ケーニッヒシュタイン家の事情
冬も間近のある日、ケーニッヒシュタイン公爵家の当主であり、将軍職に就くエリック・ケーニッヒシュタインが結婚した。
相手は田舎の男爵家の三女で、美しいが変わり者と評判の娘だった。十五も年の違う娘とだなんてうまくいきっこないと口さがない連中は言うが、夫婦仲は良好らしい。
「ルーイ、ルイーゼ!ちょっと来てくれ!」
「なんだ、エリック。うるさいぞ。お前が帳簿をつけろって言ったんじゃな、い、か……」
邪魔をするなと眉をひそめながら現れたのは、エリックの妻、ルイーゼだ。
洗いざらしのシャツにパンツ。乗馬用のブーツを合わせた彼女は、長く豊かな金髪を無造作に括ってペンを片手に現れた。主人のための執務室に主人より長く居座って、領地関係の帳簿をつけていたらしい。
ルイーゼ・ケーニッヒシュタイン。若干十五歳の若き女主人は、三十になる夫にまるで長年の友人のような口を利く。それが許されているのは、エリックが「ルイーゼの好きにしていい」と、まるで恋に浮かれた愚かな男そのもののセリフを吐いたからだとか。
ルイーゼは、噂にたがわぬ変わり者で、ドレスを窮屈だと言い、レディたちの会話を煩わしいと両断する。男性的な服装を好む彼女は家ではいつもシャツにパンツでいるらしい。もっとも、コルセットなしであのスタイルを維持している辺り素晴らしいとしか言いようがないが。
さて、その男らしい若奥様は、クロードの顔を見てさっと青ざめ、エリックの隣に立ってスカートを摘まもうとして舌打ちした。そもそも着ていないものは摘まみようがない。一瞬悩んだ彼女だが、すぐさま胸に手を当て、男性の礼を取った。
「かしこまらなくていい。今日は、友人の結婚祝いに来ただけなんだ。だから奥方もぜひ、クロードと」
「お心遣い感謝いたします、陛下」
なびかないのか。
国王相手に物おじしない、珍しい子だとクロードは舌を巻く。
シャツの肩から、金髪が流れ落ちる。ひとつ開けられたボタンの隙間から少しだけ胸元が覗く。なるほど、これはこれで背徳的でいいかもしれない。元来女好きのクロードは、気付かれない程度にルイーゼの胸元を凝視した。形といい、大きさといい、商売女に劣らぬ一級品だ。
「ひとまずティールームにお茶を用意させます。ルイーゼは着替えてきなさい」
「はい。御前失礼いたします」
クロードの視線に気付いて、エリックが眉をしかめた。ルイーゼを隠すようにふたりの間に立ち、彼女をメイドに預ける。まったく、狭量な夫だ。
ケーニッヒシュタイン家のティールームは、体の弱かったエリックの祖母のために、温室になっている。天気のいい日にはたっぷりの陽光が降りそそぐ部屋にテーブルと椅子を用意して、甘い菓子をいくつかとドライフルーツ、一口大のチーズやハムが並べられる。
「これは奥方の好みかい?」
エリックは甘味を好まない。クロードもたいして好きではないから、こうして向かい合う時は昼間でも酒を片手に塩味のあるつまみが並ぶ。なのに今日用意されるのはお茶で、菓子が饗されるらしい。珍しいこともあるものだとからかうと、エリックは諦めたような顔で頷いた。
「頭を使うなら菓子は必須らしい。甘いものは頭の疲れを取ってくれるとか」
エリックとクロードはいとこ同士で幼馴染だ。王宮ではかしこまって話すが、こうしてふたりきりで向かい合ってまで王と臣下であり続ける必要はない。いつになく柔らかな表情の彼に、少々の無理を通してでもふたりの結婚を認めてよかったとクロードは思った。
「へえ。仲良くやっているようで良かったよ」
「おかげさまで円満だ。ルイーゼは社交以外はよくやってくれてる」
社交以外は。
確かに、エリックがパーティーにルイーゼを連れてやってきたことはない。あれほどの美貌なら、少々社交が苦手でも、ダンスが苦手でもどうとでもなりそうなものだが。
