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第21話 公爵家へ

 マリーお嬢様の我がままで、ドゥメルグ公爵家に行き食事を作ることになった。


 外に止めてあった馬車に令嬢と執事のアルマンさんが乗り、俺はその馬車の横を歩き公爵家に向かっている。

 同席を勧められたが、丁重にお断りした。


 馬車の従者と護衛の人が六人。


 公爵家までどのくらいかかるのか聞くと、一時間くらいらしい。

 大体4~5kmくらいか。


 ある意味、この世界の人は凄いと思う。

 交通機関に慣れると、一時間歩くなんて考えられない。


 向かう最中に色々と聞かれた。

 なぜ『なごみ亭』にいるのか?とか、なぜ宿泊者が同じ料理を作れるのか?とか。

 家名があるので貴族なのか聞かれ、死んだ両親から聞いた話では東の国から船で、大陸に流れ着いたと聞いている。

 両親が他界したので一旗揚げようと、名前もない小さな田舎の村から出てきたことを話した。


 マリーお嬢様は『なごみ亭』の評判を聞きつけ、一度食べてみたいと父である公爵にお願いしたが許可が下りない。

 公爵家の令嬢はおいそれと外出ができないらしい。


 今日はたまたま公爵が不在のため、お忍びで出てきた。

 そのため、今日でないと駄目なので無理を言ったそうだ。


 だからと言って突然、事前の訪問予定もなしに屋敷に招いていいのか聞くと、今日は貴族の集まりがあり戻らないとのこと。

 亭主のいない間に忍び込む、間男のような気分だ。


 そして大きな門構えが見え門が開いた。

 その奥に威風堂々とした重厚感あふれる石造りの建物が見えてきた。

 屋敷というより城かここは?


 門からしばらく屋敷までの道が続き入り口に着いた。


 入り口に着くと下働きなのか、数人の男女が左右に分かれて立っていた。

 執事のアルマンさんが先に降り、マリーお嬢様をエスコートした。


 そして俺たちは屋敷に入りお嬢様が着替えている間、アルマンさんに休憩室のような部屋に案内された。


 着替えを終えたお嬢様とアルマンさんと俺の三人は早速、厨房に向かった。

 廊下を歩いている間、下働きの人とすれ違ったが、『誰だこいつ?』的な目で見られた。

 それはそうだ平民が着る服を着た男が、お嬢様と執事を連れ屋敷の中を歩いているのだから。

 厨房は母屋と分離して厨房専用の建屋があり、屋根付の回廊が作られていた。


「ここが厨房です。エリアス様」


「エリアスで結構です。マリーお嬢様」


「それなら私もマリーでかまわ…「なりません。そのようなことは」

 執事のアルマンにさえぎられた。


 ごもっとも。『様』付けされる俺の方が、誰かに見られたら変な誤解を招く。

 しかしなぜ、両手を胸の前で組みながら俺の方を見ているんだ?


 アルマンさんがドアを開けお嬢様が入り俺が続く。


 中に入ると休憩中なのか、数人の人たちが休んでいた。


「ジャンちょっといいかな」

 アルマンさんは奥に座っている、体格の良い男性に声をかけた。


「なんでしょう、アルマン様」

 執事のアルマンさんの方が上なのか敬語だ。


【スキル・鑑定】簡略化発動

 名前:ジャン

 種族:人族

 年齢:45歳

 性別:男

 職業:調理長

 レベル:16


(この人が調理長か)


「ジャン折り入ってお願いがあるのだが、実は…」

と説明を始めた。


「公爵様はこのことはご存じなので?」


「いや、それは」


「それでは出来ません。後々公爵様から、何か私が言われても困りますので」


「ジャン、お願い」


「お嬢様のお願いでもこればかりは…」


「それに部外者を中に入れるわけには行きません!」


(ほら、思った通りの展開になった)

 それを聞いていた俺はそう思った。ジャンの言い分が正解と!

『なごみ亭』からお嬢様を離れさす由として、今回の話を提案したのだが。

 これで俺が帰ったらまた来るのか?このお嬢様は。

 それは困る!なんとかしなければ。


「待ってください!」

 と俺は前に出た。


「なんだおまえは!」


「「「ジャンさんと言いましたか。私はエリアスと申します。私も当初はお断りいたしましたが、マリーお嬢様が公爵様に普段のご苦労を垣間見てたまには変わった料理を食べてもらいたいと。巷で評判になり始めた当店の食事を選んで頂きましたが、サプライズで喜ばせたいと仰せになり。当店は庶民の店でとても公爵様にお越し頂けるようなところではないので、こちらに伺いました」」」


「庶民の店だと。なんという名の店だ」


「『なごみ亭』です」


「『なごみ亭』だと、聞いたことがない」


「ジャン聞いたことがないの?今評判のお店で並ばないと、食べれないくらいなの」


(並ばないと食べれない?そんな店があっか?知らなかったのは俺だけなのか?)

 他の従業員を見るとみんな首を横に振る。

(そうか、ポット出の店なら知らないのも当然だ。ただお嬢様の公爵様への好意を無駄にも出来ない。一度作らせ『そんな庶民レベルの料理は公爵様へ出せない』と諭し、お嬢様に目を覚ましてもらおう)


「わかった、作ってもらおう。公爵様に食べて頂ける、レベルなのか見てやろう!」


「ありがとうございます、では食材を確認できればと思います」

 と言い、食材や調理器具を確認させてもらった。

 さすが貴族の厨房。調味料や肉、野菜も豊富にある。


 やってやる。これなら満足させられる!


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