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ベルモンは、女たちと傭兵どもを次々と屠っていく。

「ふっふ。いい顔だ。もっと苦痛に顔を歪ませろ。そうすれば、こちらは上機嫌になれる」

                   

 ベルモンはふたたび哄笑した。


 なんであれ人に苦痛を与えられれば、喜ばしい。宿で襲撃を受けてからまたしても疼きだしていた、俺の嗜虐性が満足してゆくようで。

 むかついていた女どもを痛めつけると吹き飛んでもいくようだ。この女どもにこれまで抱いていた不快さや憤りも。

 そのうえ、最終的には殺せるんだ。この女どもを。そう思うと、気分が高揚してならない。


 ベルモンは、おおいに悦んでいた。

                   

 彼の目のまえでは、腕を斬られた女が痛みに打ち震えてうずくまっている。いまでは呪詛の声をちいさく絞り、その顔を泣き濡らしながら。切られた箇所からは、血がどくどくと滴っている。

                   

 女は負傷した部分をかばうようにもう一方の手で抑えているが、その姿は見るからに痛々しい。憐れみを催し、そのもとには未だ無事な女が心配そうに近づいてもいく。

                  

 大丈夫? という問いかけに斬られた女は首を振る。そんな状態のただなかにあって、ほかの女たちは恨みがましい視線をベルモンに投げつけてくる。

 ベルモンは意に介さず、不敵に鼻を鳴らした。


「云っておくが、そいつがそうなったのも剣を取って俺に襲いかかったからだ。いわば、自業自得というもの。必ずしも、俺のせいばかりとは云えないからな」


 師はそう叫んだ。ほかの女たちは文句を云わなかった。その通りだったからだ。襲った以上、斬られるのも仕方ないとみな思った。ベルモンに襲いかかってもこない。いまの一戦を見て、女たちは怯えて腰が引けてしまっていた。


「しかしまったく、人をいたぶり殺すこと以上の悦楽など俺にはないな。やめられん」 


 陶酔の吐息をベルモンは吐く。

 すかさず主導的立場の、手首を斬られた女が聞き咎めた。苦痛にしかめた顔を突如上げて、怒りに任せて責めたてる。


「最低よ、あんた。そんなことが悦びだなんて。はた迷惑もいいところよ。やめられないですって? 一体なんでよ。なんで私たちを逃がしてくれないの? どうして殺そうとするのよ」


 生意気な。俺を責め立てやがって。


 手首を斬られた女を、ベルモンは睨みつける。


 上機嫌に水をさしやがって。手を切られただけでは、大人しくならないとみえる。


 女への怒りがベルモンに湧いた。俺は生意気な女が嫌いでな。


 むろんこの生意気な女には、のちのち自分を怒らせた報いをくれてやろう。

 しかしいまはとりあえず、うるさいこの女になにか云い返してやらねば気が済まん。かといって、生意気なこの女の問いに素直に答えてやる気もない。

                   

 そこでベルモンは冷たく澄ましてこう応じた。

                   

「なぜかだと? その理由を、おまえなどに答える義理はない」

                  

 だがベルモンは心のうちで思う。

 

 理由か。そいつは、自分のことだけに俺にはよくわかっている。その理由はなにより、自身の嗜虐性の高さゆえだ。


 ふふっとベルモンは嗤った。


 まったくもって、俺って奴は残忍なことだよ。血と殺しに飢えていやがる。ベルモンは自嘲する。これが俺の性だから仕方ないが。

 いまだって傭兵どもをぶち殺したばかりなのに、さらなる殺意がとめどなく湧いてきやがる。

 これまで俺にしてくれたむかつく態度への相応の礼を、女どもにしたいっていうこともあるがよ。それだけのせいじゃねえ。それ以上に、自身の悦びを得たくもあるからだ。

                   

 せっかく自由に弄べる女どもが、目のまえに転がっているんだ。こいつらをいたぶって殺したら、さぞかしたまらねえだろうって心の底から思っちまう。

 

 傭兵どもを殺して、それなりに満足感を覚えているってのによ。さらなる殺しできるなら、その好機をものにしろって躰が疼いてならねえ。

 我ながら度し難いぜ。完全にいかれてやがる。


 覆面の中に隠された唇に、ベルモンは冷笑を乗せる。

                   

