3.2022/7/7 神国日本の国家体制発表
2022/7/7
国塚英宏
今日は、元国会議事堂に来てた。遠足じゃないよ?
おじいちゃんやお父さんから、社会勉強を兼ねて参加しろって言われて、退屈そうな会議に連れてこられてた。
忠臣組の中での方針決定会議とかは評定所って呼ばれる別の場所でやったりするんだけど、今日は、いろんなお役所とか地方自治体とかを再編成するとかで、とりあえず大臣にされてた人とか事務次官とか知事とかがたくさん集められていた。もちろん、みんな上級組員以上か、お役人でも特別製の腕輪をしてた。前任者が前の政治家達とつるんで悪さしてた人だった場合は殺されて交代したって人もたくさんいた。そのせいか、怯えてる人たちも少なくなかった。なにせ、12.7の舞台になった場所で、内装を少し作り替えたくらいの変化しかなかったから。
おじいちゃん、摂政が一番高くて偉そうな席に座って開会を宣言。別に議論するわけじゃないから、議会とは呼ばないんだってさ。
「では、これより評定を開始する。右大臣」
右大臣と呼ばれたお父さんが、おじいちゃんの席の前の壇に移動して、説明を始めた。
「昨年12月7日の神国日本回帰式から約半年と一ヶ月。国民の4/5以上が忠臣組に加入し、中央省庁や地方官庁、地方自治体などへの最低限の下準備も区切りがついたので公に発表します。
神国日本は、民主主義国家ではありませんので、不要な機能は廃止します。
おおまかに残す国家機能としては、内務、財務、軍務、医務、文務。外務も存在はさせますが、必要最低限な機能と人員にまで絞り込みます。当初からお伝えしている通り、我々は鎖国しますからね」
「法務は無くなるのですか?」
おそらく官僚の誰かが勇気を振り絞って質問した。お父さんも表面上はにこりと笑って答えた。
「後でまた触れますが、公安や検察といった機能は忠臣組内部に備えます。官僚組織に自浄機能を求めるだけ無駄というのは、民主主義国家であり法治国家でもあった筈の日本がこれ以上無いくらい証明しましたからね。失敗は繰り返しません。それは無能のやることで、我々は無能を演じるつもりはありませんから。
それ以外の法に関わる機能は基本的に内務省に移管されます。
内閣府が管轄していた機能で継続が必要なものについては、忠臣組と内務省に分割して配置します。
ではまず内務省からお話しします」
そこからは、灰色に金の横線が入ってる腕輪をした人がパソコンの画面を操作して、自分や参加者全員に配られてるタブレットの画面に表示される内容を説明していった。
ながーい話をざっくりまとめるとこんな感じ。
内務省:総務省や内閣府、警察庁、法務、国土交通、環境など、およそ内政に関わる業務全般。農務庁は農林水産省の後身、工務庁は国土維持に必要な工業生産の管理業務を行う。
財務省:従来の財務に加え、経済、労働、資源に関わる業務全般
軍務省:国土防衛に関わる軍務全般。陸軍庁、海軍庁、空軍庁、電子戦庁などが新設される。自衛隊は神国日本軍と改名。
医務省:国民の健康や寿命管理、防疫対策など。厚生労働省の厚生はこちらに配置。
文務省:教育、科学技術、文化行政、気象、歴史管理・編纂など
外務省:在外公館の管理。外交は基本的に忠臣組の管轄事項となる。鎖国実施後は基本的に在外公館は廃止予定。一部は残置を検討(アメリカや中国、EU、ロシア、韓国、北朝鮮など)
省庁再編の枠組みは来年4月までに実施。青ざめてる灰色の腕輪をしてる人達は多かったけど、「無理です!」って反対する人はいなかった。たぶん、空気読んだんだね。自動小銃構えてる人達怖いもんね。
続いて、都道府県の再編成。連と大連の広域行政自治体に改編。基本的には、大連が広域行政区域の長となり、その下の県単位の各知事クラスに連が置かれる。階層的に言うと、大連>連>(各知事)というイメージになる。
九州大連:福岡、宮崎、佐賀、長崎、熊本、鹿児島
四国連:香川、愛媛、徳島、高知
八雲連:山口、島根、鳥取、広島、岡山
※四国連と八雲連は、瀬戸八雲大連によって管轄される
西京大連:大阪、兵庫、京都、奈良、和歌山、滋賀
