死刑執行人の強さを認められない傭兵は、難癖を。
教会の一室での会話は、まだ終わらなかった。
隊長のミゲールを護衛する役目を負う傭兵の一人が口火を切る。
「副隊長。俺らの傭兵隊は死刑執行人どもと、このまま事をやっぱ構えるんですかね?」
「当然だ。我々がこんなしけた町に来たのは、ここで奴らを仕留めるためでもあるんだ。その目的を忘れんなよ。
第一、我々の首領であるミゲール隊長から奴らの殺害命令が出されたままなんだ。それが撤回されたわけでもねえ。まだ隊長は奴らを殺すことをお望みなんだ。首領がそう望んでおられる以上、手下の我々としては従わざるを得ん。
いいか。隊長が考えを変えられるか、さもなくば奴らを仕留めるまではまずもってこの町を出られるとは思うなよ」
副隊長の答えを受け、口を挟んだ茶髪の傭兵が渋面をつくる。その表情を目に止めて、同じく隊長を護衛するもう一人の男、鼻の大きい傭兵が尋ねる。
「なんだ、おまえ。気が進まねえのか? 死刑執行人どもと、事を構えるのは」
「まあな。相手は宿を襲撃した奴らを、あっさり皆殺しにしてるんだ。そのうえ町中で、俺ら傭兵を難なく殺し回っている奴らだぞ。おまえ、怖くねえのかよ。そんな奴らと事を構えることになって」
「ちょっと、大袈裟に怯えすぎじゃねえか? 死刑執行人ごときに」
鼻の大きい傭兵は。ふふんと嗤う。
「そりゃ奴らにやられた、こっちの仲間は結構いるみてえだがよ。ここにだって奴らの仲間だった、そこの新参に不覚を取った方々がいるけどよ」
鼻の大きい傭兵は見回した。その張本人である副隊長と、彼を護衛する二人の傭兵を。それから、こうも云った。
「でも俺にゃ、信じられねえよ。そんな簡単に、歴戦の傭兵が死刑執行人どもなんぞにやられるとはよ。まあ一応は、個の力を比べたら俺らよりあいつらの方が強いって話は聞いているがよ。
けど、仮にそうだとしてもよ。俺たちが複数でかかりゃあ、死刑執行人どもは倒せる相手じゃなかったのかよ? その話が本当なら、ここにいる新参にしたって死刑執行人なわけだしよ。数を頼んでおそいかかりゃ、たわいなくやれるはずだぜ。
なのにこの新参一人に、あっさりと逆にやられただあ? 俺らの隊で、実力二番手の副隊長も。その護衛二人も。三人もいんのに、雁首そろえて。そんなことって、あんのかよ?」
「もし複数で一斉に掛かってこられたら、それなりに苦労したかもしれないな。こちらも、副隊長と護衛二人を撃破するのに」
ルートヴィヒがつぶやくと、鼻の大きい傭兵は息巻いた。
「ああん? どういうこった? この新参は個の力じゃ及ばないって相手だろ。そんな相手に、てめえらそろって襲い掛からなかったのかよ?」
ああ、と副隊長の護衛の一人が応じた。ルートヴィヒと対戦した時には兜をかぶっていて、その護衛は二人とも顔が見えなかった。しかしいまここでは兜を脱いでおり、二人ともその素顔を見せていた。
いま返答した者は短髪が特徴的で、もう一人は色黒の男だった。
「どうしてだ?」
鼻の大きい男は尋ねる。副隊長の護衛たちに。
「どうしてったってよ。こっちにもそのとき、そうできなかった事情があったんだよ」
鼻の大きい傭兵に、短髪の傭兵がいらただしげに反論する。
俺には副隊長の護衛の任があったんだぞ。新参との戦いの際、そればかりに気を取られるわけにゃいかなかったんだ。
その際には、副隊長の身の安全を考える必要もあったんだよ。
それで結局はその身近に戻るしかなく、新参との戦いを護衛二人で演じるわけにはいかなかった。副隊長の護衛の任もあったんだから、そのときにはそうするよりほかに選択の余地はなかったんだよ。
そのときには、相手が死刑執行人だとはわからなかったしな。
そう思って云い返そうとしたが、口をつぐんでしまった。
副隊長が割って入ったからである。
「いまさら、仕方なかろう。済んでしまったことを、とやかく云っても」
副隊長が嘆息をつく。
「どのみち敵わなかったさ。新参には。仮に、俺と護衛二人がそろって襲い掛かったとしても。実際に、手を合わせてみてわかったことだが」
「それほどに強いと?」
鼻の大きい傭兵が問うと、副隊長はうなずく。
「宿に向かった奴らにしてもたぶん死刑執行人に、多数で一斉に襲い掛かったんじゃないかな? 個の力で及ばないって相手に、一対一で戦わなきゃならない義理なんて奴らにはないしな。
にもかかわらず、全滅させられたってことはだ。相当に、死刑執行人どもは強いんだろうさ」
「所詮は、死刑執行人なのに?」
鼻の大きい男は問い返す。
「俺ら傭兵と同じく、死刑執行人ってのも人斬り商売ではあるけどよ。連中は、無抵抗な者をただ処刑して殺し続けているってだけの奴らだぞ。戦場で命の取り合いをしている、俺ら傭兵と違って。
数をかさに着て襲い掛かった俺らを返り討ちにできるほどに、奴らが強いとは正直なところ俺にゃ思えねえんだが」
鼻の大きい男は、副隊長の護衛二人に立て続けに尋ねる。
「おい。新参にやられったって、おまえら云うけどよ。じつのところは、単に油断してただけなんじゃねえの? 副隊長にしても敗れたのはですよ。ちっとばかり運が悪かったり、体調がすぐれなかったからじゃねえんですか?
