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師に問われ、隊長はルートヴィヒの策について語る。

 ミゲールとベルモンは、しばらく互いに剣を構えながら睨み合っていた。

 しかしまもなく、剣を交えてから口をつぐんでいた両者の沈黙をベルモンが破った。

 気になることもあって話しかけてきた。

                    

「ミゲール。疑問があるので聞きたいんだがな」 


 ぴくりと軽くミゲールは片眉を上げる。


 もちろん、相手の疑問に答えてやる義理などない。

 それでも相手はかつての上官だ。その敬意もわずかなりとも残っているので、とりあえず答えてやることにしよう。その疑問とやらに。答えても、こちらになんの支障もきたさない限りはだが。


 どうぞ、とミゲールは応じる。


「今回ここで、おまえはこうして俺と対峙しているだろう?」


「それが、なにか?」

                     

 両者は双方ともに、距離がやや離れている。そのうえ隣の通路が騒然としており、普通に話していては相手の声は聞き取りづらい。そのせいもあって二人の声は大きかった。


「それは、おまえが望んでのことか?」


「そうです」


「なぜだ? どうやら今回は、俺の弟子がこちらを潰す策を算段したようだ。その策に沿っておまえたちは三つにわかれた。三つにわかれたおまえたち各自が、俺たち三人を引き離すために。おまえたちのそれぞれが、こちらの三人を各個に相手にすることでな。

 だがそうするにせよ、なにもおまえがする必要はなかろう。必ずしも俺の相手を。ほかの奴らに任せることもできたはず。なのに、どうしてそうしなかった?

 おまえの部下になるよう誘うべく、俺をもう一度説得したかったからというわけでもなかろう。いま一度の説得を望んだにせよ、そんなことなぞほかの奴に任せてもできたはずだしな」


 ベルモンのこの疑問に、ミゲールは答える。

                    

「それは、あなたとの戦いを考えてのことです。たしかに、こちらにはありましたよ。あなたに、いま一度の説得を試みたいという意図も。望ましい答えを得られればと考えて。ですから、さきほど説得してみせたわけですが。

 しかしそんなことは、べつにほかの者に任せることもできた。あなたのおっしゃるとおりにね。

 とはいえ、戦うとなると話は別です。正直、荷が重いでしょう。いまこちらの手元に残る手下どもに、あなたの相手をさせるのは。

 なにせあなたは、ひどくお強い。

 そんなあなたの相手をもし手下どもにさせるとするなら、私としては数を頼りにして襲わせたいというのが本音です。それも、あなた一人では対処しきれないほどの大多数で。そうすれば、手下どもでもあなたを仕留められるでしょうから」


 一息ついて、ミゲールは話を続ける。


「しかしあいにくと、新参は予想もしていた。あなた方とこうして対峙するときには、こちらに残された手下の数がおそらくは残りすくないことを。教会の外であなた方によって総崩れとなり、味方は数を減らされていたせいで。

 そんな状況下であなたと戦わせれば、手下どもはすぐにやられてしまうのがおちでしょう。たとえ残った手下ども全員で、あなたに対したとしてもね。新参はかなり腕が立つのでちがうかもしれませんが、すくなくとも奴を除いた手下のすべてはそうなるでしょう。

 そうなれば、逆にこちらの策があなた方に使われてしまう。

 こちらが全滅してしまいかねない。

 今回、新参の案じた策はそちらが逆用するのも可能ですから。こちらの三つに分かれた手勢のいずれか一つを、そちらが倒せば。

 私に聞こえたのですから、あなたの耳にも入ったでしょう? その策の逆用についての話は。

 隣の通路で、こちらの副隊長と新参がどうやら述べていたようですから」


「まあな。たしかに、奴らの話は聞こえたしな」 


「その点に思いを致せば、あなたの相手を任せるわけにはいかない。あなたに対抗できない手下どもに。

 そうするくらいならあなたの相手は、私がした方がいい。

 わが傭兵隊のなかでもっとも強いのは、この私です。私の腕前は、比べものになりません。お粗末な腕の手下どもなどとは。私なら一人でも、あなたとも対等に戦えるでしょう。それどころか、むしろ勝つ自信すらある。

 もちろん勝負は水物です。結果はどうなるかはわかりません。しかしすくなくともあなたへの勝率はお粗末な腕の手下どもが相対するのに比べて、私の方がはるかに高いでしょう。

 逆を云えば、そんな手下どもと比べ、私の方があなたに倒される恐れはずっと低くなるわけです。それに比例して、そちらがわにこちらの策を逆用される危険も同様にね。

 と同時に新参の策を成功させ、そちらが全滅する流れを生じさせる可能性も、この私があなたと相対した方がお粗末な腕の手下に任せるよりも当然ながら高くもなります」


 ミゲールは、またも一息つく。すでに充分、新参の策の全容をこちらは知っている。今回の策を実行する許可を取りに来た副隊長から伝え聞いているだけに。だからこれだけ、その策についてのことをこうして話せるわけだが。

                     

