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死刑執行人を倒すための策を得ようと、ルートヴィヒは一旦は去る。

「これで、すこしはわかってくれたかな? 死刑執行人の強さのほどを」


 高雅な顔に美しい微笑みをルートヴィヒは刻む。

 彼はそのまま柄を握る手に力を込め、剣の切っ先をより一層相手の喉元に突き入れる。

 鼻の大きい男の喉元から、血が一条流れる。 

 うう、と鼻の大きい男はうめいた。


「おまえごとき、俺がやろうと思えば、いつでも殺せるんだ。あまり、いい気になって欲しくないな」


 ルートヴィヒはその黒い瞳に剣呑な光を浮かべながらも冷笑する。

 このとき両者の争いを止めるために、副隊長が割って入った。


「やめろ。いまは、おまえたちは味方同士なんだ。味方同士で争っても、仕方ないだろうが。ましていまは、強敵がこちらを狙っているってときだ。仲間割れをしている場合じゃない」


「でしたね」


 ルートヴィヒは素直に聞き入れ、剣を引いて刃を鞘におさめた。

 鼻の大きい男はいまのルートヴィヒの行動で、完全に気を呑まれてしまった。力を失ったように、がくりとひざを落とす。

 これを機に、鼻の大きい男も退いて口論を控えた。副隊長に逆らい、その面目を潰せないと気を遣ったこともあって。

 わかりましたよ。そうつぶやきながらも、鼻の大きい男はルートヴィヒに憎しみの視線を送る。

                  

 みてろ。どっかでとっちめてやる。そう小声でひそひそと不平を垂らしながらも。

                  

 かたやルートヴィヒは平然としていた。


 こんな雑魚などを恐れる必要など微塵もない。そう考えながら。

                  

 ともあれこれにより当面、二人の争いは終わりを告げた。


 副隊長は安堵する。ふうと嘆息をもらして、話題を戻す。



「しかしいま新参の云ったことが事実なら、奴らもこちらをみくびってくれるものだな。新参の云う通り、こちらに立ち向かう選択を連中がするのは勝ち目があると思えばこそだろうが」


 副隊長は憮然とする。死刑執行人どもめ。図に乗りやがって。町の人間のみならず、我々をも皆殺しにするつもりだと? そんな真似をしようとすることに、怒りを覚えざるをえない。 

 敵はこの俺をも狙おうとしているのだ。自分を狙われて、怒りを感じない方がどうかしている。


「それでいかがします? このまま放置しておくわけにはいきませんよね? 黒装束の奴らを。その対処について、ご指示をいただきたいのですが」

 

 そう云ったのは、黒装束の者についての報せをもたらした報告者だった。

 彼はこれまで報せをもたらしたあとはとくに云うこともなく、ずっと押し黙っていた。が、指示をもらいたくて、ついに緘していた口を開いた。

                  

 そうだな、とつぶやくと副隊長はルートヴィヒにあらためて確認する。


「奴らに対して、こちらに勝ち目は本当にあるんだな?」


「形勢はこちらに有利だろうね。とはいえ、下手な立ち回りをしたら負けるかもしれないけれど。

 でもよい策を出してうまく立ち回れば、あると思うよ。充分に」

                 

 ルートヴィヒはうなずく。副隊長は尋ねる。


「あるか? その策は」

               

「いまのところはない。策と呼べるほどのものは。いま云った所見が精一杯で。そちらは?」


 ルートヴィヒは問い返す。


「いや、こちらもない」


 副隊長は首を振ると、すぐに決断する。

                  

「よし。ならば、これから考えねばならんな。連中に勝つための策を」


 副隊長は、報告者の方を振り向いて指示を出す。


「ともあれ、おまえはこちらの手勢に伝えてこい。味方を狙う死刑執行人どもに充分、警戒するよう。策を考えついたら、あらためてみなに指示を伝達するゆえ」


 かしこまりました。では早速。礼をすると、報告者は部屋の扉を開いて出て行った。それを見守ってから、副隊長は気炎を上げる。

 

「奴らが逃げずに向かってくるというのなら、こちらとしては返り討ちにしてやるまでだ。そうしてこちらをみくびる、あの死刑執行人の奴らに思い知らせてやるぞ」


 おう、と残っていた傭兵たちは応じる。やってやる。奴らめ、見ていろ。傭兵たちが口々にそう云って気勢をあげるなか、副隊長はルートヴィヒに付けくわえる。


「むろん、おまえにも戦いにくわわってもらうぞ。ルートヴィヒ。あいつらの首を、おまえにとってこさせろという指令を隊長も下されていることだしな。あいつらとの戦いで、おまえに役立ってもらうべくな」


