5.2022/11/12 とあるネトウヨ顛末記その1
2022/11/12
樋口恭一
俺の名は樋口恭一。四流大学を出てから会社勤めをしたことが無かった訳じゃないけど、どこも俺の能力を認められない、向いてないできないことをできるまでやらせようとするブラック企業だったから3ヶ月で辞めたりして、そんなのが何社か続いた後は自宅警備員になった。
親の視線と叱責が厳しくなってきた頃に、SNSで非日本人をディスるだけの簡単なお仕事が見つかってからは、「俺もちゃんと働いてる!」と言えるようになった。部屋代食事代とかで月3万は家に入れろってうるさかったけど、そんなことしたらネット通販とかアニメサイトやソシャゲに回す金が無くなるって断固拒否した。親なら子供の面倒くらい見るのが常識だろうが何言ってやがんだかまったく。
SNSのアカウントは売国奴のパヨク達に絡まれて何度も凍結されたりしたけど、その度に作り直せばいいだけで問題にすらならなかった。あいつら、なんか言い返したらすぐにブロックしてきやがるから、論理的な話し合いなんて出来ない情弱なんだよな。見下げ果てた奴らだぜ。あ、クソフェミとかも同類な。層としてだいたい被ってるし。
四十歳が近くなってきて、親との喧嘩も増えてきた。ソランプ大統領が再選した筈なのに不正選挙で落とされて、いいかげん現実を見ろって言われてぶち切れたら叩きのめされた。くそ、そのうち絶対仕返ししてやるからな!
って思ってたら流れが変わった。ガイエンがコロナで急死したと思ったら、副大統領から成り上がった黒人女性は暗殺された!ざまぁ!これでソランプの天下だぜ!
仕事を通じて知り合った仲間達とネットを通じて喜びを分かち合ってると、台湾が中国に攻められて併合されてしまった。でも、これでいい加減バカな日本人も目が覚めるだろ。日本も核武装して、あいつらを全員殺すくらいでないと日本も守れないんだと!
その頃から忠臣組ってのは少し噂になってた。あいつらはヤバいって。なぜ、どんな風にヤバいのかって詳細は流れてこなかったけど、12.7、興奮した。ちょっと自分の信念とかと違うところはあったけど、在日連中を追い出して鎖国するとか、男女平等を認めないとか、最高過ぎるだろ。天皇もパヨクだったりするからな。天皇の人格なんて必要無いっての、言われてみれば確かにそうだとしか思えなかった。
忠臣組にはもちろん入ろうと決めた。出来れば中級以上で!下位の連中を好きに出来るんだから、なるたけ高い地位が必要になるのも常識だろ。
だけど、両親は一般組員に申し込んで、俺の分は申し込んでくれなかった。あいつらの老後の蓄えを俺の為に切り崩してくれればいいだけなのに、申し込むなら自分の金から出せってどんだけ人道ってのをわきまえてないんだ!
今までで一番の大喧嘩をしたけど、二人して包丁構えてでも拒否されれば、俺も引き下がるしかなかった。くそっ、子供をなんだと思ってるんだ!
仕方ないから、準組員てので申し込んでおいた。どんな奉仕でもするから実行部隊に取り立ててくれって申請したら、準組員にはなれた。実行部隊への配備は保留されたけど、アンケートがメールで届いた。
慎重に、正直に答えるようにと書かれてた質問は、こんな感じのものだった。
・天皇家は神の末裔である
これは、12.7をちゃんと見たかどうかの確認クイズだよな。もちろんYesだぜ。
・古代の天皇が百数十年生きることは珍しくなかった
これも、皇紀を復活させるっていうんだから、Yesに決まってるだろJK。
・1+1=2である
これは、ひっかけか?まあ、これもYesだろ。
・神国日本に災厄が訪れても、神風が吹いて守られる
歴史問題かな?これもYesだよな。
・第二次世界大戦とそこに至るまでの日本の海外進出は正義の戦いであって、何ら恥じるべきことは無かった
これは絶対Yes!
