こちらは、師たちを各個撃破する策を仕組みはした。 だがその策は、諸刃の剣でもある。
ジマが敵の一人を打ち倒した光景は、ゴーマと剣を交えている最中のルートヴィヒの目にも入った。
もっと粘れよ、傭兵ども。そう簡単に、やられて欲しくはないんだから。思わず、ルートヴィヒも舌打ちをする。
こちらは師たちを各個撃破する策を仕組みはした。
だがその策は、諸刃の剣でもある。
逆に師たち三人のうちの誰かが一人でも、そのそれぞれが相対するこちらの味方に勝つのはまずい。その場合、むしろこちらが危険な状況に陥ってしまう。
つまりは逆に開くことになってしまう。敵が勝つ道を。まだ残るこちらの味方を、敵が次々と倒す道を。
奴らの誰かが自分の相手を倒せば、そいつは合流するだろうから。来援者として。まだこちらと戦う、孤立無援だった死刑執行人の三人の誰かと。
それで力を増せば、その合流を果たした連中は倒すこともたやすくなる。来援がくるまえに、孤立無援だった死刑執行人の誰かが相手をしていたこちらの手勢を。
しかも勝てば、むこうはまた同じことを繰り返すだろう。自分たちが、この教会の戦いで最後に勝つために。
あげく最終的にむこうの三人すべてが合流してしまったとすれば、残ったこちらの味方に一体何ができる? そのときには残っているこちらの味方は、あちらのうちの誰か一人を相手にしていた者だけだ。
むこうは三人いて誰も欠けておらず、こちらは分散して戦っているはずの味方をすべて失った状態だ。そんな状況では、なにもできるはずがない。
仮にこちらがわで最後に残ったのが俺だとしても、その状況を覆すことなんてできやしない。
いや、あの三人を同時に相手にしては、分散して戦うこちらがわのどの手勢が最後に残ったにせよ状況を覆すのは無理だ。
その力にひれ伏すしかない。
あちらの三人にしてやられ、全滅という結果を甘受するしかない。
そうなったら、こちらの仕組んだ策が裏目に出てしまう結果になるというわけだ。奴らに、こちらの策を逆用されてしまう破目になって。まさに最悪の流れだ。
ルートヴィヒは、そうなることを危惧していた。
そんなことにだけは、させてはならない。そんなことになれば俺は敗れ、下手をすれば死ぬか、奴らのもとに連れ戻されてしまう。
せっかく奴らに復讐することを望んで裏切ったというのに。
神や世間に報復するために狂王になろうと、一歩踏み出したというのに。
すべてが水泡に帰してしまうのだ。
それはいやだ。そうならないためにも、今回のこの策は成功させなければならない。
だから味方にも、やすやすとやられてほしくない。
できればやられないよう、もって欲しいんだ。おまえたちが早々にやられてしまえば、一貫の終わりになってしまうから。
なのに、こうしてまた一人やられてしまうとは。しっかりしろよ。傭兵どもめ。
ルートヴィヒは眉をひそめたが、同時にこう考えた。
まあいい。とにかく奴らがやられるまえに、こちらが仕留めてしまえば済むことだ。俺の策を成就させるためにも、まずはゴーマ、おまえを。
「はやいところ、ゴーマ。おまえを打ち倒してやる。つい最近、俺がおまえをはじめて打ち倒した、あの訓練のときのように」
ルートヴィヒはそうつぶやくと、強烈な斬撃を放った。
「俺を倒すだと?」
ゴーマは叫びながら、かろうじて相手の斬撃をかわす。
「ああ、そうするつもりだ。傭兵たちや、こちらの隊長がやられないうちに。それができれば、おまえたちの全滅は確定するしね」
ルートヴィヒは、今度はしたからうえへと急激に剣を跳ね上げる。
それも微かに呻きながらゴーマがかろうじてかわすと、またも剣で打ち合う形となる。そのあいだにも二人の会話は続く。まずはゴーマが叫んだ。
「はっ。そう簡単にいくものか。あの訓練に勝ったからって、いい気になるなよ。
