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第83話 人力車

 俺はカロリーナと侍女のナターシャさんを連れて歩いている。

 セトラー領に一緒に行くマリーを、ドゥメルグ公爵家まで迎えに行くところだ。

 公爵家の門番に来たことを伝えてもらい、客間に案内された。

 待っているとドゥメルグ公爵とマリー。

 一緒に行く侍女のサブリナさんがやってきた。


「おはようございます。エリアス様」

「おはよう、マリー」

「マリーをよろしく頼んだぞ、エリアス」

「お任せてくださいドゥメルグ公爵様」

「マリーの嫁入り道具は倉庫にある。さあ、行こう」


 倉庫に行くと鏡台やタンス。

 その他、洋服と思われる荷物がたくさん置いてあった。

 こんなにいるのか?

 それをストレージにどんどん収納していく。


「相変わらず容量が多いマジック・バッグだな。それだけ入れば戦時中の物資運搬に重宝するな」

「そのような事が起きないことを願います。公爵様」

「ま、どちらにしろどの国も兵士の数は拮抗きっこうしてるからな。戦争に出兵できるのはどの国も精々1,000人。そして200~300人の兵士が死んだ時点で撤退だ。だから攻めても、たいした結果を出せないまま終わるから戦争はしないのさ」

 なるほど、圧勝できるほどの戦力差がない。

 街を占拠できるほど兵士を導入すれば、消耗が激しいてことか。


 王都に行く途中で賊をクロスボウで倒した際に、作ってほしいと言っていたが。

 戦力差がなければ、武器の威力に差がつけば状況が変わるな。

 忘れた振りをするか。


「ところでエリアス。クロスボウだがいつ作ってくれるんだい?」

 あっ、やっぱり覚えていたか。

「はい、領地に帰って落ち着いたら作りますから」

「あぁ、それでかなわない。以前の話の通り100台頼めないか。1台50万だ」

 これがきっかけになり戦争とか始まったらどうしよう?

 プレートアーマーなら矢は弾くが、全員がプレートアーマーな訳ではない。

 ライトアーマーの兵士なら矢でも倒せる。

 クロスボウが100台あれば、ライトアーマーの兵士なら300人くらい倒せるかもしれない。

 

「約束してください公爵様。あくまでもクロスボウは防衛に使うと」

「あぁ、もちろんだよエリアス。陛下もそんな気はないだろうよ」

「それならいいのですが」


 一度、セトラー領に戻り、また出直してクロスボウを持ってくるのも面倒だ。

 しかしこの場でストレージ内で作り、クロスボウを出したら余りにも不自然だ。

 それではまるで歩く兵器工場だ。

 やはり今度にしよう。


「あの~、エリアス様。馬車はどうされたのでしょうか?」

「あぁ、マリー。馬車はね、セトラー領に行っても使わないから売ったよ」


「「「 売った~!? 」」」

 みんなが一斉に口を揃える。


「ではどうやってセトラー領まで行くのですか?」

「これで行くんだよ」

 そう言って俺はストレージから朱色の四輪人力車を出した。

「これはなんでしょうか?馬車のようですが」

「人力車です。人が引く車です。これなら馬はいりませんから」

「誰が引くのですか?」

「もちろん俺ですよ」

「エリアス様が!!」

 マリーや侍女のサブリナさん。

 ドゥメルグ公爵やその場にいた侍女のみんなが目を見開いた。

 

 なにか変なことを言ったか?

 人力車は良いぞ。

 観光名所を回ると風情があるぞ。


「それにアレンの街からセトラー領まで、道を整備しながら帰りますから」

 王都に行った際に公共事業の話を陛下とした。

 その時に俺はドゥメルグ公爵と話し、アレンの街からセトラー領までの道の整備は俺がする事になっていた。

 その代わりその際に出た木々や岩は俺の物になる。


「しかしエリアス様。ご自身で馬車を引くのは止めた方が」

 執事のアルマンが言う。

「いえ、引きながらの方が馬車より早いですから」

「ですが侯爵様がそんな事を…」


「アルマンもうよい。エリアスの感性は私達とは違うのだ」

「しかし、公爵様」


 

「では行きましょうか」

 2列ある席の前はカロリーナとマリー。

 後ろは侍女のナターシャさんとサブリナさんだ。


 俺は颯爽と人力車を引いて公爵家を出た。

 風を受けて道を走る。


 パフ、パフ!!

 人力車につけた自転車用のクラクションを鳴らす。

 人々は驚いて道を開けてくれる。


 ここ2週間、街を離れただけで随分、他の街からの人が多くなったな。

 それに食べ物屋が増えた。

 そんなに美味しいものが販売されたのかな?


 こうして俺達はアレンの街を後にした。


  *    *    *    *    *


 後日、アレンの街の人々は噂をした。


 今度、セトラー領を賜った侯爵はお金がないと。

 馬が買えないから侯爵みずから、奥さんと侍女を馬車に乗せ自分で引いていたと。

 そんな事をするのは身分の卑しいものか奴隷だけだ。


 その噂が街中に溢れ人々の涙を誘った。

 国に尽くしたのに報わないと。


 そしてその話はジリヤ国全土に広がり、国王は国民の不況をかった。


 その後、国王側はセトラー領に向け、たくさんの贈り物を送った。

 国民に見せつけ名誉挽回をするかのように。


「カロリーナ、また国王様から贈り物が届いたぞ。よっぽどお前が可愛いんだな」

「う~ん。お父様は王都に居たときは、私には興味なさそうだったのに」


 親は口に出さなくても、子供が一番大切だと思いたい。


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