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1.2022/1/1 沖縄、アメリカ準州化

2022年1月1日

田中理恵


 まだそこまで手を回す余裕がなかったせいか、学校の授業はこれまで通りに続いてたし、教科書が別の物に置き換わることもまだ無かった。来年からはわからないけど。

 あの12月7日の国会議事堂で起きた惨劇については、12.7革命、第二次大政奉還、血の池奉還、忠臣組討ち入り事件、いろんな名前が付いた。

 摂政という地位に着いたあの老人(英宏のおじいちゃん)、国塚明宏は神国日本回帰式と呼称したけど、長くてわかりにくいこともあって、12.7という呼称が定着していった。新聞とかは12.7事変て書いたり、先生達が授業の中とかで触れる時は同じ様に呼んだ。


 で、政治家達が皆殺しにされて、皇室の方々が人質にされて、日本人は一致団結して忠臣組の排除に動いたか?そんなわけ無かった。

 警察や自衛隊の一部はもともと協力してたみたいで、アメリカや中国大使といの一番に交渉して、日本国内の在留自国民を安全に国外退去することに協力する代わりに、神国日本を正統な国家継承者として認めさせ、内政不干渉にも同意させていた。(ちなみに正式な国家元首ではないけれども、ソランプ元大統領は国外から一番先に神国日本の成立に祝辞を送った人になった)

 日本人なら一番手を出さないだろう皇室の方々の身体に爆弾を巻き付け、政治家を皆殺しにすることをためらわない集団が、外国人に対してどれだけ残虐になるかわからないと懸念した両国大使は、神国日本の成立と忠臣組による統治に基本的に合意したと伝えられた。

 その翌日からは横田などの米軍基地や民間空港を通じて、アメリカ人や中国人達がこぞって日本国外へと逃げ去って行き、やはり自国民を暴挙の犠牲には出来ないとEU諸国や東南アジア諸国もその動きに習った。そんな全体の流れは確定してしまって、もうこれは覆せないとあきらめてしまった自衛官や警察官達も少なくなかったのではないかと思う。まして一般人でしかない国民はね・・・。


 ただ、神国日本の成立に猛烈に反対した国々もいて、その筆頭が韓国と北朝鮮だった。二国とも自国民や親類の保護の為に戦争すら辞さないという立場を表明したけれど、中国との戦争が待っているかも知れないと在韓米軍司令官の説得を受け、先ずは救えるだけの自国民を救う方針に転換。

 神国日本は、韓国国籍や北朝鮮国籍だけを持つ在留外国人はそのままの国外退去を許したけれど、いわゆる在日と呼ばれる人達の退去は認めなかった。認めて欲しくば竹島の実効支配をあきらめて日本に返せと要求したけど、これは韓国国内でも熾烈な論争を巻き起こして却下され、ならば返さないという綱引きで、彼らが統一朝鮮として戦争を再考するくらいのぎりぎりの段階で、落とし所をつけた。というか限界まで強請ゆすった。


 在日韓国人が約44万人。在日朝鮮人が約2万7千人未満。返せというなら一人につき一億円払えと要求。単純計算で47兆円とか払える訳も無く、せめて1/10、いや1/100以下に引き下げろという交渉の中で、一ヶ月当たり千人を引き渡す代わりに、千人分つまり千億円分の原油や石炭などの神国日本が指定した資源や海外通貨を納入するよう要求し、条件を飲ませた。

 一年で一万二千人、一兆二千億円。全員返し終わるまでに約39年。こんなとんでもない条件を受け入れるなら開戦した方が安上がりだ!という声も両国内で大きかったらしいけど、人命には替えられないという意見が最終的に通った。

 ただ、北朝鮮に対してだけは、核ミサイル技術と実物の供与で、射程三千から五千キロの中距離核弾道ミサイル1基で千人を返そうという提案もされたらしい。こちらは両国だけでなく中国の猛反対もあって実現しなかったそうだ。ただ、神国日本側はいつでも申し出を受け付けているという態度らしいけど。


 12.7から一週間以内に、神国日本というか忠臣組は地方自治体や中央省庁、警察や自衛隊からの恭順の意志を取り付けて、国政を完全に掌握した。

 二週間後の12.21から忠臣組への加入申請を一般公開。富裕層からは特に上級以上の組員としての申請が殺到して、一億円以上を奉納した人は社会最上位の富裕層のほぼ全員に迫る勢いだったらしい。

 ただその大半は、上級組員としては認められたものの、特級組員としては審査中と保留にされたらしい。認められたいなら貢献しろと。

 大金を払ったものの申請が認められず、逆に全資産を没収されたのが、皆殺しにされた特に与党議員の家族や親類、及びその関係企業や団体職員や役員達だった。

 没収された莫大な金額(国内外の有形無形資産としても相当に分散されていたらしい)は、皇室維持と国家防衛の為に使われると発表されれば、ざまあみやがれと溜飲を下げた人達の方が多かったようで、国会議員全員虐殺の件を帳消しにしてなお余りあるくらいに彼らへの支持率を上げた。


 年末までのわずか十日間の内に国民の三割以上が一般組員以上の加入申請を行ったと大晦日に発表があった。貯金が無くて奉納金が支払えない人達は、準組員という、権利は無いが義務は負う形の仮身分を与えられていた。在日韓国人/朝鮮人も、反抗の意志を示さない限り、身体や生命に一定の配慮が為されると発表されていた。大事な金蔓かねづるだしね。


