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第23話 料理長ジャンを諭す

「で、どうなのジャン。料理は合格なのかしら?」

 マリーお嬢様は料理長ジャンに聞く。

「もちろん合格です。こんなに旨い料理は初めてですから」


『なごみ亭』の料理を食べれたマリーお嬢様は、これで話が済んだと言うような顔をしている。

 いいえ、終わっておりません。

 ここで終わると辻褄が合いません。


 そこで俺の出番となる。

「では公爵様がお戻りになりましたらジャンさんが調理し、お出しいただいても宜しでしょうか?」

「あぁ、構わないよ。誰が作っても味は変わらないからな」

「いいえ、それは違います。『味元(あじげん)』を入れた時点で、ここからが始まりなのです」

「始まりだと!」

「はいそうです。すでに『味元(あじげん)』は商業ギルド経由で販売され、店頭に並んでいます。ギルドでも『なごみ亭』の味の秘密は『味元(あじげん)』だと言ってもらうようにしています。購入した飲食店や屋台、または『食』に携わっている人に普及すれば、『味元(あじげん)』は特別ではなく使っていることが『当たり前』になるのです」

「そ、そうなのか」

「そして『味元(あじげん)』の味に頼るのではなく、これからは素材を組合わせたり、どう調理すれば美味しくなるのか、という工夫が必要になります。『味元(あじげん)』はあくまでも、料理を美味しくするための手助けでしかありません。切磋琢磨、料理の道に終わり無し、でしょう」

「そ、そうだな。俺は何を考えていたんだ。今日から心機一転、改めて料理に向き合うよ」


 どの店に売っているのか聞かれたが、販売先まで分からないのでストレージから『味元(あじげん)』を3個取出しジャンさんに手渡した。

 料金はマリーお嬢様より貰うことになった。


「ではエリアスさ…、エリアス。これが今回の報酬です」

 そう言うと執事のアルマンから巾着袋(硬貨入れ)を渡された。


 中を確認すると10万円入っていた!

「こんなに頂けません。『なごみ亭』の料理は700円一律です」

「お納めください。貴族にも体面があり、出張して料理を作らせ700円では面子がたちませんので」

 と、アルマンさんから言われ貴族も色々大変なんだなと思い、ストレージに巾着袋を入れた。


 そして俺は公爵家を後にした。

 帰る時にマリーお嬢様が「エリアス、また会いましょう!」

 両手を胸の前で組みながら俺の方を見て、不吉な言葉を残した。

 それが聞こえたであろうはずの、執事のアルマンさんは小さく頷くだけだった。



 俺は公爵家から『なごみ亭』に帰ってきた。


「ただいま~!」


 そこにはオロオロしたビルさんが待っていた。


「エリアス君、大丈夫だったかい?」

「えぇ、ビルさんご心配をお掛け致しましたが、無事に収まりましたよ」

 そして俺は公爵家であった出来事を話した。


「ポトフかい?今度、教えてもらっていいかな」

「もちろんです。余った食材を入れればいいので、在庫管理にも役立つと思います」

「ほう、そんな料理があるんだな。楽しみだ」

「ただ簡単な料理ほど奥が深いものなんですよ」

「ははっ、それはそうだ」


 マリーお嬢様からもらった報酬が、10万円だったという事をビルさんに話した。

 ビルさんはとても驚き、俺が働いたのだからもらっておきなさいと言う。

 でも『なごみ亭』の名前で仕事をしたのでと言うと、では折半で!ということになった。

 

 そして俺はポトフをビルさんに教えて、二階の自分の部屋に上がった。

 調味料の関係で料理が発展してないから、料理本を作って売るのも良いかもな。

 

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