「まあ、強いと聞く新参なら、あなたの相手はできたかもしれません。ですので、考えないでもなかったのですが。新参に、あなたの相手を任せることを。

 ただ私には、新参より自分の方が強いという自負もありました。

 聞くところによると、新参はまだかなり若いようで。そうなるといくら優れていても、未熟な点も否めないでしょうしね。

 とすると、やはり私の方があなたに勝ち目はある。それで今回策を案じたのは新参ですが、あなたの相手からはずしました。その点は私の意思で」


 ふむ、と師はつぶやく。


「それにあなたは、苦楽をともにしてきた私の手下を数多く殺した。あなたの弟子たちも、その片棒を担ぎましたが。しかしその弟子たちは、あなたが従えている。

 つまりあなたがその弟子たちとともに、わが手下を殺して回った今回の一件。そのすべては、あなたが目論んだのでしょう。いかが?」

                

「そうだ。この町いる俺たち以外の奴らの全滅。そいつは俺が目論んだ。弟子たちを動かして。そうすればおまえも殺せる。そうしたところで目撃者もいなくなる。俺たちは、罪に問われることもなくなるんでな」


 師は認めた。ミゲールはうなずく。


「するとやはり、あなたが張本人というわけだ。大勢のわが手下の死を招いた、今回の件の」


「とはいえそれも、おまえから手を出してきたからだろうが。おまえは俺を部下にしようなどと、舐めたことを目論んだ。あげくに、この町でこちらを殺そうとまでしてきた。

 それで、今回の一件の幕が上がったのだ。

 云ってしまえば、今回の一件のそもそもの原因はおまえ自身にあるんだ。おまえの手下どもが死んだのも、自業自得というものだ。自身の報いが、その身のうえに降りかかったにすぎない」


「そうですね。でもだからといって手下を殺されては、連中を従える私としては黙って引き下がれませんよ。その仕返しをさせてもらわねば。

 とくにその張本人のあなたには。この手で直接殺してね。その意図もあって、こうして私があなたのもとへ出向いたんですよ」


「ふん、そこまではわかったがな。では、なぜ一人で俺と対峙した。いくら手下どもが大したことのない雑兵であっても、幾人か連れてきて複数で俺と対すれば一人で向かってくるよりもはるかに有利に戦えたろうが」


「今回、新参が案じた策。その内容は、こうです。

 まずは、そちらの三人を孤立させる。そのそれぞれと、同じく三つにわかれたこちらの味方が相対する。以後、各個での戦い、つまりは三つの局地戦に突入。そのどれかで勝利した陣営が、相手側を全滅させられるというもの。

 なら今回の戦いで勝利するには、その各個の戦いは肝要と云える。であればそのすべての戦局でこちらの味方が有利に、あるいはすくなくとも対等に戦えるよう仕組まねばならない。三つの局地戦のいずれをも確実に制し、けっして負けはしないように。

 そうすることでこの教会での戦いでも、こちらが勝ちを得るために。そう新参は考えたようだ」 


 なおもミゲールは説明する。

                   

「そこであなたとその弟子一人には、俺か新参のどちらかが当たる。ほかの手下をくわえずに、たった一人という最小限の個の力をもって。新参はそういう腹積もりで、最初からいたようだ。俺と新参なら、あなたとその弟子一人に個人で対しても充分に戦えると踏んで。

 あなたとは対等に。弟子たち一人に対する場合には、有利な展開で」


「対等に、か」


 嘲るように師は唇を歪める。


 ほかの弟子に対してならともかく、俺にたった一人で当たって対等に戦えるだと? 

 笑わせるな。ルートヴィヒの奴め。おまえたちごときが、俺と個人で対峙して対等に戦えるわけがないだろうが。そんな腹積もりを持つとは、ルートヴィヒの奴め。思いあがってやがる。

                     

 一方でミゲールの話はまだ続いていた。


「俺があなたと対することを決めたから、新参は弟子の一人に当たった。残りのもう一人の弟子には、新参はほかの手下すべてを集中させた。

 はなから新参は無理と踏んでいたようだ。あなたの相手をほかの手下どもがするのは。数がすくないうえ、一人一人も弱いためにあなたの相手をするには力不足。

 俺同様にそう見ていたこともあって、その対戦を仕組まなかった。

 だが弟子の一人なら話はべつだ。

 そこそこ強い、こちらの副隊長もまだ健在なこともある。残りの手下どもと組ませれば、充分に弟子一人と戦いを演じられると新参は観た。

 だがこちらの手下が一人でも欠ければ、その力は弱まる。そのぶんだけ不利になる。

 そうなれば多数で弟子一人に対したところで、手下どもは敗れかねない。万が一にもそうならないために、その力を減らさぬよう新参は手下どもを分けなかった。

 そちらの弟子は一人でも強い。その相手をさせるにあたっては、手下どもの力を弱めては心もとないんでね。

 こちらの残った手下は、まとめて弟子一人に当たらせることにしたんですよ。

 残りの手下どもが副隊長とともに総出で当たれば、多勢に無勢で弟子一人とは有利に戦える。

 それだけの力があると新参は観たんでね。残りの手下ども全員がまとまれば。

 そうなると、俺としてはつれてこれるわけがない。手下どもを誰一人として。こちらとしては戦うしかないのだから。こんな形で。

 こちらの手勢と、そちらの弟子一人。新参と、そちらのいま一人の弟子。俺とあなたというように。

 新参の策に乗り、今回戦う以上は」

                     

 この話を聞き、師はうなずいた。


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