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「秘する理由」  さぞや激怒するでしょうね。アルプレヒト公爵は。

「こんな話を知れば、さぞやアルプレヒト公爵は激怒するでしょうね」


 ゴーマが云うと、師は冷笑する。

                

「俺が娘を殺し、その孕んでいた子をさらったということ。その話を、公爵の奴は一切知らん。が、知ったとたんに、怒り狂ってこちらに殺意を向けてくるだろうな」


「愛娘を殺されては当然でしょうね。公爵は娘を溺愛していたと聞き及びますから」

                   

 ゴーマは軽く肩をすくめた。

                  

「ただ娘が宿していた子については、公爵の情は薄かったようですが。娘が宿していたのは、公爵の意に沿わぬ相手の子だったというだけに。堕胎させようと目論んでもいたのでしょう? 孫となるその子を。つまりはルートヴィヒを、公爵は。その父親が気に入らぬことから。そう師から聞いていますけど」


「そうだ。ただし公爵は、世間には秘密にしている。娘が男にはらまされて、自分に孫がいたという事実はな。秘密にしているのには、わけがある。これも、もうおまえには話しているから知っているだろうが。まあ、ありていに云えば、娘をはらましたのが大した身分でもない男だったからだが」

 

 師は杯を唇に寄せ、火酒を含む。


「公爵令嬢が生存中には、公爵は娘をもっとふさわしい男に娶せるつもりだった。のみならず娘が傷ものにされて以後も、その望みを捨てきれなかった。

 だが娘がはらまされて傷ものにされたとあっては、縁談に差し障りがある。それで娘が宿した子を堕胎させ、傷ものになった事実を隠そうとしやがったんだ。

 ただ娘の死後にはその縁談を組む必要もなくなるからな。当然、縁談に差し障らないようその事実を隠さなくてはならないという動機も消えてなくなるが、それでも公爵としてはだ。大した身分でない男に娘が孕まされたあっては、みっともなくてそのことは口外もできなかった。そのため娘が死んだいまとなっても、公爵は秘密にしているというわけだ。娘がはらまされた事実を、世に明かさずに伏せてな。

 にもかかわらず、こうした事情をこちらが知っているのは当の本人だからだが。この俺こそが、公爵令嬢の殺害の。だけでなく、公爵の孫であるルートヴィヒの拉致の。

 ルートヴィヒにとっては、憐れな話なわけだが。自らの祖父である公爵が、その孫である奴に対してこうも情が薄かったってなると」


「そうですね。とはいえ、たいていの者は逆上しますから。肉親をさらわれては」


 ゴーマは答える。


「ですのでいくら公爵が孫に対して情がもとより薄かったとはいえ、間違いはなさそうですけど。一応は血を分けた孫をさらったのだと公爵に悟られれば、その怒りを買って殺意を向けられるのは。仮に公爵令嬢を殺したことを知られなくても。その一件を知られただけでも」

        

「そうだな。だが公爵に殺意を向けられては厄介だ。奴には強力な私軍もある。まして奴はさきほど云ったように、この国の軍の総司令でもある。こちらをなんとしても殺そうと思えば、その力を利用して国の大軍とて持ち出してくるだろう。

 そうなれば、こちらはひどく危険にさらされる。多勢に無勢で、逃げ切れるかも定かではなくなるだろう。いくら普段から鍛錬をし、強さを身に着けていようとな。だから危険を避けるためにも、その怒りを買って殺意を向けられるのはこちらとしても避けたいところではある」


「師がその娘を殺し、孫をさらったという話は是が非でも秘密にしておかねばいけませんね。公爵に知られて、その怒りを買わないためにも」

                    

「ルートヴィヒがアルプレヒト公爵の孫だという事実もな」


 師は語調を強くして云った。


「俺が奴の娘を殺してその孫をさらったという経緯を、今後とも公爵は知らなくともだ。ルートヴィヒが奴の孫だという事実だけを、公爵に何かの拍子で知られることがないとは云えん。

 その場合、さらわれた孫がここにいることの釈明を求められるだろう。いままでどうして黙っていたのかも。

 もちろんルートヴィヒが公爵の孫だと知らなかったと偽り通せれば、なんの問題もなく釈明を終えられるわけだが」

                   

「なにも知らなかったのであれば、責められるべき理由がなくなりますからね」


「しかし事はそう簡単ではない。まず公爵は、生半可な相手ではない。最高司令という地位に就くだけに、頭も冴えている。

 こちらが知らぬ存ぜぬを押し通そうとしたところで、その偽りを見抜くかもしれん。そうなれば、公爵は長年そのことを隠していた罪で俺を処断しようとするだろう」

                

 ですね。この話も聞いたことがあるので、ゴーマは淡々と相槌を打った。


「それにくわえてだ。たとえ奴の正体を知らなかったと偽り通せたとしても、処断されることに変わりはない」


「そうですね。こちらは公爵の孫を、長年のあいだ粗末に扱っていますから」


「そうだ。奴が俺の弟子として、下働きをずっとさせられていることは周知の事実だ。なので、それについては隠しようがない。

 つまりルートヴィヒの奴が、その実の孫だと公爵に知られてしまえばだ。奴を粗末に扱っていることについても、公爵に知られてしまう次第になる。

 結果、必然的にこちらは公爵の怒りを買ってしまう。

 我々は賤民で、ルートヴィヒは公爵家の人間だ。しかし賤民ふぜいが自分の身内をぞんざいに扱うことなどは、まず大抵の貴族は許しはしないからな。それについては、公爵にしても例外ではないだろう。

 必ずやこちらを処断しようとしてくるだろう。奴は娘が身ごもっていたとき、その孫については情が薄かったようだが、それでもな。

 たとえこちらがルートヴィヒの奴を公爵の孫だと知らなかったと偽り、それが通ったとしても粗末な扱いをしていたからにはそのことを責めたててきてな。

 かりにも血をわけた孫がぞんざいに扱われていては、公爵とて面白くなかろうしな」

                   

 ゴーマは無言でうなずいた。



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