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ルートヴィヒは嘲りの高笑いを。そうさ。おまえたちは、俺の掌のうえで踊っていたんだ。

「くっ。俺らがそれぞれ一人に分散すれば、こちらは頼れる味方がいないぶん力が弱まる。そちらにとっては有利な状況になるってことか」


 云ってから、ゴーマは戦いを再開させようとする。駆けて距離を詰め、剣を繰り出してルートヴィヒに鋭い突きを見舞う。

                    

「こちらにしてみれば都合がいいだろう? 三人を同時に相手するよりも、それぞれを孤立させて弱まったところを各個に潰していった方が」


 ルートヴィヒは鮮やかな動きで突きを避ける。


「しっかりと練ってきたってわけか。俺たちを殺す策を、おまえは」


 二度、三度と鋭い突きをゴーマは繰り出す。

 ああ、とうなずいてルートヴィヒはさらに避ける。三度目の突きを避けきったあと、ルートヴィヒは剣を横におおきく薙ぐように素早く振る。右から左へ。ゴーマの首筋を飛ばすために。

 空気を裂く音が鳴る。が、ゴーマの首は無事だった。その横なぎを、頭を沈めてゴーマは避けていた。


「けっ。若造のおまえごときの策に、よく傭兵たちも乗ったもんだぜ」


「傭兵たちも、ほかにおまえたちへの対応策がなかったからね。この策に乗るよりほかに手がなくて、実行することになったってわけさ」


 立て続けに振り切った逆側から、今度は斜めにルートヴィヒは剣を薙ぐ。ゴーマの躰が切り裂かれそうになる。だがゴーマは背後に飛んで、その攻撃を避けた。


「へっ。傭兵たちもだらしねえこったぜ。おまえみたいな若造が、策を思いつけるのによ。年喰った奴らがなんら無策とは」


 地に着地したあと、ゴーマは傭兵たちをせせら嗤う。このとき、はっと気づいて話題を転じる。


「おい、ルートヴィヒ。さっき、師は挑発されてあちらの通路へ進んだよな。ってことは、その挑発自体もおまえの策なんじゃ?」


 いま思えば、さきほどの師への挑発はいかにも恣意的だ。いまさらながら、ようやくゴーマは不審を覚えていた。


「そのとおりさ。俺としては、都合がよかったんだ。おまえたち弟子には、こちらの通路へ来てくれた方が。おまえたち二人を分断し、独りにさせるために。それでそうなるよう、こちらとしては誘導をさせてもらったよ」


 ルートヴィヒが駆け寄ってゴーマに迫る。鋭い突きを繰り出す。それを避けながらゴーマは舌打ちをする。ルートヴィヒの誘導を見抜けず、見事にひっかかった悔しさから。

 ゴーマがさきほどしたように今度は自分が幾度も突きを繰り出しながら、ルートヴィヒは説明する。


「さっきも云ったが、この建物は表扉から左右に、つまり西と東に通路がわかれている。しかもそれぞれの角を曲がれば、通路はさらにまっすぐ伸びている。北側に向けて、左右ともに。ただし西側の通路にはないんだ。

 伏兵を控えさせておける部屋へとつながる、この通路にあるような扉がね」


 とがった顎の先端でルートヴィヒは指し示す。傭兵たちがいましがた出てきた扉を。


「そうした教会のつくりを思えば、この東側通路にこそあるんでね。おまえたち二人を独りにする、地の利は。

 おまえたちをそれぞれ独りにさせるための地の利欲しさに、こちらはあらかじめ決めていたというわけさ。二手にわかれたおまえたちの進む方向までも。

 さらには実際に、そちらの方向へおまえたちが進むように手も打った。こちらの隊長に、あえて西側の通路に控えてもらった。そちらで師の挑発をしてもらうためにね」


 ルートヴィヒの突きを避けきったあと、ゴーマが剣を出す。ルートヴィヒも応じる。二人のあいだで剣戟が激しく繰り返されながら、ルートヴィヒは語を紡ぎだす。


「それがいくら安っぽいものでも挑発をされれば、師は大抵は無視できない。短気な性格上、挑発されればきっと隊長のいる西側通路へ行く。

 となると当然そちらが二手にわかれるというのなら、おのずとゴーマとジマおまえたち二人はやってくることになるだろう? おまえたちを引き離すことが可能な、地の利のあるこちらの通路へと。

 それで俺は、この通路の奥で待ち受けていたのさ。おまえたちを引き離すことを完全に成功させようとして。おまえたちをやって来させるためにね。傭兵たちが控えていた部屋へとつながる、そこの扉。そこを通りすぎてくれる位置にまで」


 それに自分が通路に出ていれば、表扉から入った死刑執行人たちの動向も耳でうかがえる。本当に二手にわかれたかもすぐ知れる。

 通路にいたのは、その目的もあってのことだ。が、とくに云う必要もないことでもある。なので黙っておくが。ルートヴィヒは、にやっと唇を歪ませる。


「各個に潰すことを狙う以上、こちらはとしては引き離さなければならない。おまえたち二人の弟子も、独りにするために。

 そこでおまえたちがこちらの通路に来たら、挟撃することを狙ったんだ。

 こういった算段をあらかじめ整えてね。

 まずは俺がおまえたちを挑発する。おまえたち二人には、おのずから近づいてもらう。俺の望む、そこの扉を通り過ぎる位置にまで。その位置を通り過ぎれば、俺が指を鳴らす。それを合図に、傭兵たちが控えていた部屋から出てくる。

 その後は前後から挟み撃ちの形で傭兵たちと俺が、おまえたちを襲うというね。

 そうやって前後から傭兵たちや俺に狙われ、挟まれてしまえばさ。おまえたちとしても、対応せざるを得ないだろう? 敵を正面に見据え、互いに背後を見せる形で。

 そうなれば必然的に、おまえたちも前後にわかれる。否応なく独りの状態にできる。まさしく、いまのように。それによって、おまえたち三人全員が孤立することになるからね」


「そこまで仕組みやがるとは」

 

 云ったのはゴーマではなく、ジマだった。彼は傭兵たちと戦いを演じながらも、二人の話を聞いていた。

 だがゴーマとルートヴィヒの二人が声を大にして話しているからには、それもべつだん不思議なことでもない。

 ジマが返答してきたことに疑問を覚えず、ルートヴィヒは剣戟に興じながらくすくす笑いを披露する。


「結果、いまやすべてこちらの狙いどおりになった。

 ゴーマとジマ。おまえたち二人の馬鹿さ加減には感謝するよ。考えなしに俺の安い挑発に乗って、こちらの思惑どおりに動いてくれてさ。ありがたいことだよ。本当に」


「無様をさらしていたってわけか。これまで俺たちは。おまえごときの思惑に、やすやすと乗って」


 手を休めず、ゴーマは渋い顔をする。


「そうさ。おまえたちは、俺の掌のうえで踊っていたんだ」

                 

 ルートヴィヒは戦いのさなか、玲瓏に響かせた。嘲りの高笑いを。

 怒りでゴーマは歯ぎしりをする。ジマも嫌悪の表情を見せた。

                    

「狙いどおりに俺らを孤立させたからって、いい気になってんじゃねえぞ」


 叫んで、ゴーマは強打を撃ち込んだ。


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