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第001話 右手に抗い、左手に未来を変える力を。

 202X年、6月7日0時丁度。

 玄関ドアの前に立ち尽くす私が住む賃貸アパートである

 山田荘202号室の中に隙間なく詰め込まれている

 段ボールに手を当て、イメージするだけで次々と

 カードへと変わり、ひらひらと舞い落ちる姿を見て

 私、七星ななほし芹華せりかは剣と魔法とカードの世界に

 来た事を身をもって実感した。


 これは今から地球で25年前、異世界で500年前に始まった

 地球と異世界の確執的なお話。


 異世界の創造神はその時、自らの世界である「箱庭」を眺めていて

 自らが理想とする世界とはあまりにかけ離れていると感じた。

 そこで創造神は神が地上へと堕ちると、世界の悪意に触れる事で

 悪の存在に変わる事を利用し、異世界で最も出番がなかった

 遊戯の神を地上へと蹴落とした。


 地上へと堕ちた遊戯の神は、当時の地球で言う中世ヨーロッパ程度の

 文明世界において、特に為政者とも言える王侯貴族の

 税の高さ故に貧しき者達が非常に多かった事もあり

 十分な悪意だけでなく、恨み辛みに近いものにまで触れ

 世界を滅ぼす程の魔王という存在へと変わった。


 しかし遊戯の神は魔王となる前に自らがこれまで使ってこなかった

 神の力を全て振り絞り、世界にいくつかの力を残して

 魔王へと変わった事でその力が削がれた事も今尚異世界が

 存続している理由にもなっていた。


 遊戯の神は遊戯に纏わる召喚儀式を世界に残した。

 そして1国がその存在を見つけ出し、魔王を倒すべく

 勇者と聖女を召喚する事に成功した。

 但しその犠牲は決して軽いものでは無かった……。


 勇者と聖女そのものには力など微塵も無かった。

 スキル?魔法?チート?

