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国はウルグス町と傭兵隊、灰色の狼壊滅の報を受けて、事態の究明に乗り出す。

 ウルグス町、壊滅。後日、この報せは王都にまで知れ渡った。

                   

 これがただ単にウルグス町が壊滅したというだけの話なら、国も何もせずに放置するだけだったろう。

                   

 この時代に於いては、よくある話なのだ。辺鄙な場所にあるちいさな町一つごときが、大したことのない理由で壊滅する程度の話など。


 いまは戦乱の時代でもあった。もっと大きな都市や国が、ひどく荒れることもあるのだ。戦争、あるいは災害で。賊や、それと同然の真似をして町や村を荒らす傭兵による被害もことさら珍しくもない。

                   

 この悠遠大陸自体が、いまはそんな状況下にあるのだ。ウルグス町を支配下に置く、アウルムトニトルス王国とて例外ではない。

                   

 そんな時代である以上、本来なら国としては捨て置いていてもいい件ではあった。ウルグス町のようなちいさな町ごときが壊滅したという話は。

                   

 ましてやウルグス町など、アウルムトニトルス王国としては現在ほぼ見捨てているのだから、なおさら気にすべき話ではない。

                   

 それでも今回ウルグス町壊滅の一報を受けると、アウルムトニトルス王国としては関知せざるを得なくなった。

 正式に王国軍に編入された傭兵隊、灰色の狼。それがウルグス町とともに全滅したという事態を受けては、さすがに無視するわけにもいかなかった。

                  

 正式に王国軍の一員となることが決まっていた傭兵隊が潰されては、国が被害を受けたも同然だからだ。もし誰かがこんな事態を犯し、その者を放置したままにしておいて処罰しなければ国の権威が損なわれてしまう。

                   

 威信にかけて、国は事態の究明のため捜査にすぐ乗り出した。犯人探しもおこなわれた。当初、国としては犯人を必ず捕らえて死罪に処すつもりだった。

                   

 灰色の狼は少数で構成された隊とはいえ、犯人は無用に王国軍の一員となった兵を損なわせて国に被害を与えたのだ。国としては到底許せるはずもなかった。王国軍に楯突くような、こんなふざけた真似をしでかした犯人などは。

                  

 そこで国としては、まずは探した。事件が起きた夜にウルグス町にいた人間を。事件の目撃者を。目撃者がいればてっとりばやく事態が究明でき、誰の仕業かということが判明するからだ。

                  

 しかしながら国としては残念なことに、事態の究明につながる目撃者は一切集められなかった。

                   

 なにしろ町自体が辺鄙な場所にある。ウルグス町には悪党が巣食うという悪い噂もあり、訪れる旅人もすくない。有力な情報を知らせた者には金を出すことにして目撃者を募っても無駄だった。

                   

 実際にそのとき町にいたと思われる目撃者は一向に現れなかったのだ。国も待つばかりでなく、人を多勢動員して目撃者を探しもしたが、まるで一人として得られなかった。すくなくとも、国が信用できると思える目撃者を。

 目撃者と称し、いかにも嘘くさい情報を金目当てでもたらす者とは関りあえたが。しかしその云うことは信憑性がひどく低く、信じるに足りない。

                   

 この結果を受けて、国としてはこう結論づけた。

 事件に直接かかわった当事者たちを除き、そのとき町の近辺にいて、今回の一件を目撃した者などはどうやら誰一人としていなかったと。

 しかも目撃者となり得る、事件の当事者たちもいまや存在しないのかもしれないと。事件時に、殺されるなりして。


 国としてはごく短期間しか目撃者を探さなかったが、それでも人を多く配して探してもこの有様なのだ。これではそうした結論を下さざるを得なかった。

                   

 ただし、国も無能ぞろいではない。その騒ぎが起きた同日に、王都の死刑執行人が町へ来訪していたことについては突き止めた。それで死刑執行人が何かしらの事情を知っている可能性もあると考え、国は彼らから事情聴取をおこなった。

                   

 その際、死刑執行人側もウルグス町へ当日に全員で来訪したことは認めた。国の命令により、町にその全員が処刑のために赴いていたのはすでに周知の事実でもあった。隠せることでもなかったので、彼らはあえて否定しなかった。

                   

 だが今回の一件に対しての関わりは一切、否定した。国が彼らから聞きだした話によれば、処刑後すぐに町を出たという。死刑執行人たち全員は、王都に戻るべく。いつもなら処刑後、町に一泊するのが常だというのに。

 彼らがそうしたのには、理由があるということだった。


 どうやらその話によると、彼らはかなりの被害を受けたようだ。町を訪れたものの、そこで。弟子たちはひどい怪我を負わされたという。死刑執行人を嫌う、町にいた悪党から。とりあえず、からくも抵抗して難を逃れられ、命は助かったらしいが。

                   

 しかしながら、さびれた町ではろくな治療もできなかった。それですぐに王都に戻らざるを得なかったらしい。今回はいつものように、一泊もできずに。

                   

 ただ彼らの話では、そのときにはウルグス町は平穏だったという。そのため彼らとしては、わからないとのことだった。なぜ町が壊滅してしまったのか、その理由については。

                   

