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ついに、ジマと傭兵たちの戦いに決着が。

「もう動けねえんだろう、てめえ。いま楽にしてやる」


 副隊長はにやつく。あきらかに疲弊しきっているジマの様子から、目前の敵がもう動けない状況にあることを副隊長も見抜いていた。

                   

「死ねええ」

                     

 ジマに充分近づいた副隊長は叫んで、剣を振り上げる。

 ジマも抗戦するため、無理やりに腕に力を込めて剣を振り上げる。

 

 もはや、いち早く敵に剣を撃ち込んで倒した方が勝利する状況となっていた。

                     

 そのことを両者とも承知しながら、彼らはほぼ同時に剣を打ち下ろす。

 が、疲労の極みにあるジマは腕が重く、振り下ろす速度が遅い。

                     

 このままでは、俺の頭に相手の剣が打ち下ろされる方がはやい。終わりか。


 ジマは舌打ちをする。

 いまがそういう状況にあることは、ルートヴィヒとゴーマにもわかった。両者とも、戦いながらもジマたちの情勢を注視していたために。

                     

 終わったな。ルートヴィヒは嗤う。くそが。ゴーマは毒づく。副隊長も確信する。俺の勝ちだ。

                     

 だが鼻の大きい傭兵には、状況がわからなかった。この通路にいる者たちのなかで、腕がかなり劣るだけに。

 両者、相討ちか? そのように見えた。しかし、これまで有利に戦いを運んでいたのは敵の方だ。強いのも敵だ。体力は尽きているようだが、結局は敵が勝つかもしれない。副隊長ではなく。

                     

 死にたくない。切実な思いが、鼻の大きい傭兵のなかで高まる。そこで思い切って彼は動いた。自分の命を守るために。


 両者の剣も完全に打ち下ろされる。戛然と剣が鳴る。そのあとに聞こえてきたのは、悲痛なつぶやきだった。

                     

「どう、して」

                      

 副隊長の頭に、ジマの剣がめり込んでいた。その喉からは、剣も貫き出ている。それは手下の傭兵の剣だった。

 鼻の大きい傭兵は、副隊長を裏切っていた。

 勝つと思った側につき、副隊長の背後から剣を突き刺したのだ。

 鎧に覆われた副隊長をたやすく貫き、絶息させられる首をその背後から狙って。

                     

 パクパクと口を動かしながら、副隊長は血を吐く。俺が、勝っていた、はず、なのに。意識が薄れゆくなか、無念の思いを胸に副隊長は倒れた。

                  

「助かった」


 敵の頭を打ち砕いたジマは、心から安堵の吐息をもらす。両ひざを落とし、一息つこうとする。

                     

 鼻の大きい傭兵の裏切りは、ジマを守った。傭兵が背後から剣を突き刺したことで、副隊長の剣の軌道はぶれていた。

 その剣はジマの肩にめり込んでいた。刃が肩の肉のうちにまで入り込み、ジマの躰から取れないままになっている。ジマはその肩にめりこむ剣を見ながら、ちいさくため息をつく。


 俺も、やられたな。といっても、たいした怪我ではないが。

 どうやら副隊長が背後から刺されたうえに、頭を砕かれたことが利したようだ。おかげであの副隊長が、剣に込める力は弱まった。その剣の打ち下ろしも失速した。

 結果、この程度の手傷で済んだようだ。

 それでも痛みはかなりあるものの、死に至るほどではない。疲れはひどいが、躰の自由も利く。

                

「一応、窮地は脱したか」

                

 ジマは肩にささる剣の柄を握る。力を込めると、一気に剣を肩から引き抜く。瞬間、その顔が苦痛で歪む。肩からは鮮血が流れだす。痛みをこらえて舌打ちすると、ジマは肩から引き抜いた剣を通路の壁に向けて投げ捨てた。

 

 剣は壁に当たり、床に転がる。

 このとき鼻の大きい傭兵がジマの方を向き、強者に媚びるように口を開く。

                    

「さっきの取引に乗って、俺は副隊長を裏切ってあんたを助けたんだ。これで俺は殺さないでおいてくれんですよね? そうそう。傭兵たちがこの町で集めた金品も俺にくれるってことでしたな。取引は守ってくださいよ、きっちりと」

                 

 鼻の大きい傭兵はそう云った。ただ内心では、多少の後悔も覚えないでもない。ふっと嗤う。


 あーあ、やっちまった。味方を裏切っちまったよ。副隊長を殺しちまった。だが仕方ねえ。

 俺は命が惜しかった。どうもこのままだと、敵が勝ちそうだったからな。なら命を守るためには、敵についた方が利口ってもんだしよ。

                     

 だが裏切りを決意したのは、それだけのためじゃねえ。

 金だ。そのためでもある。

 きっと、この戦いで傭兵隊がわが勝てばよ。結局のところ町で略奪した金品は、俺にはほとんど回ってこねえだろ。

 

 仲間の大半が死んだので、そりゃ大目に分けまえはもらえるだろうけどさ。

 それでも、略奪品のほとんどを分捕るのは隊長だろう。

 もともと隊のために、隊長はこの町での略奪を画策したんだ。隊のために使うべく。だからどうせ隊長が金品のほとんどを着服して、こっちによこしゃしないさ。

 

 不服を唱えて逆らったとしても、非力な俺は隊長に敵うわけがねえしよ。そうなったら、俺としては従うしかねえ。隊長によって定められた、俺の取り分に。

 

