 この世界は1年365日、4年に1度366日と閏年があり

 1ヶ月が30日で12月まで存在し、13月となる新月と呼ばれる

 年末年始に当たる月が5日か6日存在する13か月制で

 1月から3月までの間に帳簿と共に納税する必要性があり

 これを果たしてこそ商人とされていて

 無登録で商いをすると闇商人、と呼ばれる犯罪者になってしまうのです。


 また商業ギルドは両替や預金等も受け付ける銀行の役割も持っているものの

 24時間営業、という事は無くこちらはキチンと営業時間が決まっている。


 だけど私は裏口へと回り、ノックをすると

 すぐに扉が空き、中へと入る事が出来たのです。


 それは冒険者ギルドに寄る前に先にやってきていたからこそで

 待っていてくれたのはこの商業ギルドのトップ。

 ギルドマスターのベルツさんという方だった。


「いかがでしたか、冒険者ギルドは……と聞くまでも無い顔色ですね。」


「ええ、合計で8時間も待たされた挙句に、文句を言ったら

 ノーランクの登録証を取り上げられて摘まみだされましたよ。」


「そうですか。で、あれば十分記録されている事でしょう。」


 記録の魔道具。

 地球で言えば電化製品にあたる、電気ではなく魔力で動く道具全般を

 魔道具と呼び、実は商業ギルドでその魔道具を担保と引き換えに

 借りてから冒険者ギルドへと向かったのです。


 その担保としたものが魔濃木。

 魔物の素材では無い為、こちらは冒険者ギルドに持ち込んでも

 商業ギルドに持ち込んでもそう変わりないだけでなく

 建材から高級家具の材料になる為、どちらで売っても変わらない素材。


 冒険者ギルドで買い取る場合は主に武器店や防具店を中心に卸され

 主に木弓とも呼ばれる弾力のある木材に糸を張った弓であったり

 木盾等の素材として使われる一方

 商業ギルドでは殆どが王侯貴族向けの高級家具用に卸されるといった

 違いがある程度であって、私からすればどちらになろうと構わない。


 ただ魔濃木というのは弾力を生み出す為にはかなり細くする必要があり

 その分弓の軽さが軽くなる事や、その分弦の張りも強くなる為

 小型化が出来るという点では素材の取り合いなのだとか。


 記録の魔道具も決して安いものでは無い為

 魔濃木を担保に貸してもらう事が出来たのですが

 これを用意し、身に着けていく事を提案したのはこのベルツさんだった。


「やはりノーランクの扱いは酷いようですね……。」


 記録されているのは音声と映像。

 それも記録の魔道具を中心に決まった範囲の音声と映像を

 360度記録した後、複製する事と複製品の記録の後ろを

 強引に切る事だけは可能なのだそうだけど

 手前を切る事が出来ない上に途中編集なんて一切出来ない。


 さらにマスターである記録の魔道具からしか複製が作れないそうで

 マスターに関しては一切弄る事が出来ないと

 どちらかといえば切断が出来ない映画のフィルムだろうか。


 しかも裁判の証拠としても使える程のもので

 かなりの貴重品でもあるとか。

 そんなものを貸してくれた理由?

 そりゃ冒険者ギルドの対応を録画する為だよ?


