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死刑執行人の弟子二人は、朧として暗躍する。

広場を通り抜けようとする馬車を眺めながら、口ひげの傭兵はつぶやいた。


「どうやら済んだようだな。わが隊の懐を温めるためにおこなった、町の略奪も」


「あらかた、めぼしいものは奪っちまったみたいだしな。いまは略奪品を扱ってる仲間は隊長のもとへ、ものを送り届けることに精を出してるみたいだな」


 太った男がそう云う。


「あとは死刑執行人どもを殺すのみか。上から命じられて、達成しなくてはならない任務は」


 痩せた傭兵が応じる。口ひげの傭兵は、うなずいた。


「この町に来たのも、もとはと云えばそれを果たすためだ。その任務こそが本命なのに宿に向かった奴らは、連中を仕留め損ないやがったようで未だ果たされてねえしな」


「ほかの仲間から聞いた話によると、宿から死刑執行人たちは逃げ出したらしいもんな。その宿を襲撃したこちらの仲間を皆殺しにして」


 太った男が云う。その報せは、仲間内で噂となってすでに彼らの耳にも届いてた。


「おかげで、俺らがその任務をやらざるを得なくなるだろうよ。上が命じてくるぜ、きっと。連中を逃がさねえように、俺ら傭兵隊の残っている奴らで仕留めろって。あーあ、めんどくせえぜ」


「仕様がねえよ。奴らを始末するためにこんな町まで来たんだし、上から命じられりゃ従わなきゃならねえ身だしよ」


 痩せた傭兵がそう云った。


「死刑執行人ども、まだ町にいるんだよな?」

                   

 太った男が尋ねると、口ひげの傭兵が答えた。


「宿から逃げ出したあと町にとどまって、俺らの仲間を殺し回っているらしい。黒装束に身を包んでな。ついでに、なんか町の住人も殺しているらしい。そんな噂をほかの仲間から聞いたが。その黒装束の奴らは、きっとあいつらじゃないかって話だ」


 そういう噂が、すでに彼ら傭兵隊のなかでは出回っていた。


「ああ。そういや、おまえなんかさっき云ってたな。俺ら以外に、町の人間を殺している奴がいるって。そりゃ、あいつらのことか」


「はっきりとはわからんが、おそらくはな。噂ではそうなってる。まあ町の人間を殺すっていうのは、俺ら傭兵隊の仕事でもあるからな。そいつを奴らが手伝ってくれてるってのは、こちらの手間も省けてよかったんだが。その一方で俺らを殺し回っているっていうのは、なんとも迷惑な話だぜ」


「まったくだ。連中、町のどこかへ神出鬼没にあらわれては俺らを狙っているらしいぜ。厄介だな」


 痩せた男が付け加えると、太った男が眉をしかめる。


「連中、やっぱ強いんだろうな? 宿の仲間を皆殺しにしたばかりかよ。ほかの俺らの仲間も続々と、奴らにやられてるっていう事実があるんじゃ」


 痩せた男が云うと、太った男が眉をしかめる。


「じゃねーの? 連中の一人は、俺らの隊をつくった初代隊長だ。初代隊長は凄腕で、弟子の奴らもその下で剣の訓練を積んでるんだろ? それでも大したことないって話もあったがよ。実際にはおまえの云うように、そういう事実があるんだ。ひどく手強いんじゃねえか? 奴らは」


「嫌だな。そんな奴らの相手をすんのは。下手すりゃ、俺らが返り討ちに遭いかねねえしな。奴らを仕留めようと、宿に向かった連中のように」


「だが上から命令されりゃ、致し方ない。命令不服従は厳罰だ。本音を云えば、俺としてもいっそ相手をせず逃げだしたいがな。そんな真似をすれば、脱走とみなされかねん。そうなると、まずいことになる。脱走は、わが隊の隊規では死罪だ。となると、やるしかなかろう。もし、やれと云われたら。まだ死にたくねえしな」


 口ひげの男がやれやれといった態度で軽く両手を開き、ため息をつく。すると、太った男が破顔して提案した。


「どうだ? 連中の始末、結局やらねばならねえのかもしれねえがよ。そのまえに、町の女どもと楽しむってのは? 危険な任務につくことになるまえに、いっちょ景気をつけねえか?」

 

「そーだぜ。まずは、はしゃごうぜ。お楽しみを優先して」

                   

 目を輝かせて、痩せた男がその提案に乗ってきた。


「この町を襲ったはいいが、俺らはべつにまだいい目を見ちゃいねえんだ。

 危険な任務につくにしろ、そのまえにすこしくらい美味しいことがなくっちゃつまんねえぜ。任務ばっかじゃ、こっちもやりきれねえしよ」

                    