・日本は海外を侵略したことはないし、誰かを奴隷にしたこともない
さっきのと同じ質問か?ま、歴史の常識問題だよな。
・気合いさえ足りていれば、竹槍でB29を落とすことは可能だ
これは、引っかけ?ここまで全部YesだからこれもYesでいいだろ。
・直近のアメリカ大統領選挙で勝利したのは、レオルド・ソランプ氏だった
絶対にYes!やっぱわかってるよこの人達!
・基本的人権なんて幻想で、男女平等も認められるべきでは無い
一生ついていきます!一兆回いいね押したい!
・韓国と北朝鮮とは一瞬でも早く国交断絶すべきである
あーもー、神かこの人達は?!
そのまま殺す以上の大金をあいつらから分捕るって天才的発想だろ!?
・中国は、日本の核武装の準備が整い次第、先制攻撃を仕掛けて全滅させるべきである
一億京回Yes!!!やらなきゃやられるだけってのがどうしてパヨク共にはわからないんだかほんと意味不明だわ~!
・あなたがどう神国日本に奉仕可能なのか、具体的に書いて下さい
落ち着け。ここがアピールポイントだ。
だらだら長文を書いてはいけない。短く、簡潔にまとめないとな。SNSでの経験が活かせるってもんだぜ。
SNSでの情報拡散が得意。在日やパヨクの連中になら何だって出来る。フェミ連中に実力行使して立場をわからせて、日本の人口減少の歯止めをかける助けになれる。とかを書いた。
最後のは貢献てよりは希望かも知れないけど、正直な気持ちだしな。デブとかブスとか年増とかはいらねーとはさすがに書けなかったけれど、そんな連中の相手をさせられるとしたら嫌だな。まあでもそんなのばっかりじゃ無いなら我慢出来るかもだしな!
・自分に起きた事は全て自己責任である
これは質問じゃなくて、署名欄のすぐ上の同意事項ってところに書いてあったけど、別に否定する理由も無かったから、署名して返信した。
忠臣組からのアンケートやその回答内容を親に自慢したけど、微妙な、哀れむような眼差しで見られたのが癪に障った。
返信から一週間後、実行部隊への選抜試験案内が来て、指定された会場に向かった。いつ以来の外出だかはっきりとは覚えてないけど、めちゃ久しぶりに身綺麗にして出かけた。床屋で髪も髭もさっぱりしてもらったし、支度金として十万円も両親からもらえた。家を出る時に涙ぐんでたのは、俺を誇りに思っての事だよな!きっと実行部隊に取り立てられて錦を飾ってやるから心配するなっての!
そこは海沿いの寂れた埠頭で、第116組という看板が立てられてたとこで受付を済ませて、ゼッケンを身につけるよう渡された。772番。ここに集められたのは千人くらいに見えたから、何人くらいが合格ラインなのかが気になった。第116組って、相当な回数繰り返してて、一組千人で一人しか採用しないならかなりな無理ゲーだし、十人でも厳しいだろ。百人なら、運が良ければ、かな?
千人がごちゃっと集められた広場みたいな場所で、進行役らしい人が呼びかけた。
「1+1の答えが2ではないと信じている者達は、この先に停泊しているタンカーに乗り込むように」
アンケートにあった質問の一つだけど、少数に残れる賭けとしてだか、五十人未満くらいが集団を外れてタンカーへと乗船していった。
「それでは、簡単な体力測定を行う。この埠頭の倉庫街に一周1キロのコースを設営した。このコースを5周してもらう。先着十名には特別な優遇措置を設ける。十一位から五十位までにはそれなりな優遇措置を与えよう。五十位までが出た時点で徒競走は終了とし、下位の半数は実行部隊の対象としては除外。タンカーに移って待機してもらう」
コースの説明が終わったら、あっという間にレースは始まった。もとから上位入賞は無理だとわかってたから、先頭争いには巻き込まれないよう、足切りはされないくらい真ん中ちょい前を維持できるよう位置取ってがんばったけど、マラソンなんて十数年ぶりで、上位連中には次々と周回遅れにされて、気付いた時には終わってて、結果的に上位半分のビリくらいに入れてたのは運が良かった。俺の周りにいた大半の連中は力尽きてて、道ばたにへたりこんでいたのが半数近くいた。俺はぎりぎり歩いてでも先に進み続けてたのも効いたんだろう。全ての結果は自己責任だしな!
