死刑執行人は、今回の騒ぎで無罪が確定する。
そこで国はべつの原因を怪しんだ。他勢力との争いで灰色の狼が全滅したというのも、その原因の一つである。
ほかの傭兵隊やら賊などの、なにかしらの勢力に襲われて灰色の狼は全滅したのでは?
そういう疑いも国は持ったのだ。とはいえその事件が起きた当夜、町のすぐ近くには存在していなかった。賊やほかの傭兵隊といった他勢力は。
もっとも、すくなくとも片道で一日以上はかかるほど離れたところに他勢力は点在していた。国はその情報が正しいという裏も取ってあった。
それほどまでに離れたところにいたとなると、他勢力が灰色の狼の壊滅に関与しているかどうかは怪しく、国としても判然としなかった。
あるいは、関わっていないように思えもした。来るのに一日以上もかかる、そこそこ離れた場所にいたことから考えて。来るのに一日以上かかるなら不可能だからだ。事件が起こった当日中に、町にまでやって来るのは。
しかし離れた場所にいるとあくまで表面上は見せかけておいて、実際にはすぐ来れるところにいて灰色の狼を襲撃したということも考えられる。
なにしろ表向きそう見せかけておけば、襲撃をしてもその当日中には来れない離れた場所にいたという証立てになる。そんな離れた場所にいれば、その事件に関与しておらず罪に問われないであろうと計算している可能性も否めないからだ。
それでも、やはり他勢力は今回の一件に関与していない可能性の方が大きいという見方が国では大半を占めた。
そもそも他勢力らしき屍が町にまるでなかったのだ。その点がおかしかった。他勢力の襲撃を受けて灰色の狼が全滅したというのなら、相当な争いになったはず。実際、そこそこの争いになった痕跡は町のなかで見受けられた。
屍が町で散乱し、家々も燃えて壊されている部分が多くあるというのがそれだ。
にもかかわらず国の調査の結果、まるで見当たらなかったのだ。相当な争いが起きたはずのウルグス町には、他勢力の屍が。
相当な争いになっていたと思われるのに、他勢力の屍がまるでないというのは、これもまた不自然であろう。灰色の狼は傭兵隊として強かった。その相手をすれば、被害をまるで出さずに勝つのはまず不可能だ。すくなくとも、当夜その町の周囲にいた他勢力の力では。
そんな真似ができるほどに、灰色の狼の実力を上回る他勢力は町の近辺には皆無だった。
訝しい点はまだある。それは町で集められていた金品がまるで持ち去られておらず、放置されていたという点だ。
襲った勢力がいたとしても、自分たちの暮らしや欲望のためにも金品は必要とするはず。しかも町から集められたと思われる金品は、目につく場所に放置されていた。
それを町を襲った勢力が見逃すとは思えない。普通ならすぐに見つけ、戦利品としてすべて持ち去るはずだ。にもかかわらず金品は放置されていたという状況も、国としては当惑を禁じ得なかった。
もちろん、自分たちの関与を否定するために襲った勢力側が手を打ったと思えばすべて納得はできる。まずは他勢力の屍が一体も町になかったことについても。
自分たちの仕業と悟られぬよう、あるいは自分たちの側に死者は出さずに灰色の狼を全滅させるという快挙をやってのけたのかもしれない。もし灰色の狼を襲撃した他勢力がいたとしたら。
もしくは死者が出たのだが、その事実をうまく隠していることも考えられる。味方の屍をどこか容易に発見できないところへ葬るなりして。
金品についても、あえて放置したのだという見解も出た。
戦利品として奪ったとしても、その金品を見つけられれば今回の一件に関与した証拠となってしまう。そうなると困るので、関与したという証拠が出ることを防ぐためにという観点から。
しかし結局のところ、他勢力が今回の一件に関与したと断じられるだけの有力な情報や証拠についても、国はあいにくと得られなかった。
他勢力なら灰色の狼という傭兵隊を全滅させられなくもないので関与の否定を完全に捨て去るのは無理があるが、決定打がない以上はそうだと断じることもまたできなかった。
では他勢力ではないとすれば、なにが原因だというのだ?
ほかに、灰色の狼が全滅するに至った理由はあるのだろうか?
