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師と弟子は、教会の回廊を左右にわかれて進む。

 教会の表口の扉は、死刑執行人全員で傭兵たちが武器として使っていた棍棒や斧を使うことで叩き壊された。最後にどおんという大きな音とともに、ばきんという響きも鳴って両開きの扉は激しく左右にわかれて開く。

                    

「ふん、入るのに手間かけさせやがって」


 不機嫌そうに師はつぶやいた。扉が開いた以上、もうこんなものは必要ない。棍棒を地に投げ捨てる。

 弟子たちも扉を破るために拾った棍棒と斧を、師にならって地に捨てる。その後、行くぞ、という師の声とともに彼らは教会に侵入を果たした。


 侵入後、彼らは教会の内部を見回した。教会の壁には灯火が、点々とわずかな距離を置いてそれなりにつけられている。

 夜のせいで仄暗さは否めないが、それでも視界は充分に効いた。いまのところ、とくに敵や罠らしき存在は周囲になさそうだった。ただし侵入直後に、彼らは選択を迫られた。


「通路は左右にわかれているな。さて、どうすべきか? 全員で右へ行くか? それとも左か? あるいは二手にわかれて、左右の通路を双方ともに進むべきか?」


 そうゴーマがつぶやいた。表扉の前方は壁になっていた。壁のまえに通路はあるが、それは右と左にまっすぐに伸びていた。方角からすると表扉は南側だから、右は東側で左は西側だ。

 左右それぞれに伸びる通路の、そのさきのつくりはおなじだ。左右の通路双方ともに、北側の方角へ伸びる直角の曲がり角となっている。そのことを確認し、ジマが師に尋ねる。


「どうします?」


「二手に分かれ、左右それぞれの通路を進むか」

 

 師が方針を打ち出した。

           

「全員でどちらかの通路へ、まとまって進むのはまずい。この教会が、表扉からしか出入りできないつくりである以上はな。俺たち全員が一方の通路に進めば、そのあいだに逃げ出すこともあり得る。異なる通路から、なかの連中がな」


「ま、たしかに困りますわな。たとえば左側へ俺たちが全員で進んだとして、敵が逆の右側から逃げ出すという事態になっては」


 ジマが云うと、師はうなずいた。


「なかの連中を一人たりとも逃がさずに皆殺しにするためには、二手にわかれてすべての通路をふさいだ方がいい」


「なるほど。もっともな理由ですが、そうされるおつもりならどのような形で二手に分かれます?」


 ゴーマが問いかける。


「これまでどおりだ。俺は一人で行動する。おまえたちは二人で行動を共にしろ」


 師は命じた。もちろん弟子二人のうちのどちらかを自分と組ませ、もう一人を単独で行動させるという選択肢もなくもない。が、それは念頭から排除する。師は話を続ける。


「このさき、傭兵隊隊長のミゲールやあるいはルートヴィヒと出会うやもしれん。そのとき、おまえたちは一人で行動していたら対処できまい。宿から離れるときにも云ったがな。おまえたちの技量は、個で見たら奴らに劣る。まず確実に消されかねんしな」

 

 師は胸の裡でつぶやく。俺としては、心もとないんでな。あの二人と出会う可能性があることを考えると、おまえたち二人を単独で行動させるのは。


「でしょうか? 正直、我々は一人でも、ルートヴィヒや傭兵隊長を殺せるとは思うんですが」


 ゴーマはむきになってつい抗弁した。師の評価は不服ではある。宿を出るときのみならず、またしても同じことをこうして云われるとさすがに矜持が傷つく。ジマも同じ思いだった。しかし、師はため息をつく。


「強がるな。その意気は買うが、奴らはおまえたちが単独で挑んでも勝てる相手ではない」


 ぐ、と悔しさから眉をひそめてゴーマとジマは無言でうつむく。それにかまわず、師は語をさらに紡ぐ。


「だが二人なら、対処できるはずだ。まずもってルートヴィヒには、むざむざとやられるということはなかろう。事実、二人ならおまえたちはルートヴィヒに勝てるんだしな」

                   

 そのとおりだったので反論せず、無言で弟子たちは師の話を聞きつづけた。


「ミゲールと対したところで、同じだ。

 ミゲールの奴がいまどれくらい強いかはわからん。昔もそれなりに強かったが、いまは俺を部下にしようと思いあがるくらいだ。さぞかし剣の技量も上がっているんだろうが、すくなくとも俺以下のはずだ。

 奴とは昔馴染みだ。奴に俺ほどの剣の天分がないことくらい、とっくに承知済みなんでな。天分に差がある以上、いくら努力していたとしても俺より剣の腕前は劣るだろう。だったらこの教会で奴と会ったところで、おまえたちは二人でいればまず安全だ。