「まあ、当然だろうね。そちらが俺も戦いにくわえる選択をするのは。俺がくわわれば戦力があがるぶん、傭兵隊はその被害をなるべく抑えられるだろうし、連中をより楽に仕留められるから」


 ルートヴィヒは軽く肩をすくめる。こちらの意図を見抜いたルートヴィヒの頭の巡りを評価する意味合いを込めて、副隊長はにっと笑みを見せる。


「その通りだ。だからこそ、おまえには働いてもらう。この隊長の指令、おまえとしてもべつに不服はなかろう」


 副隊長の確認にルートヴィヒは首肯する。


「その指令はべつにかまわない。連中を仕留めることは、こちらとしても望むところだから。ただ、さ。すこし願いがあるんだけど」


「願い? なんだ、それは?」


「たわいないことさ。俺を自由に行動させて欲しいだよ。今回、連中と戦うにあたってね」


「自由に? なぜ?」


「奴らと対峙するまえに、まず見晴らしのいい場所へ行きたくてね。

 町を一望したいんだ。高いところから、奴らの動向を探るために。

 俺としても、あの連中を生かしておく気はない。この際、ここで決着をつけてやるつもりだ。

 そのためにも、奴らを始末するのに有利な場所を決めたいんだ。

 そこで連中と戦い、こちらが勝つ確率を上げたくてね。

 そんなことをしたところで無駄かもしれないし、もしかしたらわずかにしか勝率は上がらないかもしれないけれど。上げられる限りは、すこしでも努めておきたい。勝つためにね」


 死刑執行人連中と戦う際に、より有利な状況が欲しい。勝利を確実にこの手に掴むために。

 切にそう願うルートヴィヒは、さらに云う。


「その場所が決まれば、思いつくかもしれないしね。奴らを始末するための策だって」


 ううむ。唸ると、ルートヴィヒをみつめて副隊長は考え込む。自らの頬に、片手を当てながら。

                 

 こいつが連中を裏切ったのは本心からだろう。こちらを裏切る恐れをいまさら考える必要はない。

 それに連中を始末するにあたりこいつをすぐさま動かせないからといって、こちらにとくに支障が出るというわけでもない。奴らを葬るための策にしても、まだ画していないことだしな。

 なら望みを叶えて、自由にさせるか? こいつの意見を取り入れるために。

 

 いや、と副隊長は迷いをみせる。


 いくら出来がよくても所詮こいつは若僧だ。

 そんな奴の意見などきいたところで、あてにはならんかもしれん。

 その意見に聞くべき価値がないのなら、自由にさせても意味はないが。

                 

 いったんは眉をひそめたものの、それからすぐに副隊長は思い直した。

                 

 しかし、こいつがなかなかに切れるというのもたしかだ。

 くわえて、こいつは連中の仲間だった奴だ。それだけに、連中のことは知り尽くしているだろう。

 だったらここで望み通りにさせてやれば案外、これから我々が死刑執行人連中と対するにあたってなにかしらこちらの役に立つかもしれん。

 

 こいつ自身が云う通り、どこで連中と戦えば有利か不利かの見極めや、取り入れる価値がある策を出すくらいのことはやってくるやもしれん。

                 

 だったら、ここはとりあえずこいつの望み通りに自由にさせてやってだ。そののちに、意見を聞いた方がいいかもな。


 ただし未だ若僧にすぎんので、期待しすぎても大したことはせんかもしれん。

 結局はろくな意見を出さず、こんなものかと、こやつの力のほどに裏切られるやもしれん。

 大きすぎる期待は禁物だがな。

 しかしとりあえず、ここで多少の自由を与えたところで問題はない、か? 


 わずかばかりの期待を込めて結論を出すと、副隊長は口を開く。


「いいだろう。当面のところは、自由にさせてやる。ただし気が済んだら、あとで一旦は戻ってこい。おまえの意見も聞いてみたいんでな。奴らと対峙するにあたって、参考までに一応は」 

 

 無言でルートヴィヒはうなずくと、艶やかな黒い髪を美しく舞い散らせながらくるりとうしろに身をひるがえした。

 それから高雅なうしろ姿を見せて、部屋の扉へ向けて歩いていった。

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