事態の究明のために国ではさらに話し合いが持たれたが、じつのところなくもなかった。その理由として、より強く主張された事柄は。
一つだけあった。それは灰色の狼の仲間割れ、その傭兵隊の同士討ちだった。
国による調査の結果、すくなくとも同士討ちがおこなわれたと思われるだけの痕跡も町に残されていた。
その痕跡とは、味方で相争ったらしい同士討ちを匂わせるような遺骸が多数認められたことだ。傭兵隊の副隊長の遺骸も発見されたが、彼にしても背後から手下の剣で一突きにされて息絶えているのが認められた。
金品が放置されていたことも、同士討ちが起きたのなら納得ができた。ウルグス町で灰色の狼が全滅した理由についても。
つまり、国はこう見立てたのだ。
傭兵が賊のように町を荒らすことはよくある。とすると金品目当てに、灰色の狼も略奪をしに今回ウルグス町を訪れたのかもしれない。
辺鄙な場所にある町は、警戒が手薄なこともあって略奪しやすいと考えて。
町は悪党の巣窟と化していても、灰色の狼ほどの猛者の集まりなら蹴散らすのは容易かろう。たとえ悪党が町にいたとしても。
町は現在のところ寂れているが、それなりに金品もあると灰色の狼側がみなしたとしたら略奪の対象にすることは充分にあり得る。自分たちの暮らしをより良くし、その欲望を満たすためにも。
王国軍の一員となることは決まっていたが、もとが傭兵なだけに略奪で金品を得ようとする考え方は染みついてもいるであろうことから。辺鄙な場所にある町だけに、略奪しても露見せず罪にならないとも計算して。
しかし略奪される町の住人がわとしては、傭兵の略奪を厭うに決まっている。略奪などされては暮らしが成り立たなくなって。当然のごとく傭兵隊が略奪をおこなえば、町の住人は反発するであろう。
そこで灰色の狼は略奪を邪魔させぬためにも、その反発を防ぐべく暴力を用いて解決することにした。おかげで町の住人は全滅の憂き目にあった。町には悪党もいたはずだが、そいつらもその邪魔になったので殺されたのであろう。
しかし略奪はしたものの、結局のところ灰色の狼は同士討ちを起こした。おそらくは金品の取り分でも巡って。それが傭兵隊の壊滅につながり、その果てに金品も放置される次第になった。
もちろん、こうした国の見解が必ずしも真実とは限らない。しかし同士討ちの痕跡がある点は、紛れもない事実だった。
くわえてこの見解よりさきに挙げられた、灰色の狼が壊滅することに繋がったとされるほかの原因。つまり死刑執行人や他勢力の関わりは、同士討ちがおこなわれたという話に比べてしまえば、より信憑性に欠けたあやふやな見解に国には見えた。そうだと断ずるだけの決定打に欠けているために。
むしろ同士討ちによって壊滅したとした方が、町に残った痕跡からしても説得力があった。おかげで最終的には、この同士討ちの見解が国でもっとも有力視された。
これにより、今回の事件については一応の解決をみた。同士討ちがおこなわれたものとして、国は判断を下したのである。裏付ける確証がないので確信はないものの、そうみなした方が自然なこともあって。最終的に国はこれが真相だと結論づけた。
今回の一件も朧の仕業ではないかという意見も出たが、確証がないうえに同士討ちの線が濃厚だったために却下された。
こうした動きが出るにつれて、死刑執行人についても国は決を下した。今回の一件には、死刑執行人にはなんら責任がないと。
灰色の狼の全滅は死刑執行人の仕業と考えられるだけの確証もなく、彼らの話のつじつまもあう。それにだいたいが、八十人ほどいる猛者ぞろいの傭兵隊をたった四人の死刑執行人が全滅させたと結論付けるのには無理がある。そう考えられたこともあって。
結局のところ死刑執行人は、腕前も人数も猛者ぞろいの傭兵隊に劣る。そんな死刑執行人ふぜいが、傭兵隊に対して何ができるものか。そうした意見が国側で大半を占めたこともあって。
結果、死刑執行人はなんの罪にも問われなかった。
犯人探しを含めた今回の一件のすべての捜査も打ち切られる次第となった。ともかく、事態がこうして一応の落着を見たことによって。真相はまったく違うのだが。
しかし国が真相に気づかないことで、今回の一件の真犯人である死刑執行人たちは裁かれずに済んだ。数多くの人間を殺め、本来なら厳罰が科されて然るべきはずの重罪を犯した身であるくせに。
いけしゃあしゃあと国の追及を切り抜けて、いつもの生活に戻ることになったのだった。




