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第11話 そして青海家へ

【紅林優香】


 ふぅ、この間の勉強会は充実した時間だった……。

 ちょっとやりすぎちゃったところもあった気はするけど、孝平と存分にイチャつけて大満足。


 だけど……その分、『逆襲』を警戒しないとだよね。


 ……と、気合いを入れて乗り込んだ青海さんの家だけど。


「玲奈、ここってこの公式使うんじゃないのか? なんか答えが合わないんだけど」


「そこは引っ掛けになっているから、こっちが正解よ」


「あぁ、なるほど確かにな」


 勉強会は、拍子抜けするくらいスムーズに進んでいた。


 青海さんの服装もゆったりとした白いワンピースで、露出も大したことはない。

 あまりによく似合っていて、個人的にちょっと悔しくなっちゃったって程度だ。


 青海さん、一体何を企んでいるの……?


「紅林さん、どうしたの? 手が止まっているわよ?」


「あ、はい……」


 青海さんに指摘されて、慌ててノートに視線を落とす。


「貴女、わかってる? そのレベルじゃ、全教科赤点でもおかしくないんだからね?」


「あ、はい……」


 正直自覚はあったので、耳が痛かった。


「わからないことがあれば、遠慮なく聞きなさい。私は、今更ここで数時間失ったところで痛くも痒くもないんだから」


「うん、ありがと……」


 実際、さっきから青海さんはアタシが質問すれば凄く的確に答えてくれていた。

 ぶっちゃけ、かなり助かっている。


 ……もしかして。

 もしかして、今回の勉強会……青海さんに、他意なんてなかったんじゃ……?


 単に、孝平と一緒に勉強したくて……いや、それどころか。

 まさか、アタシの成績が良くないのを知ったから開催してくれた……とか……?


 だとすれば……だとすれば、アタシはなんて浅ましい女だろう……!

 勝手に、青海さんからの挑戦状だろうって勘違いして……前回は、あんな痴女紛いのことまでやって……!


 くっ、青海さんの親切に対して申し訳が立たないよ……!

 よし、今からでも謝ろう……!


「あの、青海さん……」


「ふぅ、暑いわねぇ……エアコンの温度、もう少し下げましょうか」


 謝罪のために呼びかけたけど、青海さんの声が重なって聞こえなかったみたい。


 それじゃ、改めて………………んんっ?

 なんか、妙な違和感があるような……?


 暑い暑いと言いつつ胸元をパタパタさせる青海さんだけれど、それにしては涼しい顔だ。

 汗の一つもかいてないし。


 うーん……でも、だからってそれが孝平へのアプローチに繋がってるとも思えないんだよなぁ……。

 青海さん正面の孝平からだと、ブラチラが見えるわけでもなし……。


 嗚呼駄目だ、アタシはまた薄汚れた心で青海さんのありもしない思惑を探ってしまってる……。

 きっと、青海さんに他意なんてないんだ。


 ほら、孝平だって……。


「………………」


 ……んんんっ?

 そういえば、さっきから孝平の視線が妙に泳いでるような……?


 だけど、青海さんの方を見てるってわけでもなし……じゃあ、どこを……。


 ……姿見?


「っ……!?」


 まさか……!?

 いや、きっと考えすぎだよ……!


 でも……そ、そう、確かめるだけ……。

 これで何もなかったら、今度こそ青海さんにちゃんと謝ろう……!


「お、おっとぅ、シャーペンが転がり落ちてしまったぁ」


 だいぶ大根役者な演技で、孝平の後方にシャーペンを転がす。


 そして、孝平と同じ視点で姿見を見てみた。

 すると……。


「っ!?」


 こ、この女……!

 鏡に映すことで、孝平にだけブラチラが見えるよう調整している!?


 いや回りくどくない!?

 そんで、やっぱり思いっきり自分のフィールド利用してんじゃん!


 し、しかもこのブラ……!


「エッロ!?」


 思わず、そう叫んでしまった。


 それくらい、大人っぽくてエッチなブラだったから……!

 清楚なイメージの青海さんが身に着けることで、更に威力を増している……!


 見破ったよ、青海さん!

 『チラリズム』と『ギャップ』、これが今日用意した貴女の武器だったんだね!?


「優香、急にどうした……?」


「痴女の脳内ピンクが溢れ出たんじゃなくて?」


 孝平がちょっとビックリした表情でこっちを見て、青海さんは手を止めないまま。


 何をいけしゃあしゃあと……!


「どっちが痴女なのかな!? そんなエッチな下着を見せといて!」


「っ……!」


 ズビシと指差して指摘してやると、青海さんは明らかに動揺の色を見せた。


 だけど、それも一瞬のこと。

 すぐに、余裕の表情を浮かべる。


「意外ね、気付かれるとは思わなかったわ……けれど、貴女よりは随分とマシでしょう? 私は、直接的な接触はしていないのだから」


「いや、あのキャミは布も分厚くてアウターとしても着られるやつだったし! それに対して、ブラ見せは完全にアウトでしょ! 見せちゃいけないとこ見せてるんだからさ!」


「身を包んでいる布の枚数としては、ノーブラキャミでもブラでも一緒でしょうに」


「その理屈が、もう痴女!」


「やかましいわねぇ……」


「……んんっ? ちょっと待って青海さん、なんか不自然に身じろぎ多くない?」


「気のせいでしょう」


「って、あぁ!? さっきから、身動ぎする度にスカートがちょっとずつたくし上がってる!? なんなの、その謎の技術!?」


「気のせいでしょう」


「いやもう、完全に気のせいってレベルじゃないって! ていうか、私が指摘したからって加速してるでしょ明らかに! えっ、ていうか……そこまでいって見えないってことは……まさか、穿いてない(・・・・・)!?」


「失礼ね、ちゃんと穿いてるわよ」


「穿いてるんだとしたら、逆にその下着がヤバくない!? やっぱり痴女だよ、痴女!」


「うるさいわよ、痴女」



 ◆   ◆   ◆



【白石孝平】


「二人共、あんまり女の子が痴女痴女言うもんじゃないぞ……?」


 どんどん険悪な雰囲気になっていく二人を、苦笑気味に宥めようと試みる。


「ちょっと孝平! そう言いながらも、なんでまだチラチラ鏡の方見てんの!?」


 が、優香はよりヒートアップしてしまった。


 なるほど、言わんとしていることはわかる。

 わかるけども。


「いや、前回優香のことをしっかり見てしまった手前こうしないと不公平かな、と」


 これもまた、俺の譲れない一線だった。


「ぐむぅ……! そこを突かれると抗議しづらい……! ……ハッ!? まさかこれが、青海さんが先攻を譲った理由!?」


「ほほほ、何のことかしら」


 と、そんな感じで。

 結局、今回の勉強会もグダグダになったのだった。

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