序章:1
まだ序章までしか書けてませんが、コロナ対策にもう打つ手が無いけど政権の座は渡さないとかいう政府の姿に切れたので、投稿し始めてみます。
言葉を殺すことをためらわない社会が、人々が、どんな結末を迎えるのか。物語中十年ほどのスパンで書いてみようと思います。総ボリュームや更新感覚は不明不定です。
序章1
2021年 5月5日
国塚英宏.1
ぼくは、国塚英宏、10歳。今日は子供の日で、おじいちゃんも家に遊びに来てくれて、お小遣いもたくさんくれた。
剣道とか武術の稽古だと厳しいけど、それ以外はやさしくて大好き!
晩ご飯は好物の唐揚げやステーキとかお肉をたくさん揃えてくれてたから、さらに大満足!
ソファに座って満腹のお腹をさすりながら、テレビでお気に入りのアニメ映画鑑賞!ここは天国なのか?!
でも、いきなり緊急ニュースとかいうのに切り替わってしまったので、天国ではなかったみたい。
ニュースキャスターの男の人が、こわばった顔で言った。
「緊急速報です。米国ホワイトハウス報道官が先ほど記者会見で、今年一月に就任したばかりの第46代大統領ジョセフ・ガイエン氏が、5日前から容態が急激に悪化。ワクチン接種は何度も受けていましたが、未知の抗ワクチン株のコロナウィルスに感染した事が原因で、先ほど亡くなられたと発表しました。
現大統領死去を受け、黒人女性でアジア系でもあるアマラ・サリス副大統領が、第47代大統領に昇格・就任しました。
サリス新大統領は前大統領の政策を踏襲すると報道官は発表しました。
繰り返します・・・」
お父さんとおじいちゃんはむずかしい顔をして、小声で話し合っていた。
「計画が前倒しになりましたね」
「準備はしてきた。後は実行して、結果がどう出るか次第だな」
「忠臣組・・・。もうちょっと何とかならなかったんですか?」
「奇抜な物や歴史上既出の物は却下され、延々と仲間内で議論され尽くした後に落ち着いた物だ。名前が重要でないとは言わないが、最重要ではない。必要に迫られれば、お前の代で変えるがいい」
「そこまで発展して、続いていれば、ですけどね」
「人事を尽くして天命を待つ。それが天の意志なれば結果もついてくるだろうさ」
そうして二人がにやっと笑ったところで、お互いのスマホに電話がかかってきたみたいで、それぞれ別の部屋に移って、その晩はもう戻ってこなかったし、テレビは全部ニュース番組になってしまったので、自分は部屋に戻ってゲームで夜更かししてから寝た。
2021年5月17日
国塚英宏.2
コロナウイルスのせいであまり外に出られなくなってたけど、今日は誕生日って事で、映画館の一室を貸し切りにして人気の新作映画をお父さんとお母さんと一緒に観る予定だった。
映画館に車で向かってる時に、車内テレビがまた緊急ニュースを伝えてきた。
「つい先ほど入った最新ニュースです!わずか十二日前に、前大統領の急逝を受けて大統領に就任したばかりのアマラ・サリス大統領が暗殺されました!先々代の第45代大統領支持者過激派が武装して集結、自動小銃や機関銃などの重火器で襲撃。SP達もろとも大統領を殺害し、ホワイトハウスを占拠しました。現在は、先々代大統領に復任を要請している模様です!