「そんなに社交が苦手なのかい、彼女は」
「苦手……というか、まあ、そうなんだろうな……」
「まあ。わたくしのいない間に、妻の悪口?酷い夫ですこと」
いつになく歯切れの悪いエリックの言葉にかぶせるように、白い手が彼の肩に置かれる。若草色のドレスは少し古いデザインだが、ルイーゼによく似合っている。なるほど、短時間で仕上げたとは思えない出来だ。元がいいというのは素晴らしい。
「お待たせしてしまい申し訳ございません、陛下」
今度こそスカートを摘まんで礼をして、ルイーゼは微笑んだ。
「いいや、さほど待っていないよ。君も座るといい」
もう一度礼をして、ルイーゼはエリックの隣に腰かけた。こうして並ぶと、夫婦と言うより親子か兄妹のようだ。鬱陶しい大臣の愚痴や、最近の国防についてなど、少しばかり女性には退屈な話に時折相槌を打ちながら、ルイーゼは微笑みを絶やさない。こうしているだけなら社交が苦手だなんて思えないのだけれど。
「そうそう、聞きたいことがあるんだよ」
話すことも尽きたころ、クロードは切り出した。これが今日のメインだ。
「なんだ、改まって」
「ふたりの馴れ初め♡」
エリックは顔をしかめ、ルイーゼはエリックを見上げる。
「そんなもの、決まってる。ルイーゼの父君からの打診だ」
「それが不思議なんだよね。王弟の嫡男であるケーニッヒシュタイン公爵と、国境からも王都からも遠い辺境を治めるヘッセ男爵。ふたりの接点がまず見当たらない」
「男爵がたまたま来ていたパーティーで……」
嘘はいけない。クロードはゆるりと首を横に振った。
「私が調べたところによると、ヘッセ男爵は奥方を亡くしてからほとんど社交界に出てきていない。君と同じパーティーに出席していた記録もないな。数年前には城下の紳士倶楽部には何度か足を運んでいたようだけどね」
「旦那様、取り繕う必要はございませんわ。不肖の父が紳士倶楽部で陥れられそうになっているところを、旦那様が助けてくださったのがきっかけで結ばれたご縁だと伺っております」
にっこり。隙のない微笑みを浮かべて、ルイーゼは話を遮った。
と、言ったものの真実は少し違う。
たしかにエリックが妻と出会ったのは、ヘッセ男爵が陥れ……もとい、カモにされていた紳士倶楽部だった。そこに出入りするのは、体を売って生計を立てる、いわゆる商売女だ。彼女たちはいわゆる箔付のための華で、男に侍って酒を飲み、あるいは料理を口にしながら艶冶な微笑みを浮かべるだけ。会話に入ってくるのも、遊戯の卓に着くのもあり得ないことだという暗黙のルールがある。
そのルールを堂々と破ったのが、ルイーゼ・ヘッセだった。
ヘッセ男爵が娘を連れてやってきた。それだけでも会場はざわついたのに、連れてきた娘は女神もかくやの美しさ。カードゲームで負けが込んでいた男爵が、賭けの対象にとうとう娘を差し出すらしいと男たちは浮足立った。
ところが。
ポーカーの卓に着いたのは、その娘自身。そこでまた衝撃が走ったが、ルイーゼは平然と笑って「自分の行き先は自分で決めます」と言い切った。
遠巻きに見ていたエリックは随分肝の据わったご令嬢もいたものだと感心したのだが、ルイーゼの快進撃はここからが本番だった。
なんと、彼女はそれまでのヘッセ男爵の負け分をすべて取り返したどころか、随分と多額のもうけを叩き出したのだ。いかさまだと騒ぎ立てる紳士倶楽部の面々をぐるり見回して、卓に着いた時と寸分たがわぬ笑顔でルイーゼは言った。
「あら、この程度いかさまなんてしなくても勝てますわ。だいたい、女に計算ができないと誰が申しましたの?」
「生意気だぞ、女のくせに!」
ルイーゼにこてんぱんにやられた男のひとりが叫ぶと、そうだそうだと同意の声が上がる。この時点でエリックは、彼らのやり取りを面白おかしく傍観している観衆のひとりだった。