 冒険者ギルドと商業ギルドは魔物素材の買取に関しては

 冒険者ギルドの方が目端が利く、というだけではないのだけど

 最も多く買い取っている事もあってか

 それが戦える商人の手によって持ち込まれたものだとしても

 商業ギルドが扱う、というのはくだらない「面子」の為に

 大抵難癖をつけてくる事が非常に多いのだとか。


「しかしこれがあれば難癖をつけられても大丈夫なのですよ。」

「はは……だけど途中の映像が飛ばせないから

 見るのに9時間近く掛かるけどね……。」


 この記録の魔道具。

 魔力が無いと弄る事が出来ないそうで

 私は記録開始と終了を行う事が出来ない為

 ほぼ9時間近く撮影しっぱなしだったのです。


「それはご心配なく、再生時に時間を飛ばす事は出来るので

 実際はそれ程見るのには掛からないのですよ。」


 途中をすっ飛ばしての再生が可能だった模様。


「魔濃木は伐採にどんなに早くも半日は掛かりますので

 倒木であったり、枯れたものが持ち込まれる事も多く

 好んで伐採しようという方もあまり居りませんので

 これだけの良質なものであれば冒険者ギルドも

 難癖をつけてくる可能性は非常に高いですからね。

 それにタイガーアントの甲殻等は間違いなく

 難癖をつけてくるでしょう。

 しかし冒険者ギルド自らがこうしてノーランク冒険者に対して

 無下な扱いを行った挙句、それが誰であってもこうして

 登録証を没収し、それを職員が回収した。

 つまり冒険者ギルド自らが買取を拒否したのですから

 これで大手を振って商業ギルドに持ち込んでいただいても

 問題が一切無くなる訳です。」


「ま、その分買取価格が安いってのはあるけどね……。」


「それは大丈夫ですよ。」

「え?」

「魔物素材の買取価格が安いとしているのは昔の話なのと

 どちらかといえば冒険者ギルドとの諍いに掛かる労力まで

 算定した結果によるものである方が今は多いのです。」


「あー、人件費的な?」

「それもありますが、他のギルドに対して買取をしないようにと

 無言の圧力をかける事すら珍しくありません。

 タイガーアントの甲殻だけでなく、素材類は防具に限らず

 高級馬車の外板として使う事もあれば

 薬師ギルドや錬金術師ギルドも噛む魔法薬であったり

 関連商品の素材としても使われる事が多いのですよ。」

「まさか粉にして飲むとか……。」


「はは、それはありませんが例えば体内に残っている

 溶解液等は薄めて傷に塗って肌を滑らかにする化粧品であったり

 飲む事で食べたものの消化を助けたりと

 様々な使い道があるのです。当然魔法処理を行わないで

 薄めた所で身体の方が先に駄目になるので

 こういったものは薬師や錬金術師の専売となりますからね。」


「ほほぅ。」


「他にも職人ギルド等では滑らかに研磨する際に使用したりと

 石材を綺麗に整えたり、剣等を研ぐ際に使ったりと

 用途は比較的多いのです。

 何しろタイガーアントは魔の森と呼ばれる場所にだけ住む為

 中々手に入らない割には広く使われている素材ですから。」


「おー、なら価格がそれなりに付くんだね。」


「それなり処か上物ですからその分期待が出来る

 買取価格が出せると思います。

 それだけに冒険者ギルドから難癖をつけられると

 その間に溶解液の質が下がっていきますので

 買取価格を下げざるを得ないといった理由もあるのです。

 今では目利きが出来る者もそれなりに居ますので……。」


 私としては時間を無駄に使う方が嫌だったので

 商業ギルドに相談という形で魔物等の素材を持ち込んだ結果

 こうしてベルツさんの計らいによって

 冒険者ギルドが物を見るまでもなく追い払った。


 そして私は僅かな時間で商人としての登録も済ませていた。

 何しろ筆記試験内容はスマホで知っていて

 この世界では識字率も計算の出来る割合もそう高くない為に

 四則演算程度の問題ばかりだと解っていた為、速攻で終わらせていた。


「但し持ち込まれる量が量だけに全てをこの支部では買い取り切れない為

 一部は断らざるを得ません。それとタイガーアント等に関しては

 状態がかなりバラバラな為、少々お時間を要する事となります。」