アメリカ大統領代行に就任すると目される上院議院議長の民主党議員は、即座にホワイトハウスの奪還を州軍などに指示しましたが、上院議院の半数を占める共和党が強硬な鎮圧手段に反対。第45代大統領だったレオルド・ソランプ氏に説得の協力を要請するべきと主張し、米国議会は混乱を極めている模様です!」
お父さんは車を道路の脇に止めて誰かに電話すると、ぼくに謝ってきた。
「すまない、英宏。お父さんは急な用事が出来てしまった。三津子、すまないが運転を代わって英宏を映画館まで連れていってあげてくれ」
「わかりました。お気をつけて、あなた」
「ありがとう。これからが、本番だしな」
お父さんは、ぼくの頭をやさしくぐしゃぐしゃって撫でると、車を降りてタクシーを呼び止めてさっと乗りみ、どこかに行ってしまった。
がっかりしてたぼくに、運転を代わったお母さんが言った。
「英宏、お父さんはね、これから大切なお役目を担うの。良い子だから、我慢してね」
「良い子ではいようと思うけどさ」
「我慢が出来ない子は、きっと悪い目にあってしまうわ。気をつけてね」
「そうなの?」
「そうなの。我慢した分だけ、後で良い目を見られるって決まってるのよ」
「それが本当なら、我慢する・・・」
「良い子ね、英宏は」
お父さんと一緒に新作映画を観れなくなったのは残念だったけど、ぼくは我慢する事に決めた。映画はすごく楽しかったし、お母さんはお父さんの分までぼくを甘やかしてくれたから、とっても楽しい誕生日だった。
ただ、その日からもずっと、お父さんは毎日忙しくて、ゲームとかで一緒に遊ぶ時間はぐっと減ってしまったのはさびしかった。
2021年7月7日
田中理恵.1
私は、田中里絵、10歳。
コロナのせいで、というかおかげで?、学校に行かずに授業を受けてて、私はリモート授業が苦にならなかったから、とても楽だった。人付き合いっていうか、クラスメイトの間のマウントの取り合いみたいな空気が嫌いだったし。
この日起きてリビングに降りていくと、パパとママがテレビにかぶりつくようにニュースを見ていた。
「おはよ、パパ、ママ。何かあったの?」
「顔を洗ってらっしゃい。朝ご飯を食べて、話はそれからでも出来るわ」
私はパンをトースターにセットしてから洗面所でもろもろの用を足して戻ってきて、テーブルに置かれてたスクランブルエッグをおかずに、パパが入れてくれてたコーヒーをすすりながら、二人に改めて尋ねた。
「それで?」
「中国が、台湾に侵攻したんだ。もう、だいぶやばい状況らしい」
私は、パンを最初にかじった一口目のまま固まった。何とか噛んでコーヒーで流し込み、質問した。
「えっと、それって、どうなっちゃうの?」
「アメリカが普通の状態だったら、まだ何とかなったかも知れないけど・・・」
「ソランプ元大統領支持派に共和党議員の大半が協力して、ほとんど内戦状態にあるって話だものね」
「中国が、台湾を占領しちゃう?そうすると、日本はどうなるの?」
「在日のを含めて米軍全体はまだ以前からの指揮系統を保って、米国内戦には荷担しない、らしい。だが、これで何がどうなるかわからなくなった」
「外に大敵が出来たのなら、内はまとまるんじゃないの?」
「時と場合によるさ。そもそもがワクチンが出回り始めてようやくコロナ禍が落ち着くかどうかって時期だったんだ。特にアメリカにとっては、戦争なんてしてる場合じゃないのは確かだった」
「ワクチンは何度も受けてたガイエン大統領も急に死んじゃったしね」
「もしかすると、早めに国外に逃げておいた方がいいかも知れないな。巴、パスポートとか、海外旅行の手配を頼む。俺も、会社の仕事は休みにして、避難先を検討し始めるから」
「私も休みにするわ。有給も溜まってるしね」
「え、海外に引っ越すの?」
「このまま台湾が中国に吸収されることになれば、次は日本だろうからな。それがすぐにではなくても、いつ起こってもおかしくなくなるし」
「・・・私は、学校は?」
「休まないでおきなさい。今のところはまだ」
「そうよ。状況がどうなるかわからないし、クラスメイトとか先生とかにも話してはだめよ」
「わかった」
そう言ってテレビのニュースを見ながらトーストやスクランブルエッグを食べたけど、戦争の中継映像は、見てて怖かった。ニュースキャスターが言うには、中国軍は台湾の北と南から上陸。橋頭堡を確保して、首都の台北で守備隊と激戦中。高雄市とか、台湾の西に浮かぶ馬公市って島はすでに占領されてしまったらしい。
授業中は気もそぞろで、友達とも授業の裏でSNSで会話しながら、パソコンでニュース映像とかを見てたりした。
2021年9月10日
田中理恵.2