残り五百人が広場に集められて、次の選抜試験の内容が説明された。
「これから百人ずつ五組に分かれて、互いに戦ってもらう。1位の組には10位と43位から50位までと上位末尾98人。2位の組には9位と42位から35位までと上位末尾から上の98人。同様に三位、四位、五位の組と分かれる。それぞれの勝者には、報酬として、実行部隊の地位と、奴隷の女性一人が与えられる」
そして、映画とかエロゲとかでないと出てこないような小さな檻に入れられた裸の若い女性が5組。広場に面した倉庫に運び込まれていった。舌を噛まないようにか口に何かを噛まされてて、両手を身体の後ろで拘束されてたから胸も隠せていなかった。
広場にいた連中の大半はマラソンでへばってたけど、ほぼ全員が叫んでた。俺も含めて!裸の、女!勝てないかも知れないけど、強い奴は集団で囲ってしまえば何とかなるかも知れない!やってみないとわからない!もしかして勝てちゃったりしたら、俺もついに、童貞卒業!実行部隊にも入れたら、両親に仕返しする事も出来るだろう!これはもう、勝つしかなかった。
自分が入れられたのは一位の組。がらんとした倉庫の中央にさっきの裸の女が入れられた檻があって、出入り口は前後に一つずつだけ。檻の周囲に百人近くの男が群がってた。
俺は近くにいた何人かに手を組もうと呼びかけて二人からOKをもらった。
進行役が言った。
「勝ち残りが許されるのは、一組につき十名までだ。それでは、開始」
開始と言われても、いきなり周りに殴りかかる連中はほとんどいなかった。俺も仲間も、まずはいったん身を引いて状況を見極めようとした。
そのおかげか、上位十一位から四十位に入った連中の優遇措置、つまり木刀を与えられた八人が、前後の入り口から四人ずつ入ってくるのが見えた。
「武器を奪え!」
誰が最初に言ったのかわからなかったけど、木刀を奪おうとする側と奪わせまいとする側とに分かれて壮絶な戦いが始まった。
とはいっても、木刀を持ってる連中はだいたい運動をやってるような体つきをしてて体力に余裕もあり、攻め寄せる側を余裕をもって打ちのめしてたけど、攻め寄せる側はばてばての連中が多かった。
とはいえ、五十人ずつで四人に襲いかかるゾンビアタックだ。木刀の一撃で一人を沈める間にニ三人に襲いかかられれば、木刀を奪えた奴も何人も出てきた。
本当に剣道か武道か何かをやってる数人は固まって手が出せそうになかったので、他の木刀を巡って争いは続き、立ってる奴が半分くらいになった時、前後の入り口から、日本刀を持った奴が一人ずつ入ってきた。
逃げようとする奴。木刀で立ち向かおうとする奴。その脇や後ろから襲いかかって漁夫の利を得ようとする奴。
俺と仲間二人は、一位の奴の顔は覚えてたので、十位の奴の刀を奪おうとする争いの外側へと移動した。
「いいか、確かに女を勝ち取れるのは最後の一人かも知れないけど、勝ち残りは十人。そこに入れるよう動くぞ!」
「おお!」
まだ動ける連中で俺達と同じように動こうとしてた輩は少なくなかったようで、木刀持ちの数人と徒手の奴らに囲まれた十位の男はぼこぼこにされて床に転がった。体力があったって、日本刀で人を斬り慣れてる奴なんて今の日本にほとんどいる訳もないしな。
一位の方では阿鼻叫喚の叫び声が上がってたから、あまり時間は無かった。入り口から逃げようとした連中は見張り役達に自動小銃で撃ち殺されてた。
倉庫の中に立ってるのが二十人未満になってから、俺達は動いた。刀持ちと対峙してた三人に一人ずつ後ろから飛びかかって、「俺達は味方だ!組もうぜ!」と呼びかけ、飛びかかった相手の首に腕を組んで巻き付け、スリーパーホールドっていうんだっけ?とにかく動くのを邪魔した。
打ち倒されてる仲間もいたけど、隙を見せた背中を刀で斬られて、そいつは木刀を奪えた。刀持ちがそいつと協力して、もう一人の木刀持ちも倒すと、残りはこいつだけ!木刀を持ち替えて柄で叩いてくるけど、我慢すればこちらの勝ち!あともうちょっと耐えるだけで・・・・!