 この点は仕方ない。

 何しろ魔物の査定で言えば冒険者ギルドの方が

 その手の職員が多い為、速度で言えば多少遅くなる事は

 前もって言われていたし……。


「受付に来る度に1日無駄にするよりかは速いのでは?」

「そうですね。」

「なら何の問題もありませんね。」


 ちなみにタイガーアントさん、美味しいとは決して言えないそうですが

 食べられるそうで「要りますか?」と言われた。


 買取価格は非常に安いとも言われたけど理由が

 アント系、つまり蟻の筋肉は赤いお肉だそうで他の獣の

 モモ肉やヒレ肉に近い繊維が多いのだとか。

 つまり煮込んだりしなければ食べられないのだとか。


「主に野菜のスープ等に入れたりして肉そのものを食べない事が

 非常に多いですし、長く煮込めば肉も食べられない事も無いのですがね……。」


 問題は薪代が掛かる為、長時間の煮込み料理は好まれないのだとか。

 魔法がある世界、といっても大半は未だ薪で料理をしている為

 薪は街や村の外まで採取しにいかなければならない上に

 乾燥させる期間まで必要となる為、意外とその値段は安くなかった。


 つまり硬いのを前提で食べるか、贅沢に長く煮込まなければ

 食べられない上で食べても然程美味しくない、となると

 出汁として使われるのが精々だそうで、そう価格もつかないらしい。


「せいぜい1kgで銅貨1枚で卸し、銅貨2枚で売られる程度ですね。」


 意外と利幅が大きい、と思ったけどそれでも100グラム20円とか

 日本じゃ鳥の胸肉でもそんな値段になる事なんてなければ

 筋が多い部位って逆に割高だからまぁ安いと言えば安い?


「街中の肉屋が売る場合、ですね。

 それ以外にも商業ギルドの場合は2か所の卸先がありますので。」


 なんとその2か所に関しては利益0で卸すのだとか。

 1か所目が孤児院。

 国や領が補助金を出している、戦争や魔物の被害によって

 ご家族を失われた子供達が居る孤児院には商業ギルドも

 利益度外視で優先的に卸すのだとか。


「確かにタンパク質豊富そうだしね……。」

「え?」

「いや、なんでも……。」


 タンパク質なんて概念が無い世界で栄養について語った所で

 仕方ないのは解るけど、経験なのかな?

 利に叶っている気だけはするよ。

 なんでもお肉は中々食べられない孤児院が多いらしい。


「なら無償ってのは?」

「それは駄目です、お金を払わずして手に入る食事に

 子供達が慣れてしまう事が一番怖いのですから。」

「なるほどね。」


 そしてもう1か所がいわゆるスラムとも呼ばれる貧困地域。

 孤児院に入れるのはあくまで未成年。

 この世界なら14歳までと決まっていて、そこに入れない成人や

 孤児院に入りたくない、としている子供達は

 大抵の街に存在する貧困地域で暮らしているそうで

 こちらは違う理由での利益度外視なのだとか。


「貧困地域の場合は商業ギルドとしてはどうしても治安に繋がり

 その被害を受けるのはその街の商人達であったりします。」


 いわゆるスリ等は商人に限らないのだそうだけど

 店頭の物を盗まれたりなどは商人の損失にあたる為

 商業ギルドとしては言い方は悪いけど餌付け的な理由で

 格安で卸す形にしているとか。


 大抵の貧困地域はそこを収める人が居るそうで

 最低でも銀行の役割すら持つ、商業ギルドの前でのスリ行為であったり

 商業ギルド自体を狙う事を避けてもらう為のものだとか。


「貧困地域はその国、地域の豊かさをも反映しますが

 人としてはだからといって死んで良いとは言えません。

 しかしながら彼等も生きるのに精一杯なのは確かです。

 かといって商人ギルドの前で盗みを働かれると

 困るのも確かでしてね……。」


 まぁ銀行の前でお金を下ろすのを待ち構えられてたら

 みんな近寄りたくなくなるだろうから、解らないでもない。


 とりあえずこうして私は魔物等の売り先は商業ギルドに決まり

 商人として登録し、これから面倒な事に

 毎年確定申告的なものをする為、帳簿を付ける事にもなったのです。

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