ハッ、と吐き捨てるように笑ったルイーゼは、あからさまな嘲笑と侮蔑を込めて男たちを見回す。
「女のくせに?おかしなことを仰いますのね。女がいなければ生まれてくることすらできなかった分際で、どうして女より優れているだなんて思えたのかしら?ああ、念のためお聞きいたしますが、この中でどなたかおひとりでも、皆さま曰く『優秀な』男の腹から生まれた方がおりまして?いらっしゃるのでしたらぜひともお目にかかってみたいものですわね」
「男の稼いだ金で贅沢するしか能がない癖に、偉そうなことを!」
「まあ!なにか勘違いされているようですけれど、わたくしのドレスも、この宝石も、靴も、髪飾りでさえ、紳士倶楽部で浪費するしか能のない父と、領地に一切興味を示さず遊び歩く兄に代わってわたくしが領地を運営して得たものですわ。姉ふたりの嫁入り先を探したのも、持参金を用意したのもわたくしです。決して、男の稼いだ金ではございません。ちなみにわたくしがいないと領地が立ち行かないので、勝手に嫁にやられては困るのです。まあ、負け分を取り返してお釣りが出たようですし、この辺りで失礼した方が無難ですから帰りますけれど?あまり失礼なことは言わない方がよろしいと思いますわ。ご存じでしょうけれど、女というのは噂話が好きな生き物ですから」
優雅に一礼して、ルイーゼは立ち去ろうとした。買った分のチップを換金して帰ろうというのだろう。紳士倶楽部とは名ばかり。賭博に興じていた男たちは、到底紳士とは思えない視線を少女に向け、なにやらひそひそ企んでいる様子。どうせ、力づくで抑え込めば逆らえないとでも思っているのだろう。
全ての原因となったヘッセ男爵は、ルイーゼが卓に着いて早々に立ち去っていた。薄情な父もいたものである。
高潔な少女に対し、男どものなんと卑劣なことか。
エリックはグラスにわずかに残っていたワインを飲み干し、グラスを返して帰宅――しようとして足を止めた。
ひとりの男が、近くにあったワインのボトルを手にルイーゼに殴りかかったからである。
「危ないっ!」
景品交換所の職員が叫ぶが、カウンターが邪魔して間に合わない。振り返ったルイーゼが目を見開くのが妙にゆっくり見えた。
ぼくっ。
なんとも間抜けな音がして、襲った男の方が股間を押さえてうずくまる。痛みに呻く男と、それを見下ろすルイーゼ。周囲を囲む男たちが音もなく一歩下がった。もれなくおててで股間を守っている。
あれは痛い。音からして足になにか仕込んでるな。
果たしてあの男は、今後使い物になるのだろうか?か弱いご令嬢が身を守るならこれ以上なく適切な行動であるのだろうが、遠慮も躊躇も一切なかった。自業自得とはいえ、多少の同情は禁じえない。
それにしても……。
「危ないな」
ルイーゼは換金したチップを皮袋に入れて、重そうに抱えている。ヘッセ男爵がいないのだから、流しの馬車を拾うか、乗合馬車に乗るか……どちらにせよ、アレを抱えたまま馬車に乗るというのは、襲ってくれと言っているようなものだ。
「ご令嬢」
気付けばエリックは、ルイーゼに声をかけていた。頭ひとつ半高いエリックを見上げて、ルイーゼはことりと首をかしげる。そんな仕草が妙にあざとい。
「なにか?」
「この後、迎えの馬車がくるのだろうか?」
「いいえ、歩いて帰宅します」
さも当たり前のように返ってきたセリフに、驚愕したのはエリックだけではなかった。まさか、冗談だろう?という気持ちを込めてエメラルドグリーンの瞳を覗き込むが、嘘をついている気配はない。
声をかけてしまったことを後悔しながら、エリックは彼女に身分を明かし、屋敷までの送迎を申し出たのだった。エリックが二十七歳、ルイーゼ十二歳の時の出来事である。
帰り馬車の中での会話で妙に意気投合してしまい、ふたりは領地経営や資産管理について忌憚ない意見を交わし合う友人同士となった。