「さて、おまえたちは俺と殺しあう気なんだろう? 次にかかってくるのは、どいつだ? 女どもを煽り立てた、張本人のおまえがまたくるか? 掛かってくるなら来い。相手してやるぞ。俺としても、うるさいおまえがひどく腹ただしい。

 そろそろ斬って、そのうるさい口をふさぐのもいいと思えるんでな」

 

 ベルモンは主導的な立場の女にそう云った。


「あたしだって、もう我慢できない。殺してやりたいわよ。あたしの手を斬った、あんたなんか」


 憎悪の目を師に向けると、手首を斬られた女はふたたび煽り出す。


「みんな。はやくやっちゃって。どうやら、こいつは結構な腕前みたいだわ。あたし一人じゃ、立ち向かっても相手にならない。だけどみんなで一斉にかかれば、始末できるわよきっと」


「でも、怖い」


 女たちはすでに恐怖で腰が引けていているために動かなかった。

 いまのこんな緊迫した状況に、女たちは耐え兼ねていた。そのなかの温和そうな女も同様だった。そこで彼女は師に向かい、こう提案を持ち掛ける。


「ねえ。本当にあんた、私たちを殺す気なの? もしそうなら、やめてよ。そうすれば、私たちもあんたと争うのをやめるから。

 いい? 私たちは好んで争いなんてしたくないの。あんたから身を守るために剣を取ってるの。

 あんたが手を引けば、こっちもあえて争わないわ。でもあんたが手を引かずに、あくまで私たちを逃がしてくれないというのならさ。私たちとしては、身を守るために争うしかない。気が進まないけど、あんたとね。

 あんただって、私たちが総出で一斉に襲えば、やられちゃうかもしれないでしょ。いくらあんたが手練れでも、数には敵わなくて。もし私たちに殺されなくても、手傷くらいは負うかもしれない。

 そうなれば、あんた自身も損でしょ。もしあんたが私たちを殺す気でも、なんとか見逃してくれない?」


「だめだ」


 ベルモンは冷然とにべもなく拒み、じろりと女たちの顔を睨みつける。


 自分たちがたいした奴らでもないのになにか勘違いをして、いつもこの町を訪れるたびに俺を見下してきたこの女たち。

 正直なところ、これまで俺は一度ならず考えていた。

 こいつらも、いつか殺してやろうと。しかし、実行はしなかった。

 それどころか俺がこの町で罪のない住人を手に掛けることなどは、今日まで一度もしなかった。

 もちろん、それには理由がある。

 

 この町を訪れるときには、処刑をおこなう。

 そのため処刑後には、俺の嗜虐性が満足してしまうことが多い。

 しかもだいたいが、一夜限りしか滞在しない。

 その一夜のあいだに自らが満足した状態で、さらなる殺人を望むほどに嗜虐性が疼くことなどはまずない。そんなことになるのは、普段でも稀だ。

 

 実際にそんな状況になったことは、ウルグス町ではこれまで皆無だった。

 今回にしても、宿で襲撃を受けるまえまで俺は満足していた状態だった。

 

 この日のウルグス町での処刑は、俺自身がおこなった。王都では弟子たちの鍛錬のために、奴らに処刑を譲ることはあった。だがウルグス町では、そんなことはしない。

                    

 せっかく殺しを愉しむために処刑をしようと、わざわざウルグス町に出向いてきたのだ。

 なのに肝心の処刑ができなければ、いらだってしまう。そんな不快な気分は味わいたくない。

 なので、ウルグス町へ赴けば、必ず処刑はこの俺自身の手でおこなうことにしている。

                    

 処刑で充分に人を殺してしまえば、その夜には嗜虐性も満足して疼くこともない。だから気持ちよく、今夜も宿で襲撃を受けるまえには酒を愉しんでいたのだ。往々にしてウルグス町で処刑を済ませた夜には、上機嫌になれるんでな。

                    