 そんなものは御伽噺の中の話であって

 実際には精々その世界の言語を付与するのが精一杯なのだとか。

 しかし遊戯の神は彼等が召喚されたと同時に

 彼等の持ち物に力が与えられるようにしていた。


 それが【カード・ハンドラー(を扱う者)】。

 勇者と聖女が持っていた遊具

 それがトレーディングカードゲーム【ゾディアック・インバース】。

 2人はそのカードに与えられた力を利用し

 勇者は戦う為のユニットカードを実体化させ、魔王を倒し

 聖女は魔王によって不毛の地となった場所の地形や天候をカードの力で変え

 世界を豊穣の地へと変えていった。


 創造神は魔王に世界を滅ぼさせようと蹴落とした遊戯の神の

 残した力によってその企みを防がれたといっても過言では無かった。


 そして自らの存在と引き換えになる程の強大な力は

 それが例え創造神であっても消す事は出来なかった。

 だが遊戯の神が為した事はそれだけではなかった。

 魔法の世界には必ず居る魔物と呼ばれる凶暴な獣。

 彼等は魔法の世界の中心に存在する世界樹ユグドラシルから

 産まれる魔素という物質が長い年月を掛け地表へと到達した後

 それを元として誕生する。


 人々はそれを呼吸と共に体内に取り入れ、魔力へと変え放出し

 様々な現象を起こすものが魔法だったからで

 魔物と魔法は切っても切り離せない存在だった。

 その魔物から、非常に低い確立ながら魔物のユニットカードが

 出るようにしていたのだ。


 こうして剣と魔法の世界は剣と魔法とカードの世界へと変わった。


 しかし異世界の創造神はこれで諦めなかった。

 さらに強い力を使う為に500年の時をかけて力を貯め

 そして地球における202X年4月1日17時58分。

 自らの異世界に勇者と聖女がやってきた地球から

 16806人と1000の建築物を強制的に転移させた。


 その際に利用したのが遊戯の神が残した召喚儀式であり

 500年前に勇者と聖女を召喚した儀式で使用された

 召喚用の魔法陣だった。


 だけどその召喚儀式で使用された場所は500年前にも

 人道的見知から封印し、二度と使わない場所としていた為

 その発動に気が付く者は誰1人として居なかった。


 一方地球では大規模消失事件として大々的に取り上げられる中

 地球にも創造神は存在し、異世界の創造神に対し憤慨。

 文句を言うも『ならば我が世界から16806人と1000の建築物。

 好きに持っていけばよかろう?』と言い切り

 それ以降、一切相手にしてくれなかったが

 神の世界のルールで言えばこれがまかり通るのだそうだ。


 同数同士の交換、補填。

 神様からすれば世界の住む人々の命は非常に軽く

 同じ数の補填がされるのであれば問題ない。

 私的には文句を言いたいけど、目には目、歯には歯的な

 それが神の世界のルールなのだとか。


 そうして地球の創造神は自らの箱庭に住む世界の人々が

 連れ去られた理由に気が付いていたからこそ歯噛んだ。


 異世界の創造神は遊戯の神に邪魔をされた事に怒ったが

 それを利用して再度世界を滅亡へと陥れようとしていた。


 非常に低い確率でしか異世界に生まれなかった魔物のユニットカード。

 500年の時をかけ、やっと一般的になってきたか程度であり

 悪用する者も居たが、多くは自衛の為であったり

 冒険者と呼ばれる魔物の討伐等を生業とする職業の人々が

 自らの戦力の1つとして扱い、比較的平和な方向性で使われていた。


 それが1000の建築物、16806人の人々と共に

 勇者や聖女が使っていたものと同じカードが大量に異世界にやってきた。

 それも連れ去られた人達の殆どが【ゾディアック・インバース】のプレイヤーや

 カードを転売目的で所持していた人やカードショップの店員等で

 建築物も日本と世界のカードショップの全て。

 そして新品を売る一部のコンビニ、おもちゃ屋、百貨店等が転移し

 同時に無関係である人達も異世界に連れてこられた。


 当然、突如街中などにそんな建物が突如現れれば

 為政者が黙っている事等無い。

 そしてそれがどういう為の物なのかが解った時。

 世界は欲に駆られた人々の手によって、その多くが奪い取られた。

 力尽く、無実の罪を着せての没収。

 そしてたった2ヶ月で転移させられた8割以上の人々が

 様々な理由によって亡くなった上に9割以上のカードが

 異世界の人々の手に渡った。


 カードの力は規格外だった。

 この異世界にはテイマー(魔物使い)と呼ばれる人々も存在し

 魔物を屈服させ、使役させ連れ歩き

 時には戦わせる冒険者も存在していた。


 しかしカードは連れ歩く必要も無ければ食事も必要としない。

 そしてカードの力であるが故、誰でも扱える。

 何より【ゾディアック・インバース】のカード自体もそうだが

 死の概念が存在しない事が最もな脅威となった。


 元々はカードであり、プレイヤーの手元でカードを扱い

 それが実体化する事で戦わせる事が出来る。

 そしてユニットが倒れた時、プレイヤーの手元でカードに戻る。

 いわゆるゾンビアタックと呼ばれる方法が可能なのだ。


 しかも魔物と戦わせるだけでは無かった。

 人を襲わせる、国同士の戦いに使用する。


 彼等が転移してから異世界で僅か3年弱。