戦友と称しても差し支えのないほどふたりが親しくなった頃。ルイーゼが領地を回るために乗馬を教えてほしいと言い出し、ふたりで遠乗りに出かけるようになり。どう誤解したものか、エリックがロリコンの汚名を着せられ、周囲の陰謀によってルイーゼに結婚の申し込みをすることになるだが――……それはまた別の話である。
エリックがふたりの出会いに思いを馳せているのを横目に、ルイーゼは小さく割った焼き菓子をほおばる。もてなす気があるのか怪しいふたりに焦れて、クロードはひとつ爆弾を落としてみることにした。
「ところで、下世話な話なんだけど、子供を作る予定はあるのかい?」
思いきりむせたのはエリックで、ルイーゼは嫌そうな顔でハンカチを取り出し、彼の顔を拭いてやる。
「いやね、ちょっとそういう噂を聞いたものだから」
「そういう?」
「つまり、君の奥方ができてもいない息子を王位につけたがっているという噂さ」
「なんだ、それは」
呆気にとられるエリックの横で、ルイーゼは少し困ったような顔でクロードを見つめている。
「まあ、世の中にはそういう下世話なことを考える者も一定数いるという話だ。私も子はまだだし、エリックの息子なら王家の血筋としては十分だしね」
「馬鹿馬鹿しい」
「その馬鹿馬鹿しい話を真に受けて、奥方に近付こうとする者も多い。社交が苦手だというのなら余計に注意が――奥方?」
憤りをあらわにするエリックに対し、黙り込んでしまったルイーゼが気でも失っているのではないかと彼女を見やったクロードは、奇妙な顔で固まった。つられて妻を見やったエリックは、口元を手で隠しながらも抑えようもなく陶然と微笑んでいるルイーゼに頭を抱える。
「それは、大変興味深いお話ですわ。つまり、息子を生めば、その子を傀儡にわたくしが国政を動かせるのですね!」
「ルイーゼ……勘弁してくれ」
「冗談です。やっていいならやりますけれど」
人はそれを冗談とは言わない。
たしなめるエリックはもう慣れっこなのだろうが、どうにも若妻の掌で転がされている感が否めない。
「まあ、面白そうではありますが、現実的ではありませんね。男爵家出身のわたくしでは王母として不適格だと息子だけ取り上げられかねない。それくらいなら、陛下に女性官僚の登用を提案する方がまだましですわ」
「女性官僚?」
ころころと笑うルイーゼの言葉に興味を惹かれて、クロードは身を乗り出した。
「詳しく聞かせてくれないか?」
クロードの言葉にちらりとエリックを窺って、ルイーゼはゆっくり話し始めた。
「例えば、殿方は文官、武官とその方の特性に合わせた仕事を選べますが、女性にはその自由がございません。現在、貴族女性が着ける職というのは、女官か侍女、あるいは貴族家での家庭教師程度のものであることは、陛下もご存じかと思います。それは、女性だから男性より劣っているというのではなく、学ぶ内容の違いだと思うのです。その証拠に、わたくしはエリックとの婚約が決まるまで父に代わって領地を治めておりました。必要なことを教えてくれたのは兄の家庭教師です。つまり、他のご令嬢方がマナーやドレスの選び方を学ぶように、領地の運営を学び、実行してきたわけです。この経験を踏まえて申し上げたいことは、学ぶ機会さえ与えれば、女性にだって国を動かすことは可能であるということですわ。それに、我が領地では、交通の要所として傭兵を多数雇っておりますが、その中には女性もおります。彼女らの働きは、殿方になんら劣ることはございません。むしろ、細やかな心遣いをしてくれると評判がいいくらいです」
「ふむ……だが、女性はどうしたって男性より劣るだろう?」
「陛下が何を指してそう仰るかはわかりかねますが、女性がか弱い、守るべき存在だというのははっきり申し上げて殿方の幻想です。女というのは殿方よりもずっと図太くしたたかでしてよ」
