隊長ミゲールと師ベルモンの勝負は、白熱する。
「それがミゲール。おまえが誰も連れず、一人で俺と対している理由か。なるほど。よくわかった」
師は鼻を軽く鳴らす。
「本気でこちらに勝つために、ルートヴィヒの奴がこざかしくも策したというわけか」
ベルモンが舌打ちすると、ミゲールは首を縦に振る。
「いま云った通りに事を運んでさえおけば、三つに分かれた味方はすべて自ら相対する敵と有利に、もしくは対等には戦える。そのうちにこちらの誰かが自分の相対する敵を倒し、そちらを滅す流れをつくれると新参は読んだようだ。
事実、弟子一人なら新参は一対一で必ず勝てるという。ならこの策を用いれば、こちらが勝つ可能性は高いと新参は考えた。奴の策を聞いた俺も、また同じく。それで許可を与えて、奴の策を実行に移したというわけです」
ミゲールは冷ややかに目に霜を降ろす。
「その策に乗り、手下どもの仇はしっかり討たせてもらいますよ」
「おまえごときが、仇を討つだと? 本当に思っているのか? おまえは俺に勝てると?」
ええ、とミゲールは答えた。
「いけしゃあしゃあと、よくも云う」
師は不機嫌そうに低く唸る。
まったく、たまらないぜ。
俺に敵わぬ雑魚の分際で、ルートヴィヒの奴め。
分際をわきまえず、俺を殺せると思ってこざかしい策などたてやがって。
ミゲール、おまえも俺を殺せるなどとうぬぼれやがって。
ひどくなめられているよなあ。俺は、こいつらに。まじでなめられてるぜ。くそが。まったくてめえらにゃ、むかついてならないぜ。
師の頭のなかで、怒りがまたしても溶岩のように煮えたぎる。
ぎりっと歯ぎしりをすると、彼のこめかみの血管は切れそうなくらいに浮き彫りになった。元々が気の長い男などではないだけに、あっという間に煮えたぎる溶岩を頭上から噴火させた。
「まったく、俺をなめきりやがって。できるなら、やってみるがいい」
激情に駆り立てられ、師は吠えた。その直後、一気に自らの剣が相手に届く間合いに踏み込んだ。
にらみ合いは終わった。
憤怒の形相をあらわにし、師はミゲールに押し迫る。両手で剣を振りかぶり、ミゲールの頭めがけて強烈な斬撃をお見舞いする。
相手が常人なら、その一撃で柘榴のように頭を割られていただろう。だがそうはならなかった。
危なげなくミゲールは自らの剣で、その斬撃を受け止める。そのまま師の剣を巻き込み、はじきとばそうとする。
そうと察し、とっさに師は剣を引く。その動作につけこんで、ミゲールは瞬時に突きを放つ。
師は急ぎ、剣でその攻撃をはじく。
直後、彼らはくり返す。二撃、三撃、剣での打ち合いを。
最後に強打を互いの剣に打ち込むと、師は仕切りなおそうとまたも後方に跳躍して離れる。ミゲールも呼吸をあわせてうしろに飛ぶ。
「おまえ、本当に腕をあげたな。俺とここまでやりあえるとは」
「戦場で鍛えあげましたからね」
ミゲールは微笑する。
とはいえ内心、懸念がないわけでもない。腕を鍛えあげ、自分が強くなったという自負はある。
だがその一方で、未だにベルモンは変わらず強い。戦場を去って久しいというのに。
それどころか、今日は奴の調子がいいのか。それともいまになって往年の戦場の勘を取り戻したのだろうか。奴の腕がなんとなく上回っている気がする。奴の家で見た、その弟子との訓練の際の動きと比べてみても。
剣を実際に交えてみて、そのことを感じた。
もちろん強くなったことで、いまのところ自分も対等には戦えてはいる。やはり自分の見込みどおりに。
こいつの家を訪れた帰り、その弟子との訓練を見たことで予想してもいたが。こいつと戦えば、接戦になるとも。いまのところその通りになっているが、相手がこうまで強いと逆に敗れる可能性も零でない以上、眼前の男がひどく恐ろしい。たとえ勝つ自信が、こちらにまだあっても。
ミゲールの背筋に冷たいものが走る。
しかしながらこちらとしてもいまさら、こいつとの勝負から手を引く気などはすでにない。逆に殺されてしまう危険があるかもしれんがな。それでもこのまま戦うまでだ。
やられぬように気を引き締めろ。こいつに勝つんだ。
ミゲールは鋭い目つきで師をにらみつける。師は高笑いをする。
「おまえがこの俺と対等に戦える。おまえ自身とルートヴィヒの、その見立てはどうやら正しかったというわけだ。すくなくとも、いまのところ対等に戦えている以上は。
だがそれでも、結局のところおまえとの戦いで勝つのはこの俺だ。
いましっかりと教えてやる。
所詮、おまえは俺には敵わないのだということをな」
師は猛って、ふたたび斬りこんでいく。
ミゲールも床を強く蹴った。前方へ踏み込んでいきながら、こうも大きく叫ぶ。
「俺も自ら望んで、あんたの相手をすることを選んだんだ。
自ら戦いを挑んで負ければ、恥さらしなだけだ。そんな無様をさらす真似などはしない」
彼らは互いに駆け寄ると、ふたたび剣戟に興じた。
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