ルートヴィヒとミゲールはここに至り、再度の対面を果たす。
「ふん、その新参が?」
ベルモンが示したことで新参が誰かわかったミゲールは、ルートヴィヒを眺めながらつぶやく。
こいつとの対面は、これで三度目。ベルモンの家で会って以来か。俺の隊に入隊した奴と、そいつが除隊してから再度の対面をこうして果たすとは皮肉なものよ。
ミゲールは冷笑する。
「なぜ、俺が?」
ルートヴィヒは師の意図を図りかね、うしろを振り返り尋ねる。
覆面に穿たれた二つの穴からのぞく、黒い瞳をおおきくして。その視線を受けて、師は朗々と答える。
「簡単だ。そうすることが、俺にとって好都合で利点がいくつかあるからだ。
まず第一に、おまえを鍛えられる。おまえとミゲールの力は、ほぼ互角だろう。奴と手を合わせてその力を測ってみたが、そんなところだった。
そんな奴と殺しあう真剣勝負をすれば、おまえにとっていい修練になる。手下が強くなれば、こちらとしても利用価値が高くなってよかろう」
師は二本の指を胸元で掲げて、さらに説明する。
「第二に、おまえが俺の命令に従うか否かを確かめられる。
今回、おまえは裏切りを働いて、灰色の狼に入った。灰色の狼という傭兵隊を利用しようとして。自らの望みを叶えるために。俺たちを始末するために。そうだったな?」
さきほども訊かれて一旦は肯定したことだったので、ルートヴィヒは否定せずにうなずいた。それを見て、師は続ける。
「いわば灰色の狼という傭兵隊は、おまえの望みを達するための頼みの綱だった。
ミゲールは、その最後の一人。最後の頼みの綱と云える。おまえたちはまだ共闘し、我々三人を倒すという道も残されているのだからな。もっともほかの傭兵どもを入れても、おまえたちはこちらを倒しきれなかったんだ。
たった二人では、こちらの三人を倒しきることはおそらくできまい。まず間違いなく、敗れることになるはずだ。もしおまえたちがいまさら共闘したとしても、こちらに敵わずにな。
それでも勝負は水物。おまえたちが共闘すれば、勝つ見込みがまったくないとは云えん。
その見込みがあるなかで、俺の命令に従ってミゲールと対戦するか共闘するかの選択肢をおまえに採らせれば、こちらとしては見極められるだろう? おまえが俺の命令に従うかどうかを」
「ルートヴィヒを相手にさせるのは、そういうことか」
そうつぶやいたのは、ゴーマだった。だが師の話は、それで終わりではなかった。
「第三に、おまえを支配するのにも役立つ」
師は三本目の指を胸元に掲げる。
「いま云ったように、ルートヴィヒ。おまえが勝つ可能性は完全に消えたとは云えん。ミゲールが、未だいる限りは。
しかし当然ながら、もしおまえがミゲールを殺せば、それによって完全に消え去ることになる。おまえのこちらへの勝ち目なぞは。俺たち全員に、おまえ一人で勝てるはずもないからな」
「それは、まあ」
ルートヴィヒがつぶやく。師はにやりとして、口を動かす。
「つまりミゲールをその手に掛けることを選べば、おまえは自ら打ち砕くも同然ということになる。その手で自らの望みを。
完全に絶たれることになるわけだからな。今回企てた、おまえの望みは。
望みを叶えるための最後の頼みの綱たり得る、ミゲールさえもが消え失せれば」
たしかに、とジマがつぶやく。師は話を続ける。
「それを承知でミゲールと戦うという選択をすれば、おまえはさぞや敗北感と無力感に打ちのめされるだろう。なにせ、その選択を為さしめるのは俺だ。おまえが裏切り、殺そうとしたはずの男だ。
そいつに逆らえず、その命令に従わざるを得ずに、自らの望みを自ら打ち砕かねばならない選択を強要させられたとあっては当然の心情だがな」
事実、もう打ちのめされているよ。
ルートヴィヒは表情に暗い翳りを見せる。