中京連:愛知、三重、岐阜
北陸連:福井、石川、富山、新潟
中部連:長野、山梨、静岡
※中京・北陸・中部は、中津国大連によって管轄される
東京大連:東京、神奈川、千葉、埼玉、栃木、群馬
※ただし、現在の東京都二十三区の内、千代田、中央、港、品川、新宿、渋谷、台東、文京、豊島、中野、墨田、江東の十二区は、『皇都』として、皇室、実質的には忠臣組直轄地とする。
奥羽連:福島、山形、宮城、秋田、岩手、青森
北海連:北海道
※奥羽連と北海連は、北津国大連によって管轄される。
市区町村はとりあえずそのまま据え置きになったけど、これもその内再編成される可能性が高いとだけ伝えられた。
ここまでの話でも別人のばらばらな人間の死体からフランケンシュタインに組み上げるくらいの大工事なのは確かだったけど、国家方針の説明はまだこれからだった。
「さて、それでは、これまで説明を後回しにしてきた、神国日本としての大方針の一つ、鎖国についてお話ししていきましょう」
お父さんが再び前面に出て話し始めた。
「江戸時代に鎖国を解くまでならいざ知らず、世界の国々との間に、産業や交易で得た対価で資源や食料などを輸入して、特に戦後の日本は経済的に発展してきました。今この状態で文字通りの意味で鎖国すれば、食料自給率から単純に計算するだけでも、相当数の国民が飢えに苦しみ、企業の大半は廃業を余儀なくされ、経済は文字通り破綻するでしょう。
ではどうやって鎖国するのか?可能にするのか?
その為には、自給自足を可能にしなければならない。食料や資源などを輸入しなくてもやっていけるよう、産業構造や労働人口を変えていかなければならない。端的に言えば、労働人口の大半は現在の第三次産業から第一次産業に戻していかないといけません。
資源も大半は手に入らなくなるので、エネルギーも自活できるもの。つまり太陽光などの再生可能なエネルギーのみに集中する必要があります。原発はすべて廃止です。異論は認めません。
農工業や社会の維持に必要なエネルギーを自前で揃えられるようになるまで、ある程度の年月はかかるでしょう。それまでが鎖国の猶予期間となります。
数年では終わらないでしょう。十数年から長くて三十年ほどを想定しています。韓国や北朝鮮の民をお返しするのにもそれくらいはかかるでしょうし。
神国日本独自の兵装を開発し生産・配備し、使いこなせるようになるまでも、やはり十年二十年といった単位で時間はかかるでしょう。しかし、我々はやりとげなくてはなりません。
外国からの脅威をはねのけ、自給自足できるようにならなければ、殺されるか、飢え死ぬかの惨めなニ択しか待っていないでしょう。
神国日本の民よ。すべては、あなた方自身の努力にかかっています。民主主義的政体の時、あなた方はただ政治家や官僚達に任せていれば良かった。主権者という呼称は心地よかったですか?その座に安穏としていた結末が、この場で起きた醜悪な告白劇にもつながったことを自覚して下さい。
神国日本に生活保護はありません。セーフティーネットという幻想は消えました。刑務所が生活困難者の逃げ込む場所になっている状況も終わりを告げます。
誰もが、自分の食い扶持を、最低でも農業生産で賄うことが求められるようになります。
企業も、よくよく考えて生き残る道を選びつかみ取って下さい。まだ当面輸出入は行われる予定ではありますが、あなた達がその財と共に海外に逃げ出るという選択肢は存在しません。
個人への税率は、忠臣組への納金を除けば、現在までの地方税に該当するものが居住地の連か大連に対して年収の10%までが徴収される予定ですので、体感的な税負担はかなり減るでしょう。消費税も廃止されますから。
大事なことですので二度言います。消費税は廃止され、復活されません。この一事だけでも、個人消費が上向きになることは期待できるでしょうね。
企業・法人への税金も基本的には個人と同じです。忠臣組への納金と、連か大連への地方税。あえて上級や特級という扱いを望まないのであれば、税負担が特に重くなるということは無いでしょう。これまでまっとうに税を納めてきたのであれば。