 そんな、想定外の動乱に明け暮れた2021年がようやく終わりを告げた、翌年2022年の1月1日の早朝。

 私はパパとママと初日の出を拝んだ後、近所の神社に初詣に行った。鳥居には、見慣れない国旗、日の丸の中に金色の「神」の一字が加えられた、神国日本の国旗が掲げられているのを見て、内心うげっとなった。

 口に出してその場で感想を述べなかったのは、学生服みたいな黒い詰め襟服を着込み、背中に白い「忠」一文字を負い、青銅色の腕輪をした一般組員達が辺りを監視するように睥睨していたから。

 彼らは私達とその腕輪に気付くと、さっと九十度のお辞儀をしてくれたので目立ってしまった。私達三人は会釈だけ返して、さっさとお賽銭と願い事を済ませ、おみくじだけ買って帰宅した。なんか、とっても私達と話をしたい!というようなきらきらした目で見つめられてて、ある意味とても面倒な予感がしたので・・・。


 夜明け前に起きて朝から無駄に疲れた身体を一家全員ソファに埋もれて休めていると、またテレビが「緊急ニュースです!」と伝えてきた。


「今度は何だろうね?」

「アメリカの内戦状態にケリがついたとか?」

「それは無いかな」

 みんな半分寝ぼけた頭で会話してたけど、ニュースキャスターの一言で目が覚めた。

「沖縄が、駐在している在日米軍を通じてアメリカに保護を求め、準州として組み入れられることが共和党と民主党の両派閥に認められました!

 神国日本政府は、米国大使より通告を受け知らされた模様です。神国日本政府としては、内政不干渉の合意を破るもので認められるものではない、という見解を表明。百五十万近くの沖縄県民を失った分の補填を米国政府と国民に求めることになり、その中には、いざ中国からの侵攻があった際には在日米軍が沖縄県民と共に矢面に立ち侵攻を阻止する義務を負うものと理解するという見解も併せて表明しました。

 同時に、アメリカ合衆国政府は、既に沖縄県在住の者を除き保護する責任を負わないこと。これからアメリカ準州となった沖縄県に亡命を図る者がいても受け入れず強制送還するか、拘束から逃れようとした場合は最悪その場で射殺することなども告げられました。


 沖縄県知事との交渉に当たったのは、カリフォルニア州知事のカーク・ダグラス氏。カーク氏は、民主党派の西海岸・中西部・東海岸連合の一員であり、その中でも最有力の知事として発言力を高めています。

 逆に南部を中心とした共和党系のリーダーとして目されているソランプ氏は、今回の沖縄県準州化判断に不支持を表明。中国の侵攻をくい止めるのは同盟国として元からの義務であり、沖縄県を準州として認めるのは行き過ぎた内政干渉であるとの声明を発表。神国日本政府は、その声明を歓迎すると発表しました」


 その後もニュースは続いていたけど、パパはしみじみと言った。

「これは、あらかじめ合意されてたのかもね」

「というと?」とママ。

「例えばハワイが中国に攻められるようなことがあれば、最悪の手段だって取り得る。重要な軍事拠点でもあるし、アメリカの州の一つでもあるから。

 台湾をアメリカは救えなかった。では本気で沖縄を、最悪な手段を含めて救うかどうかというと、これまでは微妙な線にいたけど、アメリカの準州、保護領となったことで、日本の領土のままでいるよりは本気度は高くなったと言えるんじゃないかな。

 国会議事堂の惨劇みたいのに巻き込まれたくもないだろうし、沖縄はもともと琉球王国って別の国だったから皇室への思いなんて、あったとしても太平洋戦争末期の沖縄戦や、その後の基地支配なんかがあって帳消しにされてただろう。基地移転の話もずっと進まないままで本州の意向を押しつけられてばかりだったから、今回の政変はちょうど良いタイミングだったんだろうね。

 神国日本政府としては約束を破られたという形で、小さくない貸しをアメリカに作って、沖縄防衛を米軍に確約させたとも言える。沖縄が米軍支配下にある限り、中国軍は日本に攻め入るのは難しいままだろうし」

「うーん、皇室への態度とかでもそうだけど、もうちょっとネトウヨ脳ならものすごい短期で自滅してくれそうな期待もあったんだけど、期待違いだったかしら?」

「まだ一ヶ月も経ってないからね。判断を下すには材料が足りないだけかも知れないよ。男女平等を認めないとか、在日の人達への差別を助長する政策とか、少なくとも国連からは非難されるだろうし」

「それでも、アメリカや中国と最初に話しをつけてしまってたのが大きいよね」

「中国も台湾を返還するよう求められてるけどガン無視してるし。歴史的に元からの領土だったって」

「EUも長引くコロナ不況で、最大の貿易相手国の中国無しじゃやっていけないしね。口先だけの抗議に終わりそう」


 私達家族三人は、ただの一般人だ。義憤に駆られた行動なんてのも出来ない。逃げるのは無理そうだから、長い物に巻かれることを選んでしまった。

 沖縄に逃げていればもしかして助かっていたかもというのも後出しじゃんけんに過ぎない。次に侵攻される可能性が高いってことで、本土から渡っていた人の多くも戻ってきていたくらいなのだから。

 沖縄の人たちは、その運命を今まで以上にアメリカに預けた。内乱中の大国に。その判断を許せないっていう人も多いかも知れないけれど、私達にその資格があるようにも思えなくて、互いの行き先に幸運が少しでも待っているように祈るしかなかった。


後でまた出てくるかも知れませんが、アメリカ準州に伴い、沖縄県はRyukyu(琉球)の名を復しました。

あと、神国日本の英語名は、The God state,Japanです。

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