「もっともだな。よし。ならさっそく、女どもがいる家に行くとするか」


 口ひげの男も提案に乗った。


「女たちは、連れ込まれたんだよな。女どもと快適にじっくり愉しめるよう、この町のなかでも居心地のいい家へ。その家はどこだ?」


 あっちだ。太った男が答える。早速、彼ら三人は歩をその家へ向けてすすめた。

 そのあいだにも、口ひげの男は口を開く。太った男と痩せた男のうしろをついていきながら。


「女もいいが、酒はあるのか? ないと盛りあがりに欠けるぞ」


 大丈夫だ。太った男が応じる。


「この町は、悪党どもが結構いた場所柄のせいかよ。酒については結構、豊富にあったようだ。女のところに麦酒も葡萄酒も、しこたま運びこまれたって聞いたぜ。俺ら傭兵隊の連中が、酒と女で楽しめるようによ」


 太った男が下劣に舌なめずりすると、痩せた男も手を打って喜んだ。


「そりゃ愉しみだ。そこへ行ったら、まずは麦酒で一杯いくか」


「俺は葡萄酒の方がいいな。おまえは?」

               

 太った男がにこやかに振り向いたとき、うしろに口ひげの男はいなかった。

                  

「あれ? いねえ」

                   

 太った男はあたりをきょろきょろと見渡すと、よお、どこにいった? とつぶやいて、いま来た道を戻っていく。その道の左右には、細い脇道がいくつかあった。

 その脇道を幾本か通り過ぎたところで、太った男は目を見開いた。目の端に捕らえたのだ。細い一本の脇道の暗がりに、転がっているものを。 

 

 太った男はとっさに、その暗がりの方へ顔を向けた。その暗がりには、光が届かなかった。両側の壁や建物に囲まれているせいで、その脇道は夜の闇にしっかりと飲まれていた。

 おかげで見えにくかったが、太った男の目は徐々にその闇にも慣れてきた。

 やがて暗がりのなかに見出したものを目が捕らえたとき、その顔は驚きの表情に急変する。

                   

 信じられなかった。さっきまで話していたのに。うしろにいたのに。

 

 暗がりで、口ひげの男は仰向けになって死んでいた。その喉元を、恐らくは刃物で裂かれて。その傷からは、血がどくどくと流れ出ている。

                  

 太った男は、ろくに声も出せずに恐怖した。痩せた男に報せようとして、すぐさま彼の方を振り向く。すると痩せた男が、立ち止まってこちらを見ているのに気づいた。

                   

「おい、なんで、ついてこねえんだよ。さき行っちまうぞ」

                   

 痩せた男は、仲間の二人がついてこないのを見て訝っていた。いらだたしげに舌打ちすると、彼も来た道を戻ろうとする。ついてこない仲間のもとへ、近づこうとして。

 

 そのとき闇に同化した、黒い二本の腕が伸びてきた。口ひげの男が倒れていたところとは、べつの脇道の暗がりから。

 その腕は素早く、痩せた男にからみつく。痩せた男は口をふさがれ、脇道にひきずりこまれた。

                  

 行きついた先は、二本の手の持ち主の胸元だった。暗がりのなかでは、痩せた男の口をふさぐ手とはべつの手が素早く動く。その胸元から短刀が取り出された。

                  

 痩せた男は目だけを動かして自分の口をふさぐ、背後の男の顔を見やる。暗がりのなかで見えづらかったが、その顔は黒い覆面で覆われていた。

 ただ、それでも相手の目は見えた。目の部分だけは一文字に開かれて覆面で隠れていなかった。

 その目元には、虫けらを見下すような冷ややかな色が浮かんでいる。そのことを確認したとき、彼は短刀で喉元を裂かれてあえなく死んだ。

                   

 すべては、あっというまの出来事だった。痩せた男が脇道にひきずりこまれるのを目にし、おそらくはその直後に殺されたような物音が聞こえたことで太った男は驚いた。あからさまに怯え、その場から逃がれようとする。

 彼はほかの傭兵たちがいる、もと来た場所へ戻ろうとした。背後を振り返る。仲間がいるところに戻れば安全のはず。そう考えたのだ。しかし、結局は生き延びることはできなかった。

                   

 突如として彼の頭上の建物から、太った男の頭めがけて人影が降ってきていた。

 その両手には刃先を下へ向けた剣が握られている。

 数瞬後、その剣の刃先は太った男を貫いていた。

 頭上から突き刺さったその刃は、彼の喉元へとめり込む。

                   

 ぐえ、というちいさい奇声を発し、太った男は絶命した。頭上と喉元から血を流し、男は地面に倒れ込んだ。その太った躰に見合った、ずしんという大きな響きを立てて。

                   

 一方でその人影は、剣を突き刺したあとには太った男の躰を踏み台にしてすぐ中空へ飛んでいた。次いで宙で一回転すると、太った男が倒れた直後には楽々と脇道に着地していた。

