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第49話 紫垣家へ

 本日も恒例、放課後の教室での勉強に臨む俺たち。


『………………』


 それぞれ集中しているようで、教科書を捲る音やノートにペンを走らせる音だけが響いている。


「……いや、あっついって!」


 かと思えば、美月がシャーペンを放り投げて天を仰いだ。


「こんな暑いとこで勉強なんて効率悪いじゃん! クーラーあるとこ行こうよー!」


 パタパタとノートで自身を仰ぐ美月の顎から、ポタリと汗が落ちる。


「まぁ、確かにな……」


 俺だってかなり汗をかいている。


 エアコンも設置はされてるんだけど、各教室のは放課後になると切られちゃうからな……。


「といっても、確か図書室のエアコンは今故障中だったわよね?」


「おかげで、自習室も満員だしさー。図書館は遠いしさー」


 玲奈と優香も、不満はあるものの仕方なしという感じだ。


「んじゃ、どっかのお店とかでいいじゃん?」


「今日だけならそれでいいかもしれなけど、毎日は流石にな……」


 主に経済的な理由で、厳しいと言わざるをえない。


「したら、誰かの家に……」


『それは駄目!』


 美月の言葉を遮って、優香と玲奈の声が重なった。


「どこぞの痴女の家になんて、二度と孝平くんを入れるわけにはいかないわ」


「どっかの痴女の罠から孝平を守んないといけないからね」


 ほぼ同時に言って、二人はお互いに睨み合う。


「はぁ、よくわかんないけどカノパイたちの家はNGってこと?」


「前に色々あってな……そういうことになってんだ」


 詳細を語るのは憚られて、俺もそう説明するだけに留めた。


「なら、コウ先輩の家は?」


『んぅっ……!』


 美月の提案に、今度は二人同時に悩ましげに呻く。


「確かに、それは魅力的な案なのよね……!」


「本当なら、アタシだってそうしたいよ……!」


 ちなみに、俺の家での勉強会って案は実は以前にも出てたんだが。


「孝平くんの部屋で、落ち着いて勉強出来る気がしないもの……!」


「絶対アルバムとか見始めちゃうやつぅ……! 前回は色んな意味でそれどころじゃなかったから、尚更……!」


 といった感じの理由で却下されたという経緯がある。


「それに、どこぞの痴女の痴態を孝平くんの家で晒すのは流石にご家族に申し訳無さ過ぎるわ……今まで、奇跡的に取り繕えていたようだけれど」


「孝平の家に、姑息な痴女の罠でも残されちゃったら大変だしね……前回も、卑怯なこと考えてたし」


 これまた、二人ほぼ同時に言って。


『はぁん?』


 お互い、睨み合う。


「あっはー、めっちゃ仲いいじゃんカノパイたち」


 いや、まぁ、実際のとこ仲はいいんだけどさ……この場面を見てそれを口にするとは、なかなかの大物だな……。


「んじゃさ」


 一頻り笑った後、美月は指を立てる。


「ウチの家は?」


 そして、自分を指してそう提案した。



   ◆   ◆   ◆



 結果、美月の提案は通ることとなる。

 実際のとこ、あの暑さの中で勉強するのにも限界があったし……。


「紫垣さんのスタンスを見極める良い機会ね」


「紫垣ちゃんの本性を見極めちゃうよ……!」


 二人には、そういう思惑もあるらしい。

 『家で勉強会をする』って、そんな何かの試練みたいなイベントだったっけ……?


