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ルートヴィヒも、ミゲールも、自らの敵との戦いで粘る。だがついに、ミゲールは敗走する。

 上下、左右に剣を次々と素早く振って、敵二人の攻撃をルートヴィヒは受け止めていく。

                     

 残念ながら、弟子二人の合流をルートヴィヒは止められなかった。

 ジマが合流してくるまえに、ゴーマを仕留められなかったのだ。 

 ゴーマが倒されまいと必死に粘り、抗ったこともあって。

 そのあいだにジマの接近を許し、ルートヴィヒは弟子二人と同時に戦う破目に陥ってしまっていた。


「一気にやっちまえ。俺たち二人が組めば、確実にこいつに勝てるはずだ」


 ゴーマは叫び、ジマも同意する。


「そうだ。俺ら二人を同時に相手にして、こいつは勝てたことがないんだからよ」


 二人は角度を様々に変えて剣を鋭く振り、さらに突きも繰り出して執拗にルートヴィヒを攻撃していく。ジマは、いまでは躰がさきほどよりも動くようになっていた。


 ゆっくりとルートヴィヒに近づいたことで、そのあいだに多少の休息がとれた。戦う力が、ごくわずかながらも戻っている。おかげで、身動きがとれなくなってしまうような問題はねえ。まだ戦える。それでも怪我やら疲労やらでかなり消耗しているので、そこまで躰が動くというわけでもねえ。躰は重くてたまんねえが。


 ジマは普段の動きに比べてはるかにぎこちないながらも、ルートヴィヒに剣を振るう。


「やられるもんか」


 ルートヴィヒはつぶやき、必死の表情で自分の身を守る。


 ゴーマ一人を相手にしていたときは攻撃を中心として戦いを展開していたのに、いまやほぼ防御に専念せざるをえない状況になっている。

こんな状況になってしまうとは。やはり、この二人を同時に相手にするのは厳しい。

                   

「ええい。師の命令で、こいつを殺したりぶっ壊したりできねえのが厄介だ。急所を狙って勝負を決めるってこともできねえしな」


 ゴーマがつぶやくと、ジマも応じる。

                    

「だがよ。絶対に傷つけちゃならないって命令もでてないぜ」


「だな。多少の傷はつくってやろうぜ。こっちはこんな目にあわされてんだからよ。その仕返しに。

 どうせ師から、こいつは生け捕りにしろって命じられてんだ。なら、こいつをすこしばかり弱める必要もあるしな」


「そりゃ、弱めねえと生け捕りになんてできねえからな」


 いまや有利になっている弟子二人は勢いに乗って、ここぞとばかりにまえへ同時に攻め込んでくる。

                    

 ルートヴィヒとしては防御に専念するばかりで、攻め込む隙をなかなか見いだせない。二人の勢いに押されて、じりじりと後退せざるをえない。

 

 このままじゃやられてしまう。まずい。


 ルートヴィヒは焦るが、どうしようもない。ルートヴィヒは歯ぎしりをする。 

                 

「そら、傷をつけたぜ」


 ルートヴィヒの腕に剣で切り傷を負わせ、ゴーマは嗤う。


「ほら、こっちも」

                   

 ジマはルートヴィヒの右足を剣で傷をつけてにやりとする。

                    

「いい調子だ。このまま、がんがんいくぜ」

                     

 ゴーマが煽ると、ジマが、おうと威勢よく返答する。二人はさらに調子づいて攻め込んでくる。

 ゴーマは突きで、ルートヴィヒの脇腹をわずかに裂く。

 ジマはルートヴィヒの左足をかすかに斬った。

                

「どうだ。今度は腹を斬ったぜ」


「こっちは、また足だ」


 弟子の二人は、得意気になって笑みを放つ。二人の同時攻撃に、完全に対応できないルートヴィヒは細かい傷を躰の各所につくっていく。

                    

「つけあがるな」


 ルートヴィヒは叫ぶ。怒りがルートヴィヒに火をつけた。後退をやめてその場に踏みとどまった。

 その腕の速度も、にわかにあがる。これ以上傷をつけられないよう、剣で二人の攻撃を正確に防いでいく。

                    

 それだけにとどまらず、やがてルートヴィヒはまえへでた。躰に踏ん張りを利かし、反撃に転じる。 

 ゴーマの攻撃を避けたと同時に、ジマの頭を割ろうとしてルートヴィヒは剣を勢いよく打ち下ろす。

                    

 うおっと。ジマは剣の刃を横にして、からくもその攻撃を防ぐ。

 だがルートヴィヒは自らの剣をジマの刃のうえで瞬時に横に滑らせ、一気に薙ごうとする。ジマの腕を切り離そうとして。

                    