                   

 たったいま、傭兵を殺害した者たち。それは、ゴーマとジマの二人だった。ジマは着地したゴーマの方へ駆け寄ると、闇のなかで兄弟子にささやきかけた。


「不意打ちをする必要もなかったかな? こいつら雑魚だったし、正面から戦っても問題なく勝てただろうしな」


「たしかにな。俺たちは朧で、世間から恐れられている賊だ。こいつらとは腕が違う。こんな奴らなんざ、たやすく殺せるからな」


 ゴーマは覆面から見えている両目で、ジマを見つめて云った。彼らは賊として修羅場を踏み、剣や体術の訓練も積む。その自負が云わせた科白だった。


「けど不意打ちをした方が、抵抗も受けずに殺せるんだ。正面から戦うより楽だろ? 不意打ちできるときは迷わずしようぜ。楽できるなら、越したことはないんだからよ。べつにかまわねえだろ?」


 とくに反対する必要を感じなかったジマは肩をすくめると、話題を転じた。

                 

「さて、どうする? 次の獲物を探すか」


「そうだな。適当に始末しやすい奴を次々と見つけて、殺していくことにしようぜ」


 ゴーマは同意する。


 こちらは、殺しには慣れている。死刑執行人として、賊として。

 この町にいる連中は、どうせ自分に縁もゆかりもない相手でもある。相手が傭兵だろうが、平民だろうが、いずれにせよ変な情など湧きもしない。誰であろうと、殺害することに抵抗などありもしない。

                   

「師からも命じられていることだしな。俺ら以外のこの町にいる人間を全滅させろって、きっちりよ」


 そう云うゴーマに、ジマはうなずき返す。

                   

「俺らとしちゃあ、師の命令を破るわけにゃいかねえもんな」


「当然だ。そんなことしたら師の怒りを買って、ひどい目にあわされちまう。そんな目に遭うなんて、ごめんだぜ」


 ゴーマは答える。恐れるがゆえに、俺たち二人は師に従順なんだ。今回にしても、その命令は忠実に実行するつもりだ。


「とすりゃあ、片っ端から殺していった方がいいんだよ。ここの住人にせよ、傭兵どもにせよ、目についた奴らはな。そうしていきゃあ、俺ら以外の奴らを全滅させろっていう師の命令をこなすことにもなるしよ」


 ゴーマは殺した太った男を見下ろすと、その屍に向けて唾をぺっと吐き捨てる。実際、もうすでに目についた町人や傭兵を何人か片づけている。

    

「けっ、いいざまだぜ」


 ゴーマは太った男の出っ張った腹を思い切り蹴り上げた。

                   

「俺たちは師の命令を受けて動いちゃいるがよ。じつのところ俺たちも、まじでてめえらにはむかついてたんだ。こっちの命を狙いやがって。正直、師の命令を抜きにしても、俺たちとしてもてめえたちをぶち殺してやりたかったんだ。俺たちを狙うっていう、愚行の報いをくれてやるためにもな」


 ゴーマはたったいま殺した、太った男の頭を踏みつける。それからその頭を足の裏でぐりぐりと踏みにじりながら、にこやかに笑む。


「へっ、こっちはすっきりするぜ。こうして、てめえらを殺すたびに」


「だな。本当にこっちとしては奴らを全滅させてよ。連中に俺らを狙った報いをきっちり受けさせてやらねえと、まじで気がすまねえぜ。

次々殺して、すっきりさせてもらうとしようぜ。俺らの煮えくり返った、この気持ちを」


ジマは口ひげの男の顎先を蹴りつける。

その直後、ゴーマの後方の動きに気づいてつぶやいた。

                   

「お、ほら。また傭兵どもが、何人か動いたぞ」


 ゴーマが振り向く。見れば広場にいた傭兵たちが、四人ほどどこかへ向かおうとしている。


「またおあつらえ向きなことに、不意打ちができそうなところに行こうとしてやがるぜ。それもあれくらいの少数なら、楽に仕留められそうだ」


 ゴーマは覆面のなかで微笑んだ。


「どこへ向かおうとしているのかは知らねえが、俺たちにしてみれば見逃せねえな。あの四人の傭兵どもを殺す好機が来たんじゃよ」


「それじゃ、行くか?」

                 

 うながすジマに、ゴーマはうなずいた。


「そうだな。奴らを、俺らの次の餌食にしてやることにしようぜ」


 ゴーマとジマの二人は目を合わせ、にやりと笑んだ。

 その後、ゴーマはたったいま屠ったばかりの太った男から剣を引き抜いた。

 その剣が腰の鞘に収められると、黒装束の二人はふたたび脇道の奥に入り、闇のなかへ溶け込んだ。

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