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師は自分のやり方を誇示し、高笑いを放つ。

 師はうなずく。


「もうこの町にいる生き残りは、俺たちのほかにミゲールしかいないだろう。灰色の狼のほかの傭兵どもは全滅させたと思うしな。しかし、必ずしもそうとは限らん可能性もある。

 傭兵隊の生き残りがいるとは思えんが。あるいは俺たちの気づかぬところで、外から誰かがこの町に来ているやもしれん。しかももしそういう誰かがいて、おまえが覆面で顔を隠していなければだ。おまえが合流したあとに、その顔を見られるやもしれん。その場合、おまえは俺たちの仲間とみなされるだろう。その誰かにな。

 で、そいつに逃げられれば、町で暗躍していたのは俺たち死刑執行人だとばれかねん。おまえが顔を見られたせいで、こちらがわの素性が知れてな。そうなっては、俺たちは国から罪に問われて処断されかねない。こちらが困る事態になる。

 そうならぬためにも顔を隠すために、それをつけてもらう必要性があるというわけだ。俺たち全員が素顔を隠していれば、こちらの正体は誰にもわからん。そんな困った事態になることもなく、こちらは安泰でいられるからな。賊として暗躍する、いつものように」

                   

 師はにやつく。


「それに、おまえは長年そいつをつけてきたんだ。俺を主と仰ぎながら、賊として暗躍するときには。長年のあいだ俺を主として仰いできた過去が、その覆面にはしみ込んでいるはずだ。

 そいつをかぶれば実感として、しっかりと思い知ることができるだろう? 俺の軍門に、自分がふたたび降ったのだということが。俺の弟子であり、手下に戻ったのだということが。

 ならやはり、おまえにその覆面をかぶらせるだけの価値はあるわな」

                    

 師は低く嗤った。ルートヴィヒはうなだれる。


 すこしまえに傭兵隊に仲間入りし、死刑執行人どものもとからせっかく抜け出たというのに。

 この俺の師を気取るこいつとも、おさらばしたと思ったのに。

 

 あいにくと、思惑どおりにいかなかった。

 

 刃向かった結果、抗戦むなしくふたたびこいつの軍門に降ることになってしまうだなんて。こいつの弟子として、手下としてまた戻らされるだなんて。

                    

 ルートヴィヒは眉間をしかめる。


 いま、あらためて実感する。俺は負けたんだと。敗北感がのしかかってくる。悔しい。屈辱だ。許せない。ルートヴィヒの顔は険しく陰鬱となった。

            

「どうやら面白くないようだな。顔に思いが出ているぞ」


 師はルートヴィヒの顔を眺めながら云う。


「敗北感に心を苛まれているか。それとも俺のもとに戻ることを無理強いさせられるのが悔しいか。屈辱か? 心に痛手を負ったか? それでいい。敗北感、屈辱、なんでもいい。心に痛手を負うがいい。

 おまえはこのたび、俺を裏切ってくれたんだ。その罰を与えてやらねばならん。心に痛手を負えば、いい罰になるしな」


 師はクックッと低く嗤う。

                    

「おまえを俺のもとへ戻らせることは、こちらの望みだ。しかし同時にそうすることが、おまえへの罰になればこちらとしては好都合だ」


 罰。そう。たしかに罰になっている。こうも心が締め付けられて苦しいからには。


 ルートヴィヒは苦しさに耐えようと、拳を力強く握りしめる。


 屈辱、敗北感で苛まれて、俺の心は苦痛でどうにかなりそうだ。


「だが手元に戻っても、また裏切られては困る。ふたたびそうならないよう、俺としてはおまえを完全に支配したい。そのためにも、俺としてはおまえを打ちのめさなくてはならん」


 にやっと師は唇を歪める。


「長い付き合いだ。ルートヴィヒ、おまえも知っていよう。俺が誰かを支配するためのやり方は」


「人を恐怖で縛り、屈服させる」


 ルートヴィヒは答える。ルートヴィヒは長い付き合いだけに、そのやり方も当然ながら知っている。


 師はうなずく。


「そうだ。そのやり方で、俺はいつも人を完全に支配する。そのためには、まずは肝要と考えている。支配する相手を打ちのめすことが。打ちのめす方法はなんでもいい。

 いまおまえにしているように、心に痛手を与えるのもいい。虐待でもよい。とにかく幾度となく、支配しようとする相手を打ちのめすのだ。それを繰り返していけば、いずれ俺に逆らう気すらなくなるほどに人は恐怖で縛られる。