 もっとも、一方で考えてはいたが。自分がウルグス町を訪れたところで処刑では満足しきれず、どうしようもなく嗜虐性が疼くときもいずれはあるんだろうということも。

 そのときには、いの一番にこの町の女たちを殺してやろうともな。

 そんな思いもあったことも、町の女たちがここにいると聞きつけた俺の足をこの場所へ運ばせた理由の一つだがな。

 町の住人たちも必要とあらば、いつでも殺してやるつもりだった。ただあいにくと、そんなときなどはこれまでは訪れなかったが。

 おかげでこの女たちを含めた町の住人たちは、いままで俺の餌食にならずにいられた。もちろん処刑されるような罪人なら、話は別だ。死刑執行人としての役目上、こちらとしても罪人は手に掛けねばならないんでな。

                    

 だが、それ以外の町の住人たちは俺の毒牙にかかることはなかった。

                    

 とはいえ、今夜はこれまでと事情が異なる。

 この町にいる者は、俺たち死刑執行人を除いて誰であろうと皆殺しにしなくてはならない。俺たち自身の身の危険を避けるためにも。いまや、一人として生かしておけない。傭兵であれ、町の住人であれ、ほかの誰であれ。

 だからこの家に至るまでの途上で、目についた者は片っ端から手に掛けもした。

                    

 当然、この女たちにしても例外ではない。殺さねばならない。

 しかも、殺すならそのついでだ。どうせなら、せいぜいたっぷりといたぶって殺してやる。

 存分に晴らしてやる。この女たちに、これまでの礼を。


 そういう心持ちに、ベルモンはなっていた。残忍な悦びを、ベルモンはその灰色の瞳に宿す。


 ありがとうよ、おまえら。いまは、俺を蔑んだ目で見てくれたことに感謝するよ。

 おかげでより一層、よいものになるだろう。これからおまえたちの命を奪う、その時間が。ただでさえ、殺しは愉しいというのにな。復讐心で、より濃密な悦楽の時間を過ごせよう。

 むかついていた奴らに手を下せば、かなりの殺しの愉悦に浸れるだろうからな。

                    

 ベルモンはククっと嗤った。


「おまえたちは俺が愉しめるように、ひどく苦しめて殺してやる。せいぜい苦痛を味わい、いい声を出してよがってくれ」

                 

 ベルモンは冷たくそう云い放った。

 それ見たことか、というような表情を得意そうに浮かべて、主導的な立場の女は叫んだ。

                 

「ほら。やっぱり、こいつは私たちを殺す気なのよ。殺らなきゃ、こっちが殺られるだけよ。死になくなきゃ、私たちはこいつを始末するしかないのよ」


「みたいね。残念だわ。こうなったら私たちも死にたくないから、女の身でも相手をするしかないわね」


 温和な女の表情が険しくなる。それを契機に、ほかの女たちも気丈にも腹を決めたようだ。じりじりとベルモンにそれぞれが近寄ってくる。

 

 女たちとベルモンの距離がある程度詰まったところで、叫び声が上がった。主導的な立場の女から。

 いまよ。その声を合図に、女たちは一斉に剣をベルモンに振りかざした。

                    

 かたやベルモンは、剣を素早く動かした。

 その剣が一閃されるたびに、女たちは斬られていく。悲痛な叫びと苦しみのうめきも響きわたる。ごくわずかな時間で、もはや無事な女はいなくなった。

 みな、どこかしら斬られている。女たちと相対したベルモンの身は、相変わらず無事であるにもかかわらず。

 女たちは、みな苦痛にうめいていた。床に座り込み、あるいは横たわって。それでも、まだ斬り殺された女はいない。

 すぐに殺してはつまらんのでな。

 そう考えたベルモンが、手心をくわえたこともあって。

 

「ふん、どうした。さっきまでの威勢のよさがなくなったようだぞ。俺を殺すんじゃなかったのか? その気がまだあるなら、とっとと起き上がって襲い掛かってこい。

 俺はおまえたちを斬りはしたがな。そこまで痛めつけちゃいないんだ。おまえたちが抵抗をしてくるなら、まだまだその相手をして愉しむつもりもあってな。まだ、おまえたちは戦えるはずだぞ」


 ベルモンはそう云ったが、もう立ち上がろうとする女はいなかった。

 女たちはさすがに懲りていた。 

 強気だった主導的立場の女にしても、そうだった。彼女たちは全員、もはや抵抗する気すらなかった。したところで、さきほどから傷一つつけられなかったのだ。

 目のまえの男が、こうまで強いとは思わなかった。主導的な立場の女は身震いする。ベルモンに恐怖の目を向けて。

 さきほどまでは考えていた。

 相手が一人なら、集団で襲い掛かりさえすれば女の身でもなんとか倒せると。

 けど違った。こんな手練れを相手にして、単なる市井の女に過ぎない自分たちが敵うはずがない。

                    

