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第63話 カノジョの居場所

【紫垣美月】


 コウ先輩とカノパイたちの関係性を壊したくないから、ウチの方から離れる……って言った、ウチに対して。


「距離感がぶっ壊れてる? おいおい、誰の前で言ってんだ(・・・・・・・・・)?」


 コウ先輩は、ニッと笑って。


「この俺こそが、二人のカノジョに対して同時にカレシ面なんてしてるキング・オブ・距離感ぶっ壊れ男だぞ?」


 なぜか、自信満々に自分の胸を指した。


「そして、こちらの『カノジョ』たちが」


 それから、手の平で後ろの席のまだ眠ったままのカノパイたちを指す。


「俺を巡る『勝負』を始めた上に、更に告白を断られたにも拘らず『勝負』継続を希望した距離感ぶっ壊れクイーンズだ。それに比べれば、多少距離感が近いくらい何だってんだ」


 そう言われちゃうと……いや、なんか反論しづらくない!?


「やー……でもウチ、非常識っつーか空気読めないとこもあるし……」


「ははっ、それこそ今更だぜ? これまで、俺たちの何を見てきたんだ?」


 やれやれ、とコウ先輩は大袈裟に肩をすくめる。


「俺たちの中じゃ、美月はぶっちぎりで常識人枠だ」


「いや………………うん、まぁ……うん……」


 反射的に否定しかけたけど、これ否定出来ないやつだな?


「大体、マジで空気読めてないんなら自分から離れるなんて選択肢が頭に浮かびすらしないはずだろ?」


「それは……でも……」


「なぁ美月」


 ゴニョゴニョと言葉を濁すウチの目を、コウ先輩は真っ直ぐ見つめてくる。


「美月は可愛い上に格好いいから、人間関係に影響を及ぼしやすいんだろうなってのもわかる……なんて、軽々しくは言えないんだろうけど。それを悲しんで自分から離れる美月の自己犠牲は、きっと尊いものなんだろうと思うけど」


 その目を見れば、真剣にウチのことを考えてくれてるんだってことがわかった。


「だけど、安心しろよ。これだけは、断言出来るから」


 そう言いながら、コウ先輩はまたカノパイたちの方を振り返る。


「この二人の仲は、壊せない……壊れないよ」


「っ……!」


「もし美月が加わることで何かの変化があったとしても、その根底は揺るがない」


 昨日の一件で、カノパイたちはウチのことも本格的にライバル視することになったっぽい。


 それは、ウチの望むところじゃない……と、思ってたけど。

 ウチが割り込むのは違う、って思ってたけど。


 二人の間に(・・・・・)ウチなんかが割り込め(・・・・・・・・・・)()


 答えは、きっとノー。


 ウチが混じって、ウチとも絡むようになっても、二人はきっと事あるごとに張り合って……なのに、その仲の良さは絶対で。


「……でも」


 そう確信しても、ウチの胸にはまだ迷いがあった。


「いいの……? ウチは、ここにいても」


 肯定してくれれば……きっと、ウチはその優しさに甘えちゃう。


「俺からは、いても良いとか良くないとか言うつもりはないよ。そんな資格もないと思ってるし」


 なのに、コウ先輩は。


「ただ、美月が美月であるがまま……本当に美月が望む場所にいてほしいと、願ってる」


 あぁもう……ホントに、ズルいなぁ。


 カノパイたちも、もしかしてこういうとこにやられちゃった感じ?

 まー、これはしゃーないかもね。


 こんなにも真っ直ぐ、『全部』を受け止めてくれるっていうんだからさ。


 だけどさ……コウ先輩、駄目だよ。


 カノジョにするつもりもない相手に、そんなこと言っちゃあさ。


「だったら……覚悟してよね?」


「えっ、何が……?」


 あーあ、本人は全然わかってないみたい。


 ウチの胸の火を、本格的に点けちゃったってことにさ。


 ウチは優香先輩みたいに素直に好意を伝えられないし、玲奈先輩みたいに自分を貫けもしない。

 ウチは可愛くない女だって、そう思ってる。


 だからこれは、最初から勝ち目のない勝負。

 それどころか、本当は勝負するつもりさえなかった。


 だけど。


「コウ先輩に」


 他ならぬコウ先輩が、ウチさえも否定するウチを受け入れてくれるっていうなら。


本気に(・・・)、なるからね?」


 ウチは、ウチのままで。

 この『勝負』に、本気で参戦しちゃうよ。


「コウ先輩が、悪いんだから」


「ちょ、美月……?」


 さーて、まずはカノパイたちとの差を縮めるためにキスの一つでも……。


『はい、そこまで』


 って思ってコウ先輩に唇を近づけてったのに、後ろからニュッて伸びてきた二つの手に阻まれちゃった。


「そこまで許すわけにはいかないよ、紫垣ちゃん」


「というか、いきなり大胆過ぎるでしょう……」


 そっちに目を向けると、いつの間にか起きてた優香先輩と玲奈先輩がウチのことを半目で睨んでた。


「えー、いいじゃんちょっとくらーい。カノパイたちはキスくらい、何回もしてんでしょー?」


「そんなわけないっしょ……!」


「直接どころか、間接キスだってこの間のが初めてよ……!」


「あー、マジ? 思った以上にプラトニックー。てか、じゃあこないだウチが初間接キス奪っちゃったんだ?」


 意外に思って、思わず自分の唇に手を当てる。


「合ってるんだけど、その言い方はちょっと……」


「なんとなく照れるわね……」


 っと、またやっちった。

 たぶんウチは今、ニッて感じの笑みを浮かべてる思う。


 ……でも。


 いいのか。

 ウチは、これで。


「にひ」


 だけど……本気になったウチは、ちょーっと『強い』よ?



   ◆   ◆   ◆


【白石孝平】


 んおっ……!? なんだこの、肉食獣に狙われてるみたいな感覚は……!?


 ていうか美月のこの笑み、凄いイケメンだな……!?

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