と思ってたら、腹の中を何かが突き抜けた。それは俺が組み付いてた奴の腹も突き抜けて、鋭い切っ先を俺の視界に顕した。血で真っ赤に塗れた刀はずるりと引き抜かれて、俺は抑えてた一人と床に蹴倒された。
俺が見上げると、一位の男は、俺の仲間だった二人も簡単に斬り捨てた。もう一人の刀持ちは、
「降参する。女はお前が取れ」
と言ったが、刀は正眼に構えてて、戦う意志は失ってないようにも見えた。隙を見せたら殺されるくらいに、油断してないんだろう。
もちろん、俺の身体も顔もどこもかしこも温かな血にまみれて、身体の中は激痛しか無かった。それでも歯を食いしばってうめくのを全力で堪えてたのは、生き残りの十人にさえ入れれば、助かる筈だと思ってたから。その為には、一位の男の目に留まるのは可能な限り避けたかった。
そいつはまだ立っててどっち着かずな態度を取ってた数人も斬り倒して、
「まぁいいだろ。これで十人未満になったしな」
と言って、檻の方に歩いていった。
そこには、数人で固まってた武道やってるように見えた連中。それからもう一人の刀持ちで十人くらい。
「女は俺がもらう。文句ある奴はいるか?」
誰も抗議の声を上げなかったが、進行役の男は言った。
「お前がこの場の勝者と認めよう。ただ、残りの十人を確定させる為に、倒れている連中を処分しろ」
その一声で、倒れたふりしてた十数人ががばっと起き上がって、最後の戦いを挑んだけど、まともに生き残った連中にはかなわずにあっさり倒され、とどめを刺されていった。
殺される。
生まれて初めての感覚と、身体を貫く激痛とで、俺は何周か回って正気じゃなくなって、近づいてきた一位の男の前に立ち上がって、言った。
「お、俺は、倒れて、ないぞ・・・!」
一位の男は俺を見て、にやっと笑うと、他の連中のとどめを優先してくれたみたいで、俺はその間も何とかこらえて立ち続けた。
そうして、一位の男、武道やってるぽい五人組、もう一人の刀持ち、後は俺だけが立ってる状態になると、進行役が言った。
「よし、それでは・・・」
「おおっとおぉ!?」
背後からわざとらしい声がしたと思ったら、一位の男に蹴倒されていた。
「倒れたな?」
「ちょ、ま、待て!今のはお前が!ずる、ずるいぞ!」
「倒れたのも、腹から血吹き出してるのも、刀を持ってないのも、こんな場所にいるのも、全部が全部、自己責任だろ?違うのか?」
「ちいちちちち、違う!こんなの、認められるか!やめやめろばか刀を振りかぶるなぁぁぁぁぁっ!」
「俺の名前は、大和猛だ。あの世なんてものがあるなら、覚えて宣伝しときな。お仲間がきっとたくさん来るだろうからよ」
「や、止めっ!」
「じゃあな」
好きだったマンガやアニメやラノベの続きだって気になるし、彼女なんてのも出来ないままだった。パヨクとかクソフェミとかならともかく、なんで国士の俺様が死ななきゃいけないんだとか、口に出せる以上の文句が頭の中を駆けめぐってたけれど、刀が振り下ろされて―――。
樋口恭一という男の生首が斬り飛ばされて床に転がっても、進行役の男は、大和猛を何も責めなかった。彼らは檻と勝者を倉庫の外に出すと、床に転がった死体や死体かも知れない何かの頭部に銃弾を撃ち込んで確実な死体にしていき、奴隷達に倉庫内の清掃を命じて去っていった。
まだまだ同じ様な試験は繰り返されるので、会場の清掃は必須だった。なお、タンカー内に移動した者達については、誰一人タラップから降りてくる事は無かったし、その家族から問い合わせが入っても行方不明になったとだけ伝えられ、捜索願いが警察に受理される事は無く、マスコミが報道する事も無く、ネットに書き込まれればその情報は即座に削除され、検閲する側が「悪質」と捉えた情報の発信元の存在は、次々に捜索され消されていった。