ルイーゼの言い分に耳を傾けながら、クロードはエリックを盗み見る。すっかり諦めた様子の公爵殿は、妻の言い分に全面的に同意するつもりのようだ。
「体力、腕力、筋肉量。そう言った肉体的な部分に関して、女性の方が男性より劣りやすいというのは事実だ。しかし、それも鍛えればある程度はどうにかなる。劣るというなら、子供を産み育てるという点においてむしろ男性の方が劣っている。というのが妻の持論だ」
すでに散々聞かされた後なのだろう、エリックはもう好きにしろと言わんばかりだ。すっかり冷めてしまった茶を交換するようメイドに言って、ドライフルーツを口に放り込む。
「事実でしょう?」
「その通り。だからこれに関して俺はなにも言えん。なにしろルイーゼはさっきお前が言ったようなことを言えば完璧に仕上げた領地運営の報告書を寄越すし、領地のことを知りたいというから行かせてみれば傭兵と一緒になって盗賊退治に行くような女だぞ」
そしてそれまでひとりふたり短期で逗留するだけだった女傭兵が気づけば街に何人も居つくようになっていた。するとそれまで傭兵を怖がってあまり出歩かなかった女性たちが外に出るようになり、街全体が明るくなったという報告を受けた。
信じられないが本当の話だ。
ちなみに、領地の館の気難しいと評判の家令は、ルイーゼの活躍を見て「逃がしてはいけませんよ」とエリックに圧をかけてきた。エリックの乳母をしていた彼の妻と一緒に。あと付け加えることがあるとすれば、メイドたちが「男装の麗人……イイ」と密かに、本人に“だけ”は気付かれないように結成したファンクラブがあることだろうか。嘘のような本当の話だ。恐ろしい。
「そうだね……まあ、民間からの登用も検討すべきという案が挙がっていたから、加えてみるのも面白いかもしれないね。その時はぜひ、奥方に第一号になってもらいたいものだ」
「もちろん。歴代の官僚の誰よりもお役に立って見せましょう」
大した自信だ、おもしろい。
クロードは城に帰ってすぐに、官僚の民間からの登用の法案を議会で通過させた。その際、男女の別なく才能があるものを登用するという文言をつけて。もっとも、選抜するのだから試験をと言い出した連中を抑えるのには苦労したが。
そして、翌年記念すべき女性官僚第一号として、並み居る優秀な男性陣を追い落とし、ルイーゼが試験に首席合格したと聞き、クロードは腹を抱えて笑ったのだった。
余談だが、クロードが城へ帰ったその後で、ケーニッヒシュタイン夫妻の間で交わされた言葉を、彼は知らない。
「仕事仕事ですっかり忘れてたが、そういえばここは公爵家なんだから、後継ぎがいるのは当然だよな……」
「まあ、そのうちできるだろう」
しまったと顔をしかめるルイーゼに対し、エリックはあくまで暢気なものだ。エリックの年齢を考えれば早いにこしたことはないだろうに、寝室を一緒にしようとの提案すらない。
「そのうち、ねぇ……」
「なんだ、人の股座を凝視して。そんなところに用なんてないだろうに」
そもそもこいつは自分に欲情するのか?などと身もふたもないことを考えながら夫の股間を凝視していたルイーゼは、ふとよぎった考えを否定するため、恐る恐るエリックを見上げる。
「……いや、まさかエリック、お前作り方を知らないとかないよな?」
「知ってるさ。コウノトリが運んでくるんだ」
「は……?」
自信満々に答えるエリックに毒気を抜かれて、一瞬呆けたルイーゼが「責任者出てこーい!!」と叫ぶまであと少し。遅ればせすぎる性教育を授けられたエリックが、ルイーゼを追いかけまわすようになるまではそうかからないだろう。
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