殺そうとしていた男の命令に従わされてそんな選択を強いられようとしているいま、痛感せざるを得ないから。自分の無力さと敗北感を。
「くわえてミゲールにもし勝っても、そのときおまえはきっと打ちのめされる。ミゲールの死によって、自分の望みが完全に絶たれてしまった現実を受け止めることで」
だろうね。ルートヴィヒはそっと吐息をつく。
そのときにはきっと、そんな結末を迎えるしかなかった自分の非力さを呪うだろう。
師は薄ら嗤いを唇にこぼした。
「おまえにとっては、さぞや災難だろうがな。心を痛めつけられてしまう結果となってしまうのは。
だが逆に、俺としては好ましいことなんでな。おまえが俺によって打ちのめされることは。
おまえは俺のもとへ帰順しはした。だが、まだ本心から俺に従っていなかろう。
それでも今後ずっといかなる形でも俺に打ちのめされていれば、いつかはおまえの心もくじけよう。
けっして俺には敵わぬと思い知るだろう。おまえは俺に恐怖し、逆らったところで無駄とついに悟り、刃向かう気すらなくなるはず。
結果、俺に本心から屈服してわが支配下に降ることが期待できるんでな。ミゲールと対戦させることでおまえを打ちのめせるのなら、是非仕合せたいというわけだ」
師は口元を邪悪に歪めた。四本目の指を立てる。
「最後、第四に、おまえは俺のもとに戻らされたことで打ちのめされたばかりだろうがな。おまえがミゲールと戦うことでさらに打ちのめされるなら、それは一層の罰を与えることにもなろう。今回、裏切りを働いたおまえに。
とするとおまえをより手ひどく罰したいと思っているこちらとしては、まさしく好都合でもあるんでな。罰を与えるという面でも、おまえとミゲールを戦わせることは」
師の意図を知って、くっ、とルートヴィヒは低くうめく。
たしかに、いい手かもしれない。あの隊長と俺を戦わせることは、師にとって。こうも利点があるのなら。
二人の弟子も、ルートヴィヒをきつく罰しようと師が考えていることを知って気を良くする。彼らは顔を見合わせて、くすくす嗤う。
ミゲールは嘆息をつく。
なにを思ってベルモンが新参に俺の相手をさせるのか。これまでその意図を知りたくて、じっとその話を聞いていたが。まったく、くだらぬことを考えやがる。
ミゲールは師をにらんだ。
「新参を、この俺と戦わせたいというおまえの思惑は結構だがな。新参は、おまえの弟子に過ぎない。そんなおまえより格下の新参ごときが、この俺の相手になるか。かりにも俺は、おまえとある程度の時間は対等に戦えたんだぞ。おまえの弟子ごときが一人で俺の相手をしようすれば、役不足だと思うぞ。俺の相手としては」
「どうかな?」
ベルモンはにやりとする。
「たしか俺はおまえに云ったな。おまえが俺の家へ訪問したときに。おまえよりも俺の実力の方が圧倒的に上だということを思い出させてやる、と。俺の恐ろしさも。
だが、おまえはもう充分思い出したろう? さきほど俺と戦ったことで、それらのことを。
充分に身をもって思い知りもしたはず。自分の方が俺よりうえだと云っていたおまえの考えが、所詮は思いあがりに過ぎないってことも。それを思い知らせてやるとも、俺は云ったと思うがな。そうなったろう?」
う。ミゲールは反論できず口をつぐんだ。事実、その通りだったので。
「おまえは俺より格下だ。それがあきらかになったいま、わざわざ俺がおまえと戦う必要はない。おまえごときには、弟子一人が相手するくらいでちょうどいい。
むしろルートヴィヒへの俺の思惑のために、おまえには一役買ってもらおう」
師はミゲールからルートヴィヒへ視線を転じて命じる。
「行け、ルートヴィヒ」
来るならやるしかない、か。
ミゲールは思ったが、すぐに身構えようとはせずに口を開いた。
「そのまえに、新参。おまえに、すこし話がある」




