第30話 閑話 アルバン
私の名はアルバン。
12歳で商人に丁稚奉公に入り、それから五年。
汗水垂らして働きながら一生懸命に仕事を覚えた。
その間に僅かだがお金を貯め、同じ店で働いていたアルシアと知り合い結婚した。
それを機会に俺は独立した。
馬車を買い行商を妻と始めた。
それから三年後にアディが生まれた。
その愛らしい顔を見ては、『この子のために頑張らないと』と思ったものだ。
この子のためにも店を持ちたいと、先物取引に手を出したのが運の尽き。
売れると言われて買った穀物が大暴落。
売っても赤字になるばかり。
遂に支払いも出来なくなり、家族三人して奴隷に堕ちた。
そんなある日、奴隷を買いにお客が来ていると言われ、家族三人が呼び出された。
そこにいたのは13~5歳くらいの珍しい黒髪に黒い瞳の男の子が一人。
こんな子が奴隷を買えるのか?と疑問に思ったが、奴隷商のオズマンドさんが相手をしている以上間違いないのだろう。
美形で黒髪、黒い瞳の少年。
なぜか人の心を引きつけ夢中にさせる、雰囲気を持つ少年。
私だけ気に入られても妻と娘と、一緒で買われなければと必死に訴えた。
「お願いします!何でもしますから!妻と娘も一緒に」
「どうか子供と引き離さないでください!」
「お母さん~!お父さん~!!」
と、娘は泣きだしている。
三人で購入金額は700万円。
それだけ出せばかなり言い奴隷が二人買える。
駄目かと思っても諦められない。
なぜなら親子三人で購入してもらえる可能性は低いからだ。
妻はまだ家事や読み書き、料理ができるが娘はまだ五歳。
娘だけ残って売れたとしても、異常者の慰み者になるだけ。
なにも出来るわけはなく、ここで別れたら二度と会うことはできないだろう。
そんなお客の出した条件が『奴隷解放』後も守秘義務が発生する、だった。
そんな条件で親子三人、買ってもらえるなら何でも呑もう。
しかも契約は制約魔法になり三人で1,000万円にもなった。
1,000万円と聞いても、
「それで構いません。お願いします」と焦る様子もなく。
ここまでお金を出す意味が分からない。
それとも買われた後でとんでもない仕打ちが待っているのか?
しかしこちらには選択権がない以上、藁にもすがる思いだった。
我々三人は奴隷契約をし、エリアスと言う名の少年の後をついて歩ている。
彼の家に向かっているのだ。
貴族様なのか?
マジック・バッグを持っており1,000万円の大金を、ポンと出せるのは貴族しかない。それも高位の。
歩いていくと『お食事処 なごみ亭』と看板がある店に入った。
以前は宿屋で今はここで下宿をしているという。
店の人たちに紹介され空いている部屋を一部屋、借りてもらえた。
『狭いようなら隣の部屋も借りるけど』、と言われた。
『奴隷なのに部屋がもらえるなんて。一部屋で十分です』といった。
板の間でも仕方ないのに。なんて心が広いお方なんだ。
エリアス様には奴隷であることを極力、黙っているように言われた。
これから私も営業に回る都合上、奴隷では相手にしてもらえないからだ。
制約魔法で胸に紋章を刻んでいるので、黙っていれば奴隷だと分からない。
そのため、へつらう必要もないと言われた。
奴隷ではなく給料前払いの雇用だと思ってほしいと言われた。
そんなことがあるのだろうか?
実際、給料分以上に働いているのに解放されない奴隷も多いと聞く。
年齢を伺うと17歳で親族は無く、私と同じ商人だとか。
17歳でここまで大成功を、収めているなんて聞いたことがない。
私も元商人の端くれ、お役に立ってみせる。
しかも生活用品や三人分の着替え、下着と靴を買うようにと20万円も渡された。
いったい何をどれだけ買う気なんだ?
これだけの大金を持たせてくれ、
「ここを今出ても貴方達は行くところも無いはず。20万のお金では逃げてもその場だけで、いつまでも暮らせませんから信用していますよ」と言われた。
戻ってきた時に『マヨネーズ』という調味料を作り、販売することを説明された。
その夜はご主人様と『なごみ亭』で夕食を食べた。
メニューは1種類だけだったが、とても美味しく親子三人で久しぶりに笑った。
『マヨネーズ』の他に『味元』という調味料も作って、売っていることを聞きさらに驚いた。
僅かな時間で今日は驚くことばかりだ。
ご主人様がどうやってここまで大きくなったのか、私も元商人の端くれとして知りたいと思った。
そして1,000万円の価値を親子三人に、見出してくれたご主人様に私は心からの忠誠を誓おう。




