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 次の日の学童帰り、ハルトは少し期待しながら公園をのぞいた。見込(みこ)み通り、ガイアはランドセルを放り出して、何人かの小学生と走り回って遊んでいる。

 今度は迷わず夕方の公園に足を()()れると、ガイアがすぐに気づいて「よう!」と彼に声をかけた。ハルトはにやっと笑って「おう」と返すと、ランドセルをその辺に投げた。


「なにやってるの?」


「オニゴッコ! オニはあいつ!」


 ガイアが答えている間に、あいつと()ばれた四年生の(みなと)はすごいスピードでこちらに向かってきて、素早くガイアにタッチした。


「あぁ! いまはタイムだろ!」


「タイムなんてないから! 油断するのが悪い」


 ガイアは不満そうに早口で(じゅう)を数える。その間に、(みなと)とハルトはオニから距離(きょり)をとるべく全速力で()けた。湊はがたいも大きく、あっという間に遠くまで(はな)れていったので、まずオニのターゲットになったのはハルトだ。

 ガイアも足が早かった。後ろを気にしながら走るハルトはさっさと追いつかれて、早くも(つか)まってしまった。次はハルトがオニ。

 オニゴッコに参加してる五人は、ハルトが十を数えている間、あまり遠くには()げずにジリジリと新参者の動向をうかがっている。

 そしてオニが走り出すと、蜘蛛(くも)の子を散らすように逃げていった。必死に追いかけたが、もともと運動が得意ではなく足も(おそ)いハルトは、なかなか誰も(つか)まえられない。いいところまで距離をつめても、()ばした手はするりとかわされる。ハルトはこの後しばらく、オニをやるはめになった。


 西の空がオレンジ色を少し残すばかりになり、(みな)がランドセルを手に手に帰り始めたので、ハルトもランドセルを背負(せお)ってその流れで帰った。けれどもガイアだけはまた、一人で森の方へと消えていった。



 ハルトは、習い事がない日はいつも、学童の帰りに公園に寄ってから帰るようになった。曜日によって公園にいる顔ぶれは変わるけど、ガイアは必ずいつでもいた。学童がない子に聞くと、雨が()って人っ子ひとりいない日にも、ガイアだけは家に帰らず公園に入っていくらしい。そして、晴れの日も雨の日も、公園から小学生たちがいなくなると、必ずひとり、森へ行く。

 ガイアは「一人じゃないよ」と言っていたけれど、そのもう一人か二人か知らない誰かを、子供広場で見かけたことはなかった。この西側ではなくて、東側の子供広場を縄張(なわば)りにしている(となり)の学区の子なんだろうというのが、遊び仲間たちの見解だったけれど、それも正しいのかはわからなかった。


 ハルトはある日、ついに好奇心(こうきしん)に負けてガイアのあとをつけた。直接聞いても「ハルトは知らない子だよ」「なにしててもいいだろ?」としか答えてくれないからだ。

 注意深く、気づかれないように、木々の後ろに身をかくしながら、ハルトはガイアを追いかけた。こうやって友達を尾行(びこう)して秘密(ひみつ)(さぐ)っているのは、まるで警察(けいさつ)探偵(たんてい)になったみたいで、最高にワクワクした。

 


 森の中は夕暮(ゆうぐ)れの子供広場よりもさらに暗かった。

 レンガ(だたみ)の遊歩道には街灯があったけれど、ガイアはある地点で、遊歩道からはずれて木々の合間に分け入って行った。そこも一応は道になっていた。土の地面ではあるものの、草が少なくて、踏み固められたような歩きやすい(すじ)が通っている。

 遊歩道の明かりはすぐに届かなくなった。道を(たよ)りに下を向いて歩いていると、どんと、何かにぶつかった。


「尾行、ヘタすぎ」


 ニヤニヤとしながら仁王立(におうだ)ちで待っていたガイアが言った。飛び上がるほどに驚いたハルトは、本当に言葉どおりちょっと飛び上がって「わ!」と声を上げる。けれど、すぐになんでもないような顔をして


「ヘタもなにも、べつに(かく)れてたつもりないし」


 と、()かくしに強がった。


「まあいいや。来いよ。特別に仲間に入れてやる」


 ガイアは言うと、くるりと向きを変えて歩き始めた。ずいぶんと(えら)そうな言い方だと思いながらも、仲間にいれてもらえるのは(うれ)しくて、ハルトはついて行った。



 少し歩くと行き止まりがあった。大袈裟(おおげさ)に言うと(がけ)のようになっていて、がんばればひょっとしたら登れるかもしれないその上も、森になっていそうだ。

 崖のふもとに、古くて(かべ)や屋根が()ちかけた小屋があった。小屋は、忘れ去られたように手入れのされていない生垣(いけがき)に囲まれ、入り口になりそうなところはフェンスで(ふさ)がれている。フェンスにはふりがな付きで“()()禁止(きんし)“と書かれた風化した看板(かんばん)()り付けてある。極めつきに、生垣とフェンスをまとめて囲うように、黒と黄色のしま模様(もよう)のトラテープがはりめぐらされていた。


 ガイアは、ランドセルを投げるように中に放り入れると、ためらいなく、人の侵入(しんにゅう)(はば)むフェンスと生垣のすき間を、ほふく前進でくぐり抜けた。


「立ち入り禁止って書いてるよ?」


「つまり、オレたち以外は入ってこないってことだろ? 誰かきたら秘密基地じゃないじゃんか」


 ハルトは意気地なしと思われたくなくて、悪いことをしているのではと胸をちくちくさせながらも(あわ)ててついていった。


 ガイアは、小ぶりのランタン型をしたライトをつけた。囲いの中の小屋は、今は使われていない倉庫だった。中には、()の折れたシャベルや(あな)の空いた金属バケツ、毛が半分ないホウキ、(さわ)ったら(くだ)けてしまう風化したポリペールなどのガラクタがたくさんあった。ずっと前から(わす)れられ、放置されている場所だったのかもしれない。

 ただ、そのガラクタたちはきちんと整理されて倉庫の(すみ)に置かれていた。完全には()まらなくなった(とびら)の代わりに他の道具に比べると真新しいブランケットが、のれんのように垂れ下(たれさ)がっていて、(ゆか)にはレジャーシートがしかれていた。

 ガイアにうながされて倉庫の中に入ると、ハルトの胸はドキドキと高鳴った。人の少ない夕暮れの公園で遊ぶよりも、探偵ごっこよりも、もっとだ。


「秘密基地なのに(すわ)る場所もなかったから、オレたちがちょっと片付(かたづ)けたんだ」

 ガイアが威張(いば)り顔で言った。


「オレたち?」


「もう一人仲間がいるんだ」


 ガイアが言ったちょうどその時、ガサガサと落ち葉を()む音をがしたので、彼は注意深く耳をかたむけた。フェンスもガシャガシャと音をたてた。誰かが立ち入り禁止の区画に入ってこようとしている。ガイアは音をたてた(ぬし)が見える前に「合言葉は?」とたずねた。


「森のなか」


 男の子の声が答えると、ガイアは倉庫からひょこっと顔を出して、彼を手まねきした。姿(すがた)を現した男の子は、ガイアの他に秘密基地に人がいることにびっくりして、丸くした目でガイアとハルトを交互(こうご)に見た。


「友達のハルト、こっちは友達の(れい)


 ガイアは満面の笑顔で、二人にお互いを紹介(しょうかい)した。

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