台湾は一ヶ月も保たずに中国に併合されてしまった。今のところは、占領の後処理が大変で日本にすぐ手を出すような様子は無いので、両親も準備は進めつつも、まだ海外に逃げ出すつもりは無いらしい。
というのも、欧州のどこかに逃げるとしても、そちらはそちらでコロナでまた大変な状態になってるところが少なくなかったから。アジア系への迫害事件の報道も目立ってきてたし。
でも、日本への影響が無かった訳じゃなくて、大変な状態になっていた。
台湾を助けようとしなかった在日米軍に、右翼?の人達が猛抗議というかテロと呼べるようなのまでしかけるようになったのだ。
「いざという時に助けるつもりが無いのか?無いなら金返せ!基地にしてきた土地も返せ!」とかなんとか。
アメリカはほとんど内戦状態になってしまっていた。ソランプは次の大統領選挙を待たずに第46代大統領を自称してるけど、共和党が強い地域は彼を支持していた。民主党が強い地域は下院議長で大統領代行の筈のドロシー・ペロス議員を中心にアメリカの民主主義を守るべしと徹底抗戦の構えで、互いに一歩も譲らない。つまり当面の間、「強いアメリカ」はほとんどの意味でいなくなってしまってた。
最悪の事態になってない最大の理由は、アメリカ軍自体が国家的非常事態として一時的にシビリアンコントロールを受けないと宣言。核兵器の使用を含め、内戦への関与を否定。海外の基地も現地国政府と協力して、維持に努めてるらしい。全部ニュースや両親の受け売りだけど。
でも、そんな現地国勢府が在日米軍への暴動を止められない日本は、どうなっちゃうんだろう?いろんなのがいるらしいけど、その中心になってるのが、忠臣組、って名前らしい。ださ。
2021年11月30日
田中理恵.3
今日はひさしぶりにママとお出かけ!って言っても、近所のスーパーへの単なるお買い物なんだけどね。
「最近ちょっと物騒になってきたわね」
「右翼の宣伝カーとか増えてるよね」
そう言ってる間にもまた一台、米軍からの国土奪還、真に自立すべき時!とか、いろんな文句を書き連ねた黒塗りのバンが騒音と共に過ぎ去っていった。
「日本はぁぁ、一刻も早くぅぅっ、核武装を実現しなければならないいいいいっ!」
みたいな言葉をまき散らしながら。
「米軍基地への抗議活動にもあんな連中が何万人も集まって、それを抑える為にも警察や機動隊が何万人も集められて、基地に抗議文や物投げ込むくらいじゃ物足りなくなったのか、基地の外に住んでる兵士さんやその家族とかを狙う連中も出てきて、もう何人も怪我させられたりしてるって、ニュースにもなってるよね。毎日のように」
「バカなことばっかやってて、これ以上エスカレートしないといいんだけど」
「エスカレートすると、どうなっちゃうのかな?」
「守るべき相手から出てけとか言われてたら、あなただって守りたいとも思えなくなってしまうでしょう?」
「そりゃそうだよね。そんなことくらいわからないのかな?中国が攻めてくるかも知れないのに」
「ウヨって呼ばれてた連中はアメリカ様のポチ気取りだったし、ずっと日本の政治を独占してきた与党政権もそこまで気が狂わないでしょうから、何とか抑えようとするでしょうね。五輪の開催中止が決まって、コロナ対策も本格化しないといけないのに、何やってるんだか」
「でも、ワクチンだけは国民の半数以上が受けたんじゃなかったっけ?」
「それでも、緊急事態宣言的な状況はずっと変わってないままでしょう?公的検査の数も日に一万件までとかバカみたいな数に制限されたままだし」
その後スーパーで食材や日常生活に必要なあれこれを買い足したけど、前に来た時よりもいろいろ値上がりしてて、ママは眉間に皺を寄せていた。
その夜の一番のニュースは、日本国内に展開していた米軍が再編成されて、本州に駐屯してる部隊のほとんどが沖縄へ移されて、他はグアムやハワイに移転されるという発表だった。
「まぁ、沖縄や太平洋地域になるべく兵力を集中させておきたい、って判断は何も間違っちゃいないよな」
「毎日何万人もの過激派に基地囲まれてたら嫌気も差すでしょうし」
「中に入り込んで銃撃されて重傷負うバカ連中も出始めちゃってるしね」
「本州内の米軍基地が空になったら、本土を取り返した!とかわきあがるバカが増えるんだろうな」
「そうなる前に、アメリカの軍艦に乗り込んで核兵器とか奪おうとする連中が出てくるかもね」
「そんな、江戸時代でもあるまいに」
そんな風にパパとママは苦笑いしながら話してたけど、実際にそんな連中は複数組出た。もちろん一人残らず失敗して、射殺されたのまでいたけど。
そんな情勢にせき立てられるように、本土駐在の在日米軍の兵力の大半は、沖縄や、グアムやハワイへと次々に移転していった。