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第62話 王都へ 1日目クリームシチュー

 今日は、王都へ向かう日だ。

 出発の朝となりドゥメルグ公爵家に行くと、すでに執事のアルマンが待ってた。


「お待ちしておりました、エリアス様」


「お久しぶりです、アルマンさん」


 今回のメンバーはドゥメルグ公爵と執事のアルマンさん。

 そしてなぜかマリーお嬢様とカトリーンお嬢様。

 生まれてからアレンの街を出たことがなく、この機会に王都見学をするらしい。

 そして着替えなどを入れた馬車が5台。

 おつきのメイドや従者が8人。

 それを護衛する騎士が30人。

 なんて大所帯なんだ。


 俺がいるジリヤ国は内陸にあり、四方を山や隣国に囲まれている。

 王都を国の中心に作り、それを守るかのように周りに東西南北に6つの州を、更に王都寄りの東西に2つの州を置き公爵家を配置し外敵に備えている。


 アレンの街は王都から一番、東端にある街だ。

 そこから西に向かい王都の東隣にある、ウォルドの街を目指している。

 ウォルドの街を経由し王都に入るのだ。


 俺はドゥメルグ公爵、マリーお嬢様、カトリーンお嬢様、執事のアルマンさんと同じ馬車に乗っている。

 いくら6人乗りとはいえ、この面子はきつい。

 他の馬車に乗ると言っても、「行く道中に話しでもしながら」とドゥメルグ公爵に言われると断れなかった。

 馬車で7日と聞いていたが、実際は野営だと4日くらいで着くらしい。

 しかし天候の悪い日もあり安全性を考え、村や町に泊まりながら行くので約7日というわけだ。


 途中で何度か休憩を取り時間的には14時くらいだろうか、テオドーラという小さな村が見えてきたのでそこに入った。

 このまま行くと次の町に着くのは夜中になるので、今日はこの村の一部の場所を借り野営するとのこと。

 

 夕食は村人から購入した野菜や鳥肉を使い、メイドが料理をするらしい。

 突然の貴族の訪問でも、野菜や肉を購入してもらえば村の収入になる。

 

 俺が作ります!と言ったら、マリーお嬢様とカトリーンお嬢様がとても喜び、ドゥメルグ公爵からも許可が下りた。


 この村は畜産をしており、子供を産んだばかりのムッカ(牛もどき)が居ると聞いた。

 俺は飼い主のところに行きお乳を分けてもらった。

「お乳を飲むのかい?」と聞かれ「美味しい、シチューになるんです」と俺は答えた。


 馬車から大鍋を下ろしストレージから俺が創った魔道卓上コンロを2つ出した。

 これは屋敷の台所のコンロを創った時に、一緒に創ったものだ。

 火と風の術式を付与し魔石の魔力で使えるようにしたのだ。

 テーブルの上で鍋物用に創ったのだが、まさかさっそく野営に使うとは。

 

 1つのコンロは少し小さい鍋を借り、絞った牛乳を入れ沸騰させ高温殺菌をした。


 そして料理用の大きい鍋に油を引きタマネギ、人参、ジャガイモを角切りにし鶏肉を切り鍋に入れる。

 塩、胡椒をしてよく炒める。

 小麦粉を入れ、かき混ぜたら水と牛乳を入れる。

 とろみが付くまで弱火にして煮込む。

 最後に塩、胡椒で味を調えてはい、クリームシチューの出来上がり~!


「美味しいですわ、エリアス様」

「美味しいエリアス」

「エリアス様、これは何というスープですか?」

 アルマンさんが聞いてきた。

「これは牛乳を使って小麦粉で『とろみ』をつけた料理で、クリームシチューです」


「「「 クリームシチュー!! 」」」


「はい、そうです」

「旅先でこんなに美味しいものが食べれるなんて、明日は何かしら??」

 と、そんな声が聞こえた。


 更にアルマンさんが、

「それからこの魔道コンロはなんでしょうか?随分新しく軽量そうですが?」

「あァ、これは私が創ったものです」


「「「「 創った~?! 」」」」


「開拓地の屋敷を作る際に創ったコンロの残りです。テーブルの上で鍋でも突つこうと思って創ったのですが、こんなところで役に立つとは思いませんでした」

「テーブルの上で鍋を突つく??」


「はい、マリーお嬢様。鍋を突つくとは、寒い冬にテーブルの上にコンロを置き、ダシの効いたスープに野菜や肉を入れみんなで食べることです」

「まぁ、みんなで食べる。温まりそうでいいですわ。今年の冬はエリアス様と鍋を突つきたいですわ」

「こらマリーお嬢様。はしたないぞ」

「お父さま。いずれ私はエリアス様と…ゴニョゴニョゴニョ」


 貴族が来るのも珍しい村で、何やら美味しそうな料理を食べている。

 それを見た村の人が集まって来た。

 その中にムッカのお乳を譲ってくれた牧場主が居たのでシチューを振舞った。

「美味しい~~!!」

「頂いた牛乳を使った料理です」

「これがムッカのお乳?」

「えぇ、クリームシチューといいます。美味しいでしょう。牛乳はたくさんの使い道があるんです」

「たくさんの使い道が!この村は特に産業もなく苦しい生活をしているが、これがあれば…」


 そしてしばらく黙った牧場主は意を決したように言った。

「すまないが、この料理方法を教えてもらうことは出来ないだろうか。特にお礼らしいことは出来ないが」

「えぇ、良いですよ」

「良いのかい?」

「はい、牛乳を世の中に広めていきましょう」

 その後、材料を持参してもらいクリームシチュー食べたい人や、興味がある人を集めて作り方を教えた。

 クリームシチューを食べた村人たちは笑顔になり、楽しいひと時を過ごした。


 翌朝、日の出と共に起きやや硬いパンを食べ、村を後にした。

 その後、村人たちはムッカの牛乳を使い、クリームシチューを頻繁に食べるようになった。

 村を訪れた旅人や商人がそれを食べ、『ここでしか食べれない料理だ』と評判になり、村にはたくさんの人が訪れた。


 村の入り口には今でも『クリームシチュー発祥の地 テオドーラ』と、当時の看板が残っている。

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