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第32話 カステラ

 今俺は先日の約束を果たすため、公爵家に来ている。

 屋敷の使用人の件で奴隷商に紹介状を書いてもらいにきた際に、マリーお嬢様とカトリーンお嬢様とお菓子を作る約束をしたのだ。


 公爵家に着くとマリーお嬢様とカトリーンお嬢様が待っており、


「お待ちしておりましたわ、エリアス(様)」


「待ってたよ、エリアス」


「今日は美味しいお菓子を作ろうと思います」


「それは楽しみですね」

 と執事のアルマンさんも。



 厨房に案内され、料理長ジャンさんに挨拶をした。


「こんにちわ、ジャンさん」


「ようまた来たのかい。エリアス君」

 あれ?以前来た時より丸くなっているような気がする。


「はい、また厨房をお借りいたします」


「今日は何を作るんだい?」


「はい、カステラというお菓子を作ろうと思います」


「ほう、お菓子だって?どんなお菓子なんだい」


「それはできてからのお頼みですよ」


「それはそうだな。まっ今日はお菓子担当もいるから、あまり驚かせないでくれよな」


 ではさっそく作ろう!

【スキル】世界の予備知識発動!

 世界の予備知識でカステラのレシピを探した。

 俺の目にはパソコンを見ているようにレシピの画面が見え、そのレシピを読みながら調理ができるんだ。


 材料は、はちみつ、卵、砂糖、小麦粉これだけ。

 はちみつをボールに入れお湯でよく混ぜ溶かす。

 卵をボールに割り泡立て器でよくつぶす。

 砂糖を入れ軽く混ぜる。

 小麦粉を入れ更によく混ぜる。


 型の底に敷くザラメ糖がないのが残念だ。


 型に流し込みオーブンで15分くらい焼く!

 後は型を逆さにしてだせば、はい!なんちゃってカステラの出来上がり~!


「はい、出来ました!」


 カステラをお皿に切り分け各自の前に置いた。


「ではまずは私から」と、執事のアルマンさんが言う。

 フォークで切り口に入れ目を見開いた。


 続いてマリーお嬢様とカトリーンお嬢様、料理長ジャンさんもぱくりと。

 みんな目を見開いている。

 美味しいものを食べた時はみんな目を見開くのか?


 俺も食べてみた。

 本物のカステラを食べた記憶がある俺には『まあまあ』のできだ。


 マリーお嬢様とカトリーンお嬢様は

「美味しい、美味しい!!」を連呼している。


 多めに作ったので他の調理人の人にも食べてもらった。


「あっ、」

「むっ、これは!」

「柔らかい」

 それぞれの反応がありお菓子担当は、『負けた』と言い泣いていた。


 よく聞いてみるとこの世界のお菓子は、小麦をただ捏ねて砂糖を入れただけのお菓子が多いらしい。

 砂糖が貴重なため、甘いだけでも価値があるのだ。


「美味しいですわ!エリアス(様)。これならお店を開けますわよ」

(エリアス様と一緒に居れば毎日でもこんな美味しいお菓子を食べられるのね~)


 この時マリーお嬢様の妄想にひもが付き、風船のようにお空に飛んで行った。


「そこまでのものではありませんよ、マリーお嬢様」


「「「「いえ、本当に美味しい(わ)」」」」

 みんな口を揃えて言ってくれると嬉しいものだ。

 

 これで牛乳があれば生クリームが作れるのに。


「近いうちに当屋敷で晩餐会があり、その時に出すものを考えておりました。このカステラをその際にお出しできればと思います。公爵様にも確認してからとなりますが」


 厨房の奥で地団駄を踏んでいる人がいる。

 お菓子担当の人の様だがどうしたんだろ?


「凄いなエリアス。晩餐会にだせるかもしれないなんて。名誉なことなんだぞ」


「はぁ。まだ分かりませんよ、ジャンさん」


「いったいどこから仕入れてきた知識なんだい?」


「亡くなった母が料理やお菓子作りが好きだったもので、それを見ていて覚えたんです」


「そうか、お母さんが。嫌なことを思い出させたね」


「いいえ、そんなことはありませんから」


その話を聞いていた執事のアルマンは、

(『なごみ亭』のメニューはエリアス様が発案したものが多いと聞く。お菓子もそうだが庶民が高級食材を用意出来るわけがない。エリアス様には、やりなにか秘密が…。公爵様にお知らせしなければ)


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