 二人ならおまえたちは俺と対峙したとき、敵わないまでもごく短時間であればさして遅れを取らないほどの力を持つんだ。いわんや相手が俺より格下のミゲールごときなら問題なかろう。その相手は充分に務まるはずだ。それも俺と対している時間よりも、長くな。

 あるいはミゲールの奴が組んだおまえたち二人よりも強いということも考えられるが、仮にそうだとしてもだ」


 師はにやりと笑み、片腕を胸にまで上げてその親指を自分に突き立てる。


「ましてや、この教会には俺もいるんだ。俺がすぐにでも応援に駆けつけられる状態にあると云える。

 もしおまえたちがミゲールに出会って苦戦したとしても、おまえたちはそう簡単には倒されまい。俺が駆けつけるまでの短いあいだくらいなら、充分に持ちこたえられるはずだ。

 むろん奴がおまえたち二人より弱ければ、殺せばいいだけの話でとくに困ることもなかろう。

 ほかの生き残った傭兵どもにも会って対するかもしれんが、それについても支障あるまい。おまえたちが二人でいれば、無様をさらすとは思えんしな」


 まあ、とジマがつぶやいた。

                 

「それに俺も一人で行動したところで、ミゲールを含めた傭兵隊の輩やルートヴィヒごときにやられるほど落ちぶれていない。

 つまり弟子を失いたくない俺としては、こういう組み合わせで二手にわかれた方が好都合ってわけだ。俺にも危険がないうえに、弟子であるおまえたちを失う恐れもまずなくすことができるんでな。余程のことでもない限りは」

                     

「師がそうおっしゃるなら、我々はしいて反対しませんが」


 ひとまず納得すると、ゴーマは尋ねる。


「じゃあ、あとは二手にわかれた我々と師がどちらの通路を進むかですが、それはどうします?」


「とくに、どちらがどっちの通路を進まなくてはならないという理由もない。だから選ばせてやる。どちらを進むかを、おまえたちに。右でも左でも、おまえたちが好きな方を行け。俺はおまえたちとは異なる方向へ進む」

                    

 さらに師は云い足した。


「ただしどちらの通路に行っても、絶対に誰も逃がすなよ。傭兵どもは全滅させるんだ。殺せるなら始末しろ。殺せないなら、俺が行くまでなんとか教会に釘付けにしろ。おまえたちの手に負えなければ、俺が葬ってやる」


 わかりました、と返答するとゴーマはジマの方を向いて尋ねた。


「さてと、どうしようか?」


「そうだな。どちらに行くのがいいかな?」


 ジマが迷っているちょうどそのとき、西側の曲がり角の奥から叫び声が聞こえてきた。


「ベルモン・グロー。教会に入ってきているんだろう? いるのはわかっているぞ。声が聞こえるんでな。おまえもこちらのこの声が聞こえているなら、一人でこちらへ来い。おまえに殺された手下たちの仇討ちだ。直々に、一騎打ちで相手してやるぞ。おまえが潰しにかかっている灰色の狼の隊長、ミゲール・リネイラがな。

 もちろん、この俺を恐れていなければの話だが」

                    

 この叫びを聞き、師はにやっと嗤う。


 元部下の分際で、俺と一騎打ちだと? かつて共に過ごしていた時代から、一度もこの俺に勝てていない分際で。

 まったくもって生意気な。もちろん恐れてなどいない。面白い。その挑発にあえて乗ってやる。


「おまえたちに進む方角を選ばせてやるつもりだったが、それは取り消す。どうやら、ご指名があったようなのでな。俺はあちらへ行く。あの身の程しらずに、分際をわきまえさせてやる。おまえらは逆の方向へ行け」


 師の命令に、ゴーマは素直にうなずいて従う。 


「そんじゃ、いきますか」


 ゴーマは東の通路に足を向けた。ジマもそのあとをついていく。その直後、師が二人の後ろ姿に向かって声をかけた。

                     

「ああ。云い忘れていたが、くれぐれも殺したり使いものにならないくらいに痛めつけるなよ。ルートヴィヒを。奴と、もし出会ったとしても」


 師は、厳しい眼光で弟子二人をにらみつける。


 下手をすれば、この弟子二人はルートヴィヒを殺しかねない。この二人はルートヴィヒを嫌って憎んでもいるだけに。そうさせないように、この弟子二人にあらためて念を押しておかないとな。

                     

「奴をどうするかは、俺が決める。おまえたちは、勝手な真似はするな。もし奴がここにいたとしても、生け捕りにする以外は許さんぞ。それも五体満足のままにだ。いいな?」

                     

「わかってますって」


 歩みを止めずに片腕を上げ、ゴーマは答えた。

 その後、師も弟子二人と逆方向へと歩みはじめた。

                    

                    

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