 くそが。ジマは毒づいてうしろへ下がろうとするが、ルートヴィヒの攻撃はあまりにも速かった。

 腕を剣で刈り取られることは避けられたものの、途端に痛みが走る。腕からは血が噴き出し、ジマは悲痛にわめいた。

                    

 しかしルートヴィヒは、ジマにとどめをさせない。

 いまの攻撃によって生まれた、ルートヴィヒの隙をゴーマが見逃さなかったのだ。抜け目なく、ルートヴィヒの腹を突き刺そうとする。

                    

 ルートヴィヒは舌打ちをしたものの、その躰に相手からの攻撃は届かない。躰を横に半回転させ、その突きをなんなく躱した。

 すぐにジマが傷つけられた仕返しとばかりに逆上して攻撃をしかけてくるが、それも剣で受け流す。


「くそ、こいつ、しぶとい。いつもなら、すぐにこいつはやられているはずなのに。俺ら二人を同時に相手にすれば」


 ゴーマが眉をしかめる。


「俺らの力が落ちてるからじゃねえの? 怪我やら疲労のせいで」


 ジマは戦う苦しさで息切れしながら指摘する。ゴーマは結論をくだす。


「だから、こいつは粘れるってわけかよ。俺ら二人を同時に相手にして」

                  

 二人の答えは正しい。同じくルートヴィヒも自覚していた。


 そう。もし二人が無傷で同時にかかってこられていたなら、おそらくはいつものようにやられていたことだろう。

                     

 でもいまの二人は、負傷と疲労で力を極端に落としている。そのおかげもあって同時にかかってきたこいつらと、俺は戦うことが可能になっている。

 それもなんとか対等に。いつもならけっして無理だというのに。


 ということは、この二人を同時に相手にしていても、いまならこいつらを殺す見込みだってあるはず。

 

 俺はまがりなりにも、いまこの二人とほぼ対等にわたりあえているんだ。なら、けっしてやれないことはない。

 この二人を同時に相手にすることはいつもなら窮地に陥ったと云えるが、いまはそうじゃない。

                     

 いまは逆に、奴らを仕留める好機であるかもしれない。だったら、この好機はものにしないと。

                     

 ルートヴィヒは自身に云い聞かせる。

                    

 隊長が師を倒して、こちらに来るのを待っていられない。来れば隊長と俺は二人の弟子と一対一で戦え、こちらが勝利する可能性はより増す。 

                     

 でも隊長は師と対峙するのがやっとで、どうもこちらに来られそうもないようだ。隣の通路から聞こえてくる様子で、それはわかる。いまはおそらく、隊長は当てにできない。独力でなんとかしないと。

                     

 二人の攻撃に耐え凌ぎ、ときに攻勢に出ながらルートヴィヒは考える。


 まだ間に合う。いまなら、まだ俺の策を推し進めることができる。なんとかこの二人のうちのどちらかを始末しさえすれば。


 内心でルートヴィヒはつぶやく。

                     

 それによって、俺はふたたび弟子の片割れと一対一に持ち込める。そうなれば、こいつらのどちらか一方が単独で残ったところで俺の相手にすらならない。たやすく殺せる。

                     

 俺の策は、二人の弟子たちが合流したことですこし狂いはした。けれどすぐにその狂いを修正して、策をもともとの計画通りに推し進めてやる。この弟子どもを、俺一人でいま始末することで。

                     

 そのあとには隊長と合流し、師の始末もしてやろう。ルートヴィヒは危険な光を黒い瞳に宿す。


「とにかく、どうにかして殺すんだ。この二人のうちの一人を」


 弟子二人を同時に相手にする疲れで息を切らせながら、ルートヴィヒは心のうちで執念の焔を燃やす。


「こちらが勝つために」


 といっても、この弟子たち二人はなお強い。

 

 ふたたび、だんだんと押され気味になるのを自覚する。


 くっ、やはり無理なのか? こいつらを倒すのは。


 凛然とした美しい顔に険しさを走らせる。ルートヴィヒは、またもじりじりと後退を余儀なくされていた。


「ええい、なんで倒せねえんだよ」

 

 剣を振りながら、ゴーマはいらついて叫ぶ。


 現状では、こちらが押してはいる。さすがに俺たち二人を同時に相手にしては、ルートヴィヒも苦しいとみえて。

                     

 けど倒せない。そんな結果になるのは、やっぱり俺たち二人の力が落ちているからなんだろう。

 俺たちが怪我を負い、疲労も激しいこの状況下ではそう考えるのが自然ではある。

 

 が、なんとなくそれだけではないような。ゴーマは気づく。こいつ、やっぱこれまでと比べてちっと強くなってるよな?

                    

 それで俺とジマが同時に相手をしても、すんなり倒せなくなっているのか? 


