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ジマの勝利で、ルートヴィヒは目のまえが暗転する。それでもあきらめず、勝利をつかむため戦いを挑み続ける。

  信じられない。まさか副隊長が敗れてしまうとは。

                    

 ルートヴィヒは戦いながらも、目のまえが真っ暗になっていた。

                    

 これでジマはゴーマと合流してしまう。そうなると俺は敗れてしまう。俺の策が逆手にとられて。裏目にでて。

                    

 目のまえでは、剣を交えるゴーマがげらげらと嘲笑っている。

                    

「ざまあみろ。ジマが勝った。こうなると、おまえの策は裏目っちまうよなぁ?」

                    

 嘲笑われた悔しさでルートヴィヒは眉をしかめる。と同時に舌打ちする。


 まったく、見事に裏切ってくれたよ。あの鼻の大きい傭兵め。奴への怒りも湧きあがってきてならない。本当にこちらにとって、はた迷惑なことをやってくれた。 

 

 戦いがはじまるまえに教会の一室で、あいつは俺に噛みついてきた。そんな尖った態度を取った割には、生き残るために裏切りを働くとは。結局のところ、情けない奴だったというわけだ。


 ああ、それにしても忌々しい。あの傭兵め。俺にかみついたとき、最後に云ってたが。俺をとっちめてやるとか。

 それをこの場面で、やってのけたということか。そういうことかもしれないな。あいつが、こうしてここで裏切ったということは。ジマにそそのかされて金に釣られたか、命惜しさでやったのかもしれないけど。

 でもいずれにせよ、この局面でこんな真似をしてくれるとは。腹が立つ。

                    

 あげくジマに斬られたが、そのことに同情する気にもなれない。

 

 ジマが始末していなければ、自分が支払わせてやっていただろうから。俺のこの手で斬り殺して、裏切りの代償を。


 もう殺すことはできないが、ルートヴィヒはゴーマに攻撃を繰り出しながらも鼻の大きな傭兵の骸をにらんで怒りをぶつける。

 かたやゴーマは、ルートヴィヒの攻撃をさばくのに一苦労しながらも哄笑する。


「ふはは。ありがてえぜ。裏切ってくれるとはよ。鼻でかの傭兵さまさまだぜ、俺らにとっちゃ」


 ゴーマはジマを褒めたたえる。


「ジマ、よく雑魚を裏切らせた。いいぞ」


 ジマはのろのろと歩きながらも、にんまりと嗤う。勝ち誇ったようなゴーマの叫びが、あたりに響く。


「ジマがこっちに来れば、二対一だ。ルートヴィヒ。おまえは俺たち二人と同時に戦って、勝ったことはなかったよな? それなのに、どうすんだよ? こんなことになっちまって」

   

 ルートヴィヒは顔を険しくするだけで、なにも答えない。しかし忙しく剣を振りながらも、その黒い瞳をゴーマの背後に向けた。

 ゴーマのうしろから、ジマが徐々にこちらへ近づいてくる。その視線に気づき、ジマは口角を歪ませた。


「さぞや胸糞が悪いだろうなぁ? てめえとしちゃあよ、え? ルートヴィヒ。

 てめえの策に、いまやてめえで嵌まっちまったんだからよ。

 おまえとしちゃ、三つにわかれた各個の戦いのどれかで自分たち側が勝利し、合流を繰り返して勝利を拾う予定だったんだよな。この教会での戦いで。

 でも俺が傭兵どもを破ったせいで、いまやこちらにその策は逆用される結果になっちまったんだぜ。

 じゃあ、もう決まったな。俺がいまゴーマに、こうして合流しようとしていることで。この教会での戦いは、俺らが勝って幕引きってことでよ。

 おまえの策は諸刃の剣だ。逆にこちらに使われちゃあ、もう負けるしかねえもんなあ」


「ひはは。そういうこった。いまや、てめえの負けは確定したんだ、ルートヴィヒ。ひはは」

 

 応戦しながら、ゴーマが嘲笑う。

 

「ちがう。まだだ。まだ終わっちゃいない」

                     

 凛然とルートヴィヒは叫んだ。ゴーマに剣を叩き込みながら。

                     

 たしかに通常なら、二人で同時にかかってこられれば俺は敵わない。が、いまはちがう。ジマもゴーマも疲労の極みにあり、それぞれ負傷もしている。二人の力は、いつもどおりではない。

                     

 かたや俺個人の状態は、さすがに戦いで多少消耗しているが、その度合いは見るからに疲労しきっているあの弟子二人ほどではない。それ以外には怪我もなく、躰にはなんら異常もない。


 こうした状況下なら、俺一人でもあいつら二人を同時に相手にしても勝つ見込みは充分あるはず。

                     