 恐怖を植えつけられてなにをしても無駄と考え、抵抗する気すら失せてなくなる。あげく屈服し、こちらのいいなりになる。それで達せられるというわけだ。こちらが支配したいと思う者。そいつを完全に支配するという目的は」


 これが師の人を支配するための持論だった。師は弟子たち全員を見渡す。


「俺はおまえたち弟子であろうとほかの誰であろうと支配しようという場合には、一様にこの方法を用いている。長い付き合いだけに、おまえたちもよく知っていよう」


 二人の弟子はうなずいた。ゴーマは思う。俺らも間近で師がそうしているのを幾度となく目撃している。なにより自分たち自身がその被害にあい、いま述べた師の持論もたしかによく知っている。それを基にして、人を支配する師のいつもやり口も。


 ひるがえり、師は軽く肩をすくめる。


「まあ、当然と云えるかもしれんがな。俺が誰かを服従させるにあたって、こうした方法を用いるのは。嗜虐性の強い俺としては、好ましいゆえ。人を服従させるのに、この方法を用いることは。一挙両得なわけだからな。人を虐げることで嗜虐性を満足させられるうえに、支配もできるとあって。

 しかしこのやり方を俺が常用するのも、その効果が強力だからだ。おまえたちも用いられているがゆえに、その効果のほどはわかるだろう? 俺に逆らう気は起るまい」


 二人の弟子は、こくこくとうなずく。そのあとに、ジマはひそひそとゴーマにつぶやく。


 そりゃそうだ。刃向かえば師になにをされるかわからない。怖くてとても逆らう気など起きゃしないよな。


 ゴーマも否定しなかった。ああ、まったくだ、とつぶやく。

                  

「だがルートヴィヒ。おまえは違うようだな」


 師はじろりとルートヴィヒをにらみつける。


「これまで俺は、おまえにもその方法を用いてきた。弟子にしたときからずっと。俺に忠実に仕えさせるために。幼いころから虐げて、打ちのめし続けることで。

 それでも、おまえは俺に未だに屈しない。表面上は俺に弟子として仕えながらもな。俺のもとから逃げ出し、あまつさえこの命すら隙あらば狙おうとする。

 事実、その証に幾度となく俺のもとから逃げ出してきた。俺を含めて、弟子たちも殺そうとしてきた。今回にしても俺やほかの弟子どもを殺そうとして、おまえは裏切っているわけだしな。

 このことからしてみても、未だおまえが俺に屈服していないのはあきらかだ。

 完全に俺の支配下に置くためには、もっとおまえを打ちのめさなくてはならんようだ」


 冷ややかに師は云う。


「期待しておけ、ルートヴィヒ。もっともっとあらゆる形で痛めつけ、その心を恐怖でくじき、いずれ完全に俺はおまえを屈服させてやる。その目的を遂げるためには、今回のおまえの裏切りは俺にとって好都合な展開となったと云える。

 裏切ったあげく、あいにくとおまえは望みを叶えられず、こうして俺のもとへ戻るかどうかの選択を突きつけられる形となった。

 それによって、いまおまえは打ちのめされることになったんだ。それは結果として、おまえを支配するために役立つだろうからな」


 師は冷笑する。


「せいぜい、打ちのめされるがいい。おまえが打ちのめされることは、俺の望みだ。屈辱や敗北感にまみれろ。今回おまえは俺を裏切ろうと試みはしたものの、その目論見は失敗に終わったんだ。

 そのことをしっかり脳裏に刻み込め。結局どうあがいたところで、おまえは俺のもとから抜けられないんだと思い知れ。俺には、けっして敵わないのだと恐怖しろ。

 敗北感から絶望し、心くじかれ、挫折感を味わうがいい。そうすればおまえは屈服し、俺に完全に従うことになるだろう」


 師は高笑いを放った。

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