 ともあれ、美月の家のリビングに案内されてしばらく。


「お待たー」


 着替えてくると言って一旦席を外していた美月が戻ってきた。


「んじゃ、ウチの部屋行こっか。ここだと、家族が帰ってきた時に気になっちゃうだろうしさ」


 というわけで、俺たちは美月の後に続いて移動する。


 ちなみに、現在ご家族の方は全員不在らしい。


「……今のところは普通の服装に見えるわね」


 美月の格好をジッと見ながら、玲奈がポツリと呟いた。


 私服姿の美月は、前に見た通り派手めの装いではある。

 が、露出が過剰とかそういうことはなかった。


「紫垣さん……念のための確認なのだけれど」


「なんすかー?」


 神妙な顔で話しかける玲奈へと、美月が振り返ってくる。


「ブラ、してるわよね?」


 ストレートな質問だった。


「あっははー、なに当たり前のこと言ってんすかー。コウ先輩を迎えるのにノーブラとか、痴女の所業じゃないっすかー」


「んぅっ……!」


 邪気のない美月の発言に、優香がちょっとダメージを受けてるみたいだ。


「し、紫垣ちゃんにもう一つ確認!」


「はいー?」


 今度は優香の方に振り返る美月。


「座りながら、手を使わずに徐々にスカートをたくし上げてく技とか持ってないよねっ?」


「えっ……? なんすかその痴女スキル……そんなの習得してる人いたらドン引きなんすけど……」


「んぅっ……!」


 言葉通りちょっと引き気味の美月に、今度は玲奈がダメージを受けている模様。


 なんて言っている間に、美月の部屋に到着した。


「さっ、入って入って」


「んじゃ、お邪魔します」


 美月の導きに従い、部屋に入る。


 中は小綺麗に片付いていて、ローテーブルに向かい合わせで二つずつ、合計四つの座布団も用意されていた。


「……この配置はあまり良くないわね。せっかく用意してくれたところ申し訳ないけれど、こうさせてらもうわ」


 それを、玲奈が一辺に一つずつって形に配置し直す。


「別にいっすけど、なんで?」


「どこぞの痴女が孝平くんの隣になってしまった場合、最終的に孝平くんに窒息の危機が訪れるからよ」


「なんか暗殺者に狙われてるとかそういう話?」


 コテンと首を傾ける美月だけど、まぁそこだけ聞いても意味わからんよな……。


「ねぇ美月ちゃん、悪いけどこの姿見は裏返しにさせてもらうね」


 一方、部屋を鋭い目を見回していた優香がそう言いながら姿見を裏返した。


「別にいっすけど、なんで?」


「どこぞの痴女が孝平に真の姿を見せることのないようにだよ」


「なんか呪い除けとかそういう話?」


 コテン、とさっきとは反対側に首を傾ける美月。


「まぁいいや、早速始めちゃいましょー!」


 けど、最終的には気にしないことにしたみたいだ。


 これをスルー出来るとか、やっぱ大物の器を感じるな……。



   ◆   ◆   ◆



 それから、しばらく。


「コウ先輩、お茶のおかわりいる?」


「ありがとう、いただくよ」


 ──カリカリカリカリ。


「あっ……ねぇねぇ玲奈、ごめんだけどシャーペンの芯一本くれない?」


「はい、好きなだけ持っていきなさい」


「センキュー」


 ──カリカリカリカリ。


「……少し、肌寒くないかしら?」


「アタシもちょっと寒いかもー」


「うぃうぃ、エアコンの温度上げるっすねー」


 ──カリカリカリカリ。


 時折こんな会話が挟まる以外は、カリカリとノートにシャーペンを走らせる音だけが室内に響いていた。


 うん、なんていうか、その……。



   ◆   ◆   ◆



【白石孝平・紅林優香・青海玲奈】


 凄く、普通!!



   ◆   ◆   ◆



【紅林優香】


 えっ……?


 ちょっと待って、何これ何これ……紫垣ちゃんの狙いは一体は何なの……?

 さっきから、ホントにただ勉強してるだけなんだけど……。


 ……もしかして。

 もしかして、ガチで何の思惑もなしに勉強会の場所を提供してくれただけだったの……?


 ……なんてね!


 玲奈の時も、途中までそう思わされて完全に騙されてたからね!

 今度こそ油断しないよ!


 さぁ紫垣ちゃん、いつでも仕掛けてきなよ!

 アタシが返り討ちにしてあげるからさ!


「……なんか、さ」


 来たか!?


「こうやってみんなで集まってると、おべんきょーでも楽しいねっ」


 ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?


 邪念にまみれた怜奈と違って、なんて純真な笑みなの!?


 これまで玲奈とばっかりやりあって来たから、なんか浄化される思いだよ……!

 ごめんね紫垣ちゃん……! マジで何の思惑もなかったんだね……!



   ◆   ◆   ◆



【青海玲奈】


「美月……」


 孝平くんもグッときているようだけれど……正直に言いましょう。


 私も、少し……少しだけ、グッときてしまったわ……!

 煩悩にまみれた優香の相手にすっかり慣れてしまって、友人や想い人とただ同じ時を過ごすことの尊さを忘れてしまっていたのかもしれないわね……。


 ……それはそうと。


 正直なところ、割と最初の頃から薄々気付いてはいたのだけれど。

 この子、優香と結構タイプが違うわね……!?


 ピンクな欲がダダ漏れで行動する優香と違って、なんというか……自然体?

 そもそもこの子は自らセカンドを名乗るくらいだし、そこまで孝平くんの彼女の座には固執していないように思える。


 だからこそ逆に、孝平くんの好感度を最も上げる正解が叩き出せるというの……!?


 これは、もしかしたら……紫垣さんをあっさり受け入れてしまったのは悪手だったかもしれないわね……!



   ◆   ◆   ◆


【白石孝平】


「あぁ、そうだな……みんなだと、勉強してるだけでも楽しいよな」


 優香と怜奈の二人と騒がしくしてるのも、もちろん楽しいんだけど。


 こんな穏やかな時間は久しぶりで……正直、癒しを感じてるのは事実だな……。

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