 けどここで裏切った場合には、事情は異なるってもんだ。敵は云っていたもんな。

 裏切ったら、俺に金品をすべてよこすって。

 本当にそうしてくれるならよ。俺としては裏切った方がいいってわけだ。命を守るってことだけではなく、略奪品の俺の取り分についても考えたら。

                     

 略奪品のすべてが俺のものになるならよ。裏切らないで多少の取り分しかもらえないでいるより、よほど具合がいいもんな。裏切った方が、俺としては。

 そうすることで利益をたっぷりと俺は得られるんだしよ。

                     

 略奪品のすべてを手にすれば、かなりの大金が俺のもとへ転がり込むことになるんだ。

 こんな好機なんてそうそうない。いや、俺のちんけな人生じゃあよ。今後、一生お目にかかれねえかもしれねえ。

 だったらこの好機は逃したくねえもんな。

 

 そこで今回はよ。命惜しさと金に目がくらんで、裏切らせてもらったってわけだ。長い付き合いだったから殺しちまっちゃあ、多少は気が引けるがよ。悪いな、副隊長。俺のために死んでもらったぜ。

 俺も命が惜しいし、大金せしめていい暮らしをしたかったもんでな。


 それに、と傭兵は思う。


 ここで裏切らなければ、あの新参の策が成功しちまう。

 しかし俺としては、あの若僧のくせに生意気な新参に一泡吹かせたかった。

 この戦いがはじまるまえに争ったこともあり、あいつをとっちめてやりたかった。あいつの策が成功するのが正直、気に入らなかった。そういう気持ちもあったんでな。

 それでその策が成功しないよう、邪魔をする気にもなったんだ。


 で、結果、こうしたわけだが。

 この俺の選択を、恨んでくれるなよな。副隊長どの。

                     

 そう考えた鼻の大きい傭兵は見下ろした。無念そうな表情をして、床に憐れっぽくうつぶせで転がっている副隊長を。その後は、新参のルートヴィヒにも目を向ける。


 これで、あのむかつく新参もとっちめられた。そうできて、まじですっきりしたぜ。


 鼻の大きい傭兵は、せせら嗤う。

 

 次いで彼は、副隊長と戦っていたジマの動向が気になった。

 話しかけたのに、まるで返事がこないのはどういうこったい?

 

 彼は視線を動かし、ジマを見下ろす。ジマは両膝を床につけ、剣を杖代わりにして寄りかかり、ぜいぜいと息を切らして休んでいた。鼻の大きい傭兵は、ふっと嗤う。

                     

 疲労しきっているこいつは、いまは隙だらけだ。

 いまならこの隙を突き、あるいは俺でもこいつを殺すことができるかもしれねえな。

 だがこいつの出した取引に乗って協力した以上、もう俺の身は安全だろう。

 こいつやその味方にはもう狙われず、殺されることもなく助かるのだ。

 だからもう、こいつをいまさら始末する必要なんざないわな。

 鼻の大きい傭兵は、ジマに手をかけようともしなかった。


「ああ、そうだったな。取引をしていたんだっけな」

                    

 ようやく息がやや整いつつあったジマはそう返答すると、ちらりと鼻の大きい傭兵を見る。


 裏切りやがったか。こいつ、味方を。命惜しさにか、金に目がくらんだせいかは知らねえがよ。

 下衆だな、こいつ。仲間を裏切るなんてよ。

 もっとも、こいつのおかげでこっちは助かったんだ。そんなことを云うのは、なんだがな。


 ジマはゆっくり立ち上がった。剣呑な光も、その目に浮かぶ。


 だがよ。こいつにゃ、教えてやらなきゃな。そういう下衆には、報いがあるってことを。しっかりと。

                     

 ジマは傭兵の方へよろよろ近づき、危険な笑みを閃かせながらこうも云う。


「けど、取引なんて破られることもよくあるしな」


 そ、そんな。言葉の意味に気づいた傭兵はうろたえる。ジマは剣を握る拳に、なけなしの力を込める。


「てめえにゃ残念だろうが、俺たちは師の命令で敵を全滅させなきゃならねえんだ。

 でも、てめえはこちらに協力もしてくれたんだ。とりあえず、褒美はくれてやるよ。

 命惜しさに味方を裏切る虫けらに、ふさわしい褒美をな」


 ひ、と鼻の大きい傭兵は怯える。泣きだしそうに顔を崩し、急ぎ回れ右をしてその場から逃げ去ろうとする。だが遅かった。


「ほら、とっとけ。これがご褒美だ、虫けらが」


 狒々のような顔に邪悪な笑みを浮かべ、ジマは剣を鋭く一薙ぎする。

 次の瞬間、傭兵の首は一閃されて飛んでいた。首は床に落ち、躰もくず折れる。鮮血が床に広がった。その光景を見おろし、ジマはつぶやく。

                   

「ともあれ、こちらの敵はやっとすべて片づいた。これでルートヴィヒのところへ行ける。見てろ。あいつに泣きっ面をかかせてやる。ゴーマと合流して、あいつの策を逆手にとる挙に出てな」


 狒々に似合った卑しい笑みが低く響きわたる。

 ジマはふらつきながらも、のろのろとルートヴィヒのいる方へと歩きだした。

                   

まさかのバッドエンド、かな?

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