 その話を聞き、国は疑いを持った。赴けばいつもそこで一泊する連中が、今回すぐに町を出たというのはいかにも嘘くさい。

                   

 まして全滅した傭兵隊、灰色の狼は王都の死刑執行人ベルモン・グローもかつて所属していた。その傭兵隊が全滅したのだ。ベルモン率いる死刑執行人たちがウルグス町に出向いた当日の夜に。同じウルグス町で。これはなにか関連がありそうだと国も怪しんだのだ。

                  

 第一、灰色の狼の行動もいかにもおかしいと云わざるを得ない。そもそも、かの傭兵隊にはウルグス町に赴くような命令などは国からまるで出されていなかったのだ。にもかかわらず、なぜか傭兵隊は出向いた。死刑執行人たちが赴いた場所に。しかも同日に。その行動は、あまりにも不自然であった。

                   

 なにか理由があって行ったはずだし、その同日にベルモンたちと同じ町に出向いたというのはいかにも関連性があり、裏事情がありそうで胡散臭かった。

                   

 ベルモンたち死刑執行人と灰色の狼とのあいだに、なにかしらの衝突がじつのところ町であったのではないかと疑う者も国にはいた。

                   

 ベルモンはもとは灰色の狼を率いていた。その関係上、ベルモンと灰色の狼とのあいだになにかしらの諍いが起きたとしても不思議ではない。

                   

 そのうえベルモンはもとが凄腕の傭兵。現役を離れてもう長い年月が経つが、いまもそれなりの剣の腕前を持つかもしれない。事実、世間の迫害から身を守るために、ベルモンは弟子とともに剣の鍛錬をしているらしい。死刑執行人たちも、その話を公表している。

                   

 であればベルモンは弟子とともに、灰色の狼と諍いを起こしても戦えるかもしれない。すくなくとも本人たちがそう考えて、傭兵隊と争いを引き起こす可能性も大いにありうる。

                  

 それに彼の弟子たちの怪我にしても怪しい。彼らの云い分によると、町の悪党に危害を加えられたことで怪我を負わされたということだが、それが事実だと示せる証拠はなに一つとしてない。目撃者もいないことで。そうなると、その話を鵜呑みにはできない。

 なにかしらの理由で灰色の狼との争いが彼ら死刑執行人とのあいだで引き起こされ、そのあげく弟子たちが怪我を負ったということも考えられる。

                   

 その反面、死刑執行人の云い分が嘘だと断じるだけの証拠もなかった。もちろん死刑執行人の弁明は疑わしい。

 

 だがベルモンは傭兵を引退して久しい。凄腕だったのは過去の話だ。いくら訓練をしていても傭兵として現役を離れれば剣の技量は落ちていくだろうし、その腕前を現在は維持していない可能性も高い。

 その弟子たちにしても剣の訓練をしているようだが、ひどく腕が立つという話は聞かない。

                   

 死刑執行人への人々の襲撃から身を守るために弟子たちも剣術を覚えているらしいが、普通に考えてしまえば戦場経験豊富な傭兵連中の方が腕前がうえなのはあきらかだ。

                   

 だとすると師のベルモンにしろ弟子にしろ、傭兵隊の猛者どもと渡りあえるだけの腕などなさそうである。

                   

 そんな状況では、よしんばベルモンがその弟子を味方につけて死刑執行人全員で傭兵隊の相手をしたところで敵うべくもない。八十人からいたはずの、荒くれ者ぞろいの傭兵隊に。

 所詮は衰えた元傭兵と、すこしばかりの修練を積んでいるだけの弟子三人では。ましてやその傭兵隊を全滅させるなどは不可能だろう。

 

 むしろ死刑執行人と灰色の狼の両者のあいだで諍いが起これば、その場合に全滅するのはほかでもない。死刑執行人たちの方であって、断じて傭兵隊の猛者連中ではない。

                   

 それならば、死を恐れて死刑執行人たちも灰色の狼の傭兵たちとの諍いは避けようとするだろう。仮に灰色の狼の方から諍いを仕掛けられたとしても、敵わない以上は争えないだろう。

 その場合には死を避けるためにも、逃げの一手を打つしか死刑執行人たちには手は残されていないはずだ。

                   

 こう考えてしまうと、国としてもみなさざるを得なかった。弟子たちの怪我は真実、町の悪党によって負わされたものだと。実際に、死刑執行人は世間から反感や悪意を買っている。

 襲撃を受けることだってままあるし、ましてウルグス町はたちの悪い場所だ。悪党の巣窟と化してもいた。

 なら悪党や悪意を抱く町の人々によって、死刑執行人が怪我を負わされてもおかしくはない。


 とすると、死刑執行人の話のつじつまがあってしまうのだ。その話を出まかせと否定しきれなくなってしまう。

 そうなると死刑執行人がわの云い分は怪しくとも、今回の一件の犯人に仕立てるわけに国もいかなくなった。

                   

 国の調査による結果も死刑執行人がわの話の信憑性を裏付けるとまではいかなくとも、高めることには寄与した。

 大体、国がどんなに調べても町には残されていないのだ。死刑執行人が、ウルグス町での一件に関わったという痕跡などは一切。その痕跡があるならともなく、ないとなれば余計に彼らの話の信憑性が高まるのは当然だった。                   

 

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