 異世界はカードの脅威を本格的に知る事となった。


 さらにはこの500年の時をかけ、魔物から産出されたカードは

 売買される事も多かった事から転移してきたカードも

 売り買いがなされ、カードによっては一財産どころでは済まない

 価値が付き、カード狩り等までが発生。


 今頃、異世界の創造神は笑っているのかもしれない。

 但し異世界の遊戯の神と地球の創造神が1つ見つけたものがあった。


 本来、この強制的な転移は16807人と

 1001の建築物の予定だったそうだ。

 そして異世界の創造神は1人と1つの建築物だけを意図的に

 転移対象から除外したのだそうだ。


 それが私、七星ななほし芹華せりかと山田荘だった。

 その理由の多くは私の胸の中に留めておくつもりだし

 多分墓まで持っていくだろう。


 但し、異世界の創造神とやらに対する私の怒りは頂点に達している。

 この2ヶ月の私の人生の全てを消し去った存在、創造神。


 何しろ地球からカードショップが全て消え

 そして【ゾディアック・インバース】のプレイヤーが多く消えた。

 それは会社が休みの毎週土日祝日に地元の同級生夫婦が営む

 元おもちゃ屋で現カードショップリッキーという

 安住の地を奪い、対戦相手を奪い、カードを奪った。


 【ゾディアック・インバース】が商業化されて25年。

 それよりも長く愛して止まないTCG【ゾディアック・インバース】を

 こうして私から奪い取った罪は重いのです……。

 だからこそ私は異世界の遊戯の神と地球の創造神の提案に乗った。


 私が除外されたのなら、違う方法で私はその異世界に行く事が出来る。

 そして異世界の遊戯の神が未だ隠していた最後の鍵。

 それを発動させる為に私は異世界。

 剣と魔法とカードの世界へとやってきた。


 カードが実体化?対戦なら立体映像化?面白そうじゃない!

 しかしその為の準備が必要だった。

 その為に協力を仰いだのが、顔を合わせれば「義孫」と呼んできたり

 「ひ孫はまだか?」等と軽い冗談を常に言ってくる

 日本屈指の大企業である轆轤グループの最高責任者、轆轤ろくろ蓮次郎れんじろう氏。


 実は16806人の中にこの方の孫であり

 【ゾディアック・インバース】の公式大会昨年度覇者。


 全国大会常連の轆轤ろくろれんが居たからでもあった。


 但し信用と信頼はある程度元々あったけど

 こんな眉唾な話をまともに取り合ってもらえないと

 私は蓮次郎れんじろうだけが知る情報を地球の創造神様に教えてもらい

 それを話した事で信じてもらう事が出来た。


 そして山田荘202号室に住んでいた私は

 蓮次郎氏が山田荘を土地ごと買い取って全ての部屋を連結させた上で

 限界まで荷物を詰め込んでも崩壊しないように改築してもらい

 必要と思われるものを用意してもらった。


 但しその御礼は正直出来るかも解らない以上

 あくまでスポンサーとして出してもらったものだ。

 まぁ、色々と対価も求められたけど未だ保留中のまま

 こうして大量の物資と共に私は異世界へとやってきたのが

 彼等が転移してから2ヶ月と6日後、そして私の誕生日。


 異世界とは時間の流れが違う為、僅か2か月でも

 轆轤達は既に3年弱の時間をこの異世界で過ごしている。


 そして6月7日0時丁度に地球の創造神様の力によって

 山田荘は無事亜空間に到着した。

 そしてその出口を今度は遊戯の神の僅かに残された力によって

 目的である異世界に繋がる様にして貰う事になっている。


 そしてこれと共に遊戯の神様はその存在が完全に無くなった筈。

 これを行わなければ遊戯の神様は魔王の姿ながらも

 まだまだ存在を残す事が出来たけど遊戯の神様的には満足だそうだ。


『今、この世界のカードは娯楽の装いすらしていない。

 カードは戦争であり、娯楽の装いをしているべきであると共に

 配られたカードで勝負するしかないギャンブルだ。

 だから娯楽の神として君という存在にベットする。

 君だけにギャンブルを背負わせる訳にはいかないからね。

 それに君は3つ素晴らしいと言える事があるからだ。

 1つはカードの事に関して言えば誰よりも努力を惜しまない。

 1つはカードを心の底から愛している。

 そして最後はカードそのものが君を愛してくれているからだ。

 これほどの本命に賭けられるなら、この存在程度は惜しくないさ。

 願わくば、最後は完全な娯楽になってくれればさらに言う事は無い。』


 そういっていたのを思い出し、部屋の段ボールを隅々まで

 全てをカードに変え、1つの玄関を開けると

 そこは深い森の中、としか言いようのない景色が広がっていた。


 そして私は異世界に来た場合の目印となる

 左腕にアームバンドで固定された牛の顔をしたスマホケースを見て

 これで全てが揃った、と準備万端である事を確認する。


「……………ってまだ夜中じゃん、朝まで寝よっと……。

 私をのけ者にした挙句、私から【ゾディアック・インバース】を

 奪い取ろうとした事は忘れないからね……首洗って待ってなさい!」


 セリカは意気込んだものの、よもや異世界の地をしっかりと

 踏みしめるのが3日後になるとは思いもしていなかった。

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