おまえも知ってのとおり、俺はずっと見下してきた。おまえのことを格下に。
あの訓練のときにしたって、そうだった。それでひどく油断していたこともあって、あのときゃやられちまったってだけの話だ。
だが、もう今回は油断はしねえ。あんなざまを繰り返す気はねえ。油断さえしなけりゃ、おまえなんかに誰が敗れるか。あのときと同じようになると思うなよ」
「いいや。それは違う。おまえは間違ってるよ、ゴーマ。俺はおまえたち二人の弟子に、一対一ではもう勝てるんだ。
個人の剣の力では、俺はおまえたちを追い抜いている。おまえが油断するしないは、もはや関係ない。今回だって、おまえなんて倒せるに決まっている。こうして一対一で戦えば。その結果、俺は今回の戦いで勝利を得てみせる」
ルートヴィヒも負けじと云い返す。
「おまえももう知ってのように、こちらの策はだ。
三つに分散してそれぞれ戦い、自らが相対する敵を打ち破ったときにほかの味方がまだおまえたちの誰かと争っているなら合流して助けてそいつを倒し、最後にはおまえたちを全滅させてこちらが勝利するというものだ。
各個に戦う三つの局地戦をつくり、その一つを制する都度まだ戦う味方に合流していき最終的な勝利を得るというものだ。
だからこちらの隊長やほかの傭兵たちも生き残っている状態でおまえを倒したら、俺はすぐにでも合流する。
まずは、俺のすぐそばでジマと相対している傭兵たちにね。
そのときには傭兵たちもいるんだ。ジマだって、なんなく倒せるだろう。
それだけじゃない。傭兵たちやこちらの隊長が未だ健在のままその状況にまで至れば、残る師だって必ずや始末できるはずだしね。
生き残った傭兵たちとともに隊長のもとへ向かい、合流さえしてしまえば」
策の種明かしをすることは、いまとなっては問題ない。こいつらだって馬鹿じゃない。いずれ気づいたことだろうから。
それにもうこの策から、師やほかの弟子たちも逃れられない。傭兵隊がわも。
こうなったいま、両陣営ともにこの策から逃れようとするなら手はただ一つ。死刑執行人と傭兵隊。両勢力のどちらかが局地戦に勝利し、教会の戦いを制するしかない。
その状況にまで引きずり入れ、こちらの策にはめ込んだいまとなっては、もはや懸念する必要もない。奴らが、この策にひっかからないという恐れも。
だから副隊長もそうだろうが、この俺にしろ種明かしをしてみせたというわけだ。策にはめ込むまえに種明かしをしてしまえば、むこうが警戒してひっかからないという可能性もありはするので、当然ながらできはしなかったが。いまとなっては、もうちがう。種明かししようが、関係ない。
ただできうることなら、もっと確実に奴らを葬れる手があればよかったんだけど。今回はほかの手を考えられなかったんだから、仕方ない。
「けっ。大きく出やがったな。あのひどく強い師を、打ち倒せるだと? なにを云う。おまえごときが。いつだって、師にかなわないくせに。このあいだの訓練のときにしたって、師に打ち倒されたっていうのによ」
叫ぶゴーマに、ルートヴィヒは云い返す。
「もちろん師はあまりに強く、俺一人ではとても倒せない。
でもこちらの隊長や残った傭兵たちという味方の助力を借りられれば、話はべつだ。俺と隊長という手練れ二人を相手にすれば、師も苦しいだろう。
そのうえ傭兵たちにまで邪魔されれば、師とて俺たち全員をさばききれないだろう。多勢に無勢で、きっと殺せるに決まっている。かくして、おまえたちは全滅する状況に至るというわけさ。哀れにもね」
ルートヴィヒは剣を振りながら、唇を歪めて嗤う。
「ゴーマ、おまえを打ち倒して俺が勝負を決めてやる。はやく俺に、命を差し出すがいい」
「冗談云うな。これまでずっと俺に散々、虐げられてきたてめえなんかが思いあがりやがって。生意気な口をきくんじゃねえ」
ゴーマは怒りを燃やしながら、剣を突き出した。




