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令は四年生か五年生くらいに見えた。同じ小学校の子だろうか、それとも噂のように隣の学区の子なんだろうか。ハルトには見覚えがなかった。
レイはにっこりとハルトに笑いかけ「ガイアの友達なら文句ないよ」と、両手を広げて迎え入れる格好を見せた。けれど、ガイアの方を向くと、
「でも、これっきりにしろよな。あんまり人数ふえると、秘密にならないぞ」と、不満げな表情で今度は腕を組む。
「大丈夫。ハルトだけだ」
ガイアのその言葉にハルトはちょっと嬉しくなって、ニヤニヤとゆるんだほおを、隠すようにうつむかせた。気恥ずかしさをごまかすようにハルトは言葉を継いだ。
「秘密基地ではいつも何して遊んでるの?」
「色々だよ。最近ハマってるのは料理だ」
「料理?」
こんな所で? と思っていると、ガイアは大きなホオノキの葉を取り出した。公園に植えられているので探すのは難しくないが、事前に拾ってあったのか、からからに乾いた葉が何枚も積み重ねられて、倉庫の棚板に置いてある。
ガイアはその大きな葉をお皿代わりにして、泥団子を置き、様々な形の葉やノコンギクなんかを添えて、なんとなく一皿料理のように仕上げていく。装飾につかった草花は、そのへんに生えているものだったり、ホオノキの葉のようにあらかじめ摘んで、棚に置いてあったものだったりした。
「なんだ、料理ってママゴトのことか」
ハルトは途端にこの遊びに興味をなくして気の無い声で言った。これじゃあ女子か幼稚園児の遊びだ。秘密基地といえば、ドキドキワクワクの大冒険の計画を練るもんなんじゃないのか?
ガイアはむっとしてふんと鼻を鳴らす。
「ママゴトなんかじゃないぞ。この秘密基地ではな、すごいことが起きるんだ」
「すごいことって……」
だってあとは、この、料理と主張する泥と葉っぱの塊を「はい、召し上がれ」と差し出して、差し出された方は食べる真似をするくらいしか、やることが残っていないじゃないか。
ガイアは葉っぱから泥団子や散らした雑草が落ちないようにソロソロとした動作で、それをハルトに差し出した。そしてハルトが想像した通り「はい、ハンバーグ。召し上がれ!」と、くったくのない笑顔で渡してくる。
「う、うわあ、おいしそう……」
ハルトは上げた口角を引きつらせながら、このオママゴトに乗るか乗るまいかと、曖昧に声を出した。──が。
あれ? とハルトは目を見開いた。受け取ったのは葉っぱのお皿に乗った泥団子ではない。薄い素焼きのお皿の上には、ファミリーレストランで出てくるようなハンバーグとつけあわせの野菜が、おいしそうな湯気と香りを立てていた。
「え? へぇえ⁉︎」
ハルトは驚きのあまりに素っ頓狂な声をあげて、お皿を取り落としそうになった。斜めになって料理が滑り落ちそうになったお皿に、ガイアが慌てて手をそえた。
「セぇぇーフ!」
「どうなってるの、これ! 食べれるの?」
「もちろん、食べれるよ」
ガイアは、ハンバーグに添えてあるフライドポテトをぱくりと口に放り込んで見せた。
「うっそ……」
それは、さっきまでネコジャラシの穂だったはずなのに。
「じゃあ僕は、今日はスパゲティがいいな」
レイが言うと、ガイアはネコジャラシの茎の部分をくしゃくしゃと揉み、まるで麺のようにして葉っぱのお皿に乗せる。それにオオバコをいくらか散らして具のようにすると「はい、スパゲティ」と、レイに差し出した。
さっきはあまりに予想外でよく見ていなかったので、ハルトは、レイが葉っぱのお皿を受け取るのをまじまじと見た。受け取った時は、まだ葉っぱのおママゴト。どうしても目が乾いてまばたきをすると、それはもう、スパゲティに変わっていた。
レイはにこにことして「ありがとう!」と言い、ガイアはそれに「おう!」と答えながら、自分の分の料理を作っていた。ハルトと同じ、ハンバーグだ。
その間にレイが、コンビニでお弁当を買ったりするともらえる、ビニール袋に入った割り箸をみんなに配った。この箸だけが、なんだか妙に現実的で、むしろ異質に感じた。
「腹へった! 冷めないうちに食べようぜ!」
ガイアが、割り箸をパキッとわりながら言った。そして、おいしそうに不思議な料理を食べ始めたのを見て、ハルトもおそるおそるとハンバーグに箸をつける。口に入れてみるとそれは、紛れもなくハンバーグで、しかも今まで食べたことのある、どのハンバーグよりもおいしく感じた。
「ガイアは魔法使いなの?」
もぐもぐと口を動かしながらハルトが聞いた。
「まさか!」
「じゃあ、レイさんが?」
「僕も魔法使いではないよ」
「それなら、これはなんなの? こんなヒカガクテキなこと、起こるわけないじゃん」
「オレたちもよくわかんないんだよ」
「わかんないのに食べてるの⁉︎」
「オレ、けっこう遅い時間まで公園いるだろ? いつの間にか友達で、秘密基地で遊ぶようになって、はらへったなーなんて話しながら遊んで、レイもそうだったんだけど、はじめは名前も知らないままで、やることもないから、葉っぱの上にてきとうにママゴトみたいにそのへんの草乗っけて遊んでたら、それが本物になったんだよ」
「──え? どういうこと?」
ガイアのさっぱりわからない説明にかわって、レイが笑いながらまとめた。
「つまりね、僕たちは遅くまで公園にいるもの同士、友達になって、この秘密基地で遊ぶようになったんだよ。
ある時どうにもお腹がすいて、気休めにママゴト料理をしていたら、本物に変わったんだ。今見た通りにね。でも、この不思議な出来事は説明できないの」
ガイアの話にくらべればわかりやすかったけど、謎はさっぱり解けていない。
けれど、一人ではない夕飯の時間と、コンビニ弁当ではない暖かな料理は、ハルトにとって、そんなちょっとした不思議なんてなにも問題にならないほどに嬉しく、楽しいものだった。