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第22話 溺れる策士たち

【紅林優香】


「それじゃ、孝平……」


 孝平の腕を引いて、早速プールで遊ぼうとしていたアタシだったけど。


「あの……キミ、めちゃくちゃ綺麗だね?」


「俺たちと遊ばない?」


 背後からそんな声が聞こえたから振り返ると、青海さんが男の人二人組に声を掛けられていた。


 それに対して青海さんは、ゴミを見るような目で口を開いて……。


「あっ、すみません! その子、俺のツレなんで!」


 何か声を発する前に、孝平が割り込んだ。


 うん、正解だと思うよ……ナンパって、下手に冷たく返すと逆上される可能性があるからね……。

 青海さん、軽くあしらうのとか下手そうだし……。


「あぁ、やっぱり彼氏が……」


「そりゃいる……よね?」


 ですよねーとばかりの顔を浮かべる男の人たちだけど、こっちに目を向けると怪訝そうな表情になった。

 たぶん、私が腕に抱きついたままだからかな。


 私たちの関係性を図りかねてる、って雰囲気だ。

 まぁそれこそ、ですよねーって感じではあるけど。


「ガルルルル……!」


 孝平との時間を邪魔する者はさっさと排除! という気持ちで威嚇してやる。


「あ、えと、じゃあ俺たちは……」


「これで失礼しまーす……」


 すると男の人たちは、ちょっとビクッとなった後で去っていった。


「ありがとう、助かったわ」


 と、青海さんが表情を弛緩させてお礼を言ってくる。

 やっぱり、青海さんでも男の人に声をかけられるのは怖い部分もあるんだね。


 それはそうと、トラブルも去ったことだし……。


「孝平、まずはあっちのプールに……」


「ねぇねぇお姉さん、めっちゃ美人だねー。モデルさんか何か?」


 行こっか、って声と青海さんをナンパする男の人の声が重なった。


 嘘でしょ、孝平の視線がアタシの方に向いたこの一瞬で……!?


「すみません、その子は俺のツレです」


「ははっ、なんだそう……か?」


「ガルルルル……!」


 さっきと同じ流れを繰り返す。


 その後も……。


「なんだかんだ、スタンダードなプールもいいよね! 孝平、アタシと競争……」


「へーい彼女ー、ちょっと時間いい?」


「すみません、その子俺のツレです」


「でもやっぱ、目玉のウォータースライダーは外せない! 孝平、後で二人で……」


「こんなところに女神が!? 僕と結婚してくれないか!」


「すみません、その子俺のツレです」


「流れるプール……」


「やぁやぁお姫様! このわたくしめと……」


「すみません、その子俺のツレです」


 駄目だ、孝平がこっちを向いた瞬間に次々と男の人が声をかけてくるせいで全然孝平の気を引けない……!

 ていうかもう、孝平の意識は完全に青海さんを守る方向にいっちゃってるし……!


 ぐむむ……まさか、こんなことになるとは……!

 本当に、策士策に溺れるとはこのことだよ!



   ◆   ◆   ◆



【青海玲奈】


「ふっ……」


 悔しげな紅林さんに対して、不敵な笑みを向けてやる。

 策士策に溺れるとはこのことね。


 ……だけど。


 正直、内心では敗北感でいっぱいだった。

 今の笑みは、精一杯の意趣返し。


 だって、水着対決は私の完敗だもの。

 孝平くんも、紅林さんの水着姿は具体的に褒めていたのに私に対してはフワッとした評価だったし……。


 というか改めて、あの胸は反則よ。

 私に声をかけてくる男たちだって、紅林さんに気付くと必ずそっちに目を奪われるし……。


 孝平くんも、紅林さんに胸を押し付けられてデレデレしちゃって……くっ! この淫魔め!


「よぉ姉ちゃん! ワイと……」


「すみません、その子俺のツレです」


 だけど、この状況はそう悪くない。


 むしろ、ちょっと気分が良かった。

 次々と声をかけてくる男の人から守ってくれる孝平くんは、私のナイトみたい。


 結果的にだけど、孝平くんが私のことを追いかける構図にもなってる。

 いいじゃない、いいじゃない。こういうのよ、求めてたのは。


 せっかくだしこの状況、最大限に利用させてもらうわよ?



   ◆   ◆   ◆



 ……と、意気込んでいた私だけれど。


 数分後には、己のミスを後悔していた。


「こ、孝平くーん? 紅林さーん?」


 完全に、二人とはぐれた。


 孝平くんに追いかけさせようと調子に乗って、どんどん離れる方向に歩いていったのがマズかったわね……。


 オープンから間もないこともあってか、施設内は大盛況。

 この人混みだと、ちょっと探すのは難しいかも……。


「お姉さん、一人? せっかく来たんだし、俺と一緒にちょっと遊ばない?」


「結構よ」


 そして、一人になると改めて実感する。


「まぁまぁ、そう言わずに」


「友達と来ているから」


「そうなの? じゃあ、はぐれちゃったんだ? 俺も探すの協力しちゃうよー」


「遠慮しておくわ」


「そう言わずに、人手はある方がいいっしょ? あっ、俺の友達も呼んじゃうしさ」


「………………」


 孝平くんのナイトっぷりは、本当に頼もしかったわね……。


「あー、ついに無視? それはちょっと酷くなーい?」


「………………」


「ほら、一人じゃ寂しいでしょ? 友達が見つかるまでの間だけでもさー」


 というか、しつこい……!


「失せなさい、私は一人を苦になんてしない」


 イラッとして、つい棘のある言葉を向けてしまった。


 私の、悪い癖。

 言葉選びをすぐ間違えてしまう。


 だけど、今言ったのは本音でもある。


 今すぐ視界から消えてほしかったし……私は、一人を苦にしない。


 ずっと一人だったし、それで良かった。


「おいおい、こっちが下手に出てりゃ……」


 そう……。


「すみません、その子は!」


 彼が、現れるまでは。


「俺の、大切な人なんで!」


 貴方は、いつだって私の傍に来てくれるのね……出会ったあの頃から、変わらずに。

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