 できれば俺がこの弟子どもに勝つために、隊長が合流を果たしてくれればと思うが、それは考えない方がいいだろう。

 傭兵隊の隊長は、まだ無事なようではある。師と隊長の勝負が、まだついていない様子からして。だがむこうがそんな状況では、いま合流したところで結果はおもわしくないだろう。

                     

 無理に合流しようとすれば当然、弟子二人もついてくるだろうしね。

 

 結果、むこうが師と弟子二人を合わせて三人。こちらが隊長と俺の二人で、数的に不利な状況は変わることがない。くわえて五人が一堂に会して戦えば、乱戦となりかねない。

 そうなれば戦いを制御できずに勝負はどうなるかわからないし、数的に不利なことからこちらが負ける可能性は強くなる。

                     

 だったら隊長との合流を果たすことを望むにしても、こちらが出向くよりあちらから来てもらうのを待った方がいい。

 

 一対一の状況のままにしておけば、隊長は師に勝つ可能性はまだ残されている。

 

 勝って隊長がこちらに来てくれさえすれば、二対二の状況となる。ゴーマとジマ、俺と隊長という形で。俺は隊長と共闘できることになるわけだ。手分けして弟子二人を相手し、一対一で戦う状態に持ち込むこともできるようになる。そのときには、こちらが有利な形勢になる。

                     

 なにせ俺と隊長は双方ともに、凌駕するんだ。あの弟子たちのどちらと比べようと、剣の力量に於いて。

 俺の腕は、相手がジマだろうとゴーマだろうと一人なら上回る。隊長も一人であの強力な師と、ほぼ対等に渡りあえるほどだ。当然、弟子一人など取るに足らない相手となるに決まっているしね。

                     

 結果、弟子たちはこちらに敵わない。この教会での戦いも、こちらが勝つことで終わるわけだ。

                     

 ほかにも、まだこちらが勝つ手はある。

 未だ、ジマがゴーマと合流を果たしていないことを考えれば。

 

 もちろんジマがゴーマと合流するのに、もはやさほど時間はかからないだろう。それでも合流するまでのほんのわずかな時間を利用し、ゴーマを倒す目は残されている。

 それができれば、俺はジマと一対一で戦える。そうなれば、いまのジマに勝利するのは俺にとって容易だ。そのあとには隊長と合流し、師とは二対一で戦える。こちらにとって有利な状況が、ふたたびつくられることになる。それでこちらは勝てるだろう。

                     

 ちょっと考えれば、こちらが最終的に勝利する道はこんなにも依然として残っているんだ。

 希望はまだある。

 

 そう考えると遮二無二、ルートヴィヒはゴーマに剣を撃ちこんでいく。


 まずは、ゴーマだ。奴を狙ってやる。

 

 いまのところ、ジマとゴーマの相手を同時にする必要はない。隊長との合流にしても果たしたいが、それはむこうからやってくるのを待たねばならない。となると、いまはこちらが勝つために打つべき手は、ゴーマを始末することだろう。

 ジマがやってくるまえに、まだ一対一で戦えるあいだに、手早くゴーマを始末してやる。

                 

「けっ、なにがちがうだ。まだ終わっちゃいないだと? 往生際の悪い。じゃあそんな希望が持てないように、しっかりと勝負に白黒つけてやる。

 いいか、楽しみにしてろ。いまからてめえに、教えてやらぁ。俺ら二人にゃ、けっして敵わねえってことを」


 ゴーマは真顔に戻り、相手の攻撃を剣で受け止める。

 ゆっくりと一歩一歩に時間をかけて近づきながら、ジマも叫ぶ。


「待ってろ。もうすぐ俺も戦いにくわわるからよ。師に止められてるから、殺しやしないがな。けど戦えば、すぐにゴーマと二人でおまえに思い知らせてやる。ルートヴィヒ、てめえが所詮は負け犬に過ぎないってことを。いつものように、てめえを床に這いつくばらせてな」

                 

 そんなことにさせるものか。決意をみなぎらせ、ルートヴィヒは剣をゴーマに叩き込んだ。



「どうやら、あちらではジマが勝ったようだな。これでジマはゴーマと合流し、ルートヴィヒの策は裏目にでる。こちらの勝ちは決まったな」


 師は嗤う。


 ジマの勝利は、ほかの局地戦でのこちら側の勝利を呼び込む。ルートヴィヒ側ではなく、こちらの味方が合流を繰り返すことになって。ルートヴィヒの策を逆手にとって。

 すぐにでもジマは合流するだろう。ルートヴィヒに苦戦しているらしいゴーマを助太刀するために。連中が二人で同時に襲いかかれば、その相手はルートヴィヒ一人には荷が重い。奴は二人に勝てまい。