 女たちは戦慄し、すでにろくに身動きできないほどに完全に怯え切っていた。そのことはベルモンにもわかった。

                   

「もはや抵抗する気すら失せたか。ならば、いい」


 ベルモンは冷ややかに女たちを見下ろす。


 抵抗せぬというのなら勝手にしろ。こちらとしてはおまえたちを殺すまでだ。あとは自身の衝動に従ってな。

 

 ベルモンは剣を高々と振り上げる。

                   

 さすがに女たちも、その動作を目にして悟った。その意味するところを。相手の自分たちへの殺意を。

 だが彼女たちとて、むざむざ死にたくない。死をまえにし、女たちは口々に懇願した。首を振り、手を合わせてすすり泣く。嫌。やめて。お願い。助けて。

                   

 しかしベルモンには効き目などなかった。彼はその剣を振り下ろす。まずは主導的な立場の女に向けて。

 袈裟斬りにされ、大きな傷がその女の顔につくられる。

 主導的立場の女から、つんざくような悲鳴が上がる。ほかの女たちは、さらなる恐怖に全身を貫かれた。

 その女たちに向けて、ふたたびベルモンは無慈悲に剣を振り上げる。

 以後、ベルモンは殺しの快楽にその身を委ねた。

                   

 ほどなくして、その部屋は地獄絵図と化した。


 壁は血しぶきで汚れ、床には血の海が広がる。その赤い血だまりのなかには、四肢を切り刻まれた肉塊がいくつも転がっている。広間は容赦ない無惨さで彩られた。

                   

 とはいえ流血の宴は、まだ幕が降りない。


 この家の異常を察し、傭兵たちの仲間が救援に駆けつけてきたのだ。騒々しく家のなかへ侵入してきたあと、彼らはベルモンが仲間を殺したことに気づいて報復に乗り出す。

                   

 だが、その報復は果たされなかった。ベルモンが強すぎるあまりに。


 やってきた傭兵たちは、次々と彼の手で返り討ちにあった。傭兵たちは業を煮やすが、家に火を放ってベルモンを焼き殺そうとはしなかった。

 その手を考えはしたものの実行するまえに、ベルモン自体が家から出ていったからだ。


 ベルモンは次から次へとあらわれる傭兵たちとの戦いを、狭苦しい屋内ではなくもっと動きやすいところでしたいと考えた。

 より戦いやすくし、自らが傷つかず生き残るために。狭苦しい場所で戦えば、動作を制限されてしまい、そのあげく下手を打って身に危険が迫らないとも限らない。

                  

 そこで戦いのさなか閉まっていた窓の鎧戸を蹴っ飛ばして手早く開けた。そこから脱すると、広々とした外へと戦いの場を移した。窓は表通りに面している。鮮やかに跳躍し、彼はそこへ降り立つ。すると、ここで戦う仲間の救援に駆けつけてきた新たな傭兵たちとすぐに出くわした。

                   

 ベルモンはにやりは嗤う。

 敵は増えたが、逃げはしない。むしろ、雑魚どもを一斉に始末できる好機だ。

 そうみなし、すぐさま兵たちとの戦闘を開始する。

 いまは夜でも、視界には困らない。略奪の際に傭兵たちによって燃やされた家々の、炎の煌めきが遠くから届いている。

 

 殺しの剣舞が、家の周りでは繰り広げられた。


 傭兵たちの血しぶきが飛ぶ。兵たちの断末魔の絶叫が響き渡る。家の周囲はどす黒い血で染まり、傭兵たちは次々と潰えていく。

 

 やがて傭兵たちは、戦意をついに喪失した。どうあがいてもベルモンには敵わないと悟った。彼らは怯え、しり込みし、撤退を開始する。

                   

 逃がさん。そのあとをベルモンは容赦なく追っていく。こいつらは皆殺しだ。残忍な笑みを見せ、彼は夜の町を駆けていった。自らの剣の餌食となる、次なる犠牲者を求めて。

                    

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