だから宿に向かった連中も敗れたんじゃねえの? 副隊長、そうじゃないんですか?」
「あいにくと、ちがうな。そうだったらいいんだが。手を抜いてそうなったというのなら新参に敗れたとしても、俺の矜持は傷つくことなく守れもするしな」
副隊長は自嘲気味に微笑した。その護衛の二人も、そろって首を振る。鼻の大きい男の言葉を否定するように。その後、隊長の護衛で茶髪の男がつぶやく。
「連中に宿でやられた奴らにしたって、みんなそこそこ強かったんだ。それを楽々と討ち果たすとは、奴らの腕はこの新参の云うとおりに桁違いっぽいよな」
そうだよな、と語を継いだのは、もう一人の副隊長の護衛で色黒の男だった。その男は、続けてこうも云った。
「それに、この新参と手合わせした副隊長にしたってよ。俺らの傭兵隊のなかじゃ、隊長に次ぐ二番手の腕前なんだぞ。隊のなかじゃ、隊長以外には負け知らずだ。
この隊の兵卒は、誰一人として歯が立たねえくらいに腕が立つんだ。
そんな副隊長にしたって、この新参相手に軽く敗れてんだ。いくら俺らが副隊長に勝とうたって、できやしねえのに。そんな副隊長をのしちまうほどに、この新参は腕が立つんだ。その新参と同程度の腕を持つってんならよ。やっぱ死刑執行人どもって、ひどく強ええんじゃねえの?」
「まあ、そうだろ。そりゃ、すでに奴らと手をあわせた奴のなかにはよ。油断して連中に不覚をとった奴もいるかもしれねえ。
けど、全部がそうってことはねえんじゃねえの? 全力を尽くしたあげく、奴らに返り討ちにあってるって奴も多くいるだろ。副隊長にしたって、そう云ってるわけだし」
副隊長の護衛の、短髪の男が言葉を足した。
「だったら連中の強さは、すでに折り紙付きって云えんだろ。連中が、こちらの味方を楽々と破っているっていう事実からして」
「単なる死刑執行人にすぎねえ奴らが、どうしてそんなに強いってんだ?」
鼻の大きい傭兵は、仲間たちがその強さを認めてることに唖然としてわめいた。
「訓練してるからだろ。隊長が王都で、奴らの住まいを訪れたときだってよ。奴らは、結構な訓練をしてたって話じゃねえか」
副隊長の護衛である茶髪の男が答えた。色黒の、もう一人の副隊長の護衛も同調する。
「初代隊長は凄腕で、そいつに弟子どもだって鍛えられてんだろ。なら、そこそこ強くなっても不思議じゃねえしな」
だが鼻の大きい傭兵は、死刑執行人が強いと認めたくないあまりに難癖をつける。
「けど、いくら初代隊長が、元は凄腕の傭兵だったとはいえよ。その腕前はこっちの隊長よりも格段に劣るって俺は聞いたぞ。
それじゃあいくら凄腕ったって、初代隊長も実際のところはそんな大した奴じゃねえんじゃねえのか?
その弟子どもにしたってよ。そんな程度の腕前の師に、教えられているんだろ?
そんな奴からじゃ、ろくに教えだって乞えねえだろ。だったら弟子どもの腕前にしたって、そこまで上達するはずがねえだろ?」
「おまえもどうせ死刑執行人どもと、これから手を合わせるんだ。そのときに奴らの強さのほどがわかるさ」
副隊長が云うと、鼻の大きい傭兵は舌打ちをする。
「俺もいずれ奴らに、その強さを思い知らされるってんですかい?」
そうだな、と副隊長が答えると、鼻の大きい男は、へっと嗤う。
「逆に、こっちこそが俺らの力を奴らに思い知らせてやりますよ」
「たいした威勢だな」
副隊長は、ふっと薄く笑む。鼻の大きい男は、軽くうなずいて答える。
「当然ですよ。俺らは長年、戦場暮らしをしてきて、たえず実戦で腕を磨いているんですぜ。その俺らの方が、こと戦いに関しちゃ玄人で格上なはずだ。日々処刑ばかりで、平和に暮らしている死刑執行人なんかよりは絶対に。
たとえ個の力じゃ及ばなくても、集団での戦いに及べば負けるなんてこた絶対ねえはずだ」
鼻の大きい男は付けくわえる。
「数だって、まだ充分にこっちの方が死刑執行人どもにくらべて上回ってるはずだしよ。こちらの兵力を奴らに多少なりとも削がれちまったとはいえ」
「まあ、たしかにな。新参がこちらに入って、奴らの人数も減った。それによって、奴らの戦力も落ちた。そのうえ、こちらの兵数はまだ多い。双方の戦力を見比べれば、こちらが依然として有利には見えはするが」
短髪の男が云うと、鼻の大きい男はせせら嗤った。
「はん。新参がなんだってんだ。新参が俺らの隊に来ようが来なかろうがよ。そのことに関係なく、俺たちが勝つさ。俺たちが、奴らと戦えば」
このときルートヴィヒは低く嗤った。