 ジマもなんとなくそう思ったが、それに気づいたところで状況は変わらない。二対一の戦いは、なお続いた。だがそのうちに、西の回廊でも状況が変わってきていた。



「くっ、なかなかやりやがるな、ミゲール。おまえの腕前のほどは認めてやるよ。手練れのおまえを相手にして、さしもの俺もいささか疲れたぞ」


 師も、ついに息を切らせはじめていた。それでもなお連続攻撃をし、ミゲールは押されっぱなしで防戦一方の展開となっていた。

                      

 しかしやがて、ベルモンにもこれまで見せなかった隙が生じた。両手で剣を高々と振り上げ、その胴体の防御がおろそかになったのだ。

                      

 疲れているなら、隙を見せてもおかしくない。


 そう判断し、すかさずその隙を突くべくミゲールは攻勢に転じる。自らが勝利するために。

                      

 くらえ。ミゲールは剣を握る右手を素早く前へ押し出して、その隙だらけの胴に鋭い突きを放つ。

                      

 引っかかりやがったな。見事に。


 ベルモンはにやりとする。


 馬鹿が。そりゃ、俺に疲れがまるでないといえば嘘になる。

 だが、じつのところ息を切らせるほどではない。息を切らせてみせたのは、あくまで疲れを装うための芝居だ。隙をみせたのも、わざとだ。


 疲れていれば、隙だって生じるはず。そうミゲールに考えさせ、その隙をつかせたかったのだ。


 つまり息切れや隙をみせたのは、勝負を決するためにこちらが仕掛けた罠というわけだ。そうとも知らずに、誘い込まれやがって。

                      

 声をくぐもらせて嗤い、ベルモンは半身をよこへずらす。ミゲールの突きは素通りした。

                      

 しまった。罠だったか。


 手練れなだけに、とっさにミゲールは相手の思惑に気づく。


 だが、もう遅い。黒い笑みを深くし、手早い動作でベルモンは自らの剣を巻きつかせる。ミゲールの剣に、蛇のように。

                      

 たちまちミゲールの剣は、からめとられてしまった。そのままベルモンは、ミゲールの剣を跳ねあげる。

                      

 あっ。思わずミゲールは叫んだ。右手からミゲールの剣は弾け飛ぶ。剣は勢いよく舞い上がり、通路の天井に突き刺さってしまった。

                      

 不覚。ミゲールは悔しがったが、さすがに手練れだけあってそれだけで済まさなかった。剣を巻き上げたことで、ベルモンは今度はわざとではなく本当に隙をみせていた。

 その隙を突き、ミゲールは師の胴に向かって体当たりをする。


 ぐおっ。師は吹っ飛び、宙から床に落ちたあとは通路をしばらく滑っていく。

 それによってベルモンは態勢を崩した。


 いまは襲い掛かる絶好の機会だ。


 ミゲールの目が光る。それでも、やはり攻勢に出られない。ミゲールは思いとどまった。


 惜しいことに、武器が手元にない。剣は天井に刺さったままで、そんな状況では容易に取れはしないのはあきらかだ。

                      

 いまベルモンはすこしばかり態勢を崩しているとはいえ、素手で楽々と仕留められるような相手ではない。やはりその命を確実に奪うために、とどめを刺せるだけの武器が欲しい。


 それに素手で攻撃をしかけて反撃をもし喰らえば、武器がなければ防御もろくにできない。

                      

 下手をすれば、こちらが死ぬということもありうる。いま素手で不用意に攻撃を仕掛けるのは、よした方がいい。ミゲールは舌打ちする。

                      

「一旦、ここは退くか」


 そうつぶやくと、ミゲールは踵を返した。


 まず、武器を入手しなければ戦えない。

 自分の剣はもう取れないので、違う武器を手に入れなくては。武器のある場所には心当たりがある。礼拝堂だ。一振りの剣がそこにある。


 それを手に入れるために、ミゲールはベルモンのいる側とは反対方向へと足早に向かった。

                     

 ベルモンの奴を吹き飛ばしはしたものの、剣を奪われるという不覚をとったからには、一騎打ちでは俺が結局は破れたということなのだろうな。

                      

 このときミゲールは、自分がベルモンに吐いた台詞を思い出していた。

                      

 自ら戦いを挑んで負ければ、恥さらしなだけだ。そんな無様をさらす真似はしない。

                      

 俺は、たしかそう云ったよな。よくも、ほざけたものだ。そんな科白を。そう口走っておきながら、俺は負けてしまった。見事に恥をさらしてしまったわけだ。

 まったく無様だな。俺って奴は。畜生。


 ミゲールは走り去りながらも、敗北を痛感して悔しさを覚えていた。

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