第43話 最後の時
小一時間ほど、俺たちは一言も話さず只々花火を眺めていた。
「………………」
「………………」
きっと……二人も、この後のことはわかってるんだと思う。
──パン! パン! パパパァン!
最後に少しだけ連続して花火が上がったかと思えば、それっきり。
どうやら、随分とあっけなく終わってしまったらしい。
ちょっとした夏祭り程度じゃ、そんなものだろう。
「さて……」
それじゃ、こっちも終わらせようか。
きっと、それ自体はやっぱりとてもあっけないものになるだろうけれど。
「玲奈」
静かになった中で呼びかけると、玲奈はビクッと身体を震わせた。
それから、ゆっくりとこちらに顔を向ける。
「一年前のこと、ごめん」
まず謝罪すべきは、この件だろう。
「俺がもっと玲奈のことを理解していれば……理解しようと、恐れずに踏み出せていれば。こんなことにはなってなかったと思う。だから、ごめん」
「そんな、私の方こそ……」
「それから」
口をもにょもにょとさせる玲奈の言葉を待たず、続ける。
「勘違いからとはいえ……玲奈って彼女がいる状態で他の女子の告白を受け入れるだなんて、不義理を働いてしまった。本当にごめん」
俺は、大きく頭を下げた。
「……顔を上げて、孝平くん」
玲奈に言われて、顔を上げる。
「それに関しては……全面的に、私の方が悪いわ。貴方を悩ませるようなことになってしまって、本当にごめんなさい」
今度は玲奈の方が、俺に向けて深く頭を下げた。
「それから……一年前、たぶん私の最後の言葉は貴方には届いていなかったわよね? だから今、改めて……あの時と同じことを思っているから、同じ言葉を伝えるわね」
ゆっくりと、上がってきた顔には。
「今日のデート、楽しかったわ」
儚げな笑みが、浮かんでいた。
「いいえ……今日だけじゃない」
ゆっくりと、首を横に振る。
「この三ヶ月、なんだかんだで楽しかった」
玲奈も、俺と同じように感じてくれていたらしい。
「ありがとう、孝平くん」
たぶん彼女は、俺がこの後言うことを察してるんじゃないか……そんな風に思う。
「そして、紅林さんも……ありがとう。私とこんな距離感で接してくれた人、孝平くん以外じゃ貴女が初めてよ。貴女と会話するのも、いつの間にか嫌いじゃなくなってた」
「青海さん……」
予想外の言葉だったのか、優香は顔に驚きを表していた。
「……アタシの方こそ、だよ。この三ヶ月、楽しかった。凄く凄く。それは、青海さんがいてくれたからこそで……アタシも青海さんと話すの、もう嫌いじゃない」
それから、玲奈と似たような表情を浮かべる。
「優香も……ごめん」
今度はそんな優香へと、頭を下げた。
「優香の告白を受け入れたのに……優香のおかげで、立ち直れたっていうのに……結局俺の中途半端な気持ちが、態度が、凄く優香を傷付けてしまった。本当に、ごめん」
「あははっ、そんな畏まらないでよ。ほら、顔上げて?」
言われて顔を上げると、苦笑気味の優香と目が合う。
「まぁ……確かに最初は、おいおいって思った部分もあったけどさ。今、言った通り……アタシも、なんだかんだ楽しかったから。これで良かったんだと思うよ。大体、この勝負自体アタシが言い出したことなんだしさ」
と、優香はそれを微笑に変化させた。
「……ね、青海さん」
そして、玲奈と方へと顔を向ける。
「この勝負の結果が……どうなってもさ」
その表情のまま、玲奈に向けて手を差し出す優香。
「アタシと、友達になってくれない?」
今度は、玲奈の方が顔に驚きを表す番だった。
「……ふふっ」
それから、玲奈も小さく微笑む。
「私の友達判定の甘さを舐めているの? もうとっくに、私の中では友達だと見なしているわよ……優香」
「あははっ、そっか。ありがとう……玲奈」
二人の握手が、固く交わされた。
「……うんっ」
どこかすっきりとした表情で一つ頷き、優香がこっちへと向き直る。
ほとんど同時に、玲奈も同じく。
「いいよ、孝平」
「私もよ」
何が、とは言わなくとも伝わった。
これが……本当に、最後だ。
「玲奈」
もう一度呼びかけると、二人同時にビクリと身体を震わせる。
俺は、ゴクリと唾を飲んで。
「俺と、別れてください!」
大声でそう言いながら、勢いよく頭を下げた。