これまで税法の穴をくぐり抜けほとんど払ってこなかった企業や法人、団体などは、これからはまっとうに払えば何も問題は起こりません。払わないというなら、その従業員ともども、死んで下さい。企業的にも、生体的にも。従業員の皆さんは、経営者の皆さんが賢明な判断を下すよう、最善の努力を尽くして下さい。それがあなた方自身に不幸を招かない為の唯一の道となります。
繰り返しの警告となりますが、神国日本は民主主義国家ではありません。基本的人権なんてものは存在しません。忠臣組員とそれ以外とを区別するしきたりなどが存在するだけです。
神国日本成立前のしきたりを持ち出して、それを根拠とするような愚挙は犯さないで頂きたい。あなたの命を守る為にも。
忠臣組は、必要とあれば、誰の命でも財産でも何でも奪うでしょう。そこに根拠や説明は求められません。そんな義務を負っていたのは、民主主義国家であった筈の日本までです。我々ではありません。
議論で私達をどうにか出来るとも思わないように。あなたの首が胴体と切り離されてなお議論が続けられる自信があるなら試してもいいかも知れませんが、我々も無駄な殺生は避けられるなら避けたい気持ちもありますので。
今一度警告します。鎖国後の生活を想定して動いて下さい。必要と思われる準備をして下さい。30年後ならば、今十歳の子供でも、四十歳に達していることになります。
世界情勢の変化によっては、鎖国が十年単位で前倒しになることも覚悟しておいて下さい。目をつぶれば目の前で起こっていた現実は消えて無くなるなんて愚かなことを信じていたのは、この場で自らの血の池に沈んだ愚者達で最期にして下さい。言わなければ起こらない?くだらなすぎます。
我々は、そうですね。世界的な標準からすれば狂信者ではあるかも知れません。しかし現実を見つめようとはしています。心を一つになんてことは言いません。それはたいてい愚か者が周囲を自分に同調させたくて言ってるだけの妄言ですから。
国境を閉鎖し鎖国すること。
これはコロナウィルスが世界中で変異を遂げ続け、ワクチンでも解決される兆しが見えないことからも、避けられない国是です。
その現実を見据え、未来を築いて下さい。
それでは」
国家通貨の切り替えとか、義務結婚制度とか、まだまだいろんな話はあった筈だけど、みんなもうお腹いっぱいって感じで、今日の評定というのは終わったみたい。
次の日の朝。元は首相官邸だったところでおじいちゃんやお父さんやお母さん、それに忠臣組でも最高幹部と言える人達が顔を揃えて、朝ご飯食べながら、昨日の評定を受けた世論調査の速報結果を話し合ってた。
「省庁再編成で暮らしにどんな影響が出るか不安な声は上がっているものの、税金が安くなることで暮らしが楽になりそうだ、って歓迎する声の方が大きいようだな」
「一ヶ月前の調査時よりはおおむね10ポイント以上支持が増えている結果の方が多いね」
「鎖国がどう実現されていくかというのが最重要関心事項に挙げられてるのはどこも一致しています」
「それによって自分たちが侵略されなくても飢え死ぬことになるなら、国に従って死ぬ理由も無くなる訳だし、妥当な判断と言えるだろう」
「結局のところ、国民次第さ。強者が他の弱者を全員組み伏せて滅ぼしてきたのなら、人類はとっくに単一勢力の下に統一されてた筈」
「そういう意味では、運任せなところはあるけどね」
「ウィルス次第というところもある」
「日本国内だけでも、変異株の数は五十を越えた。把握されているものだけでもだ。その内の三割以上が複数のワクチンに対して抗体を持っている」
「変異株の種類も、抗体持ちの割合も、増えていくだろうね」
お父さんとおじいちゃんを入れて計十二人の男の人と女の人達は、いったんうなずきあってから、表情をだいぶ厳しくして、この中のリーダーと目されてる比等さんがみんなに尋ねた。
「それでは決めていきましょうか。我々は、どの程度を生かし、残すことが出来そうなのか。また、そうすべきなのかどうかを」
右大臣がいるので左大臣もいます。忠臣組内部の構造なんかも、気が向いたら掲載するかもです。