                

「くそが。誰だ? 裏切りやがったのはよ」

                 

 ミゲールは、そう吐き捨てた。


 十中八九、こちらが勝っていたはずだ。隣の通路の様子を耳で聞き及んでいた限りでは。もう一歩だったのに。もう一歩で、こちらが勝利を掴めていたはずなんだ。

                     

 それをすんでのところで、裏切り者が。邪魔をして、形勢を逆転させやがって。どの野郎だ。もう殺されたらしいので罰も与えられないが、本気ででむかつくぜ。

                     

 裏切り者に対し、ミゲールは怒りを燃やした。

                     

「ろくでもない部下を飼ってるから、そうやって裏切られる憂き目にあうんだ。ミゲール」


 ベルモンが揶揄ると、ミゲールは即座に云い返してきた。


「飼い犬に手を噛まれているのは、そちらも同じだろう? 弟子の新参に裏切られた身のうえのくせに、偉そうにほざくな」


「ふあっははは。こいつは手厳しい」

                    

 哄笑すると、ベルモンは人が悪そうに口元を歪めた。

                     

「ともあれ、残念だったな。もしかしたら、そちらがわは勝ってたかもしれねえのによ。てめえの手下の裏切りさえなけりゃあな。隣の通路では、そちらの味方が優勢だったようだしよ」


 くっ、と悔しそうにミゲールはつぶやいた。


 本当に、あと一歩というところだったのに。隣の通路でベルモンの弟子の一人が殺され、その片割れも始末され、味方がこちらにやってきて俺に合流するまで。 

 そうなれば、俺たちは勝利をつかんでいたのに。

 グローの奴は、俺一人にも手を焼いているんだ。ならこちらの味方がここへやって来たら、いくら手練れのグローにしたって手に負えないに違いなかっただろうから。


「俺に対して奮戦してきたおまえの尽力も、これで水の泡だな」

                 

 剣を振りながら、ふっとベルモンは鼻で嗤う。


「まったくだ。こっちは期待もしてたっていうのに。味方がそちらの手勢を屠って来てくれる状況を。残念だ。そうなりゃ、グロー隊長。あんたを始末できていたのに」


 剣で相手の攻撃を受け流し、悄然とした表情でミゲールは同意する。師は破顔した。


「それはどうかな? よしんばそちらの期待通りの状況になったとしても、俺としちゃあ一人でも勝利をもぎ取ってみせてやったまでのことだがな」


「いや、それはできなかったと思いますが? あんたは自分の強さに相当な自信を抱いているんで、それができると思い込んでいるんでしょうけどね。現実はちがう。

 こちらがわが弟子を一人でも殺せていたら、確実に生まれていたはずだ。こちらが勝利する流れが、あの新参の計画どおりに」


「かもしれんが、そのことを云っても仕方あるまい。その企てが台無しになったいまとなっては」


 ベルモンは低く嗤う。悔しさでミゲールの童臭を残したその顔が、たちまち険しくなる。ベルモンはさらに語を紡ぐ。

         

「いずれにせよ、もうこういう形になった以上、この戦いも幕だ。ルートヴィヒの奴は、どうやらまだあきらめていないようだが」


「みたいだな」

                   

 隣の通路から聞こえてくる様子では、まだ新参は戦いを放棄していないようだ。弟子二人に対して挑み続けるつもりらしい。そこでミゲールは気づく。

                     

 待てよ。新参が未だあきらめていないということは、まだこちらに勝ち目があるということか。よし、それなら。

                     

 ミゲールは応戦しながらも決意を新たにする。


 俺とて、このままむざむざ敵にやられる気などない。勝ち目があるというなら、このままベルモンに対して抗い続けてやる。こちらの活路が開かれるまでな。

 

 正直なところ、ベルモンの相手をこのままするのはひどくきつい。こっちの体力は、どんどん奪われていく。その一方で、ベルモンは疲労の色さえ見せない。

                     

 くわえて剣の腕前は、悔しいが奴の方がどうやらうえ。

 

 戦うまえは自分の方がうえだと思っていたが、それは恥ずかしいが自惚れだったらしい。こんなにも、こちらが防戦一方で押されているようではな。

 こうなると、このまま戦っていてもベルモンに対して俺一人ではおそらく勝ち目はない。それでも勝つために、いまは全力を尽くしてやる。奴に隙があれば、あわよくば仕留められるということもあるかもしれんしな。

                     

 気合を込めて息を吐きだすと、ベルモンの強烈な斬撃をミゲールは顔をしかめながらも剣で受け止めた。


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